燕の軌跡

猫絵師

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過ち

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テレーゼが帰ってくると、何やらオマケが沢山着いてきた。

「おかえり、テレーゼ」

「ただいま、ワルター様。お友達が沢山出来ましたの。ご紹介しますわ」とテレーゼは嬉しそうに、お茶会で出来た友人を紹介した。

まぁ、半日も経たないうちにエラい取り巻きが増えたもんだ…

押しかけてきた令嬢たちに挨拶をすると、彼女らは小鳥みたいに身を寄せあって、お互いに囀っていた。

「ワルター様も人気者ですね」とテレーゼが笑った。

彼女の肩を抱こうとして、コートの下の服が違うことに気付いた。

「なんだ?どっかで着替えたのか?」

「あ…その、これは…」と彼女は言葉を濁した。

朝は喜んで若草色のドレスを着て行ったのに、対象的なオレンジのドレスがコートの下からはみ出ている。

「私がお貸ししましたの」とアダリーシア嬢がテレーゼの代わりに答えた。

「その事で、少しお話がありますの。

ロンメル男爵、お時間頂戴してもよろしくて?」

「アダリーシア嬢、私も同席してよろしいかしら?」と背の高い令嬢がアダリーシア嬢に話しかけた。

「ええ、よろしくてよ、ウィルメット嬢。

ロンメル男爵、彼女は私の親友で近衛騎士団団長ベルヴァルト伯爵の令嬢ウィルメット嬢です」

「はぁ…どうも」また偉い人の娘が出てきたな…

「では、私たちはこれで」と他の令嬢たちは帰って行った。

最後まできゃあきゃあと騒がしくしていたが、何だったんだ、あれは…

「テレーゼ様はお着替えしていらっしゃいな」とアダリーシア嬢がテレーゼに声をかけた。

「はぁ…テレーゼ様のお着替え…」

着替えに反応して、ベルヴァルト伯爵令嬢がうっとりとため息を吐いた。

いや、何この女!?気持ち悪っ!

「うふふ…どんな可愛いお姿が見れるのかしら…ふふ…」

「ちょっと、ウィー。男爵が困ってるわよ」

「あら、失礼しました。あまりにテレーゼ様が可愛らしいので、私ったら…」

「彼女は可愛い子に目がないの。

ウィルメット嬢はテレーゼ様のお味方なのでご安心くださいな」

安心しろって無理がある…

まさか、テレーゼに気があるって類のやつじゃあるまいな…

「ま、まぁ、とりあえず中へどうぞ」

一抹の不安を抱えながら、立ち話もなんなので彼女らを中に通した。

「あら、まぁ、素敵な別荘」

「陛下がご用意くださいました。仮宿です」

「ロンメル男爵も別荘をお買い求めになるべきですわ。今後、新年会の度に宿を手配するのは面倒でしょう?」

「どうせ、今年だけです。買うだけ無駄ですよ」と答えると、背の高い令嬢はクスクスと笑った。

「うふふ、じゃあ来年以降は我が家にご逗留くださいな」

「ありがたい申し出です。今後があればお伺い致します」と適当に答えた。どうせもう呼ばれないしな…

ラウラを呼んで客人をもてなすように伝えて、席を外そうとした。

ベルヴァルト伯爵令嬢は今度はユリアに目をつけていた。

「なんですの、このお嬢さん!可愛らしい!」と捕まえて頬擦りしていた。

最近のユリアは散々だな…

「旦那様ァ…」とユリアが助けを求めてきたが、まぁ、害はなさそうなので、「テレーゼの友達だそうだ」と伝えて放置した。

しばらくして、着替えを済ませたテレーゼが居間に顔を出した。

「お待たせしました。

あら、ユリア?ウィルメット嬢と仲良しになったの?」

「奥様までぇ…」

「うふふ、とっても可愛いから連れて帰りたいわぁ」

「やー!」ユリアが涙目になる。

ユリアは少し前に第三王子に攫われかけたばかりだ。冗談に聞こえないのだろう。

ユリアを引き取ろうと動いた俺を静止して、アダリーシア嬢がベルヴァルト伯爵令嬢を叱った。

「ウィー、話がややこしくなるから、いい加減そのお嬢さんを離してあげて…

ごめんなさいね。彼女は悪気はないのよ。

小さくて可愛い女の子が大好きなの」

そう言われたら悪い気はしない。

ベルヴァルト伯爵令嬢も、すぐにユリアを離してくれたから胸をなでおろした。

お辞儀をして下がろうとしたユリアをベルヴァルト伯爵令嬢が呼び止めた。

「ユリア、貴女のヴァイオリンをするのね」

「は、はい」

「いっぱい練習してるのね。偉いわ」と褒めながら彼女は右手の人差し指を指さした。

この短い間に良く観察している…

ふざけた印象だったが、アダリーシア嬢の友人とだけあって抜け目のない人物だ。

「お待たせして申し訳ありません」とテレーゼが二人に会釈した。

着替えを済ませたテレーゼを見て、ベルヴァルト伯爵令嬢が歓声を上げた。

「待ってましたけど待ってませんわ!

その淡い色のドレスもステキ!テレーゼ様は柔らかいお色がお似合いですわね!」

かなり食い気味にベルヴァルト伯爵令嬢がテレーゼを褒めちぎった。

よく分からん人だな…

でもその意見なら俺も賛成だ。さっきのオレンジよりよく似合っている。

「今年の流行は淡い色で決まりですね」とアダリーシア嬢は商売気を覗かせた。

彼女らの様子に苦笑いしながら、自分のソファの隣にテレーゼを招いた。

ふわりと天使のように舞い降りたテレーゼと視線を交わして、向かいに座る令嬢たちに視線を戻した。

「それで、話とは?」と訊ねると、アダリーシア嬢は浮かれた様子を封印して、声音を低くした。

「ヴォルガシュタットに逗留の間、お二人共身辺に十分お気をつけください」

「お茶会で何かあったのか?」慌ててテレーゼに視線を向けると、テレーゼの表情が少し曇った。

「テレーゼ様からは申し上げにくいでしょうから、私が代わりにお話します」とアダリーシア嬢がお茶会の顛末を伝えた。

テレーゼが異母姉に嵌められたと知って怒りを覚えた。

ドレスを貰って、嬉しそうに笑う彼女の姿が脳裏を過った。

こんな酷いことがあるか!

「ロンメル男爵。一つだけ勘違いしないで頂きたいのですが、侯爵閣下も夫人も関わりのないことです。それはご承知くださいませ」

「…分かってます」

あの二人はテレーゼを大事に扱っていた。それは疑いようもない事実だ。

それに、テレーゼが直前でドレスを変えてしまったので、ガブリエラ様には責のない話だ。

それは重々承知している…

「ガブリエラ様はアーベンロート伯爵夫人をお叱りになりましたし、皆さんの前でテレーゼ様に謝罪なさいました。

侯爵夫人が公共の場で男爵夫人に…しかも継子に頭を下げられたのです。どうぞそれ以上はお求めにならないで下さい」

「アーベンロート伯爵夫人に謝罪を求めるなと?」

バカバカしい…当事者のクセに、母親に頭を下げさせておいて、自分は知らん振りか?納得できるものか!

怒りに震えた拳をテレーゼが柔らかく握った。

アダリーシア嬢は毅然とした面持ちで、俺に折れるように促した。

「ええ、そうです。

そうでなければ、ヴェルフェル侯爵夫人の面子が潰れてしまいます」

「俺が、『あぁ、そうですか』なんて言えるとでも?」

暖炉の火が揺らいだ。部屋の温度が下がって、空気が凍る不気味な音がした。

「ワルター様、落ち着いてください」とテレーゼに手を引かれたが、腹の中で燻る怒りを抑えることは出来なかった。

「俺は納得しないぞ!

アーベンロート伯爵夫人からテレーゼへの謝罪がないなら、誰がなんと言っても俺はテレーゼを連れてブルームバルトに戻る!

そうじゃなきゃ、《冬の王》が王都を駆け回るぞ!」

テレーゼが何をした?お前らの言う通りにしたのにこの仕打ちか?

腸の奥が焦げるような怒りを孕むほど、部屋の温度は下がった。テレーゼがいると分かっているのに、どうにも止められない。

「聞き捨てなりませんよ、ロンメル男爵」

白い息を吐きながらベルヴァルト伯爵令嬢が席を立った。

「ロンメル男爵、精霊を収めなさい。

私だってベルヴァルト伯爵家に名を連ねる者です。近衛騎士団団長である父の名にかけて、その脅迫を見逃すことはできません」

「ならアーベンロート伯爵夫人を連れて来て詫びさせてくれるのか?」

「それは無理だと申し上げました」と彼女は俺の要求を突っぱねた。

「《全身魔装》」と呟くと、彼女の腕輪が光って姿が変わった。ドレスの上から覆うような厳つい鎧が現れて、彼女の全身を包み込んだ。

「《神紋の英雄》相手に、どこまでできるか分かりませんが、《龍の守護者》の一人としてお相手致しますわ」

彼女の手には、いつの間にか顕現した槍が握られていた。

どうやらただのご令嬢では無いらしい。

彼女がアダリーシア嬢と同席すると名乗り出たのはそういう事か…

食えない女だ…

ベルヴァルト伯爵令嬢と睨み合いになっていると、テレーゼが俺の袖を引いた。

泣きそうな顔で見上げる彼女は「やめてください」と俺を止めた。

「私が悪いんです…深く考えず、確認せずにドレスを変えたのは私です」

「お前は何も悪くねぇだろ!誰がどう見ても、お前の異母姉が悪いに決まってる!」

テレーゼ相手にもどうにも怒りが収まらない。

お前がそんなに卑屈になる理由なんてないだろう?

俺の怒鳴り声を聞きつけたのか、空気が冷たくなったから気付いたのか、シュミットが居間に駆けつけた。

「旦那様、これは何事です?!

…そちらの方は…?」シュミットが部屋を見回して、顔色を変えた。シュミットは慌ててテレーゼに駆け寄った。

「奥様!奥様、大丈夫ですか?!

ラウラ!すぐに毛布を持って来てくれ!」

シュミットの慌てた様子を見て、ようやく冷静さを取り戻した。

テレーゼの顔が白くなってガタガタ震えていた。やり過ぎた…そう思ったがもう遅い。

「奥様に万が一があったらどうするおつもりですか?!

リューデル伯爵令嬢もご無事ですか?」

「私は大丈夫よ」

アダリーシア嬢は軽く手を振って、冷静に答えた。彼女も顔色が悪くなっていたが堂々たるものだった。

全く動じないその姿に、この若い令嬢との格の違いを見せつけられた気がした。

「話を続けましょう…

ウィー。貴女もその格好何とかしてちょうだい」

「ロンメル男爵が話に応じるならね」

「できますよね、男爵?」と子供くらい離れた令嬢は俺に語りかけた。彼女も息が白い。《祝福》の影響を少なからず受けていた。

「あ、あぁ…すまなかった…」

彼女らに謝って、冬の気配を引くと、ベルヴァルト伯爵令嬢も厳つい魔力で固めた鎧を解いた。

「全く、肝が冷えたわ」とアダリーシア嬢がため息を吐いた。

「まぁ、《英雄》としては未熟ですが、恐ろしい能力ですね。カナルの岸を凍らせたのは伊達ではありませんね」

「お二人共、申し訳ありません」

毛布にくるまったままのテレーゼが二人に謝罪した。やっぱり顔色が悪い。横にならせた方がいいだろうか?

そう思ってアンネを呼ぼうとすると、ベルヴァルト伯爵令嬢が席を離れて、テレーゼの前に膝を折った。

「テレーゼ様、お手をお借り出来ますか?」と彼女はテレーゼに手を差し出した。

ベルヴァルト伯爵令嬢がテレーゼの手を取って、短い詠唱を唱えると、テレーゼの周りの空気が光った。

「治癒魔法のようなものです。少しはお身体が楽になるかと思います」と告げて、ベルヴァルト伯爵令嬢はテレーゼの手を離した。テレーゼの震えが止まって、頬にも赤みが戻った。

「ありがとうございます、ウィルメット嬢」

「どういたしまして。でも、まだ無理はしないでくださいね。まだ、お辛いようなら専門の治癒魔導師を手配致します」

「すまん、テレーゼ…」危うくテレーゼを凍らせるところだった…

テレーゼは俺に殺されかけたのに、柔らかく微笑んで「許します」と言ってくれた。

「私は大丈夫ですから、お話の続きを聞いてくださいますか?」

「分かったよ。なんでも言うこと聞くから…」

「ありがとうございます。

まずはお二人にちゃんと謝罪して、お話の続きをしましょう。ね?」

テレーゼに促されて、二人に詫びた。

テレーゼのとりなしもあって、二人の令嬢も俺の謝罪を受け入れてくれた。彼女らの方がよっぽど大人だ。

「噂と違って、仲睦まじいご夫婦ですこと」と飴色の髪の令嬢は笑った。

「まぁ、お二人共、敵も多そうですからね」

「ウィー、そんなはっきり言わないでちょうだい」とアダリーシア嬢が親友をたしなめたが、彼女は気にせずに「本当の事でしょう?」と笑った。

「男爵。先程、アダリーシア嬢が申し上げた通り、身辺にはお気をつけくださいませ」とベルヴァルト伯爵令嬢は俺に警告した。

「貴族の仕返しは陰湿です。

表では笑顔で振る舞い、その裏で相手の喉元を狙っています。

今の貴方方は、知らない土地に迷い込んだ小鹿より弱い…

隙を見せればあっという間に食い殺されますよ」

「そんな事してなんの得が?」

「得なんてなくてもいいのです。それが貴族というものですもの」とベルヴァルト伯爵令嬢は冷ややかに答えた。

まぁ、思い当たらないことも無い…

ギュンターやその母親はその傾向が顕著だった。

目障りな俺を排除しようと、あの手この手で嫌がらせをした。

結果、あいつらは自滅したが…

「今日のお茶会ではっきりしたのは、ロンメル男爵夫妻には敵がいるということです。

アーベンロート伯爵夫人は手始めですわ」

「確かに。男爵は敵が多そうですものね」

「こんなに可愛い夫人ですもの。それだけでも男爵が後ろから刺される理由にはなりますわ」

二人で言いたい放題だ。しかし、それが現実にならない保証はない…

「まぁ、侯爵に頼んで、信頼出来る護衛を用意していただくのがよろしいでしょうね。

私もお父様に伝えておきます。リューデル伯爵家はロンメル男爵夫妻の味方ですわ」

「私もお助けしてあげたいけど、王宮の警護でお父様もお兄様たちも手一杯なのよね」とベルヴァルト伯爵令嬢が残念そうに肩を竦めた。

それを見てアダリーシア嬢がクスリと笑った。

「あら、一番適任のお暇な方がいらっしゃるじゃない?」

「あら?どなたかしら?」

「鏡でも見ていらっしゃい、ウィー」

「私?」とベルヴァルト伯爵令嬢は驚いた顔で親友に視線を返した。

「無理よ。だって私、イーゴン公子様と同伴ですもの」

「私と交代でいいから。

イーゴン公子様も分かってくれるでしょう?」

「イーゴン公子様とは?」とテレーゼが訊ねると、ベルヴァルト伯爵令嬢は「私の婚約者です」と答えた。

「西山侯ローヴァイン侯爵家のご長男です。私より二つ年下ですが、とても聡明な方ですわ。

守ってあげたくなるような、とても可愛らしい殿方ですのよ」とベルヴァルト伯爵令嬢は惚気けた。

どうやら、彼女らの話によると、体の弱い息子のために、ローヴァイン侯爵の方がこの令嬢を指名したらしい。

「私はベルヴァルト伯爵家の人間で一番強いですからね」と令嬢はしれっと言っていた。

さっきの様子を見たら分かる。

下手したら、俺でも手こずりそうだ…

「まぁ、護衛の件は、私からもお父様であるベルヴァルト伯爵にお願いしてみます。

なんと言っても、今回ロンメル男爵夫妻は賓客ですから、何かあっては王室守護を任されている《ベルヴァルト》の名にキズが付きます。

お父様も嫌とは仰らないでしょう」

「何から何までお世話になります」

「いいのよ、テレーゼ様。貴女は微笑んで立ってるだけで良いの。

煩い害虫は、私が全部叩き落としてあげますから、ご安心くださいな」とベルヴァルト伯爵令嬢は頼もしくテレーゼに応えた。

話し中に来客を知らせるベルが鳴った。

部屋の外からトゥルンバルトの声がして、彼の案内で訪問者が中に通された。

厳しい仏頂面の青年は、恋人の姿を見つけて僅かに表情を緩めた。

「ゲリン、迎えに来てくれたの?」とアダリーシア嬢はわざわざ席を立って恋人を迎えた。

「お嬢様のお帰りが遅いので、伯爵様が心配して迎えに行くようにと…

お嬢様?如何なさいましたか?」アダリーシア嬢の手を握ったケッテラーが眉を寄せて彼女の顔を覗き込んだ。

「なんでもないわ…

話が少し長くなってしまっただけよ。もう帰るわ」

「じゃあ、私もお暇致しますわ」とベルヴァルト伯爵令嬢も席を立った。

「ごきげんよう、テレーゼ様。

無理せずに、ちゃんとお身体を休めて下さいね」と気遣いを残して、二人は帰って行った。

彼女らが帰った後に、シュミットから多めの小言を貰ったのは言うまでもない…

✩.*˚

『お前にはがっかりだ』とお父様は私を突き放した…

お母様の執り成しがあって、何とかお許し頂けたけれど、弟の視線も冷ややかなものだった。

お母様も、私に非を認めて、あの女の娘に謝るように勧めた。

『テレーゼを憎むのはおやめなさい。彼女はパウル様の娘で、貴女の妹なのよ』

いつからそんなふうにあの子を庇うようになったの?

あの女に受けた屈辱を忘れたの?

幼い頃から、賢く美しいと褒められながら育った。腹違いの妹たちを愛し、弟たちにも頼られる姉になるために努力も重ねた。

それなのに…

私が十歳の誕生日を迎えようとしていた頃、一人の女がお母様からお父様を奪った。

お母様のひっそりと流した涙を、私は忘れていない…

お母様の『どうして』とすすり泣く声は今でも耳に残っている。

お父様は平等に与えていた愛情を、一人の女に向けてしまった。

他とは明らかに違う、特別な愛情を注がれた女の面影は、テレーゼの中にある。

確かに美しさだけは際立っていた。他の誰よりも綺麗で、その美しさに騙されてしまいそうになるくらい、彼女は美しかった…

でも、所詮美しいだけ…お母様の足元にも及ばないくせに、主から夫を奪うだなんて浅ましい…

可哀想なお父様はあの悪女に騙されていたのよ。

そして、今も、あの女の面影を残した娘に騙され続けている。

あの子にそんな価値などありはしないのに…

「お帰りなさい、お母様!」

家に戻ってすぐに息子と娘が私を出迎えてくれた。可愛い二人を抱き寄せて「ただいま」を言った。

「二人ともいい子にしてましたか?」

子供たちと手を繋いで居間に向かうと、暖炉の前に夫と愛犬の姿があった。

「ただいま戻りました」と挨拶をすると、夫は柔和そうな笑顔を見せて、私を暖炉の前に呼んだ。

彼は優しく冷たくなった手を握ってくれた。

「フロレンツィア。妃殿下のお茶会はどうだった?」

「いつも通りですわ」と答えたものの、その話題は今は聞きたくない。

「お母様、お祖母様は?今年もお会い出来ますの?」

「ええ、そうね。挨拶が済んだら会いに来てくださるはずよ」

「わぁ!」と娘は歓声を上げて手を叩いた。

「僕、お祖父様に子馬を見せたいです!」と息子も父親から誕生日に貰った宝物を自慢したがった。

二人を抱き寄せて、私の宝物を愛でた。

母親になってから、お母様の悲しみも怒りも身に染みて分かった。

私はこの子たちに同じ思いはさせない。

だから私は必ず彼女を追い出さなければならない。

「エアネスト様。少し疲れましたので、お休みしてもよろしいでしょうか?」

「そうだね。朝早くから疲れただろう?

子供たちは私や乳母が見ているから安心してお休み」と優しい夫は私の願いを聞き入れてくれた。

「おやすみなさい、お母様」と見送る子供たちとハグをして、侍女のアデリナを連れて寝室に向かった。

「奥様、お留守の間にお手紙が届いております」と彼女は声を低くして手紙を差し出した。

こんな時に誰かしら…

差出人の名前のない封筒を開けて、中身を確認した。

「…そう…いいわ、乗ってあげる」

「奥様?」

「休む前にお返事を用意するわ」とアデリナに紙手紙の用意をさせた。

《コースフェルト伯爵》宛に色の良いお返事をしたためた。

男って本当に美人が好きね…

自分のところに挨拶に来ないテレーゼに痺れを切らして、姉である私に逢い引きを頼むなんて、笑ってしまうわ…

自分の妻が、王子と逢い引きしてたらさぞかしガッカリするでしょうね。

ロンメル男爵の彼女への愛も冷めるかもしれないわ。

そうなれば、テレーゼの居場所なんて無くなるもの…

恨むなら、貴女を産んだ女を恨む事ね、テレーゼ…

✩.*˚

ベッドで横になるテレーゼの手を握って、話をしていた。また遠くで来客を知らせるベルが鳴った。

何やら騒がしい。

寝室にユリアがやって来て来客を告げた。

「旦那様、侯爵様が…」

「ちょっと待っててくれ」と寝室にテレーゼを残して、ユリアに付いていてくれるように頼んだ。

戻った居間にはパウル様やリューデル伯爵の姿があった。リューデル伯爵は俺の顔を見るなり睨みつけて詰め寄った。

リューデル伯爵はパウル様の静止を無視して、いきなり俺の襟首を掴んで釣り上げた。

「ロンメル男爵!卿はアダリーに恩があるのでは無いのか?!」

「止さないかカール!」

「いいえ、兄上!ロンメル男爵、はっきり言わせてもらう!

アダリーは…私の娘は《祝福》も無い普通のか弱い乙女だぞ!

もしベルヴァルトの娘が一緒でなければ、私は娘を失っていたやもしれんのだぞ!」

リューデル伯爵の取り乱す姿など初めて見た。その姿は娘を思う、一人の父親の姿だった。

「…申し訳ありません…アダリーシア嬢は…?」

「ゲリンに抱えられて帰ってきた…

あの子は弱音を吐いたりしないが、ベルヴァルト伯爵令嬢から事情は聞いた。

卿に同情する気持ちもあるが、私にとってアダリーはたった一人の大切な愛娘だ!

次はない!肝に銘じておけ!」

怒りを吐き捨てて、リューデル伯爵は俺を突き飛ばすように掴んでいた手を離した。

平気なフリをしていたが、彼女も相当な恐怖を感じていたらしい。

俺にはひたすら頭を下げることしか出来なかった。

「カール、本を正せば原因は私にある。

ロンメル男爵、大丈夫かね?テレーゼはどうしている?」

俺の顔を覗き込んでパウル様がテレーゼの様子を訊ねた。

「寝室で休んでいます」と答えた俺の後ろから小さな物音がして、その場の視線が音のした方に注がれた。

「お父様、叔父様…」

居間に顔をのぞかせたのは、ユリアと手を繋いだ寝巻き姿のテレーゼだった。

彼女もリューデル伯爵の声を聞いていたのだろう。彼女はリューデル伯爵に歩み寄ると、小さな身体で俺を庇った。

「こんな姿で申し訳ありません…

叔父様、私が主人をお止めできなかったのです。私にも責任があります。どうかお叱りなら私にも…」

「姪殿、もう済んだ事だ。これ以上蒸し返したりはせんよ」とリューデル伯爵はテレーゼに約束した。

「テレーゼ、身体は大丈夫か?」とパウル様はテレーゼの身を気遣った。

「フロレンツィアめ。全く情けないことをする…

ヴェルフェル侯爵家に呼び出して、私からも強めに叱っておいた。今頃後悔しているはずだ。

ガブリエラも酷く心を痛めている」

「お父様。奥方様は大丈夫でしょうか?

あんな大勢の前で、継子の私なんかに頭を下げさせてしまいました…」

「それはガブリエラの判断だ。私は彼女の決定を支持する。

それに、彼女に恥をかかせたのはお前ではなくフロレンツィアの方だ。お前が気に負うことではない」

パウル様はそう言ってくれたものの、テレーゼの顔は曇ったままだ。

パウル様はテレーゼの不安を拭おうと、優しく語りかけた。

「彼女が来なかったのは、私が止めたからだ。私も彼女もお前に恥をかかされたとは思っていない。

明日の晩餐会は私たちと一緒に行こう。

アダリーシア嬢とリューデル伯爵もサポートしてくれる。お前はロンメル男爵のダンスの心配だけすればいい。他は私が全て引き受ける」

「はい、ありがとうございます」

テレーゼが礼を言って頭を下げると、父親は娘の髪を撫でて優しく気遣った。

「今はゆっくり休め。また体調を崩すといけないからな。

何かあったら遠慮せず相談しなさい」

「はい」と頷いたテレーゼは二人にお辞儀をした。寝室に戻るのだろう。

ユリアを呼んで彼女を任せた。

ユリアと居間を出ていこうとしたテレーゼがおずおずと振り返った。

「あの…お父様…ロンメル男爵をあまりお叱りにならないで下さい」と彼女は最後まで俺の心配をしていた。

嬉しいような情けないような気持ちになる…

「分かった。必要な話が済んだらすぐに帰る。心配せずに休みなさい」と返事をして、パウル様はテレーゼを送り出した。

今日のパウル様はテレーゼに甘いな…

「…あの子は母親に似すぎている」

テレーゼの姿が見えなくなって、パウル様が静かに呟いた。

「ユーディットの話はまだしていなかったな…」

「テレーゼの母親のユーディット様ですか?」と訊ねるとパウル様は「そうだ」と頷いた。

二人にソファを勧めて席に着くと、ラウラがやって来てお茶を並べた。

「ユーディットはヘルゲン子爵家の騎士の娘だったのは知っているだろう?

彼女はガブリエラの侍女として行儀見習いでヴェルフェル侯爵家に来た。

初めて会ったのは15だったな…

私の一目惚れだった」

テレーゼの母親がガブリエラ様の侍女だったのは聞いたことがある。

15ってのは初耳だが…

パウル様からガブリエラ様に彼女を譲ってくれるように頼み込んだらしい。

ガブリエラ様はなかなか譲ろうとはしなかったが、パウル様の一言に、ついに彼女も折れた。

『彼女を譲ってくれないなら、全ての妾に暇を出す』

その脅迫に、ガブリエラ様もパウル様にユーディット様を譲るしかなかった。

ユーディット様はそのままパウル様の愛妾として迎えられた。

彼女がパウル様を愛していたのかは分からないが、パウル様は彼女を溺愛していたらしい。

とにかく、彼女の気を引くため、たくさんの贈り物をした。一緒に過ごせる時間を彼女に当てた。

パウル様は愛を注いだつもりだったろうが、その行動が彼女の立場を悪くした。

他の妾に選ばれた女性たちは彼女を妬んだ。

ガブリエラ様ですら、ユーディット様と関わるのを避けたくらいだ。

結局彼女はヴェルフェル家に馴染めず、パウル様以外から疎まれて、孤独に過ごすことを余儀なくされた。

唯一の肉親の兄でさえ、なかなか会うことも許されず、心労が身体を蝕み肺を患って亡くなった。

パウル様は苦い思い出を懺悔のように語った。

「私が殺したようなものだ…

もっと上手くできたはずなのに、私がガブリエラを傷付けて、ユーディットを寂しく死なせた…」

過去の苦い思い出がどこまでも追ってくるのは彼も同じなのだろう。

パウル様はユーディット様をテレーゼに重ねていた。

「フロレンツィアや他の兄弟がテレーゼを疎むのは私のせいだ。ガブリエラも私と同じように責任を感じている…

この件は私たち夫婦の責任でもあるのだ…」

「テレーゼはそれを知っているのですか?」

「察してはいるだろうな…

あの子の味方はヘルゲン子爵くらいだった。

私自身負い目に感じていたし、私が構えばまた彼女の立場が悪くなるから、極力手を出さないようにしていた。

テレーゼの後見人としてヘルゲン子爵を立てて、必要なものは全ての彼を通して与えた。

友達も無かったから、アンネが一番親しい存在だろうな…」

テレーゼが時折見せる寂しがりな一面はそのせいかもしれない。

彼女の懐っこい部分さえ、一人になるのを恐れているのだとすれば悲しかった…

頼れる相手がなく、一人でいるのが辛いのは俺もよく知っている…

「卿がテレーゼを愛していることはよく知っている。私やガブリエラはそれに救われているのだ。

だから、カールやアダリーシアには悪いが、卿がテレーゼのために怒りを覚えたことは嬉しく思っている」

「迷惑ですな」とリューデル伯爵は不満げにため息を吐いた。それを見てパウル様も苦笑いを洩らした。

「そう言うな、カール。お前とて冷静さを失うほどアダリーシアを愛しているだろう?

ロンメル男爵とてテレーゼを思っての怒りだ。

多少目を瞑ってくれ」

「だから今回は許したでしょう?まぁ、次はありませんがね」とリューデル伯爵は腕を組んで答えた。

「本当に申し訳ありませんでした」とまた伯爵に詫びた。

「蒸し返すな、男爵。アダリーにも卿を責めるなと言われた」とリューデル伯爵は拗ねた子供のように答えた。

「とりあえず、今回の件は私たちに起因する問題だ。二人には迷惑をかけた…

すぐには解決しないだろうが、フロレンツィアの件に関しては私が預かる。

男爵、それでいいだろうか?」

「自分じゃ問題が大きくなります。パウル様とガブリエラ様にお任せ致します」

「すまんな、男爵。

ベルヴァルト伯爵令嬢から護衛の件も聞いている。

信頼できる者を手配でき次第送る。

そうだ。あと、これを…」

パウル様が細い首飾りでも入れるような箱を取り出して、中身を俺に見せた。

「王都に来る前にカーティスから預かった」と出されたのは、いつぞやの手首に結ぶ紐だ。

「出番がなければいいと思っていたのだが、そうも言っていられなくなった。

間違いが無いように結んでおくといい」とパウル様は箱ごと俺に呪具を寄越した。

用事を済ませたパウル様は、弟に「帰るぞ」と声をかけて席を立った。

「テレーゼに『大事にするように』と伝えておいてくれ」

「ありがとうございます。彼女に伝えます」

「ロンメル男爵、私の娘を頼んだぞ」

パウル様はそう言い残して、リューデル伯爵と帰って行った。

残された箱を手に、テレーゼの様子を見に寝室に向かった。

ベッドの横の腰掛けにはユリアが座っていた。

「ありがとうな、ユリア」と小さな侍女に声をかけて、横になっているテレーゼに歩み寄った。

ユリアは気を使って、俺にベッドの脇の椅子を譲ってくれた。

テレーゼはまだ起きていて、俺に「お父様と叔父様は?」と訊ねた。

「帰ったよ。『大事にしろ』って、お前のことを心配して帰って行ったよ。だからちゃんと休みな」

「申し訳ありません」と彼女は悪くないのにまた謝った。

「リューデル伯爵にも迷惑をかけてしまいました…」

「やらかしたのは俺の方だ。お前は純粋に被害者だよ」

「私のためにお怒り下さったのです。そうでしょう?」

そう言ってテレーゼは小さく微笑んだ。俺まで子供扱いだ。彼女には敵わない…

「旦那様、奥様に心配ばかりかけたらダメよ」とユリアに叱られた。こんな子供にまで言われて情けねぇな。

預かった箱をテレーゼに差し出して、中身を見せた。

「《祝福》を封じるための呪具だ。

これを着けたら、外すまで《祝福》は使えなくなる」

前に一度使っているから性能は折り紙付きだ。

まさかまた身に付ける羽目になるとは思ってなかったが仕方ないだろう…

「よろしいのですか?それでは…」

「《祝福》なんて無くても、並の人間相手なら負けねぇよ。それにまたやらかしたら大変だろ?

結んでくれるか?」

テレーゼに手首に結んで貰えるように頼んだ。

彼女は「分かりました」と答えて、身体を起こした。

彼女が紐を手に取ると、締め切ったはずの部屋に、冷たい風が吹いた。

「…《白い手の》やめてはくれまいか?」

部屋にさっきまでいなかった存在の声が響いた。

荘厳な響きの声は、部屋に顕現した白い雄鹿の口から出ていた。

その場の視線を集めながら、雄鹿は勝手に自分の主張を展開した。

「それを結ぶと、我は彼を見失ってしまう。彼との繋がりが分からなくなってしまうのだ。そうなれば、我は彼を守れない」

「《冬の王》…ですか?」

「そうだ、《白い手の乙女》。

其方を《祝福》した《フリューリング》の夫だ」と《冬の王》はテレーゼに答えた。

ビビってしまったユリアが俺の影に隠れた。

目の前の招かれざる客を睨んで苦言を呈した。

「《冬の王》、あんたがいらないお節介を焼くからだろう?

この力が王様の前で暴走したらどうしてくれるんだ?」

「ふん。その程度で死ぬような王に王の称号はふさわしくなかろう」と《冬の王》は勝手な事を吐かした。鹿の蹄で床を叩く姿は苛立たしげに見えた。

「我が《眷属》。

其方にはまだ役目がある。《妖精の子》にはまだ導き手が必要だ。

こんな馬鹿げた茶番で、其方が危険に晒される必要はないだろう?」

「あんたの言うことはよく分からん。

俺には俺の都合がある。それに何だ?《妖精の子》なんて知らんぞ?」

「…ふむ…相変わらず不遜な男だ」

やれやれ、と俺に呆れた《冬の王》は、王冠のような角の乗った頭を振った。

鹿の視線がテレーゼに向かった。

「《白い手の》、ダメかね?」と《冬の王》は、今度はテレーゼを説得しようとした。

「この男は《羨望》と《僻み》を寄せ付ける存在だ。

味方であれば、彼に憧れを持ち、良き隣人となる。その反面、妬まれ敵を作ることも多いだろう。

我は、人の負の感情の多い場所に、彼を送り出すべきではないと思っている。

どうか考え直してはくれまいか?」

「それは…難しいです」と返事をしたテレーゼに《冬の王》は、「どうしてもかね?」と訊ねた。

「申し訳ありません、《冬の王》。

既に決まっていることです」とテレーゼは臆せずに答えた。

「約束は約束です。

私たちはフィーア国王の臣下として、責任を果たすために出席致します。

そのために、しばしワルター様の《祝福》を封じさせて頂けませんか?

先程、私の友人が危険に晒されました。このままでは、私もワルター様も不安を抱えたままの出席になります。それではさらに都合が悪いのではありませんか?」

「誠に、人間とは面倒な生き物よ…」

《冬の王》は人間みたいにとまた苛立たしげに蹄を鳴らした。

「ならば、我とも約束してもらおう」と、《冬の王》は新しい提案をした。

鹿の目が瞬きをすると、青い宝石が目から零れ落ちた。

《冬の王》は、蹄の付いた足で宝石を蹴飛ばして、俺の足元に寄越した。

「それを身に付けて行け」

そう言われて、屈んで青い宝石を拾うと、宝石は手のひらで氷が水になるように姿を変えて、指輪に変わった。

「その指輪と魔除の首飾りは外すでないぞ。

危うくなったら我を呼べ。

其方は我の《眷属》だからな」

偉そうな言葉を残し、来た時のように寒い風に乗って、《冬の王》は姿を眩ませた。

魔除の首飾りってのは、前にカーティスに貰ったあれのことか?

何となく、つけっぱなしになっていたが、あれも一応役に立つのだろうか?

とんだ邪魔が入った。

とりあえず背中に張り付いているユリアが邪魔だな…

「ユリア、離してくれ」

「あれなに?旦那様も奥様も怖くないの?」

俺の後ろから顔を覗かせて、ユリアは辺りを見回した。巣穴から外を伺う小動物みたいで可愛い。

ユリアの様子を見て、テレーゼも笑った。

「まぁ、俺がいる限り害はないはずだ。

ユリア。ラウラたちの所に戻っていいぞ」と彼女を退出させて、ベッドに歩み寄った。

ベッドに腰掛けてテレーゼに「ここに来てから客が多いな」と苦く笑った。

彼女も「そうですね」と同意した。

「でも、悪いお客様はいませんでした。皆さん心配して来て下さったのですよ」

「最後のは我儘言いに来たんだよ」

「そうですかね?心配してくれているのでしょう?」と彼女は《冬の王》の訪問も良いように捉えていた。

ベッドについた俺の手に、テレーゼの小さな手が重なった。

「いいですか?」と彼女は紐を手に俺を見上げた。

「あぁ」と頷いて手を差し出した。今度は邪魔もなく、紐は何の問題もなく手首に結ばれた。

これで少し安心だ。少なくとも《祝福》が俺の感情に左右されることは無い。

「俺もお前みたいな《祝福》だったら良かったのにな」とボヤいた。

「あら?それでは私たちは夫婦になれなかったのでは?」

テレーゼはそう言っていたずらっぽい笑顔を見せた。ガーネットの瞳が、僅かな光をも逃がさずに煌めいた。

「私たちが出会ったのも、フィーが産まれて来たのも、ブルームバルトでの幸せな生活も、全部無かったことになりますわ。

私はそんなの嫌ですわ」

「…だな」それは困る。

手を伸ばして彼女の頬に手を添えた。

テレーゼは嬉しそうに微笑んで、頬に添えられた手に自分の手を添えた。

彼女の左の薬指には俺と揃いの指輪が光っている。

彼女が愛おしくて抱きしめた。腕の中でテレーゼはクスクスと笑っていた。

「お前は俺の隣で笑ってたらいいんだ。

悪いことなら、全部俺が引き受けるからよ」

「ダメですよ、夫婦ですもの。半分こしましょう?」

「分かったよ、半分こな。隠すなよ?」

「はい」とテレーゼは笑顔で答えた。

子供のような約束をして、彼女を抱いたままベッドに横になった。

腕の中でまた彼女の笑う声を聞いて、つられて笑った。
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