もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆

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番外編 獣人学者は運命の番を許さない

4 プロポーズ

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 そんなクロワールを取り巻く状況が大きく変化したのはカリスの母親が亡くなった時のことだった。

 カリスの母親は新薬での治療とクロワールのサポートで病気が快方へと向かい、一人で買い物にも行けるくらい活動的になっていたのだが、馬車の事故に巻き込まれる形で突然命を落としてしまったのだ。

 これからという時だっただけに、カリスの落ち込みようは凄まじかった。クロワールはそんなカリスにそっと寄り添い、彼女のことを元気づけた。
 しかし――

「いつまでも落ち込んでいるわけにもいかないわね。クロワールさん、今まで本当にありがとう。私もこれからの生活を考えなくちゃね」

 実際にそうやってカリスが立ち直ると、何故かクロワールの方が逆に焦りを感じてしまった。

 この先、カリスが一人で宿屋を営むのは無理があるだろう。かといって、人を雇うほどの経済的な余裕があるわけでもない。
 カリスはまだ若く美しい。
 母親の看病に忙しく本人は気が付いていないが、それでもいいからと彼女を狙う人間は多かった。

 獣人であるクロワールはそういう不快な感情をニオイとして嗅ぎ分けることができる。だからこそ、下宿人として宿屋に居座って目を光らせていたのだ。

 研究職のためあまり腕に覚えはないが、獣人というだけで勝手に身を引いてくれる人間も多かったので、そこは獣人としてのイメージを最大限うまく利用した。

 けれど、宿屋を処分してクロワールの『下宿人』という立場すらもなくなれば、この先二人を繋ぐものは何一つ存在しなくなるのだ。

 母親が亡くなってしまった以上カリスは研究機関に用はないし、付き添いから解放されてこれまでのような時間的な制約もなくなる。これからはどんな仕事にでも就けるし、クロワールがいなくなれば若く美しいカリスはあっという間に彼女に目を付けた誰かに奪われてしまうだろう。
 それに気付いたクロワールは即座に行動に移した。

「カリス、ボクは君のことが大好きだ。ここで、君たちと暮らした日々はボクの宝物だ。今更この幸せを手放したくない。君のお母さんはいなくなってしまったが、どうか、これからも君と共に暮らす権利をボクに与えてほしい」




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