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第三章 初級フリー討伐

40 卒業! 修道女推し活動

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「あ、コレ前に話したやつっす」

「まあ、こんなに!?」

「重いから俺が運びます」

「ご親切にありがとうございます! では、こちらにお願いできますか?」




 ――以前。

 修道女達から子供達の学用品が足りなくて困っていると聞いたので、イベントに行くついでにもう使っていないノートや筆記用具を持って行ったらものすごく喜ばれた。

 大学進学するときにノートを用意していたんだけど、結局はほとんど使わずにルーズリーフ使ってたんだよね。あれ、書き直しするのに便利だし。

 ……つーか、教授が黒板消すのが早すぎて、板書を書き写すのが間に合わないんだよ。字がぐちゃぐちゃになっちゃって俺の場合書き直し必須だから、結果的にノートは使わなくなった。

 その他にも、流行が過ぎて使わなくなったキャラ物の鉛筆とか、雑誌の付録のノートとか、姉ちゃんのお下がりまで含めると結構な数あったから、その辺まとめて全部異世界に持って行ったのだ。


 実家も片付いて親も喜んでいたし、子供達も助かってまさにいいことづくめ!


 ――って話を意識高い系姉ちゃんにしたら、会社の倉庫に死蔵されていた古いノートだの鉛筆だのを提供してくれた。

 最近、会社の倉庫を片付けていたら、景気が良かったころにやっていた会社主催の運動会とか日本支社設立○○年記念とかで配った記念品の残りが大量に出てきたらしい。

 会社じゃ今更ノートなんて使わないし、鉛筆なんかも言わずもがな。上司の許可もとれているから、古くて若干変色している物でもよければ……って言われたので修道女たちに伝えたら、

『是非お願いします!!』

 とのことなので、スポーツクラブに行くたびに少しずつ運んでいた。

 いや、ホラだって。紙類って意外と重いしさ……。
 一人で運ぶの辛いんだよ。全部で段ボール3箱分くらいあったしさ。

 流石は姉ちゃんが勤める意識高い系の会社。上司や社長さんまで太っ腹! 社会貢献への意識の高さと重さが半端ないっす。


 そんなわけで。子供達の笑顔と姉ちゃんの無言の圧力を思い出しつつ、俺も荷物運びを頑張った。大変だったけど、今まさに目の前で推しの不憫系修道女マリアンヌ様の涙交じりの清らかな笑顔を見られたので、俺的にも満足です。

 途中で若干面倒くさくなって、1箱くらい200gに消化してもらおうかな……とか心が折れそうになったが、我慢してよかった。うんうん。


 ――とか、達成感でいっぱいになっていたら。


「こんな立派なノート、貴族でもなかなか手に入りませんわ。貧民街の子供達にも無事に筆記用具が行き渡って……これで思い残すことはございません」

 ホロリ。

 と、流れ出た涙をハンカチで拭うマリアンヌ様。

 ……うん?



 不穏な発言が気になって聞いてみたところ、不憫系修道女マリアンヌ様は修道院の視察に来ていた高貴な人に見初められて、このたびめでたく修道院を出ることが決まったそうだ。その前に、どうしても子供達の教育問題をどうにかしたかったらしい。


 マリアンヌ様曰く、


 応援してくれた皆様のおかげで平民や貧民街の子供でも分け隔てなく学べる学校の建設が決まったし、費用の関係で問題だった学用品不足も解決されて、これで心おきなくあの方の元へ嫁ぐことが出来ます。


 ――――と、いうことらしい。


 ああ……貴族相手だとそういう事もあるのか。そういやマリアンヌ様も貴族だしな。神に仕える修道院ならそういった恋愛話とは無縁で安心と思っていたが……そうきたか。
 俺の認識が甘かった。


 とはいえ、これはこれで異世界らしい気もする。


 多少思うところはあるものの、再婚相手となる高貴な方のお陰で、離ればなれになっていたマリアンヌ様の子供も無事に手元に引き取って新たな生活を始めることが出来るらしいので、俺も笑顔で祝福しておいた。

 引退コンサートの後、花束を渡しマリアンヌ様と共に修道院を後にした高貴な方は見るからに優しそうなハイスペックイケメンで――コイツとならマリアンヌ様も子供と共に幸せになれるのだろうな……と、安心するとともに何か脱力した。

 イベント行っても、推しが居なくなってしまったせいか以前ほどの熱量はない。ダイエット効果も激減。どうやら俺もここを卒業する時が来たようだ。


 ――と、いうわけで。



 俺、ダイエットの為に普通の冒険者に戻りますっっ!!!




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