【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

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48 語られる真実

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「ヴィクトリア! どこだ、頼む! 君の姿を見せてくれ!」

『嫌』


 声は聞こえども姿を一向に見せないヴィクトリアにロイエは再び焦り出す。


 もしかして捕まっているのではないか?
 誰かに何かを言わされているのではないか?


 ロイエの記憶の中に居るヴィクトリアはいつだってロイエを尊重し愛し、子供に慈しみを与える清らかな存在で――決してこんな風に人を馬鹿にするような言葉や声を出すような人物ではない。


「誰かに言わされているのか!? 大丈夫だ、ヴィクトリア! どうにかここを抜け出して、命に代えても君を――私の愛する番を助けてみせるから」

『私が番? 嫌だわ、陛下の愛する番だったらそこにいるじゃない。愛しい番と一緒のベッドで眠れて、久しぶりに安眠できたのではなくて? まあ、使い道のなかった残り物だけど』

「な……にを言って」


 ヴィクトリアの言葉に後ろを振り返ると、先ほどまでロイエが使っていた硬く粗末な、けれど大きいどこかの安宿のようなベッドがある。どこまで暖をとれるか怪しい薄い布団が僅かに膨らんでいて、胸に広がる安堵と同時に嫌な予感が広がりざわりと総毛立つ。


 立派な離宮にそぐわぬ狭い部屋なのに、魔力と体力を限界まで失ったロイエの足ではそこにたどり着くまでに永遠とも言える時間がかかるように感じた。

 膨らみの正体を確かめるため布団を捲ろうと腕を動かすも、手がボロボロでまったく使い物にならない。

 もどかしい心を押し殺して口を使って布団を剝がした中に在ったのは、焦げたようなニオイを残す、無残な真っ白い――。


 ち…ガウ ちガウ、ちガウ


 こレ は ワタし が アイ し タ かオリ ジャ なイ……!


「こ……コレが何だって言うんだ!」

『あら酷い。国民と家族を犠牲にしてまで手に入れた大切な番を≪コレ≫だなんて』

「あれは違う……! 私は騙されたんだ!! 私には君という美しく非の打ち所のない運命の番がいたというのに、禁忌とされている怪しげな魅了の術にかけられたせいで、品性の欠片もない低俗で下品なあの女を番だと思い込まされていたんだよ!」

『逆よ』

「は? 逆……? ヴィクトリア、君はいったい何――を言って」

『陛下の番は間違いなくあの女よ。品性の欠片もない、低俗で、下品なあの女――でしたかしら? うふふふ、私は貴方達とってもお似合いだと思うわよ? 喜んであの方と共に国を荒らし、国民や家族を虐げていらしたもの。まさに運命の番だわ。そして陛下に怪しげな魅了の術をかけて、騙していたのはあの方じゃなくて私の方』

「何を――あ……ああ、解ったぞ。魅了にかけられていたとはいえ、結果的に君を裏切り二人にとって初めての子供を死に追いやってしまった私を怒っているのだろう? 今も私を愛しているから、だからそんな嘘を――」

『陛下を愛す? ハッ、馬鹿馬鹿しい。よくもそんなことが言えるわね。愛する私の子供達の命を奪った相手を、憎みこそすれ愛せるわけがないでしょう! 笑わせないで』

「な……っ!? だって君は正気を取り戻した私を献身的に支えてくれたじゃないか! 間違いを犯した私を受け入れて、あんなにも情熱的に私を求め愛してくれたじゃないか!! そのお陰で私達は二人の愛の結晶とも言える、愛する子供達を授か――。……待ってくれ。今さっき君は何て言った? 命を奪った相手? 子供……『達』?」

『あら思い出したかしら? ふふ……そんなわけないわよね。人から聞いて、ようやく『エクセラン』の存在に気付いたくらいだもの。しかも『初めての子供』? 私から愛する子供達の命を奪い、人数はおろかその存在すら覚えていないなんて。そんな人の一体どこを愛せると言うの?』


 竜人は寿命が長い分――どうしても子が育ちにくい。その代わり、たとえ産まれた子供が早世しても同じ両親の元へ産まれてくると言われている。


 エクセランが産まれ、どうしてと泣き叫んだ妻。
 双子が産まれ、納得した様子で喜びに泣いた妻。

 産まれた時からロイエに懐かぬ子供達――反発し憎んでいる様子すらうかがえる双子。
 ……頑なに弟妹を『兄・姉』と呼び続ける長男であるはずのエクセラン。



 誰もがうらやむ幸せな生活の裏で。

 これまでに少しずつ積み重ねてきた違和感がロイエと番の過去の愚行を白日の下に晒していく。



 ダメだ……チガウ……やめてくれ。
 あんなこと……思い出したら……無かったことにすれば――そもそも最初から間違って――だから――

 イヤだ、イヤダ、ダメダ!!
 思い出したくな――。


『教えてあげましょうか? あの女と陛下が私達親子に何をして、その後どうなったのかを』


 子供の頃から一番身近に居て誰より信頼している者の声で。


 ロイエを魅了してやまなかった幸せな日常が、音を立てて崩れ始める――――。




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