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番外編 獣人学者は運命の番を許さない
37 運命の番からの拒絶(リスペット視点)
しおりを挟むリスペットは獣人国で高位貴族の娘として生まれた。
運命の番ではないが、同種族だった両親はとても仲が良く、また子沢山で、中でも末っ子のリスペットは家族全員から可愛がられて育った。
貴族ならば若くしての政略結婚は避けられないが、それでも両親は娘に結婚を急かすことなく、やりたいことを自由にやらせてくれた。そのおかげで植物が好きだったリスペットは幼い頃から庭師にくっついて自邸の広大な庭を歩き回り、彼らから草花についての知識をたくさん教えてもらうことができたし、獣人国ではほとんど需要のなかった植物研究の道を志すことができたのだ。
そうして気付けば、人間国との共同事業を立ち上げる際の、獣人国側の代表メンバーに選ばれるまでになっていた。
そして――
「皆様、初めまして。獣人国から研究員として派遣されてきました、猫獣人のリスペット・エスペランサと申し……ま……」
実際に人間国へと渡り、職場となる研究機関を訪れた際に、リスペットは運命の番と出会った。運命の番はクロワール・モラルズ。同じ猫獣人で、獣人国における薬草研究の第一人者だった。
獣人国はあまり植物の研究が進んでいないが、そんな中でも彼の功績は大きく、国外で能力を認められた彼は単身人間国へと渡っていた。リスペットも以前から彼の書いた本や論文を夢中になって読んでいたからその功績は知っているし、そうやって知識を増やすことで、ますます自身の研究にのめり込んだという経緯がある。
そんな憧れの人が自分の運命の番だったなんて……と感動すると同時に、納得もした。もしかしたら、自分が植物に異常なほどの興味を示したのも、彼との縁があったからなのではないか、そんな風に考えたのだ。
娘が運命の番と出会ったことを知ったら獣人国にいる両親はきっと喜んでくれるだろう。あまりに仲が良い両親は、周囲から『運命の番なんじゃないか』などと言われ、よく揶揄われていた。そのことで興味を持ったリスペットは、運命の番について詳しく調べたことがある。
それによると、獣人にとって運命の番とは女神様の祝福なのだそうだ。
確かに、仕事とはいえ獣人国から遥か遠く離れた人間国へとやってきて、こうして運命の番と出会えたのだから、これはもう女神様の導きがあったとしか思えない。きっと二人は出会うべくして出会ったのだ。
こうなったら、すぐにでも両親に知らせよう。貴族の自分と平民の彼では身分差の問題があるかもしれないが、そんなものは番ならばどうとでもなる。運命の番は何者にも優先されると以前に読んだ本には書いてあった。獣人国では王族ですら、身分などよりも運命の番との縁を優先させるくらいなのだ。
研究にのめり込むリスペットのために国中から珍しい植物を取り寄せたり、資金の援助をしたり、これまでも一族の力を使って様々な便宜を図ってくれていた両親は、娘が運命の番と出会ったことを知れば、これまで以上に協力をしてくれるに違いない。もしかしたら、番と力を合わせることで、祖国のために何か大きな貢献をすることだってできるかもしれない。
番と出会えた喜びに舞い上がってリスペットはそんなことを考えていたのだが、事態はそううまくはいかなかった。
「可哀想だが、クロワール君は既に結婚をしているんだ。彼には心から愛する奥さんがいる。君たち獣人の『運命の番』の話は聞いているが、それを理由に彼の家庭を壊すようなことは絶対にあってはならない。また、今回の共同事業の妨げにもなりかねないので、この件を獣人国にいるご家族に伝えることも避けてくれ。君も色々と思うところはあるだろうが、クロワール君とはあくまでも同じ職場で働く研究員という立場で接するように。……それができないのなら、彼の方がこの職場を去ることも辞さないそうだ」
「そんな!!」
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