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2章・攻略対象者との出会い

7話

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アイザック様の突撃なくなり、以前のような平穏な日常に戻りました。
ごきげんよう、ナヴィリアです。

相も変わらず、午前中は大賢者のお爺さんと討論をしています。
ただ、以前と違うのはそこに殿下やアイザック様達がいることですね。
互いに将来助け合う者同士なのでとても仲が良く見えます。ニコニコしながら火花散ってますけど。
えぇ、私は知りません。
仲がいいんですよきっと。多分、少しは。

、、、平穏、とは、どこにあるんでしょうか。
あ、ない?そうですか。

とりあえず2人とは無関係を装ってお爺さんと会話を続けます。
そして、もう1人、会話に入ってくるのが
「ナヴィリア嬢、ごめんそれはどういう意味なの?」
「え?あぁ、これですか、これは、、、」
「へぇ、そういう繋がりなんだ、面白いねこれ」
「ほっほっほっ、コールズ様は陣錬成に興味がおありのようですな」
「うん、僕の使ってる魔法剣にも小さくだけど入っているから、折角ならちゃんと学びたいなって思って」
「良い姿勢ですな、子息の持つその魔法剣ならばこのような陣が組み込まれておられるでしょう」
「へぇ、これがさっき教えてもらったやつだから、ここが繋がってると、、、」

そう、攻略者その3と称されますはユーリ・コールズ伯爵子息様ですね。
父親が現騎士団長様です。
何度か対戦しましたがとても強かったです。
あ、いえ、勝ちましたけど。

この世界、魔法剣はあるものの私の想像していた“魔法を纏わせた剣で戦う”のではなく
“剣としても使えて魔法用の杖としても使える”といった便利グッズでした。
そんなの魔法剣じゃない!と思い立ち作りました。私の思う魔法剣。
そして案の定陛下に「また目立つもん作って!どうすんのさー!これー!」と怒られました。
でもかっこいいですよね、これ。といったら静かにサムズアップされました。ロマンですね。

でも名前が混同してはいけない、とこちらは“魔術剣”と名付けられました。ギリギリを攻めました。
某・ミ○キーをパクった人みたいな気分です。したことないけど。

そして、その剣の試運転に団長と試合をしました。
団長はとても気に入ったみたいで、この剣は内密に、となっていたのを陛下に頼み込んで団長だけ特別に使用許可が出たとの事。
嬉々として魔獣に振るっていると部下さんが言ってました。喜んでいただけて何より。

そんな方を父にもつ当のご本人はというと
「あの、ユーリ様!」
討論が終わり解散するため部屋から出ると、メイドさんが駆け寄ってきました。
「うん?あ~、どうしたの?」
あ、絶対この人の名前覚えてないな。

またか、と思ったナヴィリアはそっと討論していた部屋に戻り扉を閉めた。

まだ中に残っていたレオンハルトとアイザックは不思議そうにこちらを見た後、外から聞こえるユーリとメイドの声に察し、呆れた顔を見せ

「また?」「今度はどこでひっかけたんですかね」
「どうせ今回の人も名前とか分からない状態でしょ?」
「、、、みたいですね」
なんて会話をしていたら。

「、、、っ!嘘つき!ユーリ様なんて嫌いです!」
とメイドさんが叫んでバタバタ聞こえ、外が静かになりました。
その後ガチャ、と入ってきたのは全く悪びれる様子もないユーリ様。
、、、鍵閉めとけばよかったな。

「すみません、お騒がせしました」
「ユーリ、いい加減やめたら?」
「いやー私は普通に接しているだけなんですけどね~」
「普通、、、?」
「、、、ユーリ、例えば?」
「例えば、ですか?」
「、、、腰を抱き寄せたりとか、相手をべた褒めしたりとか、手にキスするのは?」
「女性に対して普通のこと、マナーですよ」
と、しれっと言うユーリ様
「なわけないでしょ!!だから恋人と勘違いして毎回毎回違う女の人がここの部屋に押しかけてくるんじゃん!!」
めんどくさいからユーリ様いい加減辞めて!!と悲痛な声を上げるアイザック様と、何も言わずため息を着くレオンハルト様。

でもすごいですよ、ほんとに。
前に私が最初に部屋から出た時5・6人程が扉前に立っていて、私を見るなり舌打ちして睨んできましたから。全員からのヘイトが恐ろしかったです。
お前じゃない、ですね、はい。
その後に続いてユーリ様が出てきたらコロッと態度変わって、素直に関心しました。恋って凄い。

ここまで話せばわかると思いますが、ユーリ・コールズ伯爵子息はとんでもないほどに女の方にモテる、しかし相手するくせに全く当人に興味を持たないだいぶクズ街道まっしぐらな人でして。
これでまだ、齢12歳ですよ。マダムキラーがすぎる。将来が恐ろしい。

こんなことがだいぶ続いてまして。2ヶ月程が経過しました。
いつもの午前中の討論が終わり、午後の魔法練習も終わらせた帰り道で男女が喧嘩をしているところに鉢合わせました。
、、、喧嘩というか女性の方が一方的に怒ってて男性の方は、あぁクズ、、、おっと失礼、口が滑りました。ユーリ様ですね。

、、、あ、殴られた。

横を通り抜ける勇気もないのでしばらく離れた所で傍観してたら女性の方がヒートアップしてグーで思いっ切り顔を殴った後去っていきました。
「自業自得ですね、ユーリ様」
「あれ?ナヴィリア嬢、見てたの?」
「ええ、ここを通りたかったので」
では、ごきげんよう、とそのまま帰るつもりでした。
「ちょっと待って?見捨てるの?ナヴィリア嬢」
はい、案の定捕まりました。その顔を冷やせと?

仕方が無いので私が貸切にしてもらっている練習場に戻り椅子を引っ張ってきて並んで座りながらユーリ様の顔を冷やしていました。
そろそろ引いたかな、という所で氷嚢出して
「セルフで、どうぞ」と差し出した。
「せる、なに?」
「いえ間違えました、後は自分で冷やしてください」
あっぶな向こうの言葉だった。

「ナヴィリア嬢は冷たいなー」
「いえ、コールズ様程ではないですよ」
「えー?僕ほど優しい人他にいないよー?」
表面上は・・・・、そうかもしれませんね」
「、、、あは、バレてたの?」
「、、、」
「だってさー、皆、顔しか見ないんだもん」
あとはちょっと優しくしたらコロって。
と、無邪気に笑うユーリ様。こわ。

「なぜそれがわかっていて続けるんですか?」
「、、、愛ってそんなもんじゃん?」
「、、、はい?」
「あは、すんごい顔。なまじ顔が整ってると迫力がすごいねぇ」
「はぁ、そうですか、、、では。」
「ちょっとちょっと、まったくもって解ってないなー?」
「いえ、すごくどうでもいいなって思ってしまって」
それよりも、もうすぐある夕飯の方が大事。

「まぁまぁ、聞いてってよ。、、、うちは親がさぁ政略結婚で、全然仲良くないんだけどさ」
あれ、語りが始まってしまった。
このまま退散しようとしたのに、出来なくなってしまった。
、、、私の夕飯、、、なくなる、、、

遠い目をした私を他所にユーリ様がサラサラと話し出したのは、両親が政略結婚な為、自分は全く見向きもされず、会話でさえもほとんど無いような家庭に育ったとの事で。
ただ、屋敷で働いてる人達は哀れに思ってなのか彼に対してすごく優しく接してくれていたそう。

、、、騎士団長、魔物に嬉々として斬りかかってく人なのに?
家だと厳格な無口な人だそうです。びっくり。
「僕も驚いたよーまさかあんなに明るい人だなんて知らなかったからさー」
「家だと照れて無口になってるとか、、、」
「あはは、ないない、むしろあり得ると思う?」
「、、、私の口からは何も言えません。」
「あは、それもう言ってるようなものだよね」
ユーリ様、さっきからニコニコ笑ってはいるけど目が全然笑ってない。怖い。器用だなこの人。

「、、、たぶんさ、母上の事も僕の事も嫌いだからああいう態度とってるんだよ」
「、、、まだ、分からないじゃないですか。」
「照れてるかもって?」
「いえ、それはもう忘れてくださって結構です。」
「えー?」
ニコニコと笑いながらこちらを見てくるユーリ様。だから目が笑ってないんですよ。

何なんでしょうかこの人。
夕飯が私を待っているのに。お腹が栄養を求めてるのに!!
魔法使いはエネルギーを使うからか魔法を使った後は食欲が強まる為、さっきまで魔法練習してた私からすればもう拷問なんです。別に拷問されてゲロってしまうような秘密の情報とかないですけど。

「誰も僕を心から愛してはくれないんだよ。そもそも愛がなんなのかもわかんないし、ならそれっぽいのを上辺だけでも沢山の人から貰えたらそれでいいじゃん?」

1人から深い愛なんて貰えっこないしね~と笑うユーリ様
いや周りへの迷惑がすごいからやめて欲しい。切実に。アイザック様が余計に発狂しちゃうから。

それにしても、政略結婚かぁ
レオンハルト様の所も政略結婚だけど、後から愛情芽生えて今でもラブラブだって執事さんが言ってました。
目のやり場に困る、とレオンハルト様が苦笑いしてたのを覚えているので随分とお熱くいらっしゃるなと思いました。

ただ、ここのお国柄か分かりませんが離婚が結構あっさり出来てしまうんですよ。
しかも別にそれが傷になって後の婚姻に響くとかもよっぽどでなければ無いみたいで。
それを考えると、仲悪いのに離婚しないのは何故なんでしょうか。

「騎士団長は婿入りなんですか?」
「いや、母上が子爵家から嫁いで来たはずだよ」
「その子爵家はとても力の強いお家なんですか?」
「、、、何が聞きたいの?」
「いえ、何故そんなにも仲が悪いのに違う人生を歩まないのか、と思いまして」

離婚ってオブラートに包むの難しいな
これで合ってるんでしょうか。
「ふっ、違う人生を歩むって、、、ふふっ、、、」

違ったみたいです。
やめてください、そんな生温い目でこっち見ないで。間違ってるのはわかったので。

「ごめんってそんな可愛い顔で睨んでも怖くないよ」
うわ、前回もスルーしましたけどやっぱりキザだ。
そんな整った顔の人に言われても説得力の欠けらも無いのに。

「、、、また分かってない?」
「なんの事ですか?」
「はぁー殿下もアイザック様も時々思考停止するし、城の皆も君を見たら立ち止まるんだよ?」
「私が突拍子もないことをするからでは?」
領地では皆が私を変人扱いしてくるので、同じだと思ってましたけど。違うんですか?
「、、、まぁ、いいか。それで、母上の家格だっけ?」
「はい」
「母上は社交界の華って言われてたくらい綺麗な人でね、上の爵位の人まで随分と縁談が来てたんだって聞いたよ。だけど、来てた縁談で選んだのは父上の伯爵家だったはず。」
「団長は、顔で選んでいらっしゃった?」
「さぁ?随分と前から申し込んでたって言ってたし、子爵家も母上のおかげで随分とあちこちに縁ができたからそれを狙ってって言うのも有り得るけど」
「お顔に一目惚れはありえない、と?」
「そうじゃなきゃ今の状態はありえないでしょ?」
「強情ですね」
「君は見てないんだから分かるはずもないでしょう?」
「それはそうです、ですが見てないからこそ違う視点からも考えられるんですよ」
「それで、本当は照れてるだけかもって?」
「しつこいですね、いつまで引きずるんですか」
「あは、ごめんって。でも、別にもういいんだ。2人からの愛情はもう貰えないって割り切ってるから。」
と言ったユーリ様の顔は凄く寂しそうで割り切れてなんてないってありありと浮かんでいました。
「、、、コールズ様はレオンハルト様の様にご両親から愛されたいんですね」
「、、、あれー?人の話聞いてなかったのかなー?」
「はい、聞いてますよ。ですがさすがにあれに憧れるのは辞めておいた方がいいですよ」
あんなにベタベタに甘やかされてたら砂糖吐きますから。レオンハルト様もあの環境でよくあんな立派に育ちましたよね。天才ってああいうのを言うんでしょうか。

「うーん、聞いてるようで聞いてないねー」
「殿下の所みたいになるにはご両親が愛し合ってなければその子供に愛情は行かないと思います。それはコールズ様もお分かりだとは思いますが。」
「うん、さっき言ったね」
「はい仰ってましたね。ですが、コールズ様のやり方はハッキリ言って間違いです」
「間違い?」
「コールズ様は軽いことしか言いません。」
「、、、直球だね?」
「それなのに、重たい愛が帰ってくる訳ありません」
「別に、軽いのを沢山貰えれば重たい愛になるでしょ?」
「いや愛に質量保存の法則とかないので。ラボアジエが否定しますよ。」
「ラボ、だれ?」
おっと、間違えた、向こうの人だった。

「、、、私の知る偉大な方です」
別にこう言っても間違っては無いですから。
偉大ですよ、質量保存の法則を見つけた人ですし。物理習ってた時は呪いたくなる程頭抱えましたけど。出来ればもう二度とお目見えしたくは無いですね。あの公式は。

「僕は君みたいに誰かから真剣に好かれるなんて出来ないから」
「真剣、、、?はちょっと分からないですけどそうですね、今のやり方ですと本当の愛とかは貰えませんね」
「じゃあどうすればいい?」
ユーリ様はさっきの軽薄そうな笑顔は無くなり歳相応の幼い、少し不安そうな少年の顔になりました。
「愛情は沢山あげてやっとひと握り帰ってくる、そんなものです。」
「、、、足りないってこと?」
「はい、自分の顔が良いからってちょっと褒めただけで愛が貰えると思ったら大間違いです。」
「そんなこと言ったって、それ以外に方法を知らないから、、、」
「まずはご両親に、寂しかったと伝えてみては?」
「いや、だから何回も言ってるけど両親は仲が悪いんだってば」
「本当にそうですか?私からすれば十分仲がよろしいかと思いますが。」
「嘘だ」
「騙されたと思って言ってみません?」
「あの父上に、言うの?」
「明るい団長をお望みなら、私がお隣にいてもいいですけど、、、」
多分試合を申し込まれてそれ所じゃ無くなりそうなんですよね。あの人狂戦士バーサーカーの素質ありますし。
「ううん、まずは母上に言ってみる」
「はい、是非そうして見てください」
そして早く解放してください。お腹がずっとグルグルと鳴っているんです。私のお世話してくださってるメイドさんが私が一向に戻ってこないからか練習場から少し離れた所で待機してるんですよ。チラチラと姿が見えるんです。ご迷惑をおかけしてます。

今日はなんですかって聞いたらニコニコしながら内緒ですって言ってたんです。あれは絶対にシチューです。私が好きなので、この世界のシチュー。美味しいんですよ。チーズたっぷりで。

「僕が親に嫌われててもナヴィリア嬢は嫌いにならない?僕を見ていてくれる?」
「、、、そんなことで切れるような友人関係ではないつもりですが。肩書きなんて関係ないですよ」
「友人、、、そっか。うん、ありがとう。勇気が出てきたよ」
「そうですか、それは良かったですね」

そして解放されました。
にこやかに「夕食どきにごめんね」と謝られました。
分かってたんですね、余計にタチが悪いなこの人。
でも私はそれどころじゃ無かったので「いえお力になれたなら良かったです、ご武運を祈っております。」といってメイドさん拾って、ダッシュしそうな心を押さえつけながらそのまま食堂に直行しました。
やっぱりシチューでした。幸せ。シチュー最高。
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