婚約破棄、ありがとうございます

奈井

文字の大きさ
21 / 40

21

しおりを挟む

グレン様の方を見上げると、私ではなく湖をまっすぐ見ていられました。

そのお顔はさっきまでの私をからかう目ではありません。

「私にもあなたの様な無邪気で可愛らしい妹が欲しかった。だから、とてもアルが羨ましかった。…私には2人も妹がいますが、とても生意気なんですよ。剣の腕も私より立つので、今は皇太子妃の護衛をしています。」

まるでお手上げとでも言うかのように両手をあげたグレン様は、自慢というよりお困りのご様子。

「すごいですね!女性で護衛のお仕事をされるなんて。」

この国では貴族の女性が仕事を持つと言ったら、侍女になって王宮に上がり、結婚相手を探すときの箔を付ける意味合いが多い。

能力を認められ、しかも重要な役に就けるのはとてもすごい事。

グレン様より剣の腕が立つなんて、きっとご謙遜だと思いますが、護衛のお仕事を与えられるほど腕がおありなのは本当のことでしょう。

少し興奮気味に、そして驚きと尊敬で声を大きくしてしまって、少し恥ずかしくなりました。

これでは昔の私から成長がないですもの、からかわれてもしかたがない。

「ですから、私の家は3人も結婚適齢期の子供がいるのに、それぞれ忙しくて、誰も将来の伴侶を探す気がない。父は好きにすればいい、と言ってくれますが、母に会えば挨拶代わりにいろいろな方を紹介されて…。」

そうでしょうね。

お兄様もよくお母様からお小言を言われてますもの。

「…その中にグレン様の御眼鏡に適うお嬢様がいらしたのではないですか?」

昨日、正式ではないものの結婚の申し込みをされた身としましてはこのような話題は失礼に当たるのではないか、と思い遠慮がちに伺いました。

特に気にされるご様子も無くグレン様はスラスラとお話を続けられます。

「何度か断りきれなくて、お会いした事はありました。私もそのまま流されてもいいか、と思う時もありました。綺麗で控えめな貴族としての振る舞いもすばらしい方ばかりで…でも、それだけでした。」

さっきまで湖を見ていた目は伏せられ、悲しそうな声のグレン様。

「それだけ?…充分ではないですか?」

貴族同士の結婚の条件は満たされているように思えます。

私だって、幼い頃からお互いを知っている仲ですが、親の言うとおりに流されて婚約までしました…この結果ですけど。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

公爵さま、私が本物です!

水川サキ
恋愛
将来結婚しよう、と約束したナスカ伯爵家の令嬢フローラとアストリウス公爵家の若き当主セオドア。 しかし、父である伯爵は後妻の娘であるマギーを公爵家に嫁がせたいあまり、フローラと入れ替えさせる。 フローラはマギーとなり、呪術師によって自分の本当の名を口にできなくなる。 マギーとなったフローラは使用人の姿で屋根裏部屋に閉じ込められ、フローラになったマギーは美しいドレス姿で公爵家に嫁ぐ。 フローラは胸中で必死に訴える。 「お願い、気づいて! 公爵さま、私が本物のフローラです!」 ※設定ゆるゆるご都合主義

幸せな結婚生活に妻が幼馴染と不倫関係、夫は許すことができるか悩み人生を閉じて妻は後悔と罪の意識に苦しむ

ぱんだ
恋愛
王太子ハリー・アレクサンディア・テオドール殿下と公爵令嬢オリビア・フランソワ・シルフォードはお互い惹かれ合うように恋に落ちて結婚した。 夫ハリー殿下と妻オリビア夫人と一人娘のカミ-ユは人生の幸福を満たしている家庭。 ささいな夫婦喧嘩からハリー殿下がただただ愛している妻オリビア夫人が不倫関係を結んでいる男性がいることを察する。 歳の差があり溺愛している年下の妻は最初に相手の名前を問いただしてもはぐらかそうとして教えてくれない。夫は胸に湧き上がるものすごい違和感を感じた。 ある日、子供と遊んでいると想像の域を遥かに超えた出来事を次々に教えられて今までの幸せな家族の日々が崩れていく。 自然な安らぎのある家庭があるのに禁断の恋愛をしているオリビア夫人をハリー殿下は許すことができるのか日々胸を痛めてぼんやり考える。 長い期間積み重ねた愛情を深めた夫婦は元の関係に戻れるのか頭を悩ませる。オリビア夫人は道ならぬ恋の相手と男女の関係にピリオドを打つことができるのか。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

秘密の姫は男装王子になりたくない

青峰輝楽
恋愛
捨て子と言われて苛められながらも強く育った小間使いの少女リエラは、赤ん坊の時に死んだと思われていた王女だった。 リエラを迎えに来た騎士は彼女に、彼女の兄の王太子の身代わりになって欲しいと願うけれど――。 男装の姫と恋愛に不器用な騎士。国を二分する内乱。シリアス多めのラブラブエンドです。 「小説家になろう」からの転載です。

処理中です...