【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆

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17 旅人さんはドアマットに一目で気付く(シェルタ視点)

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 海に面したこの国は左右を似たような国に挟まれていて、特産物が被る海に面した両隣の国とはあまり仲が良くない。

 販路を広げるにも右側ルートは完全にライバル国によって塞がれているし、反対側はもう一つのライバル国の他にもう一国あるが、我が国とはかろうじて国交がある程度。内陸にある国々との交易を広げるためには、その山間に在る隣国と縁を深める必要があった。そこで国策として持ち上がったのが、山間の隣国と我が国の、国境線を接する侯爵家同士の縁組だ。

 双方の王族が取り持つ形で婚約が決まり、小さい頃から頻繁に手紙のやり取りをしていたが、実際に婚約者に会ったのは数回程度。
 それでも出来る限り交流を続けていたし、国と国を繋ぐための縁組みに誇りと夢を抱いていたが、やはり国をまたいでの結婚は難しかったようだ。残念な結果に終わってしまった――が、あの状態から命が助かっただけでも幸運と思うべきだろう。

 それに、運命的な出会いもあった。

 私を助けてくれた親切な旅人さんは、この国の上部に位置する大国出身で公爵家の末っ子。

 身軽な立場ゆえ、買い付けと称して自由気ままに諸国を旅していて、その旅の途中で助けてもらったのだ。

 彼の隣国滞在中に数回顔を合わす機会があり、その時は商人と聞いていたので良いお店を紹介してもらったお礼にと、祖国の見所や特産品などについて伝えていた。

 嫁ぎ先での不当な扱いを国同士の文化の違いだと思い込んでいたのであれこれ聞かれるままに話したが、旅慣れている彼から見ればすぐにおかしいことに気付いたようだ。
 嫌がらせを淡々と受け入れている私が心配だったらしい。仕事ついでにわざわざ実家に連絡を取ってくれた。

 私が病に倒れた時。ちょうど季節性の流行病が流行っていたらしく、使用人はお医者様だけを呼んで、自分達は最低限の面倒しかみなかった。処方された薬は部屋に置き去り。飲んだかどうかの確認もしない。そんな事情を知ったお医者様が怒鳴ってくれたけど扱いはたいして変わらない。
 見かねたお医者様が泊まり込みで私の面倒をみてくれたけど、その頃にはもう弱り切っていて――。

 そんなときに、実家からの迎えが来たのだ。私は記憶にないけれど、お医者様が私に付き添って、そのまま実家まで同行してくれたらしい。

 かなり危険な状態だったが、事情を知った旅人さんが商会の伝手を頼って貴重な薬を取り寄せてくれたお陰で私の命がつながった。

 大国ルートが開拓できたのも彼のお陰だ。

 わが国のような小国にとって、大国は雲の上の存在。気軽に交渉事を持ちかけることは出来ない。そんな中、彼が窓口となって交渉をまとめてくれたのだ。




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