公爵様のわかり辛い溺愛は、婚約を捨る前からのようです

幕間-⑤

その頃、コーベンヌの屋敷の執事は、いつまでも戻って来ないエルヴィナを心配して、起きたばかりのジェラールに報告をしているところだった。

乗馬をしてくると屋敷を出るエルヴィナに会ったのは、執事と馬の世話係の者のみ。

その後、屋敷に戻って来たエルヴィナを見た者はいない。

最初、あまり重大に思っていなかったジェラールだったが、朝食を終え、食後のお茶を飲み始める頃には気持ちがザワザワと何かわからない不安を感じ始めていた。

とっくに日が昇っているのに戻って来ない事に、屋敷の中は不安の色で濃く沈んだ。

ジェラールや屋敷の者も、近くを馬に乗って探してみたがエルヴィナも馬のクレアスも見つける事はできなかった。

厨房の者が昼の用意でもしようかという頃、エルヴィナの愛馬のクレアスだけが屋敷に戻ってきた。

これにより、エルヴィナの失踪は間違いないと誰もが認識した瞬間だった。

エルヴィナが自分で進んでいなくなるとは言いがたい状況から、どこかで怪我をして動けないのか、または、何かの事件に巻き込まれたのか、判断がつかなかった。

ネーエルドとの国境の砦を守る警備騎士団にも連絡を取り、エルヴィナの本格的な捜索が始められた。

屋敷の者もクレアスに導かれるままに森へと進んでみたが、何も発見する事はできなかった。

後は、この付近の地理も治安の状況も掴んでいる、いわばプロの集団である警備騎士団の持ってくる情報を待つしかなかった。

いつもならすぐに過ぎてしまう午後の時間がやけに長く感じたジェラールたちだったが、何か始めから情報を持っていたのか警備騎士団からは、日が沈む前に、犯人を見つけたと報告があった。

安堵に包まれる屋敷の者たち。

だがそれは一瞬のことで、警備騎士団の者たちの次に告げる言葉で、ジェラールたち先程よりも一層不安を濃くした。

その言葉は、エルヴィナを発見できなかったという報告だった。