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61 名もなき番(番視点)

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 魔法契約をしている俺は番に近づくことが出来ない。
 けれど、結婚式に潜り込めれば、あの子の名前を知ることくらいはできるはずだ。


 俺はそう思って結婚式当日に大聖堂へと向かったが、なぜかとんでもなく警備が厳しくて、とてもじゃないが猫の子一匹大聖堂の中に入ることは出来そうもなかった。

 仕方がないので獣化して大聖堂の屋根へと上り、こっそり窓から中を覗くことにした。自慢の耳を澄ましてみたが、防音魔法でもかかっているのか、中の音はいっさい聞こえなかった。

 音すら漏らさぬように警備体制が徹底されているようだ。


 そうこうしている間に、ガラス越しに番の結婚式は粛々と進んでいく。


 誓いを終え、新郎にエスコートをされながら、番がこちら側へ退場してくる姿が見えた。
 一歩一歩、幸せをかみしめるように人間のオスと共に歩みを進める番の顔を見て――彼女が今幸せなのが分かった。


 それが悔しくて――ただ、その笑顔を見られたのは嬉しくて。よく分からない涙で頬の毛が濡れていく。


 警備をしている人間が近づいてくる気配がしたので、俺は慌てて屋根から降りてその場を離れた。







 しゃらり……しゃらり……

 あれから数年。
 隣国へと渡った俺の胸元にはどうしても手放すことの出来なかった番に貰ったあのネックレスが揺れている。


 彼女を路地裏に追いつめるよりも、既成事実を作ろうとするよりも。俺にはもっと先にするべきことがあったのだと今なら分かる。

 今更それに気が付いても、もう手遅れだ。
 結局――俺は生まれ変わった今世でも番の名前を知ることすら出来なかった。


 そして。


『二度と同じ失敗を繰り返さないように。もしも転生した後、再び番の視線を感じることができたら――その場合にのみ、今回の記憶を思い出させてほしい』



 あんな願い事をするんじゃなかった。

 保身に走った救済措置は呪いとなって自らの身に降りかかった。


 名前も知らない愛しい彼女の記憶を持ったままで――。

 俺はこの先、番がいない人生を一人で生きていくことになる。





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