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16 形見のドレスとヴィクトリア(ヴィクトリア視点)
しおりを挟む幼い頃に皇太子妃候補に選ばれてからこれまで。
ヴィクトリアは将来の皇后という重責に耐え、それこそ血反吐を吐く思いで勉学に励み、国の為、皇帝を支える為に自分を犠牲にして頑張ってきた。
家族との団らんなど夢のまた夢。
けれど国民のそれを守るのが自らの使命。
そうやって自らを律してきたのだ。
そんな努力家の娘を自慢に思っていると――でも決して無理だけはしないで欲しい、貴女の避難場所はいつだって侯爵家にあるからと。
大好きな母からかけられたそんな言葉を支えにヴィクトリアは今日まで頑張ってきた。
正式に皇太子の婚約者となってからは母との思い出などほとんどない。病床にある母は、皇太子妃教育の為に城へと住み込んで頑張っているヴィクトリアに心配をかけまいと病のことは語らず、娘の花嫁衣裳を見ることなく愛する夫に看取られ女神様のもとへ旅立った。
これも貴族の務めだからと自分が産んだ娘との思い出もほとんど作れずに、死を目前にしての会いたい気持ちすらも抑えた強い母。
ようやく皇太子妃教育が終了して侯爵家へ戻ったときには、ヴィクトリアの手元に残された母との思い出はあのドレスだけだった。
ヴィクトリアは幼い頃からそんな母をずっと尊敬していた。尊敬する母のような強い心を持った皇后となりたくてこのドレスと共に嫁いできたのだ。
そんな話を嫁いだその日に夫となるロイエにはしたはずなのに。
二人で協力して帝国民のために頑張ろうと約束したはずなのに。
――それに、そもそもヴィクトリアは『娼婦だから』という理由で人を馬鹿にしたりはしない。
ヴィクトリアの過去の行いを見ればそれくらいのことはロイエにだって分かるはずだ。
突然現れた夫の番に人生を狂わされ、子供を支えるためにそうならざるを得なかった、捨てられ竜人妻達が再出発するシェルターをヴィクトリアは皇太子妃となってすぐに帝国各地に作り支援してきた。
皇后となってからも時間を作っては自らシェルターに通い、刺繍や縫物を教えるだけでなく地域に根ざした地道な職業訓練も行えるようにして、ようやくそれが軌道に乗ったと喜んだ。
同じような問題を抱える他の獣人国にも活動を広げるために、ロイエと共に候補地の視察もした。
それがつい一年程前のことなのに、夫は既に忘れてしまったようだ。
こうなってしまったら何を言った所で無駄なのだろうとヴィクトリアはむなしくなった。
おそらく――ヴィクトリアが作りあげた保護シェルターへと身を寄せた彼女らの夫もこのようになってしまったのだろう。
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