【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

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番外編

2 夫を信じて(ヴィクトリア視点)

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 この島へと移住し、ヴィクトリアが夫への愛を自覚してから20年。胸にうまれた想いをじっくりと育て、胸に火傷の痕を残しつつもヴィクトリアの竜鱗はほぼ元の状態に戻っている。

 同じく竜鱗を喪った夫の――ソレは知らない。

 契約結婚からは脱却したものの、今も白い結婚は続いているからだ。

 共に暮らし、そばに寄り添い、手を繋ぎ、口づけをかわし――ゆっくりすぎるほどゆっくりと育んできた愛情は、もはや目を逸らすことが出来ないほどの大きさになってはいるのだが。


 ざわり、ざわり……。


 一度ヴィクトリアの胸に生まれてしまった不安は中々消えてくれない。それどころか、時間が過ぎるごとに不確かなソレは増すばかり。

 そんな中で、ヴィクトリアは必死に自分に言い聞かせる。

 大国ドラゴディス帝国で長く騎士団長を務めてきた夫は強い。この島国へ来てからも魔物の討伐を危なげなくこなし、遅くとも夕方には帰ってきて、必ずヴィクトリアと共に夕食をとる。この20年間ずっとそうだったではないか。

 通いのメイドはいるけれど、夫は拙いヴィクトリアの作った料理を好むので、基本的に食事はヴィクトリアが作っている。そうやって作り続けているうちに、段々とレシピも夫の好物も増えてきた。

 おかげでヴィクトリアの料理の腕はかなり上達したと思う。たまに島へ遊びに来る娘が食べて驚くほどだ。離宮で生活していた頃と比べると味が雲泥の差らしい。
 ……ヴィクトリアとしては最後の方はそこまで酷くはなかったと思うのだが。

 たわいもない娘との会話を思い出し、ヴィクトリアは頬を緩めて。



『番であればもっと長く一緒に居られたのに』



 不意に夫を亡くした娘の言葉が脳裏をよぎり――背筋が凍り付いた。

 番であるヴィクトリアとズィーガー。共に暮らしてはいるものの、身体を重ねていないため番の恩恵は受けていない。

 日々一緒に居られるだけで十分過ぎるほどに幸せで、むしろこの心地よい関係を壊してしまいそうで一線を越える勇気が出なかったからだ。

 番の祝福を受けていれば竜人としての力も増すし、寿命も飛躍的に延びる。勇気を出して夫と一線を越えていれば、ヴィクトリアがこれほど不安になることも無かったのだろうか。


 ――大丈夫。

 夫は強いし夕方には帰宅して、いつも通り美味しい美味しいと言いながらヴィクトリアの作った夕食を食べてくれる……はず。


(ダメだわ。今日は書類仕事が全く手に付かない)


 こうなったら、たくさん夫の好物を作ろう。そうだ、時間がかかるケーキを焼こうか。

 小さなこの島にはケーキ屋が一件もないから、ケーキを食べるならヴィクトリアが自分で焼くしかないのだ。甘いものが大好きな夫はきっと喜んでくれるはず――。

 そう決意してヴィクトリアはキッチンへと向かう。

 笑顔で食べてくれる夫の姿を想像し、無心で料理を作り続けるヴィクトリア。


 けれど――。


 夕食を作り終わっても。ケーキを焼き終わっても。
 ――討伐に向かった船が戻っても。


 ズィーガーの姿だけがそこにはなかった。




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