10 / 64
10 番が見ているのでさようなら
しおりを挟む
今更後悔したって。反省したって。
そして、たとえこの先どんなに努力をしようとも。
失った縁は戻らない。目指すゴールの先には何もない。
……それでも元の自分にも戻れない。
なら――なら、せめて。
笑ってくれなくてもいい。軽蔑されてもいい。既に嫌われているのは分かっているし、今以上に嫌われても構わない。身代わりなんかにしないし偽者のままでいい。
だから……
『彼女』を知っている君に。
俺の愚かな行いを直接見て、心から軽蔑している君に。
どうか感情のままに、その目で俺を睨みつけていてほしい。
獣人でありながら番にすら見放されるくらい馬鹿な俺がこれ以上馬鹿なことをしでかさないように――。
「番は諦める。自業自得だ。反省する。心を入れ替える。だから、せめてその目で俺を見ていてくれないか。どんな軽蔑の眼差しでもいい。睨んでくれていい。何も期待しない、呆れ切ったその目でずっと見張っていてくれ……。俺が――君が認められるくらいの、番に紹介できるくらいの、まともな男になれるように。手遅れ…かもしれないけど、それでも、頑張るから。少しでも屑じゃなくなるようにあがくから、だから――」
手は地面についたまま。やはり顔を挙げることは出来なかった。俺の頭上から注がれる視線。
それまでの。温度の無かった女からの視線が、憐みを含むものに変わる。ここ一カ月の間、時折、感じていた視線。
ああ、あれは番を喪った俺への憐れみだったのか。
力を振り絞ってどうにか顔をあげたとき。
「リュシー」
どこからか女を呼ぶ声が聞こえて。『リュシー』と呼ばれた女がふわりと微笑んだ。柔らかく笑んだ番の目。その目が映しているのは俺ではない。
夢見るような、恋するような、幸せそうな番の目。
そこで、俺は初めて番の親友の顔をまともに見た。
俺の番が話していたという通りの――キレイで笑顔の可愛い素敵な女の子だった。
思わず見惚れて息を飲むくらいに。
俺の番の為に時間をかけて俺を探し出して。
俺の馬鹿な行動を心から軽蔑し、怯むことなく本気で俺を怒ってくれた、番の友達。
二人はどのくらいの間、人生を共に過ごしたのだろうか。その分、俺に対する怒りや失望も深かったに違いない
失望させてしまったことを謝りたい。そして、もっと話を聞きたい。……そしてリュシーと色んな話をしたい。
彼女自身のこと。『俺の番』のこと――ああ、そうだ。
俺はここに至ってようやく、自分の番だった相手の名前すらまだ知らないことに気が付いた。
「あ…の、リュシー。話を……」
まずは君に謝って。そして俺の番、の話を……。
「ごめんなさい、私もう行かなくちゃ」
「リュ…」
「番が見ているのでさようなら」
弾む声でそんな言葉を残し、人ごみの中へと駆けていくリュシー。飛び切りの笑顔を浮かべているのだろうけれど、見せる相手は俺じゃない。番の目は俺を見ない。番の目が俺を振り返ることはない。
俺の薄くて繊細な猫の耳が彼女の足音を見失う。
――そして。俺は番の名前すら永遠に失ってしまった。
☆☆☆☆☆☆☆
クズ男は本当に反省したのか。
心を入れ替えたのか。
まともな男になれたのか。
親友の報告は……。
親友からの報告を聞いた『番』は……。
――クズ男の再登場は31話で!
そして、たとえこの先どんなに努力をしようとも。
失った縁は戻らない。目指すゴールの先には何もない。
……それでも元の自分にも戻れない。
なら――なら、せめて。
笑ってくれなくてもいい。軽蔑されてもいい。既に嫌われているのは分かっているし、今以上に嫌われても構わない。身代わりなんかにしないし偽者のままでいい。
だから……
『彼女』を知っている君に。
俺の愚かな行いを直接見て、心から軽蔑している君に。
どうか感情のままに、その目で俺を睨みつけていてほしい。
獣人でありながら番にすら見放されるくらい馬鹿な俺がこれ以上馬鹿なことをしでかさないように――。
「番は諦める。自業自得だ。反省する。心を入れ替える。だから、せめてその目で俺を見ていてくれないか。どんな軽蔑の眼差しでもいい。睨んでくれていい。何も期待しない、呆れ切ったその目でずっと見張っていてくれ……。俺が――君が認められるくらいの、番に紹介できるくらいの、まともな男になれるように。手遅れ…かもしれないけど、それでも、頑張るから。少しでも屑じゃなくなるようにあがくから、だから――」
手は地面についたまま。やはり顔を挙げることは出来なかった。俺の頭上から注がれる視線。
それまでの。温度の無かった女からの視線が、憐みを含むものに変わる。ここ一カ月の間、時折、感じていた視線。
ああ、あれは番を喪った俺への憐れみだったのか。
力を振り絞ってどうにか顔をあげたとき。
「リュシー」
どこからか女を呼ぶ声が聞こえて。『リュシー』と呼ばれた女がふわりと微笑んだ。柔らかく笑んだ番の目。その目が映しているのは俺ではない。
夢見るような、恋するような、幸せそうな番の目。
そこで、俺は初めて番の親友の顔をまともに見た。
俺の番が話していたという通りの――キレイで笑顔の可愛い素敵な女の子だった。
思わず見惚れて息を飲むくらいに。
俺の番の為に時間をかけて俺を探し出して。
俺の馬鹿な行動を心から軽蔑し、怯むことなく本気で俺を怒ってくれた、番の友達。
二人はどのくらいの間、人生を共に過ごしたのだろうか。その分、俺に対する怒りや失望も深かったに違いない
失望させてしまったことを謝りたい。そして、もっと話を聞きたい。……そしてリュシーと色んな話をしたい。
彼女自身のこと。『俺の番』のこと――ああ、そうだ。
俺はここに至ってようやく、自分の番だった相手の名前すらまだ知らないことに気が付いた。
「あ…の、リュシー。話を……」
まずは君に謝って。そして俺の番、の話を……。
「ごめんなさい、私もう行かなくちゃ」
「リュ…」
「番が見ているのでさようなら」
弾む声でそんな言葉を残し、人ごみの中へと駆けていくリュシー。飛び切りの笑顔を浮かべているのだろうけれど、見せる相手は俺じゃない。番の目は俺を見ない。番の目が俺を振り返ることはない。
俺の薄くて繊細な猫の耳が彼女の足音を見失う。
――そして。俺は番の名前すら永遠に失ってしまった。
☆☆☆☆☆☆☆
クズ男は本当に反省したのか。
心を入れ替えたのか。
まともな男になれたのか。
親友の報告は……。
親友からの報告を聞いた『番』は……。
――クズ男の再登場は31話で!
235
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる