公爵様のわかり辛い溺愛は、婚約を捨る前からのようです

奈井

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「なんだか、皆様の手を煩わせた用で申し訳ないわ・・・アンドレア様は心配性なのかしら。いつも毅然としてらっしゃるから、そんな風に見えないけど・・・。」

「それは、対象がエルヴィナ様だからです。でも、何事もなくて、私もホッとしました。・・・エルヴィナ様、公爵様ではなく、アンドレア様とお呼びになっていらっしゃいますね。」

「えっ!ええ・・・。明日には、貴族会議で承諾されるようだし、いつまでも爵位でお呼びするのは・・・なかなかなおらなかったけど、リアの呼び方が移ったみたい。」

急に恥ずかしさが増し頬が勝手に赤くなる。
最後はリアのせいにして照れを隠してみたけど、あまりうまくいかなかったようだ。
その証拠にリアは満足そうにニッコリ頷いて私を見ていた。
道中、停まる事もなく、公爵家へ無事についた私達。
アンドレア様は、お仕事が長引いているのか、結局、合流は叶わなかった。
城から派遣された騎士の方々がアンドレア様に、無事に到着した事を報告すると言って城に帰られた。
予想していたジェラールが来なかった事に、安堵より拍子抜けしたような感じがする。
やっぱり、私の事など好きではなかったのだと改めて思い知らされるた感じだ。
来てほしい訳ではなかったが・・・。
今は、アンドレア様の事で心は満たされているが、それとは別の場所で忘れられない何かがざわざわとする。
突然、こうなってしまったから、心の整理がつかないだけなのだろうか。
自分こそジェラールに対して家族のような気持ちしか無かったのに、小さな独占欲がまだある気がする。
こういう気持ちを人は何と言ってるのだろう。
時間が過ぎれば無くなるのだろうか。
公爵家の門をくぐれば、執事が深々と頭をさげ、それにならうように、その後ろに控える使用人一同も揃ってお辞儀をし、出迎えてくれた。
自分の家と比べものにならないその人数に圧倒される。
私の緊張で震える足を知ってか知らずか、こちらへと案内されたのは応接室。
調度品などは、派手さは無いものの素人目にも高級品だと分かるものばかりが並ぶこのお屋敷。
馴染める気がしない。
本当に公爵夫人になどなれるのだろうか。

「執事のバルドです。バルドとお呼びください。」

落ち着かれましたら屋敷のご案内をさせていただきます、と丁寧にお茶を入れてくれた。

「アンドレア様がご案内する予定だったのですが・・・」

残念そうにバルドが言う。
私の中ではアンドレア様だって、まだまだ緊張する相手だが、今は側にいて欲しいと思う。
他人の家に1人で取り残されたような気持ちで落ち着かない。
緊張と不安で身体が強張り、必要以上に背筋が伸びてしまう。
そんな中でも出されたお茶を一口飲めば、温かい温度と高貴な香りに癒される。

「本日は客間をお使いください。なにぶん急な事でしたので、準備が整いませんでして・・・。それでも、いいから奥様用の部屋にと、アンドレア様はおっしゃっていらっしゃいましたが、婚姻の手続きも明日には承認される見通しと聞いておりますので、それが済むまで、我慢なさいませと申し上げたしだいで・・・これは、余計な事を!誰も咎める者などおりませんが、ケジメと言いますか、この家を守る者として、大旦那さまと大奥様に顔向けが・・・。」

バルドは私のお父様より少しだけ年齢が上だろう。
髪は黒よりグレーが多く、目じりが下がっていて優しそうに見える。

「大丈夫です。ケジメは大切ですもの。ご配慮ありがとうございます。・・・実は、私も、いろいろ急で戸惑う事ばかりなので、明日に承認されると聞いていても、結婚なんてどこか他人事のように感じています。このような事を言うのはよくないと思うのですが、私自身も戸惑っている事を知っていて欲しいと思うのです。」

本当は、他の方と婚約を捨て早々に公爵に乗り換えた欲にかられた女、と思われたいるのではないかと危惧していた。
どんな風にこの屋敷の人たちに思われたいるのかは、不安の原因の1つ。
バルドの様子を窺うように視線を向ける。

「確かに、この度のことはアンドレア様は早急すぎます。ですが、エルヴィナ様の置かれた今の環境では、こちらへ来ていただいた方がよろしいかと。アンドレア様のためにも・・・。アンドレア様も目の届く所にエルヴィナ様を捕まえておかないと不安なのでしょう。長く見守っていらっしゃいましたからね。」

過去を振り返るみたいに呟くように言うバルド。

「長く?バルドは、アンドレア様がいつから私をご存知なのか知ってるのですか?」

私の中の疑問が1つとけるかもしれないと期待を込めてバルドを見つめる。






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