10 / 18
10 読まなかった手紙1
しおりを挟む
愛しい息子へ
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。全てお母様が悪かったの。自分の母親に大事な妻を殺されたのだもの。無視されても当然よ。許されるなんて思っていないわ。
でも、お願いだから謝らせて……。返事をください。
どうか、どうかお願い……。
○月×日 愚かな母より
愛しい息子へ
手紙を読んでくれた? 私に怒っているのは解るけれど、どうか連絡をちょうだい。貴方の話を聞いてから罪悪感で食事が摂れないし、夜もまったく眠れないの。自分でも考え続けているけれど、死んでしまったあの子に何て謝ったらいいのかわからないのよ……。私はどうやって償えばいいの?
○月×日 母より
愛しい息子へ
手紙でごめんなさい。貴方に本当のことを言うわ。
最初の……歓迎の食事会のあの時。せっかく用意した心尽くしの料理に手を付けないあの子に怒っていたの。我が家の料理人が慣れぬ魚を捌く練習までしてサプライズで生のお魚料理を用意したのに、なんて失礼な子だと思って。
それでも旅の疲れもあるだろうと別の日にさりげなく同じものを出しても手を付けないから呆れてしまって……。
怒った料理人が使用人用のお料理を出しているのには気付いていたけれど、気持ちは分かるから静観していたのよ。そうしたら今度は平気で完食するものだから、馬鹿にされていると思ってそのまま放置してしまったの。そんなに我が家のお食事が口に合わないなら、使用人たちと同じ物でも食べていればいいわ……って、
でも、詳しく聞き取りをしたらあの子の分だけ味付けをおかしくして嫌がらせをしていたらしいの。貴族なのだから気に食わなければ外で食べるだろうと、軽く考えていたのでしょうね。まさか、嫁いだばかりでこちらの通貨を持っていないなんて思ってもいなかったのよ。
夫婦仲も上手くいってないくせにと、あの子に予算を渡していなかった私の責任だわ。ううん、そもそも使用人がしている嫌がらせを止めもしなかった時点で間違っていたのよ。嫁いでくるお嫁さんに良くしてやっているつもりで期待した反応が返ってこなかったからと、勝手に裏切られたような気持ちになって腹を立てて……。
だから、料理人から『料理に文句を言われた』と聞いてからは、詳しい調査もせずに食事の用意をさせなかったの。予算を渡していないのだから、そのうち音を上げて謝ってくるだろうと軽く考えていたのよ。全てはあの子が悪いのだからって……。
今思えば、私があちこちで嫁の失礼な態度を広めてしまったから、あの子が頼れる人間なんてこの国にはいなかったのにね。酷い事をしてしまったわ……。
でも、貴方から話を聞いてようやく原因が判った。
たとえ私や料理人の知識不足で調理に問題があって食べられなくても、あの子は用意されたお料理を喜んでくれたからこそ、気を遣って本当のことを言えなかったのね。
それなのに……ああ、本当にごめんなさい。よく知りもしないで、勝手な想像で腹を立てた私が愚かだったのよ。
あなたはあちらの国の事情にも詳しいでしょう? 教えてちょうだい。私はどうやってあの子と、あの子の御家族に償ったらいいの? これ以上無知なまま勝手に判断をして、あちらの御家族を傷つけたくないのよ。
○月×日 母より
愛しい息子へ
シェルタさんの事で貴方に話したいことがあるの。お願いだから帰ってきて。お願い……。
○月×日 母より
愛しい息子へ
この前は貴方の気持ちも考えずにごめんなさい。突然妻が死んだと聞かされて、さぞ戸惑ったことでしょう。
仕事が忙しいのかもしれないけれど、少し、時間を貰えないかしら?
○月×日 母より
愛しい息子へ
ああどうしましょう、大変なことになってしまったわ。違うの、そんなつもりではなかったの。これを読んだらすぐに連絡をちょうだい。
○月×日 母より
愛しい息子へ
貴方のお嫁さんが倒れました。連絡をください。
○月×日 母より
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。全てお母様が悪かったの。自分の母親に大事な妻を殺されたのだもの。無視されても当然よ。許されるなんて思っていないわ。
でも、お願いだから謝らせて……。返事をください。
どうか、どうかお願い……。
○月×日 愚かな母より
愛しい息子へ
手紙を読んでくれた? 私に怒っているのは解るけれど、どうか連絡をちょうだい。貴方の話を聞いてから罪悪感で食事が摂れないし、夜もまったく眠れないの。自分でも考え続けているけれど、死んでしまったあの子に何て謝ったらいいのかわからないのよ……。私はどうやって償えばいいの?
○月×日 母より
愛しい息子へ
手紙でごめんなさい。貴方に本当のことを言うわ。
最初の……歓迎の食事会のあの時。せっかく用意した心尽くしの料理に手を付けないあの子に怒っていたの。我が家の料理人が慣れぬ魚を捌く練習までしてサプライズで生のお魚料理を用意したのに、なんて失礼な子だと思って。
それでも旅の疲れもあるだろうと別の日にさりげなく同じものを出しても手を付けないから呆れてしまって……。
怒った料理人が使用人用のお料理を出しているのには気付いていたけれど、気持ちは分かるから静観していたのよ。そうしたら今度は平気で完食するものだから、馬鹿にされていると思ってそのまま放置してしまったの。そんなに我が家のお食事が口に合わないなら、使用人たちと同じ物でも食べていればいいわ……って、
でも、詳しく聞き取りをしたらあの子の分だけ味付けをおかしくして嫌がらせをしていたらしいの。貴族なのだから気に食わなければ外で食べるだろうと、軽く考えていたのでしょうね。まさか、嫁いだばかりでこちらの通貨を持っていないなんて思ってもいなかったのよ。
夫婦仲も上手くいってないくせにと、あの子に予算を渡していなかった私の責任だわ。ううん、そもそも使用人がしている嫌がらせを止めもしなかった時点で間違っていたのよ。嫁いでくるお嫁さんに良くしてやっているつもりで期待した反応が返ってこなかったからと、勝手に裏切られたような気持ちになって腹を立てて……。
だから、料理人から『料理に文句を言われた』と聞いてからは、詳しい調査もせずに食事の用意をさせなかったの。予算を渡していないのだから、そのうち音を上げて謝ってくるだろうと軽く考えていたのよ。全てはあの子が悪いのだからって……。
今思えば、私があちこちで嫁の失礼な態度を広めてしまったから、あの子が頼れる人間なんてこの国にはいなかったのにね。酷い事をしてしまったわ……。
でも、貴方から話を聞いてようやく原因が判った。
たとえ私や料理人の知識不足で調理に問題があって食べられなくても、あの子は用意されたお料理を喜んでくれたからこそ、気を遣って本当のことを言えなかったのね。
それなのに……ああ、本当にごめんなさい。よく知りもしないで、勝手な想像で腹を立てた私が愚かだったのよ。
あなたはあちらの国の事情にも詳しいでしょう? 教えてちょうだい。私はどうやってあの子と、あの子の御家族に償ったらいいの? これ以上無知なまま勝手に判断をして、あちらの御家族を傷つけたくないのよ。
○月×日 母より
愛しい息子へ
シェルタさんの事で貴方に話したいことがあるの。お願いだから帰ってきて。お願い……。
○月×日 母より
愛しい息子へ
この前は貴方の気持ちも考えずにごめんなさい。突然妻が死んだと聞かされて、さぞ戸惑ったことでしょう。
仕事が忙しいのかもしれないけれど、少し、時間を貰えないかしら?
○月×日 母より
愛しい息子へ
ああどうしましょう、大変なことになってしまったわ。違うの、そんなつもりではなかったの。これを読んだらすぐに連絡をちょうだい。
○月×日 母より
愛しい息子へ
貴方のお嫁さんが倒れました。連絡をください。
○月×日 母より
657
あなたにおすすめの小説
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
婚約破棄されたので、あなたの国に関税50%かけます~最終的には9割越えの悪魔~
常野夏子
恋愛
隣国カリオストの第一王子であり婚約者であったアルヴェルトに、突如国益を理由に婚約破棄されるリュシエンナ。
彼女は怒り狂い、国をも揺るがす復讐の一手を打った。
『本日より、カリオスト王国の全ての輸入品に対し、関税を現行の5倍とする』
遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言
夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので……
短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
このお話は小説家になろう様にも掲載しています。
好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。
豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」
「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」
「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
いくら時が戻っても
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。
庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。
思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは―――
短編予定。
救いなし予定。
ひたすらムカつくかもしれません。
嫌いな方は避けてください。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。
Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる