【完結】悪役令嬢と自称ヒロインが召喚されてきたけど自称ヒロインの評判がとんでもなく悪い

堀 和三盆

文字の大きさ
10 / 64
本編

10 悪役令嬢と断罪劇

「クリス様ぁ! 私もクリス様にお土産を用意したんですぅ」

 まったく空気を読まない声が、強制的に割り込んだ。自称ヒロインだ。

「リリー! 心配していたよ。よく無事でいてくれたね」
「はい! これお土産ですっ。こちらの庶民が食べるお菓子なんですよ。美味しいから、クリス様にも食べさせてあげたくて。クリス様のために用意しました!」

 そう言って、自称ヒロインは両手に菓子を抱えながら第一王子に擦り寄った。
 そんな彼女を愛しそうに腕に抱きながら。

「分かるだろうヴィーナ。リリーの目は常に庶民に向いている。君にはない目線だね。僕は……心のこもっていない高級品なんかより、リリーが僕のために用意してくれた庶民の菓子の方が、よっぽど価値があるように感じるよ」

 第一王子は憐れむような目で悪役令嬢を見た。そんなやり取りを見ていて、怒りで震えてくる。腹の底から湧き上がる嫌悪感で吐きそうだった。

(何が僕のために用意してくれた、だ)

 自称ヒロインが抱えている菓子は、ついさっきまでギャル達と自称ヒロインがやっていたお別れパーティーで余った残り物だ。
 突然ギャル達が大量の菓子を持って現れて、廊下で宴会を始めたものだから先生に頼んで近くの教室を使わせてやったんだ。時間になっても戻ってこないから教室まで呼びに行けばギャル達は既にいなくなっていて、

「あっ開いてないお菓子残ってる。丁度いいからコレお土産にしちゃお!」

そう言ってかき集めていたものだ。

 ちなみに開いていない物だけをかき集めて、食べ残しや残骸は放置してたから、俺と悪役令嬢で掃除した。

「はい! どーぞ」

「ははは、落としてしまうよ。待って、何か包むものが」

 言いながら、第一王子は悪役令嬢に渡されたばかりのハンカチに気付き、それで包もうと試みる。しかし、ハンカチでは大きさが足りない。

「ああ、いくら高級品でもこんなのじゃ役に立たないな」
「あ、私いい物持ってますっ。レジ袋っていって、こちらの庶民が使うものなんですよ」
「ほう……! 庶民が。これは便利だな」

 イチャイチャと盛り上がる二人の足元で、悪役令嬢のハンカチが踏みつけられているのが見えた。限界だった。

「いい加減にしろよ! それは……」

 そんな扱いを受けていい物じゃないはずだ。だって俺は知っている。それを用意するために悪役令嬢が何をしていたか。

 慣れないバイトをして。
 キレイな指を寒さで真っ赤に染めて。
 そうして手に入れたバイト代のほとんどを使って購入された真っ白いハンカチ。

 放課後の教室で一針一針祈るように刺繍をしているのを俺は毎日見ていた。

「私は第一王子が好き私は第一王子が好き私は第一王子が好き私は第一王子が好き……」

 ぶつぶつとつぶやきながら刺繍を続ける姿は正直ちょっと怖かったくらいだったのに。

 第一王子の足元で無残に汚れ、ぐしゃぐしゃになっているハンカチに手を伸ばし――

「殿下に近づくな」

 その手が届く前に俺は護衛の男の剣で刺され地面に倒れ込んだ。


「いやぁあああ!」
 悪役令嬢の声がする。多分抱き起されている。彼女は異性に触れるのをよしとしないのに。痛みでかすむ意識の中「大丈夫」と声を出そうとして、こぽり、と口から何か出た。

 ああ、くそう。笑顔で送り出してやりたかったのに。口元を拭おうと、ポケットに手を伸ばす。ポケットにはアレが入っている。

 趣味の悪い霊柩車ハンカチ。

 取り出そうとして、ぐちゃり、と水に濡れたような感触がした。既に俺の血で汚れてしまっているようだ。

 葬式のときくらいしか使えないと思ったが、一生大事にするつもりだったのに。

 最初に使うのが、自分の最後だなんて笑うに笑えない……。

『癒しの光よ……!』

 悪役令嬢の声がする。触れられた手から、暖かいものが流れ込んでくる。しかしそれはゆっくりすぎて、徐々に意識が遠くなる。

 薄れていく意識の中、俺は断罪を聞いていた。

「何をしているんだ! 他国の者に力を使うなどっ。いや……? 随分治りが遅いな。いつもなら、こうパッと跡形もなく治るのに」

「クリス様、実は……今の彼女はほとんど聖女の力を失っているんです」

「な……っ、本当かリリー! おい、ヴィーナ、お前! 婚約者でありながら僕を裏切ったのか!」

 ああ、もううるさい。何なんだよお前ら。

「聖女の力を失った以上、貴様に僕の婚約者たる資格はない。ヴィーナス・ネルケ公爵令嬢、お前との婚約は破棄し、このリリーを聖女として新たに婚約者に指名する。そして――」

 ちょっと待ってくれよ。話を聞けよ。彼女は悪いことなんてしていない。説明、俺が説明するから。

「僕を裏切り、国を裏切ったお前に帰る場所などない。貴様を国外追放とする!」

「謹んでお受け致します」

 それが、最後に聞いた言葉だった。



あなたにおすすめの小説

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

惨殺された聖女は、任命式前に巻き戻る

ツルカ
恋愛
惨殺された聖女が、聖女任命式前に時間が巻き戻り、元婚約者に再会する話。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

無能と罵られた私だけど、どうやら聖女だったらしい。

冬吹せいら
恋愛
魔法学園に通っているケイト・ブロッサムは、最高学年になっても低級魔法しか使うことができず、いじめを受け、退学を決意した。 村に帰ったケイトは、両親の畑仕事を手伝うことになる。 幼いころから魔法学園の寮暮らしだったケイトは、これまで畑仕事をしたことがなく、畑に祈りを込め、豊作を願った経験もなかった。 人生で初めての祈り――。そこで彼女は、聖女として目覚めるのだった。