滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

２：カブキーフェスタへの道

１３７：龍脈の棟梁（シガミー）、ふかい霧と長い箱

「な、ソレさぁ。どことなく迅雷ジンライっぽいだろー？」
　聞こえてなくても、思おもったことを話はなしとく。
　黙だまってると、静けさに飲みこまれそうになるし。
　身振みぶり手振てぶりでなんとか……ならないか。

「にゃみゃー？」
　頭のでかリカルル・いリ・猫耳族コントゥルが、長ながい箱はこの柄つか（手で持つ所ところ）を持って考かんがえこんでる。
　その様さまは、すこし面白おもしろくて、つい吹きだしそうになった。
　こういうときは迅雷ジンライと念話はなしでもして、気をまぎらわせたいけど――いま迅雷アイツ、ウンともスンとも言わないからな。

「あれ、なんかおかしいぞ？」
　強い服ししがにやんの作つくり物ものの毛皮けがわが、姫さんリカルルの絢爛豪華ごうかけんらんなカラダを、キッチリと包みこんでいる・・・・・・・。
　頑丈がんじょうな毛皮けがわは相当そうとう、硬かたいはずで。

　けど、そのわりには胸元むなもとや尻しりまわりが、大おおきく膨ふくらんでる。
　身長しんちょうに合わせて伸び縮ちぢみするんだから、そういうもんか？
　迅雷ジンライが居りゃ、聞けるんだが。
　いや、居るけど――返事へんじが、返ってこない。

「（おーい、迅雷ジンライクーン？）」
　やっぱり、返事へんじはない。
　仕方しかたないから、懐ふところに入れておいた耳栓みみせんを、とりあえず片側かたがわだけつける。

　ふぉん♪
　目尻めじりのあたりが赤あかくひかって、ビードロ（小しょう）がでた。
　方角むきや時間ときや温度あたたかさくらいしか、映うつしだされないけど――なにも出ないより良い。

「にゃががにゃ！」
　猫耳頭ひめさんが、なんか言った。
　長ながい箱はこをじっと見つめ――たくさん付いてる摘つまみ……牡丹ぼたんのひとつを――
　横よこに付いてる〝赤あかいの〟を――ぽきゅりと押した。

　その動うごきには迷まよいがなくて、使つかい方かたを知ってるみたいに見えた。
　拾ひろった〝何なにか〟の、〝上級鑑定じょうきゅうかんてい結果けっか〟を兎とに角かく、見てもらいたかった、だけだったんだけど。

「それがなんだか、わかるの？」
　聞いてみる。聞こえてないだろうけど。

「みゃみゃみゃにゃみゃ、にゃーみゃにゃみゃー♪」
　コッチを向いて、何なんか返事へんじをした。
　もちろん、さっぱりわからん。
　けど最後さいごの方ほうはひょっとしたら――〝朝飯前あさめしまえですわぁ♪〟じゃないかな？

「ぴぴっぽぱっぽぺ、ぽっぺっぺぴっ♪」
　長ながい箱はこの正面しょうめん。
　ならんだ牡丹ぼたんを指先ゆびさきの出ない手で、器用きように押していく。

「ぷるるりゅるるれれ――♪」
　長ながい箱はこから音おとが出た。
　女神像めがみぞうに迅雷ジンライが、なんかしたときに聞いた音おとに、似てる気がする。
　壊こわれてたし、鑑定結果かんていけっかにも書かれてないから、〝宛鋳符悪党アーティファクト〟ではない。

「ぷるるりゅるるれれ――ぷるるりゅるるれれ――♪」
　音おとはいつまでも、鳴りつづく。

「えっと……このまま待ってれば、良いのかな？」
　突き刺さったままの錫杖ぼう。
　そのスグ横よこに置いた机つくえ。
　椅子いすに座すわる、ぼくたち。

　コトリ。
　机つくえの上うえに立てて置かれる、長ながい箱はこ。
　見つめ合うふたり。
「ぷるるりゅるるれれ――ぷるるりゅるるれれ――♪」
　音おとはいつまでも、鳴り響ひびき――箱はこに付いた光ひかるる石いしがチカチカと、点いたり消えたりを繰り返かえす。

　濃い霧きりの中なか。
「ぷるるりゅるるれれ――ぷるるりゅるるれれ――♪」
　白しろい虚空こくうに吸い込まれる――音おとと光ひかり。

　微動びどうだにしない猫耳頭ねこみみあたま。
　見つめ合うふたり。
　やべぇ、また面白おもしろくなってきた――――迅雷ジンライ、なんかしてるなら、ソレを切り上げてさっさとかえってこい。
　いや、猫耳頭リカルルの首くびのうしろに居るけどさ――なんか言え。

「みゃぁーー♪」
　と肩かたをすくめた猫耳頭ひめさんが、もう一回いっかい、〝赤あかい牡丹ぼたん〟を押そうとしたとき――――ヴュザザザザッというザラザラした風音かざおとが聞こえてきた。

「――――ぉしぃもしぃー？　――ぁーれぇー？」
　風音かざおとに混じって、さらに聞こえてきたのは――――若わかい女おんなの声こえ！

「おいっ、なんか言ってるぞ!?」
　ぼくには使つかい方かたどころか、コレがなんなのかさえわからない。
　机つくえによじ登のぼり、長ながい箱はこをつかんで――猫耳頭リカルルに突き出した。

　――ぼこんぼこん――ぼここぉん！
　長ながい箱はこを受けとった姫さんねこみみあたまが、箱はこを自分じぶんのでかい頭あたまに何度なんどもぶつけだした・・・・・・。
　ぶっぐふひひっ♪
　なにやってんだぁ!?
　だめだ、笑っちまった！

　ここに、レイダが居なくて良かった。
　姫ひめさんの、こんな面白おもしろい姿すがたをアイツが見たら――笑わらい死に、しかねない。

「ふみゃぁごぉぉぉ――!!」
　声こえを荒あらげた姫ひめさんが――赤あかくない牡丹ぼたんを何回なんかいか押したら――――

「――――ヴュザザッビュゥゥー――――ぁれぇもぉー、いらっしゃらないのぉー？」
　さっきの若わかい女おんなの声こえだ。
　この箱はこは、どこかの誰だれかと、話はなしが出来できるらしい。

　猫耳頭おもしろいやつが箱はこを持ったまま、横よこに飛びでた大おおきな牡丹ボタンを押しこんだ――――ザヴュザザザッ♪
「にゃにゃにゃみゃっ、みゃみゃにゃ、にゃぁぁん？」
　――――カチャリ！
　牡丹ぼたんを放はなして、机つくえに立てる。

「――――ザザヴユッワワッ――――あら、ネコチャンだ？　かわいい！　ネコチャァーン♪」
　また向こうの声こえが聞こえてきた。
　けど今度こんどの声こえはどこか、ふざけた口調くちょうで――

　なんか、この声こえ…………聞きおぼえが、ものすごく有るんだが。

「やいおまえ、五百乃大角いおのはらだな！　おれだ、おれ！　いきなり霧きりの中なかに閉じ込――――」
　箱はこに話はなしかけるおれの頭あたまを、ソッとつかむ猫耳頭おもしろいひめさん。

　もう一度いちど、横よこに飛び出た大おおきな牡丹ボタンを押しこんで――――ザヴュザザザッ♪
　ザラザラした音おとを出す箱はこを、こっちに向け――――こくり。

「もう一回いっかい、話はなせば良いんだな？　おい、ソコに居るのか、五百乃大角いおのはら!?　おれ……じゃなかった、ぼくだよ。シガミーだぁよぉーぅ？」

「――――ザザヴユッワワッ――――ぎゃははははっ、居た居た、本当ほんとうに居た！　ところでさー、シガミー。アンタまだそのニゲル語しゃべってんのぉー？」
　やい、飯めしの神かみ。
　その物言ものいいは、おれとニゲルに失礼しつれいだろうが。
　ニゲルのヤツは、ああ見えて中々大なかなかたいした、男おとこなんだぞ。

　ひとまず、この世界の神さんいおのはらと話はなしができるなら――助たすかったのかもしれない。