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アレクシス
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またお手紙が帰ってきた。
今度は自分の手で封を切った。
封筒と便箋は少し良いものになっていた。わざわざ用意してくれたのかもしれない。そう思うと嬉しかった。
「…あ」封を切ると、小さな紙の包みが目を引いた。
四葉のクローバーだ。
「見て、また四葉よ」
嬉しくてアンネに自慢した。
「代わり映えしないですね」とアンネは呆れたように鼻を鳴らした。
「良いのよ、宝石よりこっちの方が好きだもの」
「本当にテレーゼ様は無欲ですね。
普通なら身分の高い女性には、宝飾品やドレスを贈るのに…」
「私にはもったいないくらい、アクセサリーもドレスも沢山あるわ。クローバーはまだ三つ」
お母様が遺してくれたアクセサリーやドレスもあるし、お父様やヘルゲン様がご用意下さった品もある。
流行さえ気にしなければ、新しいものは必要無い。
「これはちゃんと残しておいてね」とクローバーをアンネに預けた。
ソファに腰掛けて心躍らせながら、折り畳まれた便箋を広げた。
手紙には《貴女の幸せを願ってクローバーを贈ります》と優しい言葉が添えられていた。
《育ちが悪いので、気の利いた一言も思いつきません。お許しを。》とあったが、その方が男らしくて良いと思う。
煌びやかに着飾った文章は物語の中でたくさんだ。
《燕の雛は無事巣立ちましたか?》と私が送った手紙の応えが綴られていた。
ちゃんとお手紙を読んで下さってるようだ。僅かな文章だけのお返事には、クルーガー様の不器用な優しさが滲んでいて、紙切れが暖かく感じられた。
私が好意を抱いているからなのだろうか?
あの日、怖がらずに、もっとお顔を拝見しておけば良かったと少しだけ後悔した。
お手紙を楽しんでいると、アンネが来客を知らせた。
「テレーゼ様、アレクシス公子様がお見えです」
「邪魔をするぞ、テレーゼ」
侍女の横を足早にすり抜けて、アレクお兄様が私に駆け寄った。
「久しぶりだな」と手を取ってはにかむお兄様は、兄弟の中でも二番目に偉い方だ。それでも末席の私を妹として扱ってくれる優しいお兄様だ。
「公務でコンラート叔父様のところにお使いに向かわれたのでは?」
「今し方戻った。父上の所に向かう前に、お前の顔を見ておこうと思って寄った」
歳の近い兄はそう言って少年のように笑った。
「ありがとうございます」と礼を述べて、ソファを勧めた。お疲れのことだろう。
「アンネ、お飲み物を用意して。何か甘い物もあるかしら?」
「ご用意致します」
アンネが部屋を出て行くと、アレクお兄様は机の上に目を落とした。
「…手紙か?」
「あ…」
「貧相な封筒だな。誰からだ?」とお兄様は手紙の出処を探った。
「クルーガー様です」と正直に答えた。
お兄様は驚いた様子で言葉を失った。
「あの男!テレーゼには不似合いだと釘を刺したのに、文など送って来たのか!」
急に怒り出したお兄様は乱暴に机の上の手紙を掴んだ。
手紙は悲しい音を立ててひしゃげた。
「お兄様!」
「あんな冴えない男、お前には釣り合わない!今回ばかりは父上の決定でも承服しかねる!こんなもの…」
「お兄様!返してください!それはテレーゼの大切なお手紙です!」手紙を破り捨てようとしたお兄様の腕に縋って止めた。手紙を取り返そうとする私に、お兄様は驚いたようだった。
「文のご交換をお願いしたのは私です!
クルーガー様はお忙しいのに応じてくださいました。そのお手紙は私の宝物です!」
形の変わってしまった封筒をお兄様から取り返し、シワを伸ばした。お手紙は歪んだが無事なようだ。
安堵した。
「…テレーゼ」
「お渡ししません!こればかりはいくらお兄様でもお譲りできません!私だって騎士の子です!」
手紙を守るように抱き締めた。
自分でもお兄様に反抗したことが信じられなかった。
それでもお手紙を捨てられるのだけは、何としても避けたかった。
「分かった…すまなかった、テレーゼ」
お兄様は謝罪を口にされたが、納得はされてない様子だった。残念そうに頭を振って、口を開いた。
「侯爵を継がれた今、父上の決定を覆すことは難しいものな…
それでも、父上に考え直して頂けないかお願いするつもりだ。諦めることは無い」
お兄様は私が妥協したのだと思っているようだった。
ヘルゲン様のお手紙以前ならそうだった。
シュミット様が背中を押してくださったからお手紙も書いた。
自分だけでは嘆くばかりだったけれども、今、私はこの文通を楽しんでいる。クローバーが届くのを待ちわびている。
「クルーガー様は良い方ですよ」と誰かの言葉を口にしていた。
恋と呼べるようなものでは無いが、それでも好意に変わったのは事実だ。
「物語のような騎士ではありませんが、お父様やヘルゲン様が認められた方ですもの。信じております。
それに、クルーガー様に足りないところは、私がお手伝い差し上げれば良いのです」
顔を上げて宣言する私に、お兄様はまた驚いたような複雑な表情を浮かべた。
「お前がそう言うなら…」とお兄様は渋々応じた。
「大切に扱うから、手紙を見せてもらえるか?」
お兄様は相変わらず複雑な表情で手紙を求めた。
文箱を取り出して、前のお手紙も合わせてお兄様にお渡しした。
✩.*˚
「ねえ、昨日どこ行ってたの?」
朝、顔を合わせたスーが開口一番にそう言った。
「昨日の夜、君のテントに行ったらいなかったでしょ?ねぇ、どこ行ってたの?」
「どこって…」
朝まで女の所にいたとは言いにくくて、口を噤んだ俺に、スーは拗ねたように口を尖らせた。
「精霊もクスクス笑って教えてくれないし…
ワルターが口聞いてくれないから、ヨナタンのテントに泊めて貰った」
「ヨナタンの?」何でヨナタンなんだよ!
「何も無かったか?」と確認したが、「何が?」と首を傾げてるところを見ると何も無かったようだ…
自分のことを棚に上げて、胸をなでおろした。
「どこ行ってたの?聞きたいことあったのに」
「聞きたいこと?」
「うん。ヨナタンにも聞いたけど、『明日エルマーに訊けよ』って。
自分は普通と少し違うからってさ」
「一体何だよ?」 やけに真剣じゃないか?
咥えようとした煙草を保留にして、スーの話を聞くことにした。
「で?何?」と話を促すと、スーは少し周りを気にするように視線を泳がせた。
珍しい、ちょっと周りを気にするようになったのか…
少し人として成長したように思えて意外だった。
女の子みたいだった顔も、いつの間にか少し男っぽい顔付きに変わっている。相変わらず抜けてる所もあるが、ほんの少しの間にスーも成長してた。
「場所変えるか?」と訊ねるとスーは頷いた。
テントの並びから少し離れた場所に移って煙草を咥えた。周りに人が居ないのを確認して、スーはやっと本題に入った。
「昨日さ…」とあったことを話し始めた。
「…そりゃ…災難だったな…」
知らない所でワルターも苦労してるようだ…
あいつ、俺と負けず劣らず不器用だからな…
シュミットがスーをフォローしてくれたようだが、男としての性をどうしたらいいのか分からなかったらしい。
「…そうだなぁ…」
ため息と一緒に煙を吐き出した。
まぁ、隔離された場所で父親以外と接点無しで暮らしてたんだもんな…分からんよな…
普通なら、何となく覚えていくもんだが、こいつの場合はそれがなかったんだろう。ちょっと可哀想だった。
「俺のも正直参考にならないと思うぜ」
「どうしてるの?」
「俺は別に特定の誰かって無いからさ。そういう時は金払って、春を買うんだ」
「…買う?」
「そうだよ。そういう商売してる女のところに行って、身体だけ借りるんだ。
そうやって処理してる」
別に珍しいことでもない。傭兵のいるところには必ず《素敵な恋人》がいる。
この二つは切って離せないもんだ。
慰め役が居なかったら野郎共の不満が爆発する。
「春売ってるからってバカにするなよ?
あいつらだって必死なんだ。その商売でしか生きられないんだよ。
俺たち傭兵と同じで、自分の身を削って生きてんだ。大して変わらねぇよ」
《素敵な恋人》は《慰安婦》として春を売るだけが仕事じゃない。
商人たちの輜重隊に混じって傭兵相手に商売をしてる。
金さえ払ったら大体のことはしてくれる。洗濯や針仕事、怪我の手当だって彼女らの仕事だ。
彼女らと交わるのにも決まり事がある。
女を独り占めしないこと、提示された金は約束通り払うこと、乱暴しないこと等、彼女らと付き合う上では大事な事だ。
ルールを守らないと、もう商売してくれないし、ルールを守らない奴は傭兵団から追い出される事もある。
彼女らの権利は、彼女らが身を置く傭兵団の団長の名前で守られていた。
「で?お前はどうしたいんだ?」
「分からない…ただ、胸の中がモヤモヤして、どうしたらいいのか分からないから…」
スーは俺の話を聞いて迷っていた。
「まぁ、行くなら付き合ってやるよ」と約束してやった。
よく分からないのに勝手に行って、半端なことになっても気の毒だ。
下手したら二度と女を抱きたく無くなるだろうし、変な方向に行ってしまっても困る…
男だって初めては大事だ。
「お前も男なんだな」と笑いながら煙草を咥えた。
見てないところで、こいつもちゃんと成長してるんだ。
そう思って嬉しさと寂しさが混ざり、複雑な心持ちになった。
そのうちコレも覚えるんだろうな、と思いながら煙草の煙を口に含んだ。
煙を味わって火を消すと、「飯食いに行こう」とスーを誘って、テントの並ぶ方に歩き出した。
✩.*˚
また苦手な人間が一人増えた…
「見た事ない顔だな、父上の麾下か?」
少年は父親のテントで俺の姿を見咎めて誰何した。
「ご無沙汰しております、アレクシス様。
《雷神の拳》団の連隊長、ワルター・クルーガーです」と名乗ると、アレクシス公子は驚いた様子で俺を眺めた。
以前と全く違う姿だから分からなくても無理は無い。
髪は金から銀に、瞳は灰色から藍に、傭兵の身なりは貴族のような正装に変わってるのだ。分かるわけない。
「父上に用があったのだ、お前には用はない!」
俺に気づいたアレクシス公子は青い目で瞳で俺を睨んで吠えた。キンキンとした子供の声が耳に響く。
「おや、アレクシス様ではございませんか?」とシュミットは少年を出迎え、膝を折って頭を垂れると敬意を示した。
「シュミット!何でこの男がここに居る!この男をつまみ出せ!」
「申し訳ありません。侯爵様のご命令ですので、公子様のご命令でもお応えすることはできません」
シュミットはやんわりと公子の要求を退けた。
「ヘルゲン子爵閣下の名代として、私が彼の教育係を務めております」
「なんの教育だ?」
「《騎士》に必要な教育です」とシュミットは答えた。
パウル様はシュミットを『騎士以上に騎士らしい』と評価していた。
恐らく騎士にできることならしてやりたいのだろう。
それでもシュミットが騎士と名乗るにはハードルが高すぎた。
フィーアで騎士になるには、騎士として生まれるか、騎士の称号を持つ家に養子に入るか、《祝福》を認められて《英雄》と称され新たに騎士となる他ない。彼はどの条件も満たしてはいなかった。
それでも特別指南役として侯爵から直々に指名されるのだから凄い奴だ。
『《騎士》には適わずも《剣》になる事はできます』
シュミットはそう言って自分の運命を受け入れていた。
能力だけ見れば、騎士として実力も教養もあるだけに惜しい男だ。
シュミットの答えに若い貴公子は怖い顔で俺を睨んだ。
顔が整っているだけに、眉を寄せて睨む顔はもったいない。それにしても随分嫌われたもんだ…
「…まぁ、良い…それより父上はどちらに?」
「お休みになられています」
「こんな時間に?」昼になろうという時間なのに寝てるいる父親に息子は眉をしかめた。
「溜まっていたお手紙やら公務でお忙しくされておりましたので、明け方にお休みになられました」
「そうか…コンラート叔父様から文を預かってきた。
あと、母上とテレーゼの文も預かっている。
後でお渡ししてくれ」そう言ってアレクシス様は皮で出来た文入れを出してシュミットに手渡した。
「承りました」シュミットは慣れた様子で文入れを受け取ると、柔和な笑顔で答えた。
「バルツァーと少し散歩してくる」と言ってテントを出ていこうとしたアレクシス様と目が合った。
「文を送るならもっと勉強するのだな」と捨て台詞を残して憤然と立ち去る少年の背中を、唖然としながら見送った。
は?手紙?
頭が真っ白になって、血の気が引いた…
み、見られた?!あの手紙を?!
「おやおや、一緒にお手紙の書き方もお勉強した方が良いみたいですね」
パニックになって固まった俺の肩に手を添えて、シュミットは笑いながらそう告げた。
全然笑えねぇよ!
そんな言葉すら出せずに、テントの出入り口を睨んで顔を顰めた。
✩.*˚
「お手紙は?」
外に待たせていた若い従者が私に訊ねた。
クラウス・バルツァーは乳母の子で乳兄弟だ。身分こそ違うが、何でも気軽に話せる大切な親友でもあった。
「シュミットに預けた」
「大きな声を出されたので驚きましたよ。
何かあったのですか?」
「何がって?!」親友の問いかけについ声を荒らげてしまった。巻き髪の赤毛の親友は青い瞳に驚きの表情を浮かべていた。
「クルーガーめ!父上に上手く取り入ってこんなところにまで!
しかも何だ!あの姿は!まるで…」口からこぼしそうになった言葉を慌てて飲み込んだ。
前に見た時は安っぽい、どこにでもいるような中年の男だったが、今はまるで別人だ。
赤っぽい金髪は雪のような白銀の輝きを含み、瞳は深い高貴な藍色に変わっていた。
無精髭を整え、身なりを新たにした姿は、貴族の自分と並んでも遜色ない出で立ちだった。
子供の自分が劣って見えた…
その劣等感から、つい憎まれ口を叩いてしまった…
「これでは子供みたいだ…」と自分を恥じた。
「何をおっしゃいます?我々はまだ子供ですよ」
恥じ入って俯く私に、クラウスが笑いながら答えた。
この赤毛の親友は、私の激情を上手くコントロールしてくれていた。隣にいるだけで私の未熟でかけている部分を補ってくれていた。
「アレクシス様、気分転換に少しお散歩しましょう。
戦さえ終われば、この田舎の風景は癒されますよ」と彼は私を散歩に誘った。
宿営地の周りは緑が多く、近くに川も流れていた。
ブルーフォレストの麓の風景は、田舎としか形容できないような場所だが、乗馬をして楽しむなら最高の環境だ。
クラウスが用意した馬に跨り、山裾を流れる川沿いを散策した。
つい最近まで戦場だったとは思えない。長閑な風景に癒され、気の向くままに馬の脚を進めた。
川辺から昇る、湿った風が心地よい。
新緑の香りを含んだ空気は、甘い花の香りも含んでいた。
「この土地もフィーア王国の一部になったのですね…」とクラウスが感慨深そうに呟いた。
「このままではいられないでしょうね」とクラウスは残念そうにため息を吐いた。
フィーア王国とオークランド王国の関係は最悪なものだ。幾度となく戦争をしている。
ブルーフォレストはオークランド側に付いていたウィンザー公国領として、戦火を免れていた。
そのウィンザー公国は滅び、この土地はフィーアの南部侯の直轄地となる。オークランドの攻撃の対象となったのだ。
この土地にも入植者を募る予定だ。
人の手が加われば、この土地は様相を変えるだろう…
それは子供の私たちの目にも酷く惜しく映った。
川沿いに馬を進めていると、馬の世話をする傭兵たちの姿があった。
傭兵にはあまり良い印象がない。
彼らはてんでばらばらな姿で、仲間の印なのか腕に揃いの赤い布を巻いていた。
彼らは一瞬視線をこちらに向けたが、関わり合いになりたくないのか、我々を無視した。
一人の少年を除いて…
「わあ!凄いね!綺麗な馬だ!」
明るい、同輩の子供の歓声に驚いた。
声のした方を見て、紫水晶のような煌めく瞳と目が合った。
少年?少女?判断に迷うほど綺麗な顔をしている。服装が男のものだから少年だろうか?
馬は指示を出していないのに、勝手に子供に向かって歩き出した。伸ばされた手に挨拶するように顔を擦り寄せ、少年に甘えた。
「コラ!スー!騎士に絡むな!」
背の高い姿勢の悪い傭兵が、スーと呼ばれた少年の襟首を掴んで引き寄せた。
馬が不満そうに嘶いた。
「この子から来たんだよ」と少年も口を尖らせて不満そうだ。
別の背の低い傭兵が進み出て詫びた。
「子供が失礼しました」
「あ、あぁ…」美しい少年に目を奪われて、言葉を忘れて頷くことしか出来なかった。
貧相な身なりなのに、異彩を放つほどの美しさだ。
水面の反射が漆黒の髪に複雑な光彩を宿し、宝石のような紫の瞳は長いまつ毛に縁取られ輝いていた。
「またね」と馬に手を振って仲間に連れられて戻って行く姿を見送った。
「アレクシス様、大丈夫ですか?」とクラウスが馬を寄せた。
「あぁ、大丈夫…だ」
「どうしたんです?運命の相手にでも出会ったような顔をしてますよ」とクラウスは冗談を言ったが、その言葉は今の私にピッタリだった。
「…今の少年…見たか?」
「いえ、じっくりとは…」
「妖精みたいに綺麗だった…」と言葉が漏れた。
別に男が好きだとかそういうことは無い。許嫁だっている。それでもこの感情は何なのだろう?
美しいものと出会った時に感じる高揚感が胸の中で高鳴った。
「連れてきましょうか?」とクラウスが気を利かせた。私の返事を待つ前に、馬の腹を蹴って傭兵たちに馬を寄せた。
✩.*˚
「失礼。私のご主人様が、そちらの少年と少しお話をしたいそうです。少しお付き合いいただけないでしょうか?」
赤毛の幼い騎士が馬の背から声をかけてきた。
「僕?」と確認すると、彼はにこやかに頷いた。
「スーになんの用だよ?」とエルマーが僕を隠すように前に進み出た。彼は相変わらず過保護だ。
「暇をしてるのでお話し相手が欲しいだけです。
これで如何でしょう?」と少年は何かを出して渡そうとした。
エルマーは彼を睨んでその条件を突っぱねた。
「こいつは売りもんじゃねえよ。金で解決しようなんて騎士様のくせにいやらしいんじゃねぇか?」
「おや?これは失礼しました」
「こいつは俺の弟だ。金で解決しようとする奴には渡さねぇよ」
自分よりずっと年下の少年に凄むエルマーは大人気ない。それでも少年は笑顔を崩さずに「それではやり方を変えましょう」と宣言した。
「ヴェルフェル侯パウル様の第二公子アレクシス様がお話し相手として御所望です。
傭兵のみなさんでも意味はお分かりでしょう?」
エルマーもソーリューも言葉を失った。
「お預かりしても?」と少年は追い打ちをかけた。
「ちゃんと帰すんだろうな?」
「えぇ、お話するだけですから」と少年はエルマー相手に涼しい顔で答えた。
彼は馬の背から降りると、僕に「乗ってください」と馬を譲ってくれた。
「良いの?」馬に乗れるとは思って無かったから嬉しくて声を上げた。
「大人しい馬ですから大丈夫ですよ」と僕を馬の背に乗せて、少年は手網を引いた。
馬の歩く振動がリズミカルに身体に伝わる。
こんな感じなんだ…
「馬に乗るのは初めてですか?」と赤毛の少年が僕を見上げて訊ねた。
「うん。気持ちいいね」と答えると彼は嬉しそうに笑顔を見せた。
「申し遅れました。私は公子様の従者でクラウス・バルツァーと申します」
「僕はスペースだよ。みんなスーとか《妖精》て呼ぶ」
「なるほど、確かに《妖精》みたいだ」と彼は笑った。
クラウスは馬を引いて主人の元に戻ると優雅に会釈した。
「お待たせ致しました、アレクシス様」
「ありがとう、クラウス」
目の前の少年は僕と大して変わらない背格好だ。
パウル様が僕と同じくらいの子供がいると言っていたのを思い出した。
「君がアレク?」と訊ねると二人とも驚いた顔をした。少し馴れ馴れしすぎたかな?
「パウル様から聞いたよ」と言葉を付け足した。
「父上から?」
「うん。同じくらいの息子がいるって言ってたから、君がアレクだと思った」
「…そ、そうか」
「僕もアレクって呼んでいい?」
「構わない。君は?」
「スーだよ。《雷神の拳》の傭兵。《黒い妖精》って二つ名を最近貰ったばかりだ」
「その歳で二つ名?」アレクは驚いて問い返した。馬の手網を握っていたクラウスも驚いたような顔で僕を見上げた。
僕、君たちが思ってるよりずっと歳上なんだけどな…
「変かな?」と首を傾げて笑うとアレクは恥ずかしそうに視線を泳がせた。
「いや…そんなことは…」
「君の事も教えてよ」と恥ずかしがっている少年に訊ねた。
僕を呼んだのは彼の方なのに、口数がやけに少ない。もしかして女の子だと思われてるのかな?
そうだとしたらガッカリさせたかな?
「もしかして、僕のこと女の子だと思った?僕は男だよ」
「分かってる。でも…君は…とても綺麗だから…」
「そうかな?結構汚れてるよ」と正直に答えた。傍らでクラウスがクスクス笑っている。
「笑うなクラウス!」
「…しつっ…失礼…くくっ」何がツボにハマったのか分からないが、クラウスは顔を覆って必死に笑いをこらえている。
「あのアレクシス様が…」と肩を震わせて笑っている。
彼らは主従だけどとても仲が良さそうだ。
僕もこういう友達欲しかったなぁ…
そんなふうに思いながら二人を見て笑顔が漏れた。
アレクは咳払いをして僕の隣に馬を寄せた。
馬を手足のように扱う姿は格好いい。アレクはオシャレな佇まいで整った顔をしてる。目元はパウル様にそっくりだ。
「彼らの見えるところなら一緒に散歩しても構わないだろう?」と僕を散歩に誘った。
「うん。でも僕馬に乗ったの初めてだから君たちみたいに上手に乗れないよ」
「そうか。でもクラウスが手網を持ってるから大丈夫だ」アレクはそう言って僕の馬をクラウスに任せた。
「馬は好きなんだろ?」とアレクは僕に確認した。
「うん、好きだよ。君のおかげて乗れた。ありがとう」
「良かったですね」とクラウスが笑った。
アレクの顔がまた少し赤くなっていた。
「何で傭兵なんかしてるんだ?」とアレクは僕に質問した。そう聞かれると曖昧な答えしか出てこない。
「…何となく?」
「何となくって…」アレクは僕の答えに呆れたようだった。
でも、本当にたまたま出会ったんだから、あながち間違いでもない。
「ワルターが拾ってくれて、仲間にしたくれた。
僕は彼らの事が気に入ってる」
「君みたいな子供を戦わせるなんて…
あの男は何を考えてるんだ!」
「ワルターのこと知ってるの?」
「…異母妹の…婚約者だ」とアレクは苦々しく口にした。そういえばそうだった。
「嫌なの?」
「祝福はできない」
「そうなの?だったらやめたらいいよ。
ワルターも乗り気じゃないみたいだし」と彼に教えてあげた。
「ワルターは良い人だけど不器用なんだよ。
意地っ張りだし、頑固だし、いつも我慢してばっかりだ」
「それのどこが良い人なんだ?」とアレクが眉をひそめた。
確かに…今の話じゃ良いとこなしだ…
僕が言葉を続ける前に、クラウスが「アレクシス様も似たようなもんでしょう?」と笑った。
「どこが!」
「意地っ張りで、頑固で、自分の気持ちに正直じゃないところがですよ」
「クラウス!」
「嘘は申し上げておりませんよ」とクラウスは朗らかに笑った。
彼は僕を見上げて、ワルターがどんな人かを言い当てた。
「クルーガー様は、きっと誠実で優しい方でしょうね。自分のためより、誰かのために頑張りすぎてしまう。
少し悪ぶっていて、思ってもない憎まれ口を叩いてしまう。
そんな人ではありませんか?」
ほぼ合ってる。
「君はワルターと話したことあるの?」
「いいえ。そんな感じがしただけですよ」とクラウスはアレクに「ね?」と微笑みかけた。
アレクは恥ずかしそうにクラウスから視線を逸らしていた。それを見て、クラウスが言っている人物像が、アレクの事だと気付いた。
「じゃあ僕たちは仲良くなれそうだ」
「そうですね」僕の言葉にクラウスが同意した。
「アレク」と友達の名前を呼んだ。
「馬に乗せてくれたお礼に、面白い散歩をさせてあげるよ」
そう言って馬を降りると、自分と彼らに《水乙女の靴》の魔法をかけた。
「友達だから特別だよ」と笑って、見本にと、川の水面に足を乗せた。二人とも僕が水面に沈まないので驚いていた。
「ほ、本当に…大丈夫?」
「大丈夫だよ。ほら」とアレクの手を取って、水面の上に乗せた。
彼の靴は濡れなかった。
「スー…君は本当に《妖精》なのか?」
アレクの問いに、僕は「二つ名だよ」と笑った。
「見て、大きな魚がいるよ」
「…本当だ」
「楽しい?」と訊ねるとアレクは興奮した様子で頬を上気させた。
「凄い、こんなの初めてだ!」
「クラウスもおいでよ」と誘ったが、彼はやんわりと断った。
「私がそっちに行ったら誰が馬を見るんですか?」
それもそうだ。
アレクの手を引いて水面を歩いた。
「スー」アレクが僕を呼んだ。
「何?」
「ありがとう」
「馬に乗せてもらったお礼になったかな?」
「それ以上だ」とアレクは笑顔で僕の手を強く握った。強がっていた貴公子は年相応の少年になっていた。
僕らは良い友達になれた。
✩.*˚
「エルマー!アレクとクラウスと友達になったよ!」とスーは嬉しそうに帰ってきた。
連れていかれた時はどうなることかと思ったが、本当に少し話をして戻ってきたのでホッとした。
「じゃあまた」と少年らはスーを送って、別れを告げると去って行った。
「お前、本当に怖いもの知らずだな…」と半ば呆れながらそう言った。
「何で?」
「相手は公子様なんだぜ、その辺のガキとは違うんだ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「水の上の散歩楽しんでたよ」
「バカ!何かおかしいと思ったんだ!」手を繋いで浅い所を歩いてるのかと思ったが違ったらしい。肝が冷えた。
「あれ少しやってみたいにけどな」とソーリューは呑気なもんだ。
「ソーリューもやってみる?」
「今度な」と素っ気なく答え、ソーリューはスーに「何の話だった?」と訊ねていた。
「さあ?なんだっけ?」
「お前なぁ…」
「だって本当に大した話じゃなかったもん。
何で傭兵してる?とか、ワルターの事とか少し訊かれたくらいだよ」
「ワルターの?」
「うん。妹の婚約者だからって。
何であんなに姿が変わったのかも訊かれたから答えた」
結構大事な話してると思うが…
「まぁ、いいや…」スーの性格じゃそんな事は些事なのだろう…
「そうだ」とスーが小さな袋を取り出した。
「仕事邪魔しちゃったから取っといてって」と俺に差し出した。受け取って袋を逆さまにすると小金貨が一枚手のひらに転がった。
「…マジで?」
「さすが大貴族、羽振りがいいな」
「これってすごいの?」と価値が分からないガキが首を傾げた。
「普段使ってる小銅貨あるだろ?あれが12枚で大銅貨、大銅貨12枚で小銀貨、小銀貨12枚で大銀貨、大銀貨12枚で小金貨だ。分かったか?」
「これで銅貨いっぱいってこと?」
間違ってないけど発想が致命的にガキ…
ヨナタンが聞いたら頭を抱えそうだ。
「とりあえずくれたってんなら有難く貰うがよ、額が額だからな…ワルターに報告した方が良さそうだな…」
「パンいくつ買える?」とスーは呑気なことを言っていた。まるで子供だ。
「パンどころか、馬だって買えるよ」
「え?!凄いね!」
「だから凄いんだって…」スーの反応に苦笑いした。
それにしても、こいつの人たらしっぷりはどうなのか?
次から次にこいつの魅力に人が集まってくる。
味方ながら良いが、悪いものが集まらないように気をつけねぇとな…
スーの頭を乱暴に撫でて、「帰るか」と馬の手網をとった。
太陽はもう中天を過ぎていた。
今度は自分の手で封を切った。
封筒と便箋は少し良いものになっていた。わざわざ用意してくれたのかもしれない。そう思うと嬉しかった。
「…あ」封を切ると、小さな紙の包みが目を引いた。
四葉のクローバーだ。
「見て、また四葉よ」
嬉しくてアンネに自慢した。
「代わり映えしないですね」とアンネは呆れたように鼻を鳴らした。
「良いのよ、宝石よりこっちの方が好きだもの」
「本当にテレーゼ様は無欲ですね。
普通なら身分の高い女性には、宝飾品やドレスを贈るのに…」
「私にはもったいないくらい、アクセサリーもドレスも沢山あるわ。クローバーはまだ三つ」
お母様が遺してくれたアクセサリーやドレスもあるし、お父様やヘルゲン様がご用意下さった品もある。
流行さえ気にしなければ、新しいものは必要無い。
「これはちゃんと残しておいてね」とクローバーをアンネに預けた。
ソファに腰掛けて心躍らせながら、折り畳まれた便箋を広げた。
手紙には《貴女の幸せを願ってクローバーを贈ります》と優しい言葉が添えられていた。
《育ちが悪いので、気の利いた一言も思いつきません。お許しを。》とあったが、その方が男らしくて良いと思う。
煌びやかに着飾った文章は物語の中でたくさんだ。
《燕の雛は無事巣立ちましたか?》と私が送った手紙の応えが綴られていた。
ちゃんとお手紙を読んで下さってるようだ。僅かな文章だけのお返事には、クルーガー様の不器用な優しさが滲んでいて、紙切れが暖かく感じられた。
私が好意を抱いているからなのだろうか?
あの日、怖がらずに、もっとお顔を拝見しておけば良かったと少しだけ後悔した。
お手紙を楽しんでいると、アンネが来客を知らせた。
「テレーゼ様、アレクシス公子様がお見えです」
「邪魔をするぞ、テレーゼ」
侍女の横を足早にすり抜けて、アレクお兄様が私に駆け寄った。
「久しぶりだな」と手を取ってはにかむお兄様は、兄弟の中でも二番目に偉い方だ。それでも末席の私を妹として扱ってくれる優しいお兄様だ。
「公務でコンラート叔父様のところにお使いに向かわれたのでは?」
「今し方戻った。父上の所に向かう前に、お前の顔を見ておこうと思って寄った」
歳の近い兄はそう言って少年のように笑った。
「ありがとうございます」と礼を述べて、ソファを勧めた。お疲れのことだろう。
「アンネ、お飲み物を用意して。何か甘い物もあるかしら?」
「ご用意致します」
アンネが部屋を出て行くと、アレクお兄様は机の上に目を落とした。
「…手紙か?」
「あ…」
「貧相な封筒だな。誰からだ?」とお兄様は手紙の出処を探った。
「クルーガー様です」と正直に答えた。
お兄様は驚いた様子で言葉を失った。
「あの男!テレーゼには不似合いだと釘を刺したのに、文など送って来たのか!」
急に怒り出したお兄様は乱暴に机の上の手紙を掴んだ。
手紙は悲しい音を立ててひしゃげた。
「お兄様!」
「あんな冴えない男、お前には釣り合わない!今回ばかりは父上の決定でも承服しかねる!こんなもの…」
「お兄様!返してください!それはテレーゼの大切なお手紙です!」手紙を破り捨てようとしたお兄様の腕に縋って止めた。手紙を取り返そうとする私に、お兄様は驚いたようだった。
「文のご交換をお願いしたのは私です!
クルーガー様はお忙しいのに応じてくださいました。そのお手紙は私の宝物です!」
形の変わってしまった封筒をお兄様から取り返し、シワを伸ばした。お手紙は歪んだが無事なようだ。
安堵した。
「…テレーゼ」
「お渡ししません!こればかりはいくらお兄様でもお譲りできません!私だって騎士の子です!」
手紙を守るように抱き締めた。
自分でもお兄様に反抗したことが信じられなかった。
それでもお手紙を捨てられるのだけは、何としても避けたかった。
「分かった…すまなかった、テレーゼ」
お兄様は謝罪を口にされたが、納得はされてない様子だった。残念そうに頭を振って、口を開いた。
「侯爵を継がれた今、父上の決定を覆すことは難しいものな…
それでも、父上に考え直して頂けないかお願いするつもりだ。諦めることは無い」
お兄様は私が妥協したのだと思っているようだった。
ヘルゲン様のお手紙以前ならそうだった。
シュミット様が背中を押してくださったからお手紙も書いた。
自分だけでは嘆くばかりだったけれども、今、私はこの文通を楽しんでいる。クローバーが届くのを待ちわびている。
「クルーガー様は良い方ですよ」と誰かの言葉を口にしていた。
恋と呼べるようなものでは無いが、それでも好意に変わったのは事実だ。
「物語のような騎士ではありませんが、お父様やヘルゲン様が認められた方ですもの。信じております。
それに、クルーガー様に足りないところは、私がお手伝い差し上げれば良いのです」
顔を上げて宣言する私に、お兄様はまた驚いたような複雑な表情を浮かべた。
「お前がそう言うなら…」とお兄様は渋々応じた。
「大切に扱うから、手紙を見せてもらえるか?」
お兄様は相変わらず複雑な表情で手紙を求めた。
文箱を取り出して、前のお手紙も合わせてお兄様にお渡しした。
✩.*˚
「ねえ、昨日どこ行ってたの?」
朝、顔を合わせたスーが開口一番にそう言った。
「昨日の夜、君のテントに行ったらいなかったでしょ?ねぇ、どこ行ってたの?」
「どこって…」
朝まで女の所にいたとは言いにくくて、口を噤んだ俺に、スーは拗ねたように口を尖らせた。
「精霊もクスクス笑って教えてくれないし…
ワルターが口聞いてくれないから、ヨナタンのテントに泊めて貰った」
「ヨナタンの?」何でヨナタンなんだよ!
「何も無かったか?」と確認したが、「何が?」と首を傾げてるところを見ると何も無かったようだ…
自分のことを棚に上げて、胸をなでおろした。
「どこ行ってたの?聞きたいことあったのに」
「聞きたいこと?」
「うん。ヨナタンにも聞いたけど、『明日エルマーに訊けよ』って。
自分は普通と少し違うからってさ」
「一体何だよ?」 やけに真剣じゃないか?
咥えようとした煙草を保留にして、スーの話を聞くことにした。
「で?何?」と話を促すと、スーは少し周りを気にするように視線を泳がせた。
珍しい、ちょっと周りを気にするようになったのか…
少し人として成長したように思えて意外だった。
女の子みたいだった顔も、いつの間にか少し男っぽい顔付きに変わっている。相変わらず抜けてる所もあるが、ほんの少しの間にスーも成長してた。
「場所変えるか?」と訊ねるとスーは頷いた。
テントの並びから少し離れた場所に移って煙草を咥えた。周りに人が居ないのを確認して、スーはやっと本題に入った。
「昨日さ…」とあったことを話し始めた。
「…そりゃ…災難だったな…」
知らない所でワルターも苦労してるようだ…
あいつ、俺と負けず劣らず不器用だからな…
シュミットがスーをフォローしてくれたようだが、男としての性をどうしたらいいのか分からなかったらしい。
「…そうだなぁ…」
ため息と一緒に煙を吐き出した。
まぁ、隔離された場所で父親以外と接点無しで暮らしてたんだもんな…分からんよな…
普通なら、何となく覚えていくもんだが、こいつの場合はそれがなかったんだろう。ちょっと可哀想だった。
「俺のも正直参考にならないと思うぜ」
「どうしてるの?」
「俺は別に特定の誰かって無いからさ。そういう時は金払って、春を買うんだ」
「…買う?」
「そうだよ。そういう商売してる女のところに行って、身体だけ借りるんだ。
そうやって処理してる」
別に珍しいことでもない。傭兵のいるところには必ず《素敵な恋人》がいる。
この二つは切って離せないもんだ。
慰め役が居なかったら野郎共の不満が爆発する。
「春売ってるからってバカにするなよ?
あいつらだって必死なんだ。その商売でしか生きられないんだよ。
俺たち傭兵と同じで、自分の身を削って生きてんだ。大して変わらねぇよ」
《素敵な恋人》は《慰安婦》として春を売るだけが仕事じゃない。
商人たちの輜重隊に混じって傭兵相手に商売をしてる。
金さえ払ったら大体のことはしてくれる。洗濯や針仕事、怪我の手当だって彼女らの仕事だ。
彼女らと交わるのにも決まり事がある。
女を独り占めしないこと、提示された金は約束通り払うこと、乱暴しないこと等、彼女らと付き合う上では大事な事だ。
ルールを守らないと、もう商売してくれないし、ルールを守らない奴は傭兵団から追い出される事もある。
彼女らの権利は、彼女らが身を置く傭兵団の団長の名前で守られていた。
「で?お前はどうしたいんだ?」
「分からない…ただ、胸の中がモヤモヤして、どうしたらいいのか分からないから…」
スーは俺の話を聞いて迷っていた。
「まぁ、行くなら付き合ってやるよ」と約束してやった。
よく分からないのに勝手に行って、半端なことになっても気の毒だ。
下手したら二度と女を抱きたく無くなるだろうし、変な方向に行ってしまっても困る…
男だって初めては大事だ。
「お前も男なんだな」と笑いながら煙草を咥えた。
見てないところで、こいつもちゃんと成長してるんだ。
そう思って嬉しさと寂しさが混ざり、複雑な心持ちになった。
そのうちコレも覚えるんだろうな、と思いながら煙草の煙を口に含んだ。
煙を味わって火を消すと、「飯食いに行こう」とスーを誘って、テントの並ぶ方に歩き出した。
✩.*˚
また苦手な人間が一人増えた…
「見た事ない顔だな、父上の麾下か?」
少年は父親のテントで俺の姿を見咎めて誰何した。
「ご無沙汰しております、アレクシス様。
《雷神の拳》団の連隊長、ワルター・クルーガーです」と名乗ると、アレクシス公子は驚いた様子で俺を眺めた。
以前と全く違う姿だから分からなくても無理は無い。
髪は金から銀に、瞳は灰色から藍に、傭兵の身なりは貴族のような正装に変わってるのだ。分かるわけない。
「父上に用があったのだ、お前には用はない!」
俺に気づいたアレクシス公子は青い目で瞳で俺を睨んで吠えた。キンキンとした子供の声が耳に響く。
「おや、アレクシス様ではございませんか?」とシュミットは少年を出迎え、膝を折って頭を垂れると敬意を示した。
「シュミット!何でこの男がここに居る!この男をつまみ出せ!」
「申し訳ありません。侯爵様のご命令ですので、公子様のご命令でもお応えすることはできません」
シュミットはやんわりと公子の要求を退けた。
「ヘルゲン子爵閣下の名代として、私が彼の教育係を務めております」
「なんの教育だ?」
「《騎士》に必要な教育です」とシュミットは答えた。
パウル様はシュミットを『騎士以上に騎士らしい』と評価していた。
恐らく騎士にできることならしてやりたいのだろう。
それでもシュミットが騎士と名乗るにはハードルが高すぎた。
フィーアで騎士になるには、騎士として生まれるか、騎士の称号を持つ家に養子に入るか、《祝福》を認められて《英雄》と称され新たに騎士となる他ない。彼はどの条件も満たしてはいなかった。
それでも特別指南役として侯爵から直々に指名されるのだから凄い奴だ。
『《騎士》には適わずも《剣》になる事はできます』
シュミットはそう言って自分の運命を受け入れていた。
能力だけ見れば、騎士として実力も教養もあるだけに惜しい男だ。
シュミットの答えに若い貴公子は怖い顔で俺を睨んだ。
顔が整っているだけに、眉を寄せて睨む顔はもったいない。それにしても随分嫌われたもんだ…
「…まぁ、良い…それより父上はどちらに?」
「お休みになられています」
「こんな時間に?」昼になろうという時間なのに寝てるいる父親に息子は眉をしかめた。
「溜まっていたお手紙やら公務でお忙しくされておりましたので、明け方にお休みになられました」
「そうか…コンラート叔父様から文を預かってきた。
あと、母上とテレーゼの文も預かっている。
後でお渡ししてくれ」そう言ってアレクシス様は皮で出来た文入れを出してシュミットに手渡した。
「承りました」シュミットは慣れた様子で文入れを受け取ると、柔和な笑顔で答えた。
「バルツァーと少し散歩してくる」と言ってテントを出ていこうとしたアレクシス様と目が合った。
「文を送るならもっと勉強するのだな」と捨て台詞を残して憤然と立ち去る少年の背中を、唖然としながら見送った。
は?手紙?
頭が真っ白になって、血の気が引いた…
み、見られた?!あの手紙を?!
「おやおや、一緒にお手紙の書き方もお勉強した方が良いみたいですね」
パニックになって固まった俺の肩に手を添えて、シュミットは笑いながらそう告げた。
全然笑えねぇよ!
そんな言葉すら出せずに、テントの出入り口を睨んで顔を顰めた。
✩.*˚
「お手紙は?」
外に待たせていた若い従者が私に訊ねた。
クラウス・バルツァーは乳母の子で乳兄弟だ。身分こそ違うが、何でも気軽に話せる大切な親友でもあった。
「シュミットに預けた」
「大きな声を出されたので驚きましたよ。
何かあったのですか?」
「何がって?!」親友の問いかけについ声を荒らげてしまった。巻き髪の赤毛の親友は青い瞳に驚きの表情を浮かべていた。
「クルーガーめ!父上に上手く取り入ってこんなところにまで!
しかも何だ!あの姿は!まるで…」口からこぼしそうになった言葉を慌てて飲み込んだ。
前に見た時は安っぽい、どこにでもいるような中年の男だったが、今はまるで別人だ。
赤っぽい金髪は雪のような白銀の輝きを含み、瞳は深い高貴な藍色に変わっていた。
無精髭を整え、身なりを新たにした姿は、貴族の自分と並んでも遜色ない出で立ちだった。
子供の自分が劣って見えた…
その劣等感から、つい憎まれ口を叩いてしまった…
「これでは子供みたいだ…」と自分を恥じた。
「何をおっしゃいます?我々はまだ子供ですよ」
恥じ入って俯く私に、クラウスが笑いながら答えた。
この赤毛の親友は、私の激情を上手くコントロールしてくれていた。隣にいるだけで私の未熟でかけている部分を補ってくれていた。
「アレクシス様、気分転換に少しお散歩しましょう。
戦さえ終われば、この田舎の風景は癒されますよ」と彼は私を散歩に誘った。
宿営地の周りは緑が多く、近くに川も流れていた。
ブルーフォレストの麓の風景は、田舎としか形容できないような場所だが、乗馬をして楽しむなら最高の環境だ。
クラウスが用意した馬に跨り、山裾を流れる川沿いを散策した。
つい最近まで戦場だったとは思えない。長閑な風景に癒され、気の向くままに馬の脚を進めた。
川辺から昇る、湿った風が心地よい。
新緑の香りを含んだ空気は、甘い花の香りも含んでいた。
「この土地もフィーア王国の一部になったのですね…」とクラウスが感慨深そうに呟いた。
「このままではいられないでしょうね」とクラウスは残念そうにため息を吐いた。
フィーア王国とオークランド王国の関係は最悪なものだ。幾度となく戦争をしている。
ブルーフォレストはオークランド側に付いていたウィンザー公国領として、戦火を免れていた。
そのウィンザー公国は滅び、この土地はフィーアの南部侯の直轄地となる。オークランドの攻撃の対象となったのだ。
この土地にも入植者を募る予定だ。
人の手が加われば、この土地は様相を変えるだろう…
それは子供の私たちの目にも酷く惜しく映った。
川沿いに馬を進めていると、馬の世話をする傭兵たちの姿があった。
傭兵にはあまり良い印象がない。
彼らはてんでばらばらな姿で、仲間の印なのか腕に揃いの赤い布を巻いていた。
彼らは一瞬視線をこちらに向けたが、関わり合いになりたくないのか、我々を無視した。
一人の少年を除いて…
「わあ!凄いね!綺麗な馬だ!」
明るい、同輩の子供の歓声に驚いた。
声のした方を見て、紫水晶のような煌めく瞳と目が合った。
少年?少女?判断に迷うほど綺麗な顔をしている。服装が男のものだから少年だろうか?
馬は指示を出していないのに、勝手に子供に向かって歩き出した。伸ばされた手に挨拶するように顔を擦り寄せ、少年に甘えた。
「コラ!スー!騎士に絡むな!」
背の高い姿勢の悪い傭兵が、スーと呼ばれた少年の襟首を掴んで引き寄せた。
馬が不満そうに嘶いた。
「この子から来たんだよ」と少年も口を尖らせて不満そうだ。
別の背の低い傭兵が進み出て詫びた。
「子供が失礼しました」
「あ、あぁ…」美しい少年に目を奪われて、言葉を忘れて頷くことしか出来なかった。
貧相な身なりなのに、異彩を放つほどの美しさだ。
水面の反射が漆黒の髪に複雑な光彩を宿し、宝石のような紫の瞳は長いまつ毛に縁取られ輝いていた。
「またね」と馬に手を振って仲間に連れられて戻って行く姿を見送った。
「アレクシス様、大丈夫ですか?」とクラウスが馬を寄せた。
「あぁ、大丈夫…だ」
「どうしたんです?運命の相手にでも出会ったような顔をしてますよ」とクラウスは冗談を言ったが、その言葉は今の私にピッタリだった。
「…今の少年…見たか?」
「いえ、じっくりとは…」
「妖精みたいに綺麗だった…」と言葉が漏れた。
別に男が好きだとかそういうことは無い。許嫁だっている。それでもこの感情は何なのだろう?
美しいものと出会った時に感じる高揚感が胸の中で高鳴った。
「連れてきましょうか?」とクラウスが気を利かせた。私の返事を待つ前に、馬の腹を蹴って傭兵たちに馬を寄せた。
✩.*˚
「失礼。私のご主人様が、そちらの少年と少しお話をしたいそうです。少しお付き合いいただけないでしょうか?」
赤毛の幼い騎士が馬の背から声をかけてきた。
「僕?」と確認すると、彼はにこやかに頷いた。
「スーになんの用だよ?」とエルマーが僕を隠すように前に進み出た。彼は相変わらず過保護だ。
「暇をしてるのでお話し相手が欲しいだけです。
これで如何でしょう?」と少年は何かを出して渡そうとした。
エルマーは彼を睨んでその条件を突っぱねた。
「こいつは売りもんじゃねえよ。金で解決しようなんて騎士様のくせにいやらしいんじゃねぇか?」
「おや?これは失礼しました」
「こいつは俺の弟だ。金で解決しようとする奴には渡さねぇよ」
自分よりずっと年下の少年に凄むエルマーは大人気ない。それでも少年は笑顔を崩さずに「それではやり方を変えましょう」と宣言した。
「ヴェルフェル侯パウル様の第二公子アレクシス様がお話し相手として御所望です。
傭兵のみなさんでも意味はお分かりでしょう?」
エルマーもソーリューも言葉を失った。
「お預かりしても?」と少年は追い打ちをかけた。
「ちゃんと帰すんだろうな?」
「えぇ、お話するだけですから」と少年はエルマー相手に涼しい顔で答えた。
彼は馬の背から降りると、僕に「乗ってください」と馬を譲ってくれた。
「良いの?」馬に乗れるとは思って無かったから嬉しくて声を上げた。
「大人しい馬ですから大丈夫ですよ」と僕を馬の背に乗せて、少年は手網を引いた。
馬の歩く振動がリズミカルに身体に伝わる。
こんな感じなんだ…
「馬に乗るのは初めてですか?」と赤毛の少年が僕を見上げて訊ねた。
「うん。気持ちいいね」と答えると彼は嬉しそうに笑顔を見せた。
「申し遅れました。私は公子様の従者でクラウス・バルツァーと申します」
「僕はスペースだよ。みんなスーとか《妖精》て呼ぶ」
「なるほど、確かに《妖精》みたいだ」と彼は笑った。
クラウスは馬を引いて主人の元に戻ると優雅に会釈した。
「お待たせ致しました、アレクシス様」
「ありがとう、クラウス」
目の前の少年は僕と大して変わらない背格好だ。
パウル様が僕と同じくらいの子供がいると言っていたのを思い出した。
「君がアレク?」と訊ねると二人とも驚いた顔をした。少し馴れ馴れしすぎたかな?
「パウル様から聞いたよ」と言葉を付け足した。
「父上から?」
「うん。同じくらいの息子がいるって言ってたから、君がアレクだと思った」
「…そ、そうか」
「僕もアレクって呼んでいい?」
「構わない。君は?」
「スーだよ。《雷神の拳》の傭兵。《黒い妖精》って二つ名を最近貰ったばかりだ」
「その歳で二つ名?」アレクは驚いて問い返した。馬の手網を握っていたクラウスも驚いたような顔で僕を見上げた。
僕、君たちが思ってるよりずっと歳上なんだけどな…
「変かな?」と首を傾げて笑うとアレクは恥ずかしそうに視線を泳がせた。
「いや…そんなことは…」
「君の事も教えてよ」と恥ずかしがっている少年に訊ねた。
僕を呼んだのは彼の方なのに、口数がやけに少ない。もしかして女の子だと思われてるのかな?
そうだとしたらガッカリさせたかな?
「もしかして、僕のこと女の子だと思った?僕は男だよ」
「分かってる。でも…君は…とても綺麗だから…」
「そうかな?結構汚れてるよ」と正直に答えた。傍らでクラウスがクスクス笑っている。
「笑うなクラウス!」
「…しつっ…失礼…くくっ」何がツボにハマったのか分からないが、クラウスは顔を覆って必死に笑いをこらえている。
「あのアレクシス様が…」と肩を震わせて笑っている。
彼らは主従だけどとても仲が良さそうだ。
僕もこういう友達欲しかったなぁ…
そんなふうに思いながら二人を見て笑顔が漏れた。
アレクは咳払いをして僕の隣に馬を寄せた。
馬を手足のように扱う姿は格好いい。アレクはオシャレな佇まいで整った顔をしてる。目元はパウル様にそっくりだ。
「彼らの見えるところなら一緒に散歩しても構わないだろう?」と僕を散歩に誘った。
「うん。でも僕馬に乗ったの初めてだから君たちみたいに上手に乗れないよ」
「そうか。でもクラウスが手網を持ってるから大丈夫だ」アレクはそう言って僕の馬をクラウスに任せた。
「馬は好きなんだろ?」とアレクは僕に確認した。
「うん、好きだよ。君のおかげて乗れた。ありがとう」
「良かったですね」とクラウスが笑った。
アレクの顔がまた少し赤くなっていた。
「何で傭兵なんかしてるんだ?」とアレクは僕に質問した。そう聞かれると曖昧な答えしか出てこない。
「…何となく?」
「何となくって…」アレクは僕の答えに呆れたようだった。
でも、本当にたまたま出会ったんだから、あながち間違いでもない。
「ワルターが拾ってくれて、仲間にしたくれた。
僕は彼らの事が気に入ってる」
「君みたいな子供を戦わせるなんて…
あの男は何を考えてるんだ!」
「ワルターのこと知ってるの?」
「…異母妹の…婚約者だ」とアレクは苦々しく口にした。そういえばそうだった。
「嫌なの?」
「祝福はできない」
「そうなの?だったらやめたらいいよ。
ワルターも乗り気じゃないみたいだし」と彼に教えてあげた。
「ワルターは良い人だけど不器用なんだよ。
意地っ張りだし、頑固だし、いつも我慢してばっかりだ」
「それのどこが良い人なんだ?」とアレクが眉をひそめた。
確かに…今の話じゃ良いとこなしだ…
僕が言葉を続ける前に、クラウスが「アレクシス様も似たようなもんでしょう?」と笑った。
「どこが!」
「意地っ張りで、頑固で、自分の気持ちに正直じゃないところがですよ」
「クラウス!」
「嘘は申し上げておりませんよ」とクラウスは朗らかに笑った。
彼は僕を見上げて、ワルターがどんな人かを言い当てた。
「クルーガー様は、きっと誠実で優しい方でしょうね。自分のためより、誰かのために頑張りすぎてしまう。
少し悪ぶっていて、思ってもない憎まれ口を叩いてしまう。
そんな人ではありませんか?」
ほぼ合ってる。
「君はワルターと話したことあるの?」
「いいえ。そんな感じがしただけですよ」とクラウスはアレクに「ね?」と微笑みかけた。
アレクは恥ずかしそうにクラウスから視線を逸らしていた。それを見て、クラウスが言っている人物像が、アレクの事だと気付いた。
「じゃあ僕たちは仲良くなれそうだ」
「そうですね」僕の言葉にクラウスが同意した。
「アレク」と友達の名前を呼んだ。
「馬に乗せてくれたお礼に、面白い散歩をさせてあげるよ」
そう言って馬を降りると、自分と彼らに《水乙女の靴》の魔法をかけた。
「友達だから特別だよ」と笑って、見本にと、川の水面に足を乗せた。二人とも僕が水面に沈まないので驚いていた。
「ほ、本当に…大丈夫?」
「大丈夫だよ。ほら」とアレクの手を取って、水面の上に乗せた。
彼の靴は濡れなかった。
「スー…君は本当に《妖精》なのか?」
アレクの問いに、僕は「二つ名だよ」と笑った。
「見て、大きな魚がいるよ」
「…本当だ」
「楽しい?」と訊ねるとアレクは興奮した様子で頬を上気させた。
「凄い、こんなの初めてだ!」
「クラウスもおいでよ」と誘ったが、彼はやんわりと断った。
「私がそっちに行ったら誰が馬を見るんですか?」
それもそうだ。
アレクの手を引いて水面を歩いた。
「スー」アレクが僕を呼んだ。
「何?」
「ありがとう」
「馬に乗せてもらったお礼になったかな?」
「それ以上だ」とアレクは笑顔で僕の手を強く握った。強がっていた貴公子は年相応の少年になっていた。
僕らは良い友達になれた。
✩.*˚
「エルマー!アレクとクラウスと友達になったよ!」とスーは嬉しそうに帰ってきた。
連れていかれた時はどうなることかと思ったが、本当に少し話をして戻ってきたのでホッとした。
「じゃあまた」と少年らはスーを送って、別れを告げると去って行った。
「お前、本当に怖いもの知らずだな…」と半ば呆れながらそう言った。
「何で?」
「相手は公子様なんだぜ、その辺のガキとは違うんだ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「水の上の散歩楽しんでたよ」
「バカ!何かおかしいと思ったんだ!」手を繋いで浅い所を歩いてるのかと思ったが違ったらしい。肝が冷えた。
「あれ少しやってみたいにけどな」とソーリューは呑気なもんだ。
「ソーリューもやってみる?」
「今度な」と素っ気なく答え、ソーリューはスーに「何の話だった?」と訊ねていた。
「さあ?なんだっけ?」
「お前なぁ…」
「だって本当に大した話じゃなかったもん。
何で傭兵してる?とか、ワルターの事とか少し訊かれたくらいだよ」
「ワルターの?」
「うん。妹の婚約者だからって。
何であんなに姿が変わったのかも訊かれたから答えた」
結構大事な話してると思うが…
「まぁ、いいや…」スーの性格じゃそんな事は些事なのだろう…
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「…マジで?」
「さすが大貴族、羽振りがいいな」
「これってすごいの?」と価値が分からないガキが首を傾げた。
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「これで銅貨いっぱいってこと?」
間違ってないけど発想が致命的にガキ…
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