【完結】悪役令嬢と自称ヒロインが召喚されてきたけど自称ヒロインの評判がとんでもなく悪い

堀 和三盆

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クリスside

9 結ばれた二人

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 それから数日後。魔物の大規模な襲撃が始まった。

 リリーと共に僕も戦った。不思議なことに、リリーはまるで襲撃場所を先読みでもしているかのような戦い方をする。神官長はリリーは予言の力を持っていないと言っていたけど、もしかして持っているのでは?そうとしか思えないような見事な戦いぶりだった。それなのに。

「少し、ペースが早すぎます。農地への影響も考えて、作戦通り、予定通りに余裕を持って戦っていただきたい」

 神官長はそんな文句を言ってくる。

「魔物の出現場所で確実に倒しているのだから、農地への影響はむしろほとんどないではないか。戦闘はごく小規模、最小限で済み、こちらに被害もなく次々と魔物を倒しているというのに、いったい何の不満があるんだ」

 そこまで言って――気が付いた。神官長であるこの男は、幼い頃からのヴィーナの教育係だ。その功績で神官長にまでなった。己の育てたヴィーナをひいきするあまり、リリーがどんなに活躍したって不満しかないのだろう。

「殿下は勘違いをしておられます。農地への影響は……」
「もういい。お前はリリーが気に食わないだけだろう。何をしたって文句を言うんだ。黙れ。これは命令だ。リリーの戦い方について、これ以上の発言は王太子である僕が許さない」
「かしこまりました。……しかし、ご自分の発言はお忘れなきように」

 僕が「命令」と口にすると、神官長は帰っていった。しかし、苦言らしきものは忘れない。なんて奴だ。

 王太子である僕にこの態度だ。リリーも何か言われているかもしれない。心配になってリリーの天幕へ行くと。

「大丈夫。これで、最短で襲撃イベントは終わらせられるハズ。間に合う、なんとかギリギリ……」

 ブツブツと、深刻そうにつぶやく声がした。ストレスで痛むのか、しきりにお腹を触っている。

「リリー」
 声をかけると、真っ青な顔で振り向いた。

 顔色が悪い。そういえば、最近食欲もないようだ。無理に食べさせても吐いてしまうし、果物を食べるのがやっと、というときもある。

 ……やはり、討伐を急ぎすぎたのだろうか。

 使命感のあまり無理をしているのかもしれない。神官長の言う通り、少しペースを落とした方がいいのかもしれない。

「ど……どうしたのですかクリス様っ! こんな時間に……。えへへっ! でもお会いできて嬉しいですっ」

 僕の顔を見るなり何事もなかったかのように明るく振る舞う僕のリリー。なんて健気なのだろう。
 でも、無理をしてまで頑張って欲しくない。

「その……少し、討伐を急ぎすぎているような気がしてな。ほら、普通は半年くらいかけるだろう? だから、無理せずペースを落としても……」
「いいえっ! それじゃ間に合わない!!」
「間に合わない?」
「あっいえ、その……」

 一瞬。リリーは青い顔を更に真っ青にさせていたが、

「私……クリス様と、一刻も早く、本当の意味で結ばれたくて……。クリス様は違うのですか?」

 恥ずかしそうにそんなことを、青い顔を今度は真っ赤に染めて言い出した。途端に、僕の心臓が跳ね上がる。

「……っ! も、勿論だよリリー! ああ、襲撃さえなければ今すぐにでも結ばれてしまいたいくらいだ」

「私も、です。でも、討伐が終わるまでは純潔でなくてはならない。だけど、クリス様が好きすぎて――心が間に合わない。だから――少しでも早く、魔物を全て倒してしまいたいんです」

「……それで、君はこんなにも頑張って――分かった。とにかく、一刻も早く討伐を終わらせよう。そして、その暁には……」

 あまりの愛しさに、僕はリリーを抱き寄せた。体に、心に熱がこもる。

 そうだ。時間などかけていられない。魔物など、一気に討伐してみせる……っ!


 それから二週間。

 通常半年はかかる討伐を僕らは約一カ月で終わらせた。
 そして、最後の敵を倒したその夜に。



 僕たちは本当の意味で結ばれた。



 前代未聞のそのスピード討伐に、国中お祝いムードだ。誰もがリリーを敬い、褒めたたえる。それなのに、「クリス様がいてくれたからです」と、リリーは僕を立てることを忘れない。

 いいことは続くもので、リリーの懐妊が分かり、さらに国中、喜びに溢れかえった。
 時期的に討伐を終えたあの夜の子だ。初めてなのに無理をさせてしまったが、あの夜の盛り上がりを考えれば何の不思議もない。

 愛する者と真実の愛で結ばれた聖女は、聖女の力を持つ子を産むと言われている。討伐直後に産まれた子は強い力を持つとも。だから、順番がどうのと野暮なことを言う者はいない。慌てて挙げた式でも、国民は歓迎してくれた。口々に、お祝いを述べてくれる。


 リリーを選んで本当に良かった。


 心の底から幸せだった。




 数か月後に、黒髪黒目の子供が産まれるまでは。



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