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16 動かぬ証拠
しおりを挟む「王妃様の御実家って……公爵家の!? う……、嘘よっ!」
「……嘘ではない。ノーラは既に私の妃候補として、この城で王子妃教育を受けているからな」
王妃様の御実家と聞いて王子様は困惑した顔をしていたが、やがて大きくため息を吐くと隣に座った私の肩をしっかりと抱いて、目の前の二人にそう宣言した。
「嘘よ、嘘嘘嘘……っ!! 仮に本当だとしても、陰湿なイジメをしていたお姉様なんかが公爵家に受け入れられるはずがないわっ!」
「そ……そうだ! 王子妃ならばイジメを行うような姉よりも、心優しく、きちんと学校にも通っている妹の方がよほど相応しいではないか!」
「お父様の言う通りだわ! そうだ、ほら、この手の傷! コレがイジメの証拠よ。あの日、お姉様に付けられたの! 包丁を持って、家中追い回されて……すごく怖かったんだから! 思い出しても震えが……っ」
ブルブル…ッ
と身体を震わせたのは妹……ではなく王子様。あの日、妹に包丁を持って追い回されたのを思い出してしまったらしい。
妹はハラリハラリと手に巻かれた真っ白な包帯をとって王子様に傷口を見せつけるが、ハッキリ言って逆効果ですね。その傷をつけたのは他ならぬ王子様本人ですから。悪手すぎる。
「いい加減にしてくれ! 大体、その傷は刃物ではなく引っ掻かれてできたものだろう。それにそちらは噛み傷じゃないか! 嘘をつくのも大概にしろ」
せっかく震えが止まったのに。今度は怒りに体を震わせながら、妹を睨みつける王子様。当の妹は一瞬ビクッとしたものの、何を思ったのか頬を染めている。
「それは……お姉様が小汚い野良猫を手懐けて襲わせたのです……すごくぅ……すごく怖かったぁ……ぐす」
「…ふぅん。なるほど、『小汚い野良猫』……ね」
「そ、そうなのです! いや~、私もチラリと見ましたが、それはもう獰猛な猫で……」
王子様が話を聞く姿勢を見せたからか、父と妹二人してあれは悪魔の使いだとか漆黒のオーラを纏いし悪しき獣だとか散々な言われよう。
それを聞いてそれまで怒りに震えていた王子様が、いつの間にか楽しそうに笑んでいる。
それに気を良くした妹が満面の笑みで。
「信じていただけましたか!? 良かったぁ、イジメをする女が王子妃なんて相応しくありませんものね。ご安心ください。アスク殿下にはお姉様の代わりに私が嫁いで、王子妃としてお支えします!」
「おお! 名案だ、それがいい! それでいいですな?」
「きゃあ、嬉しい! 私、このお城で暮らせるのね、夢みたい」
「―――いい加減にしろ」
ピシャリ。
空気が底冷えするような声で、はしゃぐ二人に言葉をかける王子様。普段は優し気なミルク色がかった青い目が、まるで極寒の海に浮かぶ氷のように見える。
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