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26話
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美しい装飾が施された扉の前に、ジェラルドは立っていた。
何度も扉をノックしようと手を近づけては、すぐに引っ込める。先程からそれの繰り返しだ。何の変哲もない扉が、ひどく恐ろしいものに思えた。
固く閉ざされた扉の先にアデリーナがいる。彼女の世話を頼んでいるメイドの話では今日は調子が良さそうだったと聞いていた。
いつも伏せっている彼女が珍しく起き、朝食まで食べたそうだ。しばらく話もしたらしい。良い時にきたとメイドは朗らかに笑った。
そう聞いても、ジェラルドの臆病な心は縮こまったままだ。どうしても、数ヶ月前にアデリーナの病室を訪れた時の記憶に苛まれる。
あの時は混乱しており、アデリーナの心情も慮らず、押し入ってしまった。冷静さを欠き、自分のことしか見えていなかった。
だから、アデリーナを傷つけ、拒絶された。
『や……見ないで!』
記憶に残る怯えた緑の瞳がジェラルドの手を振るわせる。愛する者に拒絶されるのはひどく堪えた。その瞳が以前は自分を見て喜びと安堵を浮かべていたのならなおのこと。
もし、あの夢が心を壊しかけたジェラルドの願望が見せたものでしかなく、現実のアデリーナは傷ついたままだったら?
ジェラルドに会うことなど望んでおらず、むしろアデリーナを苦しめることになってしまうことになってしまったら?
そんな不安がジェラルドの心の中に渦巻く。
だが、怖気づくジェラルドを励ますようにあの声が蘇る。
『きっと来てね。私、待ってるから』
思えば、違和感は最初からあった。
婚約を解消しようと初対面から傲慢な言動を取り続けていたアデリーナが、何故夢の中では一切そのような態度を見せなかったのか。
エスコートをしようとした時、彼女がずっとジェラルドの右腕だけに手を添えていたのは果たして偶然なのか。
アデリーナが紅茶を零した日、彼女の様子がどこかおかしかったのは一つ前の夢でジェラルドが正体を明かしたのとは無関係なのか。
『でも、あなたはそんなことで婚約をやめるような人じゃないわ』
『だから、なのね……だから、私は今、こんなことになってるのね……』
『一応私はあなたの婚約者になるんだし、醜い火傷が残るのは良くないものね』
『あなたったら一度様子を見に来たきり、会いに来てくれないじゃない。……私、ずっと待ってたのに』
夢の中での数々の不可解な彼女の言葉は、ジェラルドと同じく記憶があったからなのではないか。魔女の秘薬を飲んだジェラルドが記憶を持ったまま夢を繰り返したのなら、同じ秘薬を飲んだアデリーナもそうだったと何故思い至らなかったのだろう。
ジェラルドは勇気を振り絞り、扉をノックする。
少しの間があり、中から入室の許可がでた。
ジェラルドは一度大きく深呼吸をして、扉を開けた。
日当たりの良い室内は清潔に整えられていた。開け放たれた窓からは鳥や人々の楽しげな声が聞こえる。
アデリーナはあの日と同じようにベッドの上にいた。上半身を起こしているが、長い髪に隠れてその表情はわからない。
「アデリーナ」
名前を呼ぶとアデリーナが顔を上げた。
その顔には火傷の痕がある。以前よりは大分薄くはなったが、それでもはっきりと火傷とわかる傷痕。
緑の瞳がジェラルドに向けられる。ジェラルドを見つめ――アデリーナは柔らかく微笑んだ。
「やっと来てくれたのね。ずっと、待ってたんだから」
ジェラルドは弾かれるようにベッドに駆け寄ると、アデリーナを抱きしめた。
何度も扉をノックしようと手を近づけては、すぐに引っ込める。先程からそれの繰り返しだ。何の変哲もない扉が、ひどく恐ろしいものに思えた。
固く閉ざされた扉の先にアデリーナがいる。彼女の世話を頼んでいるメイドの話では今日は調子が良さそうだったと聞いていた。
いつも伏せっている彼女が珍しく起き、朝食まで食べたそうだ。しばらく話もしたらしい。良い時にきたとメイドは朗らかに笑った。
そう聞いても、ジェラルドの臆病な心は縮こまったままだ。どうしても、数ヶ月前にアデリーナの病室を訪れた時の記憶に苛まれる。
あの時は混乱しており、アデリーナの心情も慮らず、押し入ってしまった。冷静さを欠き、自分のことしか見えていなかった。
だから、アデリーナを傷つけ、拒絶された。
『や……見ないで!』
記憶に残る怯えた緑の瞳がジェラルドの手を振るわせる。愛する者に拒絶されるのはひどく堪えた。その瞳が以前は自分を見て喜びと安堵を浮かべていたのならなおのこと。
もし、あの夢が心を壊しかけたジェラルドの願望が見せたものでしかなく、現実のアデリーナは傷ついたままだったら?
ジェラルドに会うことなど望んでおらず、むしろアデリーナを苦しめることになってしまうことになってしまったら?
そんな不安がジェラルドの心の中に渦巻く。
だが、怖気づくジェラルドを励ますようにあの声が蘇る。
『きっと来てね。私、待ってるから』
思えば、違和感は最初からあった。
婚約を解消しようと初対面から傲慢な言動を取り続けていたアデリーナが、何故夢の中では一切そのような態度を見せなかったのか。
エスコートをしようとした時、彼女がずっとジェラルドの右腕だけに手を添えていたのは果たして偶然なのか。
アデリーナが紅茶を零した日、彼女の様子がどこかおかしかったのは一つ前の夢でジェラルドが正体を明かしたのとは無関係なのか。
『でも、あなたはそんなことで婚約をやめるような人じゃないわ』
『だから、なのね……だから、私は今、こんなことになってるのね……』
『一応私はあなたの婚約者になるんだし、醜い火傷が残るのは良くないものね』
『あなたったら一度様子を見に来たきり、会いに来てくれないじゃない。……私、ずっと待ってたのに』
夢の中での数々の不可解な彼女の言葉は、ジェラルドと同じく記憶があったからなのではないか。魔女の秘薬を飲んだジェラルドが記憶を持ったまま夢を繰り返したのなら、同じ秘薬を飲んだアデリーナもそうだったと何故思い至らなかったのだろう。
ジェラルドは勇気を振り絞り、扉をノックする。
少しの間があり、中から入室の許可がでた。
ジェラルドは一度大きく深呼吸をして、扉を開けた。
日当たりの良い室内は清潔に整えられていた。開け放たれた窓からは鳥や人々の楽しげな声が聞こえる。
アデリーナはあの日と同じようにベッドの上にいた。上半身を起こしているが、長い髪に隠れてその表情はわからない。
「アデリーナ」
名前を呼ぶとアデリーナが顔を上げた。
その顔には火傷の痕がある。以前よりは大分薄くはなったが、それでもはっきりと火傷とわかる傷痕。
緑の瞳がジェラルドに向けられる。ジェラルドを見つめ――アデリーナは柔らかく微笑んだ。
「やっと来てくれたのね。ずっと、待ってたんだから」
ジェラルドは弾かれるようにベッドに駆け寄ると、アデリーナを抱きしめた。
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