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32、見つかる
しおりを挟む初めて呼び捨てにされたなあ、と昊人の顔を見て思った。
「裕?」
「はっ!え~と・・・。」
質問はなんでしたっけ?
いつもは、ちゃん付けだっただけに違う呼び方をされただけ、それがイヤじゃなかっただけでふわふわした気分になる。
しかもあまりにそれが自然すぎて、戸惑うというか混乱すると言うか、とにかく裕の中で現実感が無くなっていた。
「今日は会社の人と食事に行くって言ってたよね?じゃあ、会社の人?」
そう言って、視線と顎で裕の前の席を指す。
つられて裕も前の席を見れば、当然、明人がいる訳で・・・。
なんと説明したら誤解を受けずに済むか急速回転で思考が回り始める。
でも、悲しいかな、何も思い浮かばない。
唇を少し強めに噛んで黙り込むのは、よけい怪しいが仕方が無い。
明人が見かねて言葉を引き受けた。
「あの・・・。初めまして、伊能 明人といいます。裕・・・加藤さんとは会社は違うのですが、一緒に仕事をしていまして。今日も今後の改善点と言いますか、現場の声を聞かせてもらおうと思って、僕が食事に誘いました。えーと、ところであなたは?加藤さんの友人?」
会った目的は違うが、仕事の話をして食事をしていたのは本当の事。
明人の言っていることに嘘は無い。
それでも、裕は後ろめたさを感じていた。
「そうでしたか・・・。失礼しました。僕は嘉瀬 昊人といいます。裕とは、お付き合いをさせていただいてます。」
「お付き合い?」
明人は目を見開いた。
さっき聞いたばかりの新情報である、裕の新しい彼氏が目の前に現れたことに多少のショックを覚えた。
「ええ。・・・なにか?」
いいえ、なんでもないです、と小さな声で呟く明人。
その態度に昊人の中で何となく思っていた裕の元彼ではないか、という疑問が確信に変わった。
だとすれば、一刻も早くここから裕を連れ出し、元彼から引き離したいと考えが纏まる。
「お仕事の話はもっとかかりますか?僕もこの店で仕事の打ち合わせをしていたのですが終わりましてね。よかったら彼女と一緒に帰りたいのですが・・・。」
自分と一緒に帰りたいという昊人の言葉に裕は驚いた。
今日は会えないと思っていたので、会えるのは嬉しいが、この明人と一緒にいた状況は絶対誤解している気がする。
だって、いつもより声が低い、低すぎる。
一緒に帰ったらケンカしそうで恐い・・・負ける。
ちょっとだけクールダウンがほしい。
「え!だ、大丈夫ですよ!大方、終わりましたから。一緒に帰っていただいていいです。じゃあ、加藤さん、また会社で!」
さよなら、とばかりに明人は裕に手を振る。
寄りを戻したい、と言っていた明人だったが、既にその件はケリがついていた。
そうなれば、面倒ごとに巻き込まれるのはゴメン、とばかりに裕に熨斗を付けて昊人に差し出す。
その掌を返したような明人の言葉に、ちょっとだけムッとしたが、痴話げんかに巻き込まれることは自分も嫌だと思うので明人を理解できた。
ここは諦めて大人しく行くしかないと裕は思った。
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