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3章・ヒロイン大暴走

18話

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「、、、うーん、暇になってしまった」

皆様ごきげんよう、ナヴィリアです。
現在は研究室にいます。1人なのでのんびりチートを使いながら束の間の休息を楽しんでいます。

あぁ、1人でのんびりって最高、、、

翻訳する資料が無くなってしまったので、今は昔学校で習った古文を作っては翻訳してを繰り返しています。竹割って出てくるお姫様の話はもう書き終わって市井に出回ってます。
今はかぼちゃの馬車でお出かけするお姫様のお話を書いてます。
内容を読んで面白がった王妃様がお茶会で広めてからは光の速さで広まり今では劇まで上映してます。
西洋の彫りの深いお顔の方が平安貴族の役を務めるのは不安がありましたけど驚く程にすんなりと受け入れられてました。
すごい、、、西洋の御国のお顔なのに着物を着ていることに違和感がない、、、!と一人違う事で感動してました。


「ナヴィ!!居るか!!」
「ふぁい!!おります!!!」
そんな風に思い出に浸っていたらいきなり扉があき、何事かとそちらを向けばアイザック様がだいぶお怒りの様子でつかつかと歩み寄ってきました。
そして隣に座ったかと思いきや私の足を枕にして横になって寝始めました。急展開すぎません?
寝てるのに眉間にシワがよってます。アイザック様。もうそろそろこのシワ取れなくなりそう。
失礼しますと断りを入れてから眉間のシワを丁寧に伸ばして遊んでいると「アイザック、いる?、、、あぁ、やっぱり居た。」
コンコンと扉をノックして入ってきたのはユーリ様でした。動けずに困っているので背面からの声だけで判断してるんですけど。
「ユーリ様、これどうにかしていただけます?」
「ん?うーん、対価は何?」
「なら結構です。今の私の発言は忘れてください」
そういえばこの人はこういう人でした。とにかく面倒臭い。くえない感じ。

「え~ナヴィ、冷たいな~」
と言いながら後ろからハグしてきました。対価これでいいですかね?




「なるほど。ヒロ、、、マスクリート嬢が。」
おふたりはこの研究室以外の何処に居ても彼女に待ち伏せされ偶然・・を装って話しかけて来るそうで。

、、、あ、研究室には対象の人にのみ認識阻害をかけてまして。どんなに一度行ったことがあって、記憶力が良くても辿り着かないようになってます。
仕組みは企業秘密です。陛下にこってり絞られたので。でもお城でちょこちょこ使っているみたいです。便利ですよね。これ。

それはさておき、そのマスクリート嬢はわざとボディタッチをしに来てはこの人達のスルースキルによって触る事が出来ずに終わる。でもめげずにまた触れようとして避けられる、という繰り返しの、謎の光景があちこちで見られます。
、、、触ったら何かあるんですかね?うーん、謎です。

「この前、ナヴィは見て見ぬフリしていなくなったの覚えてるからな」
「うん、助けてくれても良かったのに目が合った瞬間居なくなっちゃうんだもんね?」
「彼女とは出来る限り関わりたくないので。下手に近寄って話をややこしくしたくないですし。」
これは今までの彼女の行動から私がどう言おうが動こうが、曲解して自分の都合のいいように思い込み、周囲に伝えたりする人なので、敵認定されてる私が近寄るのは悪手だと思うんです。
決してめんどくさいからではないですよ。
「、、、つまり面倒だったと?」
「いえ、そんなことは。」
えぇ、決して。そんなことは。

「はぁ、あいつが聖女認定されなければこんな風に逃げずに不敬罪とかでさっさと切って終われるんだがな」
「陛下はともかくレオン殿下の方は彼女の称号を剥奪できるようにと色々動いてるみたいだし、もう少しの辛抱かとは思うけど。」
「それがいつになるのやら、だな」
「でもそれまでの間はナヴィが沢山癒してくれるんだもんね?」

そんな話1度も聞いたことがありませんけど。

2人のみの会話になったのでお役御免かと自分の席に戻ろうとソファから立ち上がった際にユーリ様から爆弾が投げつけられました。だいぶ振りかぶった豪速球な気がしますけど。

「そのような話は存じ上げませんが。」
「殿下がそう話していたよ?“以前保留にしていた罰だから拒否権はないよ”って聞いたんだけどな?」
一体どれの・・・話?とユーリ様に尋ねられます。

さてどれのことでしょうか。私にもさっぱりです。
私の知らない間に殿下の中で勝手に罰与える認定されて保留にされてる事もあるので“そんなのあったっけ?”というのかチラホラあったりするんですよね。
しかも割と真っ当な理由の罰なので拒否できないのがより殿下の腹黒さが際立ちます。つら。

「、、、そうですか」
「あれ、、、どの罰かの見当無し?」
「いえ、、、そんなことないですよ。」
「「はい、嘘」」
2人揃って突っ込まれました。
どうしてこうも嘘が見破られるんでしょう?私顔に出てるんですかね?そんなに表情筋活動しないんですけど。態度?雰囲気?何かしら嘘をついた時の癖があるんでしょうか。
尋ねても教えてくれる訳が無いので心にしまっておきます。いつかわかる日が来るといいんですけど。一生なさそうです。

そんなこんなでおふたりは少しゆっくりされてから、会議があるだかで揃って退出しました。
アイザック様はともかくユーリ様まで嫌だ、という気持ちが表情にありありと浮かんでいるのは珍しいのでよっぽどヒロインと関わるのが嫌なんだと思います。私は何も出来ないですけど。
でも、聖女の称号剥奪に関しては私もだいぶ噛んでますよ。実は今も彼女の行動を記録中です。

はい。こっそり創っちゃいました。ドローン。
夜にタウンハウスの庭で操縦して機動性を確認してたら窓を隔てて向こうにいたセリウスと鉢合わせてしまいあっさりバレたので、口止めとしてそれ以降の機動性確認は彼にお願いしました。
やっぱメカって少年心を擽るものなんでしょうか。キラッキラの笑顔で操縦してる姿はとても可愛かったです。この光景を絵にして額縁に入れて飾っておきたいぐらいには。弟が可愛い。

そんな弟太鼓判の小型ドローンを彼女につけ記録水晶に映像を貯めている最中です。
随分と多くの人とよろしくしているみたいでして。
1度殿下にその映像を見ているところを見られた際に「ナヴィにはまだ早いかな。これからは撮った映像は全て見ずに僕に送る事。いい?」と言われました。拒否権は無いみたいです。
最近殿下がここに来ないのも撮り貯めしてある映像を見ているのと、剥奪の為の上手い抜け穴や法律を調べ上げているから、との事です。
基本的に聖女という称号は1代限りの騎士爵位と同じような扱いな為、滅多な事でも無い限り取り消しは難しいんですよね。
それこそ、国家転覆に等しい罪を犯すとかでも無ければありえないと言われてるので。

今私にできることは小型ドローンの改良をして監視体制をより強化するくらいです。不甲斐ない。
それでも何もやらないよりはマシだ、と信じて毎日黙々と改良してました。

「ナヴィ!!居るか!!」
「ふぁい!居ます!!」

2回目が来ました。これあと何回来るんでしょう。心臓が持たないです。死ぬ。

振り返って見たアイザック様は随分と苛立っており、いつも以上に眉間のシワが深く刻まれてました。
取り敢えずソファに座らせた後、私は無言でそのシワを伸ばしにかかっています。意外と楽しいんですよね、これ。
「、、、ナヴィは兄上の事をどう思う」
「お兄様ですか?そうですね、状況判断と立ち回りが素晴らしすぎて、周囲にその才が認められてないのが勿体ないなと思いましたね。」
「勿体ない、、、あぁ、そうだな。兄上は自己主張が無さすぎるんだ。だが兄上はな、、、」

あ、火をつけてしまったかもしれないです。ブラコン魂に。
この人「大人になるには口調を変える必要がある」といって急に今の話し方になったんですよね。
なんでも所詮は子供だと文官や貴族達にばかにされたらしく。常に大人と同じように行動しようと背伸びして必死になってた頃が懐かしいですよね。
実際の背も高くなって、出会った時は同じぐらいだったのに追い越されてしまいましたし。違和感のあったこの口調が馴染む風格になりました。
それに伴ってあんまり家族の話をしなくなったんですけど、久しぶりに来ましたね。
「それでだな、昨夜兄上と話した時には、、、」
言わなかっただけで、変わらないみたいですし、ブレないブラコンは大人になっても変わらないんでしょうね。すごい。

「おいナヴィ、聞いているのか?」
「気持ち半分で聞いてます」
「それは聞いてるとは言わん。」
呆れたように呟くと、兄上語りは諦めたのか溜め息をついてテーブルに置いてあるお菓子を食べ始めました。

「あの女、兄上が私よりも劣っていると言ったんだ。俺の方が何十倍も優れていると。」
うわ、ヒロインさん見事に地雷を踏み抜いたんですか。
「表面上の事柄しか見ていなければそう捉えてしまうんでしょうね。おそらく彼女も何処かしらから入手した悪意ある噂を耳にしたとかでしょうし。」

実際は小説からの情報でしょうけど。
カートレッグ家の闇はだいぶ昔に私が解決してしまったので無いですし。
、、、問題がないのに解決に動こうとするって結果どうなるんでしょうね?

「そんな不確実な情報を鵜呑みにして不敬を働くなど貴族としてありえない話だろう?兄上との話など何年も前の話だからなぜ知っているのかさえ疑問だ。」
正解は気味悪がられる、ですね。それはそう。

「聖女に不敬など無いですからね、厄介な事に。」
「はぁ、、、いつ終わるんだこの地獄は。」
「ひとつ疑問なんですけど、アイザック様は私に対し、お兄様について沢山語りますけどそれはマスクリート嬢にはしないんですか?」
「あの女と同じ場所にいる方が耐えられん。」

ヒロイン、生理的に受け付けられてないなんて。しかもブラコンが負けるほどに。ある意味すごい。

「彼女に会う度にお兄様の話をしてみたらいかがでしょう?」
「なぜ?」
「何回か繰り返したらおそらく近寄ってこなくなるんじゃないかなと思うので。」
「、、、背に腹はかえられん。やってみるか」
「健闘を祈ってます」

その後、学園ではしばらくヒロインとアイザック様を見かけた際はヒロインのドン引き顔とアイザック様のキラキラ笑顔がセットで見れるようになりました。
それも3週間ほどで無くなり、晴れやかなアイザック様にお礼を言われました。
「兄上について存分に語っただけ・・・・・であの女は近づいてこなくなった。」
「それは良かったです。見事に海老で鯛を釣りましたね。」
「それ、どこの言葉だ?」
「、、、古代文字です。最近の文献にその言葉と意味があったので。」
危ない向こうの世界の言葉だった。
今はストレスから解放されてご機嫌な為、そうか、とすぐに興味を失って貰えました。あっぶなー!!

、、、順番的にヒロインの攻略ターゲット、次はユーリ様ですかね。闇は無くなったはずなのですが、彼自身はシナリオ等とあまり変化が無い為にどうすれば諦めるのかサッパリですけど。

後日、いつものように古語翻訳していた所ユーリ様が疲れた顔で入室してきました。

「ねぇ、ナヴィ?僕の最近の悩み聞いてくれる?」
「いえ遠慮します。そういうのは専門の方に聞いてもらってください。」
ウザ絡みが始まりました。
「あは、つれないなぁ。実はね、最近学園で、、、」
こちらの拒否はガッツリ無視するみたいです。なぜ聞いたんでしょうか。
ここから先はしばらくユーリ様にウザ絡みされるんでしょうか。気が遠くなりそうですけど。
ヒロインさん。お願いですから早めに諦めるか暴走するかしてください。私のSAN値が持ちません。

「ナヴィ、聞いてる?」
「いえ全く」
「やっぱりー?じゃあもう1回最初から言うね?」
「嘘ですちゃんと聞いてますよ、少しは」
「そうなの?あは、ナヴィは照れ屋だねぇ」

ほんとに、ヒロインさん、早めにお願いします。この面倒くささは私がもたないです。
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