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15 退路を断つ
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「……だから、あれは誤解なのですよ。しつけの一環で、決して虐待などではないのです」
「ほう。では、ラッテ伯爵家ではしつけの為に、年頃の娘の頭を壁に打ち付けたりしていると?」
「い、いや、それは不幸な事故とでも言いますか……。その、殿下がどこでウチの娘についての情報を得たのかは存じませんが、あの日のことは姉であるノーラが妹にケガを負わせたのがそもそもの発端なのですよ。お恥ずかしい話、アレは性格がねじ曲がっておりまして……。ノーラは日頃から、母親の違う妹を虐げイジメていたのです」
(……よくもまあ、自分に都合のいいようにペラペラと)
応接室の前で。
漏れ聞こえてくる声に青筋を立てる私。
ようやく王子様の居場所を突き止めたものの、父の言葉を聞いて呆れてしまった。
このまま放っておいたらどこまで話を捏造されるか分かったもんじゃない。
これまでの王子妃教育の成果を実践すべく、怒りを抑えてノックと共に入室し――――
「失礼いたしま「本当ですわっ!」」
「信じてくださいませ、アスク殿下ぁ……。私ぃ、お姉様にずっとずぅーっと虐められていたんですぅ…。ぜぇんぶ、お父様の言う通りでぇ……(じ~~…)」
――――驚いた。
まさか、父だけでなく妹まで登城しているとは。
声を震わせ必死に被害者アピールしながらも、妹の目は整った王子様の顔にくぎ付けになっている。彼女の猫なで声から察するに、侯爵令息から第三王子殿下に鞍替えしたいらしい。
「……!! ノーラ、どうしてここが……」
そんな妹を無視して、応接室に入ってきた私を見て目を丸くしている王子様。彼が心底驚いているのが見て取れる。
「王妃様からお聞きしましたの。私の『元家族』が来ていると」
私はそんな彼にニコリと微笑むと、静かにその隣へと腰を下ろした。
「は!? 元家族とはどういうことだ! まあいい。ノーラ、この私がわざわざ迎えに来てやったのだ。動けるのならすぐに邸に帰るぞ。全く、お前のせいで我が伯爵家はいい笑いものだ! 虐待だ、何だとありもしないことを吹聴してからに……ほら、来い!」
「お断りいたします」
パシッ
こちらの腕を掴もうと父親……元父親が伸ばして来た手を、私は容赦なく叩き落とす。
「この…っ、ノーラ、お前何を」
「私はつい先ほど……本日付で王妃様の御実家へ養女として入ることが決まりました。既に私の親権は王家預かりとなっておりますから、これで正式にそちらの伯爵家とは縁が切れました。もはやラッテ伯爵家と私は何の関係もございません」
「は?」
「え?」
「なっ!?」
父と妹、それに続いて驚きの声を上げたのは王子様だ。
「ノ…ノーラ! そ、それは最終手段だと……」
膝に置いた私の手を握り、焦ったような表情を浮かべている王子様。
既に虐待を理由として伯爵家から保護するべく裁判所の命令は出ている。後は王子妃として相応しい受け入れ先を探すのみとなっていた。
一応、協力者として第二王子殿下の実母である王妃様の御実家は最初に候補に挙がったものの、アスク殿下の反対で保留となっていた。2年以内に王子妃教育を終わらせるという条件を守れなかったときに、王妃様の御実家――公爵家の手駒として政治の道具とされてしまうのを避けるためだ。
けれど、ずるずると決断を先延ばしして安全策をとっていたらいつまでたっても元の家族に付きまとわれてしまうし、逃げ道を残したままでは周囲に覚悟を疑われてしまう。
なので、これは私なりのけじめでもあった。
「ほう。では、ラッテ伯爵家ではしつけの為に、年頃の娘の頭を壁に打ち付けたりしていると?」
「い、いや、それは不幸な事故とでも言いますか……。その、殿下がどこでウチの娘についての情報を得たのかは存じませんが、あの日のことは姉であるノーラが妹にケガを負わせたのがそもそもの発端なのですよ。お恥ずかしい話、アレは性格がねじ曲がっておりまして……。ノーラは日頃から、母親の違う妹を虐げイジメていたのです」
(……よくもまあ、自分に都合のいいようにペラペラと)
応接室の前で。
漏れ聞こえてくる声に青筋を立てる私。
ようやく王子様の居場所を突き止めたものの、父の言葉を聞いて呆れてしまった。
このまま放っておいたらどこまで話を捏造されるか分かったもんじゃない。
これまでの王子妃教育の成果を実践すべく、怒りを抑えてノックと共に入室し――――
「失礼いたしま「本当ですわっ!」」
「信じてくださいませ、アスク殿下ぁ……。私ぃ、お姉様にずっとずぅーっと虐められていたんですぅ…。ぜぇんぶ、お父様の言う通りでぇ……(じ~~…)」
――――驚いた。
まさか、父だけでなく妹まで登城しているとは。
声を震わせ必死に被害者アピールしながらも、妹の目は整った王子様の顔にくぎ付けになっている。彼女の猫なで声から察するに、侯爵令息から第三王子殿下に鞍替えしたいらしい。
「……!! ノーラ、どうしてここが……」
そんな妹を無視して、応接室に入ってきた私を見て目を丸くしている王子様。彼が心底驚いているのが見て取れる。
「王妃様からお聞きしましたの。私の『元家族』が来ていると」
私はそんな彼にニコリと微笑むと、静かにその隣へと腰を下ろした。
「は!? 元家族とはどういうことだ! まあいい。ノーラ、この私がわざわざ迎えに来てやったのだ。動けるのならすぐに邸に帰るぞ。全く、お前のせいで我が伯爵家はいい笑いものだ! 虐待だ、何だとありもしないことを吹聴してからに……ほら、来い!」
「お断りいたします」
パシッ
こちらの腕を掴もうと父親……元父親が伸ばして来た手を、私は容赦なく叩き落とす。
「この…っ、ノーラ、お前何を」
「私はつい先ほど……本日付で王妃様の御実家へ養女として入ることが決まりました。既に私の親権は王家預かりとなっておりますから、これで正式にそちらの伯爵家とは縁が切れました。もはやラッテ伯爵家と私は何の関係もございません」
「は?」
「え?」
「なっ!?」
父と妹、それに続いて驚きの声を上げたのは王子様だ。
「ノ…ノーラ! そ、それは最終手段だと……」
膝に置いた私の手を握り、焦ったような表情を浮かべている王子様。
既に虐待を理由として伯爵家から保護するべく裁判所の命令は出ている。後は王子妃として相応しい受け入れ先を探すのみとなっていた。
一応、協力者として第二王子殿下の実母である王妃様の御実家は最初に候補に挙がったものの、アスク殿下の反対で保留となっていた。2年以内に王子妃教育を終わらせるという条件を守れなかったときに、王妃様の御実家――公爵家の手駒として政治の道具とされてしまうのを避けるためだ。
けれど、ずるずると決断を先延ばしして安全策をとっていたらいつまでたっても元の家族に付きまとわれてしまうし、逃げ道を残したままでは周囲に覚悟を疑われてしまう。
なので、これは私なりのけじめでもあった。
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