もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆

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番外編 獣人学者は運命の番を許さない

20 番の本(カリス視点)

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(これも、これも、これも……こっちも。ここにあるのは全部、獣人や運命の番に関することが書かれた書籍だわ)

 ざっと見ただけでも50冊は優にあるだろうか。ただでさえ、獣人について書かれた本は少ないというのに、よくぞここまで集めたものだと思う。

 カリスも猫獣人の好物を調べるために町の書店を巡ったことがあるからよく分かる。
 目的の本が見つからなかったのと本自体の値段の高さから、獣人を見つけて直接話を聞いた方が手っ取り早いと自らの考えを変えたくらいなのだ。

 そうやって獣人から直接得られる情報の中には有益なものもあったし、カリスのような普通の人間には無縁ではあるが、興味深い話もあった。
 獣人が持つ習性の話が大半だが、その中の一つに『運命の番』の話があった。

 熊獣人、狼獣人、馬獣人……その種族を問わず、獣人には必ず1人、運命の番という存在がいるらしい。
 魂の伴侶ともいえる運命の番と縁を結ぶことは、獣人にとってこの上ない祝福なのだとか。だから、一度出会ってしまえば運命の番以外を愛することができなくなるのだそうだ。

 初めてそれを聞いたときはなんてロマンチックなのかしらと思ったが、それが今や嫌な予感となってカリスに襲いかかってくる。

 ある日を境に思い悩むようになった夫。
 妻から隠すように大量に買い込まれた番の本。

 運命の番はこの広い世界のどこにいるか分からないため、実際に出会うことは稀だという。カリスが今まで話を聞いた獣人の中にも出会ったと言う人はいなかった。

 カリスは自分がクロワールの番なら、と思ったこともあるが、それはない。獣人から聞いたところによると、運命の番は圧倒的に同種族の場合が多いらしい。
 稀に、種族違いのこともあるらしいが……

 カリスは祈るような気持ちでパラパラと本をめくるが、そこに書かれている内容はこれまで獣人から聞いた話とさほど変わらない。彼らが言っていた『種族違い』も、別の種の獣人のことを指すらしい。ざっと見た中には人間が相手のケースは書かれていなかった。

(夫はもしや運命の番と出会ったのだろうか。今ではその人を愛しているのだろうか。だから、私には触れてこないのだろうか……)

 一週間ほど前から夫はカリスに触れてこなくなった。
 それまでは日課のように求められ、特に年末の長期休みに入ってからしばらくはカリスが困惑するほどだったのだが……それが、ピタリとやんだのだ。

 カリスは答えを探すように次から次へと本を手に取るものの、内容が頭にちっとも入ってこない。

 あれこれと悩んだ末、カリスは本を元の位置へと戻して、そのまま夫の部屋を後にした。




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