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第四章 胸の痛み
九十七話 楓の激怒
雫くんとの電話を終えて二十分、まだ帰ってくるには早い時間に、お姉ちゃんが帰ってきた。着替えの時間を考慮し、少し間を置いてからお姉ちゃんの部屋に入る。
「お帰りお姉ちゃん」
「あ、うん。ただいま……」
朝は気が付かなかったけれど、お姉ちゃんの顔色が優れない。なにかあったことは間違いない、雫くんに言ったことを聞き出してやる。
絶対に許さない。彼を傷付けたことは。
「ねぇ、お姉ちゃんさ、一昨日 雫くんになに言ったの?」
扉を開け放ったまま、扉の枠に肩でもたれながら腕を組み問いかける。私の質問に、お姉ちゃんは狼狽で返した。
「えっと、なんていうか、その……」
「お姉ちゃんが下に来てからだよね、雫くんが変わっちゃったの。言質とれてんだけど?」
「え……?言質って、雫くんから?」
「当たり前でしょ!」
誤魔化すつもりなのか、バカなことを聞いてきたお姉ちゃんに腹が立って思わず怒鳴ってしまう。雫くんには悪いけど、あのお願いは聞けないね。
いきなり怒鳴った私に、お姉ちゃんは肩を跳ねさせた。
「あのさ、お姉ちゃんが変なこと言ったせいで、雫くん傷付いたんだよ?振られたのはショックだけど、雫くんを傷付けたのはもっと許せない!」
「ごっごめんなさい……」
感情を抑えることなく、私は思いのままに叫ぶ。どういうつもりか知らないけど、最低なことを言ったのはお姉ちゃんだ。
今さらしおらしくされたところで、溜飲が下がるわけがない。
「とりあえずさぁ、ちゃんと話をしてよ。なに、雫くんが八方美人で媚びてる?マッチポンプで好かれようにしてる?マジで言ってんの?」
「あっ、うう……」
「どうなの?黙ってないで、はいでもいいえでも言えば?雫くんは優しいから怒らないでって言ってたけど、私は優しくないからね?んで、どうなの?言ったの?」
私の質問に答えられないお姉ちゃんは、目を合わせては俯いて、キョロキョロと目を泳がせて答えることはなかった。
そんな様子に舌打ちすると、肩をビクリと震わせる。
「だぁかぁらぁ、本気で八方美人とか言ったのかって聞いてんの!黙ってないで答えてよ!」
「…………いっ言いました」
か細い声で、ポツリと返ってきた。心底呆れてしまい、怒りは強くなる。まさかお姉ちゃんまで雫くんを攻撃するなんて、同じ家族だと思いたくはない。彼が今までどんな扱いを受けてきたのか、決して知らないわけじゃないはずなのに。
「………どういうつもり?まさか本気で雫くんが皆に媚びてるっての?」
「そんなことは、思ってないよ……」
「ふーん?それで、マッチポンプってなんなの?なんでそんなこと言ったの?」
「それはその、雫くんが麻沼と仲良くしてるのを見たから……」
「は?なに?意味が分からない。なんで麻沼先輩が出てくんの?」
意味の分からない言葉に、今度はその事で聞き返す。随分と長い問答になりそうで、始まる前から辟易してしまう。
だけど、お姉ちゃんの返答は曖昧なものも多く、話にならなかった。それそこ八方美人とかそういうのは、自分でもどうして言ったのかわからないらしい。
「要するに勢いだけで言ったってこと?麻沼先輩関係ないけど、なんで?」
「雫くんに、イライラしちゃって……」
「は?意味が分からないんだけど。雫くんになにかされたの?」
「ないよ、ただアタシが変なこと考えただけ……」
どうにも要領を得ない返答が、私の苛立ちを強くしていく。どうしてお姉ちゃんが雫くんにイライラするのか、その理由を聞くこっちの方がイライラする。
「変なことってなに?」
「……その、雫くんが好きで、でも雫くんには楓がいるし、我慢しなくちゃって思ってて……」
「なんでそれでイライラすんの!」
いつまでもはっきり言わないお姉ちゃん。結論ベースで話すでもなく、だらだらとばつの悪そうに続ける態度に怒りが抑えられなくなってくる。
「だって、アタシは麻沼が面倒くさいって言ってるのに、雫くんが仲良くしてるのを見たら……雫くんにとって、アタシはどうでもいいんだって思っちゃって……」
「はぁ?雫くんがそんな冷たいわけないじゃん。バカじゃないの?完全にお姉ちゃんの勘違いと八つ当たりじゃん、それで雫くんを傷付けて許されると思ってるの?」
あまりにもバカらしい言い分に、もはや溜め息すら出ない。もしかして、雫くんが麻沼先輩をけしかけたとでも思っているのだろうか?
そんなことだったら、雫くんを攻撃する前に私に話をすればこんなことにはならなかったかもしれないのに。
苛立つ私にお姉ちゃんは、俯いたままなにも言わない。
「ねぇ、どうして先に雫くんと話そうって思わなかったの?せめて私でもよかったのにどうして?」
問いかけてみても、お姉ちゃんは答えない。我が姉ながら、ここまでクソだったのかと頭を抱える。後ろ暗いのかなにも考えてなかったのか知らないけど、ここまでひどいと怒りが抑えられるをワケもなく。
私はお姉ちゃんに近付いて、右手を挙げて思い切り平の手で振り抜いた。バチンッと頬を強く叩く音が響く。
「黙ってないで何か言えよ!勢いだけで許されると思ってないよね!」
叩かれた頬に左手を当てて、一瞬だけ驚いた表情をするもすぐに俯いた。黙りだけは得意なのか、肩を震わせたままなにもしない。
そんな情けない姿に、姉相手だとしても軽蔑してしまう。なにが法律家を目指しているというのか、本当に見苦しい。
「法律学ぶ前に人としての立ち振舞いを学べや!」
なにも答えない姉に、私はそう叫んで立ち去った。あんな人の妹なんてそりゃあ嫌にもなるだろう。
申し訳ないのはこちらの方だ、雫くんにどうやって償えば良いのだろう。こんなんじゃやり直したいだなんて言えないよ。
「お帰りお姉ちゃん」
「あ、うん。ただいま……」
朝は気が付かなかったけれど、お姉ちゃんの顔色が優れない。なにかあったことは間違いない、雫くんに言ったことを聞き出してやる。
絶対に許さない。彼を傷付けたことは。
「ねぇ、お姉ちゃんさ、一昨日 雫くんになに言ったの?」
扉を開け放ったまま、扉の枠に肩でもたれながら腕を組み問いかける。私の質問に、お姉ちゃんは狼狽で返した。
「えっと、なんていうか、その……」
「お姉ちゃんが下に来てからだよね、雫くんが変わっちゃったの。言質とれてんだけど?」
「え……?言質って、雫くんから?」
「当たり前でしょ!」
誤魔化すつもりなのか、バカなことを聞いてきたお姉ちゃんに腹が立って思わず怒鳴ってしまう。雫くんには悪いけど、あのお願いは聞けないね。
いきなり怒鳴った私に、お姉ちゃんは肩を跳ねさせた。
「あのさ、お姉ちゃんが変なこと言ったせいで、雫くん傷付いたんだよ?振られたのはショックだけど、雫くんを傷付けたのはもっと許せない!」
「ごっごめんなさい……」
感情を抑えることなく、私は思いのままに叫ぶ。どういうつもりか知らないけど、最低なことを言ったのはお姉ちゃんだ。
今さらしおらしくされたところで、溜飲が下がるわけがない。
「とりあえずさぁ、ちゃんと話をしてよ。なに、雫くんが八方美人で媚びてる?マッチポンプで好かれようにしてる?マジで言ってんの?」
「あっ、うう……」
「どうなの?黙ってないで、はいでもいいえでも言えば?雫くんは優しいから怒らないでって言ってたけど、私は優しくないからね?んで、どうなの?言ったの?」
私の質問に答えられないお姉ちゃんは、目を合わせては俯いて、キョロキョロと目を泳がせて答えることはなかった。
そんな様子に舌打ちすると、肩をビクリと震わせる。
「だぁかぁらぁ、本気で八方美人とか言ったのかって聞いてんの!黙ってないで答えてよ!」
「…………いっ言いました」
か細い声で、ポツリと返ってきた。心底呆れてしまい、怒りは強くなる。まさかお姉ちゃんまで雫くんを攻撃するなんて、同じ家族だと思いたくはない。彼が今までどんな扱いを受けてきたのか、決して知らないわけじゃないはずなのに。
「………どういうつもり?まさか本気で雫くんが皆に媚びてるっての?」
「そんなことは、思ってないよ……」
「ふーん?それで、マッチポンプってなんなの?なんでそんなこと言ったの?」
「それはその、雫くんが麻沼と仲良くしてるのを見たから……」
「は?なに?意味が分からない。なんで麻沼先輩が出てくんの?」
意味の分からない言葉に、今度はその事で聞き返す。随分と長い問答になりそうで、始まる前から辟易してしまう。
だけど、お姉ちゃんの返答は曖昧なものも多く、話にならなかった。それそこ八方美人とかそういうのは、自分でもどうして言ったのかわからないらしい。
「要するに勢いだけで言ったってこと?麻沼先輩関係ないけど、なんで?」
「雫くんに、イライラしちゃって……」
「は?意味が分からないんだけど。雫くんになにかされたの?」
「ないよ、ただアタシが変なこと考えただけ……」
どうにも要領を得ない返答が、私の苛立ちを強くしていく。どうしてお姉ちゃんが雫くんにイライラするのか、その理由を聞くこっちの方がイライラする。
「変なことってなに?」
「……その、雫くんが好きで、でも雫くんには楓がいるし、我慢しなくちゃって思ってて……」
「なんでそれでイライラすんの!」
いつまでもはっきり言わないお姉ちゃん。結論ベースで話すでもなく、だらだらとばつの悪そうに続ける態度に怒りが抑えられなくなってくる。
「だって、アタシは麻沼が面倒くさいって言ってるのに、雫くんが仲良くしてるのを見たら……雫くんにとって、アタシはどうでもいいんだって思っちゃって……」
「はぁ?雫くんがそんな冷たいわけないじゃん。バカじゃないの?完全にお姉ちゃんの勘違いと八つ当たりじゃん、それで雫くんを傷付けて許されると思ってるの?」
あまりにもバカらしい言い分に、もはや溜め息すら出ない。もしかして、雫くんが麻沼先輩をけしかけたとでも思っているのだろうか?
そんなことだったら、雫くんを攻撃する前に私に話をすればこんなことにはならなかったかもしれないのに。
苛立つ私にお姉ちゃんは、俯いたままなにも言わない。
「ねぇ、どうして先に雫くんと話そうって思わなかったの?せめて私でもよかったのにどうして?」
問いかけてみても、お姉ちゃんは答えない。我が姉ながら、ここまでクソだったのかと頭を抱える。後ろ暗いのかなにも考えてなかったのか知らないけど、ここまでひどいと怒りが抑えられるをワケもなく。
私はお姉ちゃんに近付いて、右手を挙げて思い切り平の手で振り抜いた。バチンッと頬を強く叩く音が響く。
「黙ってないで何か言えよ!勢いだけで許されると思ってないよね!」
叩かれた頬に左手を当てて、一瞬だけ驚いた表情をするもすぐに俯いた。黙りだけは得意なのか、肩を震わせたままなにもしない。
そんな情けない姿に、姉相手だとしても軽蔑してしまう。なにが法律家を目指しているというのか、本当に見苦しい。
「法律学ぶ前に人としての立ち振舞いを学べや!」
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