【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆

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10 読まなかった手紙1

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愛しい息子へ

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。全てお母様が悪かったの。自分の母親に大事な妻を殺されたのだもの。無視されても当然よ。許されるなんて思っていないわ。
 でも、お願いだから謝らせて……。返事をください。

 どうか、どうかお願い……。

○月×日 愚かな母より


愛しい息子へ

 手紙を読んでくれた? 私に怒っているのは解るけれど、どうか連絡をちょうだい。貴方の話を聞いてから罪悪感で食事が摂れないし、夜もまったく眠れないの。自分でも考え続けているけれど、死んでしまったあの子に何て謝ったらいいのかわからないのよ……。私はどうやって償えばいいの?

○月×日 母より


愛しい息子へ

 手紙でごめんなさい。貴方に本当のことを言うわ。
 最初の……歓迎の食事会のあの時。せっかく用意した心尽くしの料理に手を付けないあの子に怒っていたの。我が家の料理人が慣れぬ魚を捌く練習までしてサプライズで生のお魚料理を用意したのに、なんて失礼な子だと思って。

 それでも旅の疲れもあるだろうと別の日にさりげなく同じものを出しても手を付けないから呆れてしまって……。

 怒った料理人が使用人用のお料理を出しているのには気付いていたけれど、気持ちは分かるから静観していたのよ。そうしたら今度は平気で完食するものだから、馬鹿にされていると思ってそのまま放置してしまったの。そんなに我が家のお食事が口に合わないなら、使用人たちと同じ物でも食べていればいいわ……って、

 でも、詳しく聞き取りをしたらあの子の分だけ味付けをおかしくして嫌がらせをしていたらしいの。貴族なのだから気に食わなければ外で食べるだろうと、軽く考えていたのでしょうね。まさか、嫁いだばかりでこちらの通貨を持っていないなんて思ってもいなかったのよ。

 夫婦仲も上手くいってないくせにと、あの子に予算を渡していなかった私の責任だわ。ううん、そもそも使用人がしている嫌がらせを止めもしなかった時点で間違っていたのよ。嫁いでくるお嫁さんに良くしてやっているつもりで期待した反応が返ってこなかったからと、勝手に裏切られたような気持ちになって腹を立てて……。

 だから、料理人から『料理に文句を言われた』と聞いてからは、詳しい調査もせずに食事の用意をさせなかったの。予算を渡していないのだから、そのうち音を上げて謝ってくるだろうと軽く考えていたのよ。全てはあの子が悪いのだからって……。

 今思えば、私があちこちで嫁の失礼な態度を広めてしまったから、あの子が頼れる人間なんてこの国にはいなかったのにね。酷い事をしてしまったわ……。

 でも、貴方から話を聞いてようやく原因が判った。

 たとえ私や料理人の知識不足で調理に問題があって食べられなくても、あの子は用意されたお料理を喜んでくれたからこそ、気を遣って本当のことを言えなかったのね。
 それなのに……ああ、本当にごめんなさい。よく知りもしないで、勝手な想像で腹を立てた私が愚かだったのよ。

 あなたはあちらの国の事情にも詳しいでしょう? 教えてちょうだい。私はどうやってあの子と、あの子の御家族に償ったらいいの? これ以上無知なまま勝手に判断をして、あちらの御家族を傷つけたくないのよ。

○月×日 母より


愛しい息子へ

 シェルタさんの事で貴方に話したいことがあるの。お願いだから帰ってきて。お願い……。

○月×日 母より


愛しい息子へ

 この前は貴方の気持ちも考えずにごめんなさい。突然妻が死んだと聞かされて、さぞ戸惑ったことでしょう。
 仕事が忙しいのかもしれないけれど、少し、時間を貰えないかしら?

○月×日 母より


愛しい息子へ

 ああどうしましょう、大変なことになってしまったわ。違うの、そんなつもりではなかったの。これを読んだらすぐに連絡をちょうだい。

○月×日 母より


愛しい息子へ

 貴方のお嫁さんが倒れました。連絡をください。

○月×日 母より




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