【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆

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10 番が見ているのでさようなら

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 今更後悔したって。反省したって。
 そして、たとえこの先どんなに努力をしようとも。

 失った縁は戻らない。目指すゴールの先には何もない。

 ……それでも元の自分にも戻れない。
 なら――なら、せめて。


 笑ってくれなくてもいい。軽蔑されてもいい。既に嫌われているのは分かっているし、今以上に嫌われても構わない。身代わりなんかにしないし偽者のままでいい。
 だから……

『彼女』を知っている君に。
 俺の愚かな行いを直接見て、心から軽蔑している君に。
 どうか感情のままに、その目で俺を睨みつけていてほしい。


 獣人でありながら番にすら見放されるくらい馬鹿な俺がこれ以上馬鹿なことをしでかさないように――。


「番は諦める。自業自得だ。反省する。心を入れ替える。だから、せめてその目で俺を見ていてくれないか。どんな軽蔑の眼差しでもいい。睨んでくれていい。何も期待しない、呆れ切ったその目でずっと見張っていてくれ……。俺が――君が認められるくらいの、番に紹介できるくらいの、まともな男になれるように。手遅れ…かもしれないけど、それでも、頑張るから。少しでも屑じゃなくなるようにあがくから、だから――」


 手は地面についたまま。やはり顔を挙げることは出来なかった。俺の頭上から注がれる視線。

 それまでの。温度の無かった女からの視線が、憐みを含むものに変わる。ここ一カ月の間、時折、感じていた視線。


 ああ、あれは番を喪った俺への憐れみだったのか。


 力を振り絞ってどうにか顔をあげたとき。


「リュシー」


 どこからか女を呼ぶ声が聞こえて。『リュシー』と呼ばれた女がふわりと微笑んだ。柔らかく笑んだ番の目。その目が映しているのは俺ではない。

 夢見るような、恋するような、幸せそうな番の目。


 そこで、俺は初めて番の親友の顔をまともに見た。
 俺の番が話していたという通りの――キレイで笑顔の可愛い素敵な女の子だった。

 思わず見惚れて息を飲むくらいに。


 俺の番の為に時間をかけて俺を探し出して。
 俺の馬鹿な行動を心から軽蔑し、怯むことなく本気で俺を怒ってくれた、番の友達。

 二人はどのくらいの間、人生を共に過ごしたのだろうか。その分、俺に対する怒りや失望も深かったに違いない

 失望させてしまったことを謝りたい。そして、もっと話を聞きたい。……そしてリュシーと色んな話をしたい。

 彼女自身のこと。『俺の番』のこと――ああ、そうだ。

 俺はここに至ってようやく、自分の番だった相手の名前すらまだ知らないことに気が付いた。


「あ…の、リュシー。話を……」

 まずは君に謝って。そして俺の番、の話を……。


「ごめんなさい、私もう行かなくちゃ」

「リュ…」


「番が見ているのでさようなら」


 弾む声でそんな言葉を残し、人ごみの中へと駆けていくリュシー。飛び切りの笑顔を浮かべているのだろうけれど、見せる相手は俺じゃない。番の目は俺を見ない。番の目が俺を振り返ることはない。

 俺の薄くて繊細な猫の耳が彼女の足音を見失う。


 ――そして。俺は番の名前すら永遠に失ってしまった。





☆☆☆☆☆☆☆


 クズ男は本当に反省したのか。
 心を入れ替えたのか。
 まともな男になれたのか。

 親友の報告は……。
 親友からの報告を聞いた『番』は……。


 ――クズ男の再登場は31話で!



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