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番外編
4 プロポーズ(ヴィクトリア視点)
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「ただいま! 遅くなって申し訳ない」
思っていたよりもボロボロで――思っていたよりも元気そうなズィーガーの姿を見て、ヴィクトリアは目を見開いた。
剣はかろうじて持っているものの、付いていた装飾は無くなっている。光物が好きな魔物もいるらしいから奪われたのかもしれない。
上着はどこかに置いてきたようで、下に着ていたシャツの胸元からは火傷の痕とともに、立派な竜鱗がチラチラと姿をのぞかせている。……まさかこんな形でソレを確認することになろうとは。
本来、人に見せるようなものではないのだが、ヴィクトリアとしては夫さえ無事に戻ってくれればそこはどうでもいい。
それに、人間の島民にとってはさして気になるほどの物でもないようだ。文化の違いと言えよう。
そんなことよりも。
異様に感じるのは――。
「ああ、『コレ』か。海の底に貝の魔物が居たんだ。邪竜を討伐したのはいいものの、邪竜の魔力に引き寄せられてきた大型の魔物に海の中へと引きずり込まれてしまって、そのときに海底で大きな貝の魔物を見つけたんだ。そのまま放置するわけにもいかないから、引きずり込んだヤツとついでにソレを倒したら、中にコレが入っていたんだよ。君にあげようと思って採取したのはいいけれど、戦っているうちに船とはぐれてしまってね。島の方向も解らないし持ったままは泳げないから、とりあえず魔力で保護して海底に戻し、私は魔法で身体を浮かせながら泳いで救助を待っていた」
それを聞いて、呆れるやら嬉しいやら――とにかくホッとして、よく分からない感情でヴィクトリアは泣いた。
どうやら。この島で暮らすようになって魔物の討伐をしているうちに、ズィーガーはこのような事態も想定して島民に泳ぎを教わっていたらしい。
それを知っているからこそ、島民は諦めることなく捜索に協力してくれていた。ズィーガーが持つ底なしの体力は彼らも大いに知るところだったので。
「貴方が泳げるって教えてくれていれば……どうして私に教えてくれなかったの?」
「いや、そのソレは――あまりに貴族らしくないので黙っていたのです。ヴィ……。……リア様に嫌われてしまうのではないかと心配で」
しゅん……と、ヴィクトリアの質問に答えた途端に大人しくなる夫。
以前と比べ口調は大分砕けてきたが、ふとした拍子にズィーガーは元の丁寧な言葉遣いに戻ってしまう。
大抵が、ヴィクトリアから自分への愛情に自信のない時だ。
――そんな風に思う必要どこにもないというのに。
泳げることを知っていれば、安心こそすれ嫌いになどなるはずがない、
大体、心配で堪らないのはヴィクトリアの方なのだ。
ヴィクトリアは自分の命よりも大切な存在を理不尽に奪われる絶望を知っている。
彼のお陰でどうにか取り戻すことは出来たけれど、あんな思いは二度としたくない。
「そんなことで嫌いになったりしないわよ。そんなことよりも、私は貴方が泳げないと思っていたから――ずっと心配…で…不安で。……貴方にもしものことがあったら、私――は……ッ」
「……リア様。いいえ、リア」
ヴィクトリアが必死に感情を押さえていると、突然、ズィーガーがその場で跪いた。
「救助を待っている間――私はずっと、貴女のことだけを考えていました。このまま、もし思いを告げられないまま最期を迎えてしまったら後悔すると、それだけを考えて。――だから」
男らしいズィーガーの瞳が真っすぐにヴィクトリアを射抜く。叩き上げの騎士であるズィーガーは元々貴族らしくはなかったが、島で暮らすようになって彼はどんどん精悍さを増していった。すっかり見慣れた日焼けした姿も良く似合う。
そして、引き締まった逞しい肉体で恭しく捧げたのは――巨大な真珠。占い師が使う水晶玉のようなソレは、彼が討伐ついでに命懸けで持ち帰ってきたものだ。
「リア、どうか私と結婚してください。そして、本当の夫婦になりましょう」
「……はい…………!」
指輪じゃないそれはずっしりと、とんでもなく重かった。皇后として帝国で何事もなく暮らしていたら、あまりの重さに持てなかったかもしれない。
こんな重い物を持ち帰ろうとして、救助が遅れたらどうするのか。
言いたいことや不満はたくさんあるけれど――。夫から贈られるズシリと重いソレは番の願いを叶えるためだけに自ら竜鱗を焼き、200年以上もの間、白い結婚を貫いてきた夫からヴィクトリアへの愛情の証のように思われて。
夫からの重たいそれをヴィクトリアはしっかりと受け取った。
――絶対に手放すものかと覚悟を決めて、
思っていたよりもボロボロで――思っていたよりも元気そうなズィーガーの姿を見て、ヴィクトリアは目を見開いた。
剣はかろうじて持っているものの、付いていた装飾は無くなっている。光物が好きな魔物もいるらしいから奪われたのかもしれない。
上着はどこかに置いてきたようで、下に着ていたシャツの胸元からは火傷の痕とともに、立派な竜鱗がチラチラと姿をのぞかせている。……まさかこんな形でソレを確認することになろうとは。
本来、人に見せるようなものではないのだが、ヴィクトリアとしては夫さえ無事に戻ってくれればそこはどうでもいい。
それに、人間の島民にとってはさして気になるほどの物でもないようだ。文化の違いと言えよう。
そんなことよりも。
異様に感じるのは――。
「ああ、『コレ』か。海の底に貝の魔物が居たんだ。邪竜を討伐したのはいいものの、邪竜の魔力に引き寄せられてきた大型の魔物に海の中へと引きずり込まれてしまって、そのときに海底で大きな貝の魔物を見つけたんだ。そのまま放置するわけにもいかないから、引きずり込んだヤツとついでにソレを倒したら、中にコレが入っていたんだよ。君にあげようと思って採取したのはいいけれど、戦っているうちに船とはぐれてしまってね。島の方向も解らないし持ったままは泳げないから、とりあえず魔力で保護して海底に戻し、私は魔法で身体を浮かせながら泳いで救助を待っていた」
それを聞いて、呆れるやら嬉しいやら――とにかくホッとして、よく分からない感情でヴィクトリアは泣いた。
どうやら。この島で暮らすようになって魔物の討伐をしているうちに、ズィーガーはこのような事態も想定して島民に泳ぎを教わっていたらしい。
それを知っているからこそ、島民は諦めることなく捜索に協力してくれていた。ズィーガーが持つ底なしの体力は彼らも大いに知るところだったので。
「貴方が泳げるって教えてくれていれば……どうして私に教えてくれなかったの?」
「いや、そのソレは――あまりに貴族らしくないので黙っていたのです。ヴィ……。……リア様に嫌われてしまうのではないかと心配で」
しゅん……と、ヴィクトリアの質問に答えた途端に大人しくなる夫。
以前と比べ口調は大分砕けてきたが、ふとした拍子にズィーガーは元の丁寧な言葉遣いに戻ってしまう。
大抵が、ヴィクトリアから自分への愛情に自信のない時だ。
――そんな風に思う必要どこにもないというのに。
泳げることを知っていれば、安心こそすれ嫌いになどなるはずがない、
大体、心配で堪らないのはヴィクトリアの方なのだ。
ヴィクトリアは自分の命よりも大切な存在を理不尽に奪われる絶望を知っている。
彼のお陰でどうにか取り戻すことは出来たけれど、あんな思いは二度としたくない。
「そんなことで嫌いになったりしないわよ。そんなことよりも、私は貴方が泳げないと思っていたから――ずっと心配…で…不安で。……貴方にもしものことがあったら、私――は……ッ」
「……リア様。いいえ、リア」
ヴィクトリアが必死に感情を押さえていると、突然、ズィーガーがその場で跪いた。
「救助を待っている間――私はずっと、貴女のことだけを考えていました。このまま、もし思いを告げられないまま最期を迎えてしまったら後悔すると、それだけを考えて。――だから」
男らしいズィーガーの瞳が真っすぐにヴィクトリアを射抜く。叩き上げの騎士であるズィーガーは元々貴族らしくはなかったが、島で暮らすようになって彼はどんどん精悍さを増していった。すっかり見慣れた日焼けした姿も良く似合う。
そして、引き締まった逞しい肉体で恭しく捧げたのは――巨大な真珠。占い師が使う水晶玉のようなソレは、彼が討伐ついでに命懸けで持ち帰ってきたものだ。
「リア、どうか私と結婚してください。そして、本当の夫婦になりましょう」
「……はい…………!」
指輪じゃないそれはずっしりと、とんでもなく重かった。皇后として帝国で何事もなく暮らしていたら、あまりの重さに持てなかったかもしれない。
こんな重い物を持ち帰ろうとして、救助が遅れたらどうするのか。
言いたいことや不満はたくさんあるけれど――。夫から贈られるズシリと重いソレは番の願いを叶えるためだけに自ら竜鱗を焼き、200年以上もの間、白い結婚を貫いてきた夫からヴィクトリアへの愛情の証のように思われて。
夫からの重たいそれをヴィクトリアはしっかりと受け取った。
――絶対に手放すものかと覚悟を決めて、
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