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番外編 獣人学者は運命の番を許さない
26 もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です(カリス視点)
しおりを挟む息苦しさの中でカリスは夫の夢を見た。
夫はカリスの手を握り、必死の形相で何かを叫んでいる。
(変ね……すごく苦しいわ。あの薬は痛みや苦しみを感じさせないのではなかったかしら。ううん、それよりも……)
取り乱す夫の姿を見てカリスは不思議に思う。自分がいなくなれば夫は運命の番と一緒になれるのに、どうして彼は泣いているのだろうか。
身体がつらくはあるけれど、魔法薬を飲んだからか心はひどく穏やかだった。これならば迷わず逝けそうだ。
それなのに、夫の泣き顔がカリスをこの場に引き留める。
愛する夫にはいつでも笑顔でいてほしいのに。
それを口に出そうとしたときに、泣いている夫の背後にあの女性の姿が見えた。さっきまで、カリスに向かって熱心に夫への愛を語っていたあの女性だ。
(ああ、なんだ。彼女も一緒だったのね)
それを知ってほんの少しだけガッカリした。夫の泣き顔に、一瞬でも何かを期待してしまった自分が恥ずかしい。
こうして落胆するということは、カリスはまだ夫を諦めきれていないのだろうか。何かを期待するだけ無駄なのに。
夫には彼女が……『運命の番』がいるのだから。
(それにしても不思議だわ。彼女、さっきまではあんなに堂々としていたのに……)
夫の番はプルプルと体を震わせて、彼女の愛らしい耳は怯えたように伏せられてしまっている。
カリスを見ている夫は、自分の後ろにいる運命の番に気が付いていないのだろうか。彼女の存在に気付いたら、夫はまたあの笑顔を浮かべるのだろうか。
ここ数年、ずっと何かを思い詰めていた愛しい夫。最期くらいは夫の笑顔が見たいけれど、自分ではない誰かを見て笑顔になる夫の姿はもう見たくない。
そう思った瞬間に何も見えなくなった。
ああ、なるほど。苦しまないとはこういうことか、とカリスは悟った。
魔法の力で飲んだ者の願いを叶え、苦しむことなく穏やかに逝けるという魔法薬。きっと、あの薬が願いを叶えてくれたのだろう。だからきっと、これはあの薬が見せてくれている夢なのだ。カリスが最期に夫に会いたいと願ったから、夢でそれを叶えてくれている。
だったらもう少し妻であるカリスに都合がいいような夢を見せてくれてもいいのにとは思うけれど、せっかく愛する夫に会えたのだから、心残りがないようにこれだけは伝えておかなくては。
段々と意識が遠くなっていく。急がないと間に合わない。
目はもう見えないけれど、手に感じる温もりに向かってカリスは話しかける。
「……もう……やめま……しょう……あなた……が、愛して……いる、のは…………その人……です……」
(ああ、言えた。これでいい。愛する夫の邪魔はしたくない。そして、恩のある彼には幸せになってほしいから――)
夫が何かを叫んでいるのは分かったけれど、聞きたくないと思ったら何も聞こえなくなった。なんて優しい薬だろう。
こんなことなら、もっと早く使えばよかったのだろうか。
ああ、だけど――
何より大切な『宝物』に会えたのだから、きっとこれでよかったのだ。
(ごめんなさい、あなたを産んであげられないのは心残りだけれど、お母さんもずっと一緒だから許してね……)
心が温かくなるのとは逆に身体はどんどん冷たくなっていく。必死になって握りしめてくる夫の手が熱いと感じるくらいだ。
カリスは自分を繋ぎとめようとする温かな夫の手からスルリと抜け出して――お腹を温めるように、そっと両腕で自分の宝物を抱きしめた。
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