クールで一途な白雪さん

SAKADO

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十一話 彼女は止まらない

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 貝崎たちとの話をして授業を終えた今日の放課後、しげる春波はるばたちと挨拶し玄関にに向かう。
 靴を履き替え外に出て、校門をくぐったところで後ろからトントンと肩を叩かれた。

「良ければ、その……一緒に帰ってもいいかしら?」

 振り向くとその正体は白雪しらゆきで、彼女は頬を朱に染めながら、猫の手にした左手で口元を隠し、照れくさそうに目を泳がせながらそう言った。
 その姿は相当可愛らしく、他の連中がそんな態度を受ければ卒倒するのではないかと言うほどだ。普段から彼女が見せる態度とのギャップがより見た者のインパクトを強くする。

 他ならぬ俺もドキッとしてしまったほどだ、少し前まで興味なかったのに……大概チョロいという事だろう。

「うん、いいよ」

 随分と偉そうな言い方だが、俺はそう返した。
 ハッキリと好意を伝えられたこともあって勘違いという逃げ道を塞いでくる。
 誰かに好意を向けられることでここまで情緒が危うくなるとは……これも経験の無さか。

「ありがとう……ふふっ♪」

 ただ一緒に帰るだけ、それなのに俺が首を縦に振ったことで嬉しそうに微笑んだ白雪。
 それだけで大概の男を……いや女でさえも射抜けそうなほどにその姿は綺麗で華やかだった。


 俺たちの間には 人が一人……その半分くらいスペースを空けて歩いている。
 さすがにあそこは沢山の生徒たちもおり、先輩後輩に同級生と色んな人の目についたが、暫く歩いているとさすがにそれっぽい制服の人間はいなくなる。
 しかしその間、俺はずっと考え事をしていた。

 どうして、そこまで俺に好意を持ったんだ?別に接点もなかったし、あるとしても泥棒疑惑ときた。
 むしろ距離を置かれるべき……ってもの変だけど、それでも好かれるなどというのはあまり現実味がなかった。夢でも見ているのではないかと。

「?……どうしたの?」

「……ん?あぁいや、なんていうかな……その、どうして白雪さんは、俺の事をその……」

 どう言えば良いか分からない、だって自分の事が好きとか口に出すのってただのイタいヤツだからな。
 中々次の言葉が出てこない俺を見ていた白雪が、ふふっと笑って得意気に言った。

「私が蔵真くらまくんのことを大好きな理由を知りたいの?」

「ぇっ、ぁっ……うっうん」

 まさか大好きとくるとは思わず面食らってしまうが、僅かに残った精神で頷く。
 彼女は足を止め、俺の手を握ってジッと目を見つめてきた。

「その話をするのはいいけど、それなら二人きりになれる場所はないかしら?」

「ぅぇっ……あーそれならどっか……そうだな、かっカフェとか?」

 二人きりとか普通に気まずすぎて耐えられないのでとりあえず無難な場所を挙げてみたが、白雪は首を横に振った。

「それじゃダメ、他人ひとが沢山いるじゃない。せっかくならそうね……今日は早いって言ってたし……むぅ」

 俺の思惑はあっさり棄却され、彼女は顎に人差し指を当てながらぶつぶつと言っている。早いって何?

 なにか、嫌な予感がする。

「蔵真くんのご家族は、今お家にいるかしら?」

「えっ、ちょっと待って。それってもしかして俺の家……」

「質問を質問で返さないで、ちゃんと答えて」

 浮かんだ可能性を肯定するかのように、彼女は顔を寄せながら被せてきた。声色が少しだけ硬くなっている。
 先程まで顎に当てていた方の手が、俺の肩を掴んでいて少し怖い。

「いやまぁ、今は誰もいないけど……」

「そう、帰りは遅い?」

「えっ、やっぱりそういう事だよね。ちょっとまっ……」

「答えて、じゃないとキスするわよ」

 俺の嫌な予感は完全に的中したものの、なんとか否定しようとするも白雪に脅しをかけられる。
 ガシッと肩を掴まれ逃げられそうにない。
 いやまぁ良いのかな?とかちょっと思ってしまうがせめて心の準備をさせて欲しい。
 彼女の目を直視できず、目を逸らしながらなんとか答える。

「いやまぁ、みんな遅いけど……」

「それで答えられるってのも変な気分ね……ん"ん"っ!そうっ、ならお邪魔させてくれるかしら?」

 自分で言ったクセに謎にヘコんでいる彼女だが、咳払いをしてとんでもない提案をしてきた。

「ひぃ……ちっちょっと今日は……」

「……今日はなんか唇が疼くのよね、誰かとキスしたら治まると思うんだけれど……?」

 普通なら嬉しい事のはずなのに、どうしてか脅しに聞こえないソレに身体をビクっと震わせてしまう。ちなみに俺は全然OKだが、彼女から伝わる圧がその気を削いでくる。
 " もちろん呼んでくれるよな? " という意図がある事は明白だった。

「あっはい大丈夫です」

「そう、それならお邪魔するわね?……龍彦たつひこくん♪」

「おうふ……」

 肯定の言葉に白雪が嬉しそうに、ゆっくりと噛み締めるように俺の名前を読んだ。
 今日、俺の理性は壊されるかもしれない。



「あっ、そうそう。一つだけ言っておきたいことがあるの」

「へ?」

 改めて歩き始めた今、これから俺の家に向かおうというのに、いきなり白雪がそう切り出した。

「今日龍彦くんがお友達と色々話してた時に、私が言ったこと……あるじゃない?」

「あぁ、俺のためじゃないってやつ?」

 なんとなく、それかな?と思ったので聞いてみたが、間違いなかったようだ。
 彼女がコクリと頷いてそれを肯定した。

「それ、嘘だから」

「あぇ……」

 言葉を失ったところで彼女はまた足を止め、俺の胸にツンッと人差し指でつつく。

「困ってた龍彦くんを助けたくなった、それは私が勝手にしたかったこと……だからね?勘違いしたらダメよ」

 なぜかイタズラっぽい笑みを浮かべた彼女が、まるで小悪魔のように見えた。
 そんなものを魅せられた俺は口角が徐々に上がってきてしまい、だらしない顔になってしまったので咄嗟に口元を隠す。

「あら?どうしたの?」

「いやごめん、たぶん変な顔になってるから……」

 さすがにこんな表情は見せられないと思い顔を逸らすが、彼女はその手首を掴んで引っ張ろうとしてきた。

「気にしなくていいわよ、ほら」

「いや、ダメだからマジで……いやちょっ」

 なぜか隠している手をどかそうとしてくるのでなんとか抵抗するものの、思いの外力が強い。

「いいから、全然気にしないわよ。ね?だからほらちゃんと気をつけしてっ、抵抗しないでっ……こら、見せなさい!」

「いっ嫌だ……ぅぅっちっ力つよっ……!」

 いくら人がいないとはいえ外でこんな取っ組み合いをしているのは変な話だが、しかしそんな事よりも力負けしてしまうほどに白雪は強かった。
 当然負けてしまい、俺のニヤニヤとした口元が彼女の前に晒される。

「っ……最高ね♪」

「うっ……なんっ……!」

 恍惚とした表情で感想を述べた彼女に恥ずかしくなり、俺は改めて口元を隠して顔を逸らした。

 もう、勘弁してくれ。
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