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番外編
12 再会
しおりを挟むそれからの一カ月は穏やかに過ぎて行った。
昼過ぎに起きて。いつもの店でトマトスープを飲んで、街を散策し、いい匂いのする風呂に入って、修道院まで散歩する。そして宿に戻って軽い夕食を食べ、ラベンダーの香りに包まれて眠るのだ。
時折。もやりもやりと落ち着かなくなることはあるが、今ではそれにも慣れて、気にならなくなった。
そして、ついに休暇の最後の日がやってきた。
いつも通りに店に行き、昼食を注文しようとしたら。
「兄ちゃん、毎日同じのばっかだし、たまには違うの食べてみたら?」
と、勧められた。それもそうか、と思ってメニューを見渡したのだが。
「……トマトスープを」
結局は、いつもの物を注文していた。店主はやれやれ、よっぽど好きなんだな、とあきれながらもいつもより量を増やしてくれた。そんな些細なことに相変わらず何かを感じるが、もう気にしてはいない。
そうしていつものように街を歩き、若い女性のきゃぴきゃぴした様子に何かを感じ、歩き回って疲れた体をいい匂いのする湯船に沈める。そうして考えた。
この一カ月。そんなビックリするくらい、同じ生活を送り続けた。でも、決して無駄にしたとは思わない。とても、満ち足りていたし、穏やかだった。
火照った体を冷ますために、これまたいつものように町はずれの修道院まで散歩する。今日は、宿には泊まらない。明日からの仕事の準備のため、もうすぐ召喚魔法で回収されるのだ。
歩き慣れた道のりを歩いていくと夕暮れに照らし出された修道院が見えた。オレンジ色に包まれる、その様子が美しい。
「きゃあ☆やっぱりキレイ! この修道院は、この時間が一番素敵だわ」
そんな声にびっくりして振り向くと、若い修道女が同じようにこちらを見て立っていた。
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