【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆

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2 毒杯


 いつの間にか足音もなく忍び寄ってきた者から物々しい杯を受け取ると、クアリフィカはそれを一気に飲み干した。

 躊躇はしない。それが、本来為すべき役目を果たせなかった自分に与えられた役目だから。


「貴様!! 話の途中で何をのんきに飲み物など飲んでいる! マナー違反にも程があ……」


 王太子の叱責は最後まで言えなかった。



「うぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ………!」



 杯の中身を飲み干した途端。
 それまでの淑女の仮面をかなぐり捨てて、顔を歪めみっともなく地べたを転げまわり、悲鳴を上げながらもがき苦しむクアリフィカ。

 その姿を見て、王太子はそれ以上の言葉を続けられなかったのだ。


「…お……おい、クアリフィカ……大丈……」

「あぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……ああ……あ……うぐ……っ……………ぅあ……」


 それまで一方的に責め立てていた王太子すら困惑し、声をかけるがクアリフィカには届かない。


 臓腑を焼き切るような熱。いくら呼吸をしても静まらない息苦しさと、じわじわと体中を覆いつくす言いようのない不快感。それに加えて、いくつもの棘の塊が血管を押し広げながら全身を循環しているかのような壮絶な痛みがクアリフィカを襲うのだ。

 耐えきれぬ痛みに地面に倒れて転げまわるも、クアリフィカが身体を動かすたびに痛みは増して、血液と共に激痛が全身を巡っていく。そうして蓄積していく痛みに身体が悲鳴を上げるが、酷くなる一方の痛みに転げ回るのを止められない。完全に悪循環だ。


 クアリフィカの人生でここまで大声を上げたのは初めてだった。これに比べたら産声すらもささやき声だったに違いない。――それほどの声を上げたところで、クアリフィカの身体を苛む痛みが和らぐことはないのだが。

 身体よりも先にクアリフィカの意識が限界を迎えたのか。

 この世に存在する痛みの全てを一気に経験するような苦しみの果てに意識が遠のき、クラリと貧血のような、突然幕が下りるような感覚が訪れて――。


 クアリフィカ・アートルムの意識は完全に闇に閉ざされた。



 王太子の婚約者として未来を嘱望された公爵令嬢の壮絶な最期だった。




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