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2章・攻略対象者との出会い

12話

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彼の部屋は私の部屋の二つ隣でした。間の部屋は何故か空いていました。外聞でしょうか。

ノックして、挨拶しても物音1つしなかったのでガチャって扉開けた途端びっくりするほど大量の水がこちらに流れ込んで来ました。随分と新手の魔力暴走でいらっしゃる。中に入れば一面氷の世界で、雪だるま作ってた姉妹の姉が住んでそうな部屋だなと思いました。寒い。
取り敢えず全て魔力ぶつけて消した後、セリウスを探すとベッドと壁の隙間に縮こまって震えながら収納されていました。まだ暴走は続いていたようで、周囲が吹雪いています。
こちらを見れず、小さくごめんなさい、と何度も呟いていて6歳になんて仕打ちをしたのか。とこの光景だけでもう既に胸が痛いです。

さぁ気分はム○ゴロウさんで行きましょう。
「怖くないよーなんも痛いことしないよー私は貴方の味方だよー」と声を掛け続けていたらごめんなさいの声が止まり、チラリとこちらを見て「嘘じゃない、、、?」と震えた声で聞いてきました。
ニコリと笑って「嘘は何かを守る為に使うものであって、今は危ないことも怖いことも無いから、嘘は必要ないの。でも何かあったら必ず貴方を守り通すからね。約束する。」と言いました。頑張れ私の表情筋。

嘘を付く付かない以前に、そもそも私は嘘が苦手すぎて直ぐにバレてしまうし、むしろ酷い目にあったりする為、苦肉の策でオブラート使うようにしても直ぐに破りさかれてしまうので、もうこの辺りは打つ手なし、と開き直りかけています。前世社会人でしたよ、私。

少しずつ暴走が収まって来て、吹雪が止みました。
私は少し離れたソファに座り、おいで~の意味を込めて両手を広げて待ち構えてみました。
じっと見ていたセリウスは暫くするとそろそろと隙間から出てきてこちらを伺ってきたので頷いてもう一度腕を広げると駆け寄って来ました。
「良く今まで頑張ったね、偉い、偉いよ」と抱きしめて、背中をさすりながら褒めまくります。
、、、ム○ゴロウさんってこんな感じでしたよね?
弟を動物扱いは果たして正解なのかは分かりませんが暫くするとポロポロと泣き始め次第に大きくなり、前話の大泣きになる訳です。
ふー、説明終わったー

あの後、暫くすると魔力暴走していたのと泣き疲れもありすぐに眠りにつきました。
随分とボロボロで、ここへ連れてきてから誰もお世話をできていないのもあり、今すぐお風呂に入れてあげたいですが今はやめて置いた方が良い気がします。野生の勘です。
浄化魔法で取り敢えずの汚れは綺麗にした後、手を握り締められたまま眠ってしまったのでそのまま傍に居ることにしました。
随分を気を張っていたのか一向に起きる気配がないので、先程母から頂いたセリウスに関する調査書を読むことにしました。

結論から言います。
ちょっとこの親戚滅ぼしに行ってきてもいいですか?
と息巻いていたのに後々母に止められたので踏みとどまってはいます。とても黒い笑顔だったので恐らく私の出る幕なく没落か、より酷い環境に身を落とすことになるでしょう。ざまぁ、です。

兎にも角にも、彼らの仕打ちはそれぐらい酷かったです。
まず、部屋は地下牢。食事は与える人の機嫌が良ければパンとスープが与えられ、悪ければ水のみ。
6歳とは思えないほどに身体が小さかったのはこういう理由でした。栄養不足が影響していたみたいで。
更にたった2歳の頃から本家である我が家に取り入るために随分と酷なことを強要していたみたいで、虐待やハラスメントのオンパレードになっていました。中には私にハニトラ仕掛けて当主の座を奪ってこい、みたいな事も言っていたみたいでして。
ハニトラ仕掛るためにその仕込みもしていた、と考えたら、そりゃ人が近づくだけでパニックになって魔力暴走を起こしますよね。こんな小さな子供に対してなんて事を。
報告書を読んだだけで、実際にその現場を見た訳ではありません。でも心が凄く苦しい。なんで、自分の子供にこんな事が出来るんでしょうか。私にはどうしても考えられない事です。子供の私には何も出来ない事が、力がない事がとても悔しい。

ボロボロと涙が止まりません。
この子の心の傷はどうやったら治るのでしょうか。
先程お風呂に入れようとしなくて正解でした。野生の勘すごい。
心の傷なんて一生治らないと思って接した方がいい気がします。
私に、何が出来るでしょうか。
ただそばに居て守ってあげることしか出来なくて。でも誰か心を許す人がそばに居るだけで随分と心が楽になることは知ってます。

王都なんかに居る場合ではないですね。
明日帰る予定でしたけど、このまま帰らないでこの子のそばに居ましょう。うん、それが良い気がします。帰るのは違いますよね。
、、、言い逃げしてこちらに来た為、帰った時の反応が恐ろしいからこう言ってるわけではないです。決して。

止まらない涙をそのままにじっとセリウスを眺めていると視線を感じたのか目を覚まし「ねぇ、さ、ま、、、?」と呟きました。
寝起きで舌っ足らずなのが可愛いですね。
え?犯罪の匂い?気のせいです。

「はい、貴方の絶対的味方の姉様ですよ。」
「、、、ないて、る、、、?」
「、、、少し。自分が情けなくて。どうしてもっと早くに気づいてあげられなかったのか、と。」
「きづ、く、、、?」
「貴方をもっと早くに助けられたはずなのに。」
雀の涙程の知識でも、この子は『幼少期に酷い目にあっていた』という内容は知っていて、でも大っぴらに親戚に「あなた子供虐待してない?」とは聞けないし、おそらくは上手く隠されてより見付けづらくなっていて。結果母に丸投げで。後継者候補の子がもしかしたら虐待されてるかも、とやんわり伝えた所何かを察したのかすぐに行動に移してくれて。すぐにセリウスが家に来て。
もっと早く、記憶が戻った時に母に伝えていたら?記憶が戻った時には既に虐待は始まっていたもののもう少し傷は浅かった?
転生に浮かれていた自分が恥ずかしくてたまらない。
地球と同じ、みんな生きてて、感情もあって、苦しんでいる人が沢山いるのに。
後悔でいっぱいなのにセリウスは不思議そうに
「うぅん、僕、は姉様に、助けられて、幸せだよ、、、?」と伝えてくれました。なんてピュアっ子。
「セリウス、貴方はきっと向こうでたくさん酷い事をされて、沢山傷ついて沢山悲しんで、辛かったと思うの。そうやって受けた傷はきっと直ぐには治らないし、無理して治す必要も無くて、、、今は沢山したいことをして、のびのび暮らしてもっともっと幸せだって思う事をしましょう?私がなんだってとことん付き合ってあげるから。」
贖罪、もあるけれど、何にも囚われず普通の子供として沢山遊んで、食べて、寝て、学んで、幸せになって欲しい。
成程、これが“守りたいこの笑顔”って奴ですね。えっ、違う?

「、、、う、ん?姉様、ずっと、、、一緒?」
「えぇ、貴方が嫌がらない限り。」
「嫌がるなんて、絶対、ないよ」
「そう、、、言って貰えると嬉しい。ありがとう」
「えへへ、どういたしまし、て、、、?」
互いにニコニコと微笑みながら“ずっと一緒”と約束しました。
まだ、微笑んだりとかの感情が表れるようで良かったです。
さーまずは健康にさせましょう。



「、、、で、申し開きは?」
「アスタロン家の存亡がかかっていたので。」
「よーしナヴィリア嬢、君の両親の肩書きは?」
「剣聖と大賢者ですね」
「存亡するとおもう?」
「、、、万が一がありますので」
「それもう殆どないね?」
「、、、すみません、どうしても行かなきゃ行けない気がして。」
「あー、アスタロン家の養子の報告は受けてるよ。随分な数の貴族が滅んでるから。現在進行形で。」ファミアが随分と暴れてるみたいだね~と遠い目をしている陛下がおりますのは執務室です。
、、、ここへは常連さんですから。私。

セリウスと会って1週間程は一緒に居たのですが、いい加減に帰って来い、と王家から手紙が届きました。封蝋の模様見てそのまま捨てようかと思いました。弟達の教育に悪いのでしませんけど。

なんでも、レオンハルト様はニコニコしてはいるものの随分と憔悴しているし、アイザック様も同様。
ユーリ様はその2人の世話で疲れてどこかへ逃走するし、フィリム団長は手綱を握る人が居ないため大暴走をしているとの事。崩れるのはやいな。
仕方なしに、セリウスのお昼寝タイムに転移でこちらに戻ってきて陛下にお目通り願った所今に至る訳です。
でも私としてはセリウスと一向こうで一緒に暮らしたい為、必死に交渉したもののOKが出なかったので、最終切り札、いきます。
その名も『こっそり帰ればバレないんじゃね?』です。

大賢者のお爺さんとの討論にはさすがに出ないとバレますけど、それ以外は基本自由行動なのでその時間は領地に帰ってセリウスと過ごす事にしました。転移魔法覚えてよかった。
メイドさんには必死にお願いして共犯になってもらいました。、、、脅してないですよ。ただ弟の境遇を伝えたところ「そばにいてあげてください!」とボロ泣きで協力を申し出てくれました。

ということで始まりました。二重生活。気分は浮気者です。したことないけど。

そしてバレました。開始から3日です。はやい。

「あ、おかえりナヴィ。今朝の弟君の調子はどうだった?」とレオンハルト様に言われました。なぜ。
、、、ナヴィがあっさり引くわけない、ですか。大正解ですね。メイドさん、流石に王族には逆らえなかったみたいで。迷惑をかけちゃいました。

でもこの生活のOKはでました。
抜け穴すぎるでしょ!言ってよ!無言でなにしてんのさー!とは陛下に怒られましたけど。
だって最初に却下したじゃないですか。転移で行ったり来たりするの。と言ったら目をそらされました。陛下?
ロゼにも毎日会えるのであの子も随分と機嫌が良くなりました。元気に庭を走り回っております。えぇ、暴走気味に。
魔の森にも父と討伐に出掛けているので、少なくとも壺を降らせてワタワタしていた頃よりもずっと強くなりました。レーザー放つ熊は瞬殺です。ラブアンドピースは裸足で逃げ出しました。

セリウスは魔法に興味があるのか森に行くのにも時々着いてきて目をキラキラさせながら眺めて居ました。
嬉しくなって調子に乗って魔法使いまくっていたら「やりすぎだ」と父から拳骨が飛んできました。
この“やりすぎだ”は、周囲破壊とかではなく、ほかの戦士たちの獲物を残してやれ、のやり過ぎだ、です。決してあの団長・・・・とは違いますから。決して。

そうして、のんびりと過ごしていたらセリウスは初対面の人にもにこやかに挨拶ができる穏やかな子に育ちました。
最初はロゼとも姉の取り合いだ、とかで争っていましたが何があったのか今は凄く仲良く過ごしています。尋ねても「わたし、結託・・したのです!」や「同じ人が好きで同じ理由でそばに居たいのだから争う必要はないかなって」と言われました。
同じ理由?と尋ね返すと微笑まれて誤魔化されました。いつの間にそんな技術を学んだんですか。
、、、あぁ、幼少期、、、おのれ親族。

はい、我が弟は強かな子にもなりました。
受けてた教育全部吸収してちゃんと活かしているみたいです。末恐ろしい子です。
スパルタ教育の片鱗見ると未だに怒りが出てきますけど。
ちなみに悪親族は「子供にそんな教育・・が出来るのなら貴方たちも出来るわよね?」と真っ黒の笑顔で母が魔の森や隣国の外交に走らせました。
魔の森に行った人達は大泣きで私に助けを求めてきたのでにっこり笑って転移で森の中心に置いてきました。結界はつけてあげたので死ぬことは無いでしょう。たぶん。
上手く笑えてたかは別です。悪親族さん達の顔が引き攣っていたので失敗してそうですけど。

外交に行った人達は消息不明です。行った国が山賊がおこした国、と少々野性味溢れる方々の御国ですから知恵をかわれたか、反感をかって追放されたか。
まぁ、小さい子供にハニトラ習得させようとするぐらいですから、きっと上手く取り入って生活してるでしょう。決して良い生活では無いでしょうけど。

あそこは最近国おこしをしたばかりなので娯楽もなければ生活もそこまで豊かでは無いはずです。
アスタロン家からも随分な数の支援物資を送っているので何とか生活は・・・できている、と言った具合だと思います。今まで贅沢三昧だったんですから、きっとその生活は苦しくてたまらないでしょうね。セリウスの受けた傷に比べたら全くもって軽いですけど。ざまぁ。

何はともあれ、妹弟が仲良くて嬉しいです。
ロゼの言う結託の意味は全くもって分かりませんでしたけど。本人もあまり理解していなかったみたいなのでそんなに意味は無いと思います。たぶん。
何度か2人を連れて午前の大賢者のお爺さんの元にも訪れました。討論内容はさすがに分からないみたいで2人はそれぞれ私の手を握り、セリウスはじっと会話を聞くのに徹し、ロゼはレオンハルト様達をガン見しながら卓上に置かれたお菓子をずっと食べてます。お菓子食べるのはお昼に響くからそろそろ辞めなさい。あとガン見も気まずいから辞めてほしい。

これで時々連れてきて、慣れてき次第王都にあるタウンハウスに子供達だけで住むことになっています。最初は城に住めばいいじゃん、と陛下に言われましたが丁重にお断りしました。
城だと誰かが必ず側に居るので研究・・が出来なくなるじゃないですか。オタク極めるのならこっそり出来る家の中庭でも充分ですから。

と思っていたのにいざその生活になると毎日のように彼らが来る為城でも家でもあまり変わりはありませんでした。
そうなるとあとはもう気分の問題ですね。気を使うか使わないか。ぐらいです。

相変わらず執務室常連は変わりませんでしたけど。
、、、ユーリ様また報告しました?にこにこしながら呼出状突きつけないでくださいますか?
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