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3章・ヒロイン大暴走

21話

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あれから1週間程経過しました。
ごきげんよう、ナヴィリアです。

丸投げした団長の作戦は上手くいったそうです。
何をしたかと言うと、ズバリ“結界で立ち入れないようにしとけば良くね?”です。はい。不満は受け付けます。
ですが結果としては大成功です。
トルカ団長へ連絡鳥経由で送った魔法陣を元に、魔法師団総出で研究して作ったそうです。時々私もチェックしました。
そして作られたのが対象者のみに作用する認識阻害と対物理&魔法の防御機能付きで更に無理矢理入ってこようとしたら魔力をごっそり持ってかれ、フラフラ状態になった所で捕まえるというえげつない結界作りました。いやー楽しかった。

これに関しては私の名前を出さなかったようで、団長は普通に表彰と裏で怒られるというセットを頂いたみたいです。戦争で使ったらほぼ負け無しですもんね。
そして結界設置後、魔法師団塔の少し手前でうろつくヒロインの目撃情報が大分ありました。
うーん、実際に団長に幻滅した訳では無いから諦めきれないんでしょうか。どうしたものか。

さて、そんな話をしている私は今どこに居るでしょうか。
お察しですね。陛下の執務室です。まだ1週間しか経ってないです。どうして。

「ほんとに呼び出し状でまた来るとは思わなかったよ!しかも速すぎる!!やるならやるで、もー少しさ、バレないでやってくれる!?」
バレなきゃいいんですか、陛下。
えぇと、今回の呼び出しは連絡鳥の改造についてですね。
やっぱり相手の魔力の違い等によって声の大きさや届けられる長さも変わるので、魔道具で統一した方が良くない?ってなったので、作っちゃいました。
見た目は10時と15時に出てくるあの鳥です。

試運転でトルカ団長と結界についてこれでやり取りしていたのをアイザック様に目撃され、直ぐに私だとピンと来たらしくタウンハウスに乗り込んできました。キラッキラのおめめで。
「ナヴィ!!これ連絡鳥だろう?陣はどうなってる?なんで肉体を持っているのに壁を通り抜けて来れるんだ?!」と怒涛の質問ラッシュでした。
質問に答えたら陛下には内緒にしてくれるという密約を交し、お伝えしました。
でも理解はできなかったらしく、首をひねりながらお帰りになられました。あ、殿下から貰ったクッキーお茶請けで出せばよかった。まだ全然減らないんですよね。ロゼが爆食しては居るんですけど。

そして昨日、申し訳なさそうな顔でまた来ました。呼び出し状と共に。
仕組みがどうしても分からなかったので、大賢者のおじいちゃんに誰が作ったかを伏せたまま一緒に考えていたのですが、おじいちゃんは私の魔道具だとすぐ気づいて陛下に報告したらしいです。おのれ。

しょんぼりするアイザック様を慰めながらクッキーを勧めておきました。賞味期限は切れてないので美味しいですよ。
、、、遠慮されました。殿下から貰ったやつだろう?手をつけられる訳ないじゃないか。との事。なぜ殿下からのだと食べないんでしょうか。ユーリ様もそう言って食べてくれなかったんですよね。

そして今に至ります。

何だかんだ私を呼び出すこの時間は陛下の休憩時間になっているらしく、周囲からはそんなに嫌がられていない為に気軽に呼び出し状が召喚されるのは如何なものかと。そしてそれでいいのか陛下。

今日は家を出る前に「僕も連れて行って」と言われたのでセリウスも一緒です。今はトルカ団長の所で団員さん達とワイワイしていると思います。

「ナヴィリア嬢聞いてる?」
「はい、今度からは認識阻害強めにやりますね」
「うん、間違ってはないね!もうそれでいいよ!」
陛下、もう投げやりになりましたね。

という事で解放されたのでセリウスのお迎えに行こうと、もはや家レベルに知り尽くした城をサクサク進んでいると、魔法師団塔に繋がる連絡路の手前で人集ひとだかりが出来てました。

手前に居たメイドさんに聞くとなんでも貴族の少年が襲われかけたとの事。なんてことを。うちの弟がそんなの聞いたらトラウマ再発しちゃう。
セリウスがより心配になったので早めに塔に向かわなくてはと思い、ちょっと失礼、と道を開けてもらいながら進むと目の前に居ました、セリウス。
お互いキョトンとしましたが隣にいた女性が「悪役令嬢!!!これは貴方の差し金ですのね!!」と叫びまして。
、、、ヒロイン。ということは襲われたのはセリウス?もう一度セリウスへ視線を移せば色々な人に守られるように囲まれた真ん中に弟が居ました。

すぐに駆け寄って無事を確認します。でも顔は真っ青ですし、少し震えて「迷惑かけてごめんなさい」って、掠れた声で言われたらもうプッチンですよ。はい。とりあえずギュッてしておきます。不甲斐ない姉でごめんね。

そして一瞬で敵になりました。ヒロイン。うちの弟になんて事を。
感情が昂りすぎて、魔力が抑えられなくなってしまったというていで魔力放出をして威嚇します。
あ、野次馬してた周囲の人がバタバタ倒れちゃいましたね。すみません後で起こします。

因みにヒロインにはわざと強めに魔力を当て、魔力回路を止めたところ真っ先に御退場しました。弱い。
私の魔力に気づいて魔法師団塔の方と騎士団塔の方からわらわら人が集まってきましたね。
私が来た道からも来てるのでお城の食堂でのんびりしてた人達も魔力にびっくりして来たのかもしれないですね。お騒がせしてしまって。

「女神!!なに!?敵襲!?」
魔法師団の軍団の先頭に居たトルカ団長は私を見つけると駆け寄ってきてくださいました。
「敵襲と言えば敵襲ですね。」
と言ってちらりとヒロインを見遣ります。
その視線をおって団長もヒロインが倒れているのを認識すると舌打ちをした後、周囲で野次馬をしていた侍従さんらしき方に医務室へ連れて行くよう頼まれてました。
あ、ヒロインの魔力回路止めたままですね。
いえでもこれで医務室で下手に魅了使われても困るのでそのまま放置と行きましょうか。

「それで、そこで真っ赤になってるのはセリウス君?」
どういう意味かと下を見ればセリウスが茹でダコのように赤くなってました。

慌てて離して大丈夫か確認してると小さく、大丈夫だよ、と声を出してくれたので頭を撫でてから、文官さんをせっついて駆け足の事情調査を終わらせた後、真っ先に私の転移魔法で屋敷へ帰らせました。

「では、倒れた人たちを何とかしましょうか。」
という事でエリアヒールをドーンと私の魔力に当てられたであろう人が倒れてる範囲にかけます。
ざっと城の3分の1か半分くらいは当てられて倒れてる範囲ですね。すみません。ご迷惑を。
未だ漂ってる私の魔力もついでに回収して。さて。
「すみません、おまたせしました。」
「いえいえ!めが、、、アスタロン嬢の為ならいくらでも待ちますよ」
今女神って言いそうになりましたね。
私が転送魔法やらエリアヒールやら色々をやってる間ずっと後ろで待っていただいていた彼はついこの間、陛下の元に連れて行ってくれた文官さんですね。今回も連行役だそうで。いつもありがとうございます。すみません。

「さて、ナヴィリア嬢。一応報告は届いてるけど君自身から内容を聞きたいかな。」
「ご迷惑をおかけしてすみません。弟が養子としてアスタロン家に来る前に何があったのか、陛下にはご報告が上がっているかとは思います。今回、弟はトラウマ再発による魔力暴走こそ起こりませんでしたが酷く憔悴してるように見えました。余程恐ろしかったのかと。」
「うんうん、それで?」
「、、、私の弟になんてことをしたんだ、と強い怒りを覚えてしまい、わざと魔力を周囲に放出し、皆さんを眠らせてしまいました」
「うんうん、、、うん?わざと?」
「はい、そしてひろ、、、聖女様には今後弟に近づいて頂きたくないので勝手ながら魔力回路の一部を停止させてます。」
「、、、うん?停止?」
「その後は魔力にあてられ倒れた方の回復と、未だ漂ってた魔力を回収した後、こちらへ馳せ参じました。」
「、、、うん、色々言わなくてはいけないことがあるかとは思うけど、まずはセリウス君を危険な目に遭わせてしまって申し訳ない。そこに関しては謝罪するよ。」
「、、、それは私にではなく弟か私の両親にお伝えください。」
珍しく真剣なお顔で王族としての威厳を持ちながらお伝え下さったので、こちらも貴族として、臣下として対応すべく、親にいえと伝えたのですけど。
「うん?無理無理無理!!こっっわいもん!多分殺されちゃうから!いや多分じゃなくて絶対!」

真剣な空気一瞬で霧散しましたね。さすが陛下。

「承知しました。両親に陛下のお言葉、伝えておきます。」
「殺されるから無理、とかのところは言わないでね」
「、、、善処します」
「、、、おわったなー、これ。」
互いに静かにかつニコニコと、内心は冷や汗ダラダラの見合いっこが始まりました。これいつ終わるんでしょうか。

「陛下、このままでは話が進みませんよ。」
埒が明かないとレオン様が間に入ってくれました。ありがとうございます。

「あぁ、そうだね。ナヴィリア嬢、君は被害者だから先に言ってしまうけどマスクリート嬢の聖女資格は剥奪の上、王族を危険に晒したとして良くて追放、悪くて幽閉か、死刑か、かな。」
あ、これ箝口令ね。よろしく~とサラッとヒロインの末路を聞かされました。現在も医務室ではなく地下牢に入れられてるそうです。
最初は貴族用の牢に入れる予定だったそうですが、レオン殿下の一声で地下に移動したらしく。
理由を尋ねたら「あのナヴィを怒らせるなんて大罪だよ?泳がせる必要も既にないから僕から陛下に伝えておいたんだ」との事で、そこで聖女資格の剥奪となったそうです。

「それはつまり私はお咎め無しということですか?」
「うん、というか元から責めるつもりはないよ。あのアスタロン家に手を出した時点で誰もが自業自得と分かっているだろうし。」
むしろガディアスの時の方が酷かったよ、城が半壊しかけてるからね~とニコニコと目が笑っていない笑顔で語る陛下。すみません、父がお騒がせをしたようで。
恐らくそれは美人すぎる母が隣国に攫われかけて、父がキレ散らかした際の話ですね。それは随分ご迷惑をおかけしました。え?隣国ですか?今はうちの領土になってますね。はい。

成り行きではありますが、ヒロインのセリウス攻略は阻止しました。
あの後レオン様の執務室に行き、話を聞くとセリウスは魔術師団塔の周辺をうろついていたヒロインと鉢合わせ、近くにあった部屋にいきなり引きずり込まれたそうで。
そのままベッドルームに連れてかれそうになったので必死に抵抗をして部屋から飛び出し、丁度目の前を通った文官さん達に保護してもらった所に私が来た、という状態だったそうです。
ヒロインの言い分は「私がセリウスを助けなくてはいけないのですわ!苦しみから解放できるのは私しかいませんのよ!」と自信満々に言っていたそうで。どういうつもりなんでしょうか。
セリウスはそういう被害を受けてトラウマが出来ているのにそれを掘り返して何がしたいのでしょうか。
いつの間にかそばに居てくれたアイザック様が「チッ、、、尻軽が」と一言。アイザック様、お口が悪いですよ。
向かいのソファに座るレオン様とユーリ様もニコニコと黒い笑顔で同意を示している当たりがもうヒロインさん自業自得って感じですね。はい。ご愁傷さまです。

ヒロインの処罰に関しては色々出てきそうなので全て分かってからまとめて行うそうです。
今日はもう特にする事が無いとの事だったので帰ってセリウスのそばに居たい、と防犯の都合上本当はダメですが王城内で転移魔法を使って帰ります。
セリウスを送り出す時はちゃんと外に出ましたよ。
今も一応殿下に許可は貰ったので、問題なしです。



「、、、ナヴィの弟、どう思う?」
「黒かと」「うん、私も黒だと思いますよ」
「あの腹黒が姉に何の利も無いのに弱々しく見せるわけが無いですからね。」
「それに気づかないナヴィも可愛いね」
「えぇそうですね」
「、、、」
「ユーリ?どうしたの?」
「いえ、あの弟くんがやられっぱなしで終わる訳がないのでこの後何をしでかすのかと考えていたんです」
「、、、あの女は厄介な所に喧嘩を売ったな。」
「自業自得ですよ。あいつはナヴィを悪者にしたてあげようとしたんですから。できてませんでしたけど。」
といった会話が繰り広げられていたとかいないとか。

後日、城におじゃまして陛下からヒロインがどうなったかを教えて頂きました。
「それで?私の大切な息子に傷をつけた不届き者をその程度で終わらせるのですか、陛下?」
「いやいやいや!!アスタロン夫人、彼女にはこれ以上の罪がないんだよ!」
妥当なんだ!!あまりに重すぎる罪は国民に悪い影響が出てしまう!と叫ぶ陛下と対面してるのは、真っ黒オーラ全開の母と気配を薄くして他人のフリをしている私です。皆様ごきげんよう。


はい、あの後セリウスとロゼも連れて領地に帰りまして。えぇ、両親に話した途端に父は城へ殴り込みに行こうとしましたし、母は私に「死にたいと思うほどの苦痛の幻覚を見せる魔法陣は作れるかしら?」とそれはそれは素敵な笑顔でお尋ねになりまして。はい。
母様、それは禁呪です。しかも1番禁止されてる奴です。幻覚等の精神に作用するものは禁止令が出てます。残念そうにはしてましたが、ダメだとわかっていたのかすぐに引き下がりました。
、、、あれ?分かってて犯罪加担させようとしてました?

必死で両親を止め、セリウスの療養と称して暫くは領地で過ごす事を伝えました。
療養、は私の提案ですがセリウスは何やら領地でやりたい事があるらしく、直ぐに賛成したので、セリウスが酷い目にあったと聞いて怒り狂ってたロゼも連れて戻ってきたという訳です。
領地で何をしたいのかは私にも教えてくれなかったのでサッパリですが、あんまりよろしくなさそうな内容っぽいんですよね。野生の勘ですけど。

それでも嬉々として母様となにかに勤しんでいるので、楽しそうだから良いか、と。我ながらのブラコンですけど、見守ることにしました。父やロゼと一緒に魔獣討伐の片手間にとはなりますけど。

あ、ビーム出すクマ久しぶりに見ましたね。昔に私が全滅させていたと思ってました。
よし、ここは最近開発した極滅魔法を、、、え?ダメですか?森が亡びる?いえいえ父様、さすがにそんな威力は無いですよ。少し森は寂しくなるかもしれませんけど、、、ダメですか。はい。

そんな風に過ごして数日後、とても嬉しそうなセリウスと、これまた楽しそうな母様と、何が何だかよく分かってないけど母様達が楽しそうだから楽しい!と元気な妹と達観してほぼ無の私の王都組と、また留守番かととても寂しそうな留守番組の父に見送られながら領地を出発し、王都に着いた瞬間に母様とセリウスはどこかへ出掛け夕方頃に帰って来る、を3日ほど繰り返した後。

「明日陛下に会うわよ」と帰ってきてそうそうに母様が一言。
という事で今に至ります。早い。
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