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11 孤児院育ちのリュシー(リュシー視点)

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『あなたが自分の中で一番好きなところはどこですか?』
 もし、誰かにそうやって聞かれたら

「目です」

 ――と、私は迷わず答えるわ。
 世界で一番、大切で大好きなあの子の。
 世界で一番、大切で大好きな目。


 その目で、私が生まれて初めて目にしたものは。
 世界で一番美しい、大切で大好きなあの子の――……




 物心がついた時には私は孤児院にいた。おそらくは、目が見えないことが原因で親から捨てられたのだと思う。

 手紙やハンカチや名前。孤児院に居る子は親から何かしら思い出を贈られている子が多かったけれど、私は最初から何も持っていなかった。
 それについては特に何も思わない。ただ――。

 私のリュシーという名前。これは『光』という意味で、孤児院の院長先生が付けてくれたそうだ。

 目の見えない私に何の冗談かと思った。



 孤児院はどこも資金が足りなくて、それでいて子供は多い。

 だからいつも何かが足りないし、お腹いっぱいは食べられない。先生も含め、誰もがいつも空腹だった。

 そのせいで私みたいな子は標的にされて、栄養の足りないお皿からはいつも何かが足りなくなっていた。

 見えないから誰がやったのかは分からない。――それも、いつものこと。

 なので、特に何も思わなかった。


 そんな私を心配してのことだったのだと思う。


 孤児院の院長先生の紹介で、私は魔術治療院へと送られることになった。

 何でもそこは裕福な貴族出身のお医者様が経営している病院で――この国ではまだあまり普及していない魔術移植医療というのを広めるために、協力してくれる患者を探しているのだそうだ。
 とにかく治療での成功実績をあげたいらしい。

 なので、そこでなら孤児院育ちの私でもタダで高額な医療が受けられる。しかも、その技術を使った移植が上手くいけば私の目が見えるようになるそうだ。

 私は人体実験に使われるらしい……そうやって孤児院の子たちが噂していたけれど、特に何も思わなかった。



 魔術治療院へと出発する日。


 私を見送る際に。

「そこでは最新の医療が受けられるし、そこならあなたも安心してしっかりとご飯が食べられるから……」

 ――と、私に冗談みたいな名前を付けた、孤児院の院長先生が言っていた。

 その時はほんの少しだけ悲しいと思った。


 いつも何かが足りないご飯で。
 すごく何かがが足りないときに、院長先生がこっそりと自分の分を私に分けてくれているのを知っていたから。

 目が見えない私はその分耳がいいし、そもそも私は猫獣人。種族的にも耳がいい。

 だから目は見えていなくても見えない部分が見えている。


「リュシーのおかずがないからって、ソレは院長先生の分なのに! 院長先生ってば、リュシーばっかりズルい!!」


 ……そんな、孤児院の子供達の不満の声を私の耳はしっかりと拾っていた。

 何も持っていなかった私の唯一の思い出だ。




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