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『出場決定おめでとーぱちぱち』
しおりを挟む「おーい椎名ー!」
抱え滅師の転送準備で少し暇を余らせた。
購買所にでも行って何か新しい漫画でも大人買いしてこようと『ミカエル』内のロビーを歩いていて、ふと声に呼び止められる。
振り向いた先には同じ移動職人の同僚の姿。
「今年は椎名も出るんでしょ? 東西南北対抗戦」
場所は食堂に移動した。
食堂と言っても椎名は何も頼んではいない。
席はガランとしている。今は食事時ではないので当然、逆に食事時になると移動職人や滅師職人でごった返す訳だが。
無限に広いので座席が取れないと言う事もないが、見ていて『うへぇー』となる光景。
「出ないわよー、面倒だし。栄誉もお金も困ってないし警告札もゼロ。出る価値なしなし。こんなのに貴重な休日潰されてたまるかって」
彼女はやる気無さげに背もたれに体重を掛けて椅子を退け反らせる。
行儀が悪いが、注意する者はこの場にいない。
「そもそも滅師同士戦わせる意味あるー?『ミカエル』が何考えてこういう行事強いてるのか分かんないわ」
「滅師の品質向上とチームの結束を深める為だよ」
「ひんしつぅ? スキルを改良してる滅師なら心当たりはあるけど、スキル自体の質が向上して等級が上がる訳でもないでしょ。
それに結束なんて仕事で嫌でもするわ。余計なお節介よ」
椎名祭はかなり変わった移動職人だ。絶対的信仰対象である『ミカエル』にもそこまで狂信と言う訳じゃない。
例え命を与えられ、その命の手綱を握られていても、その態度は崩れない。
「そんな捻た考えしてるの椎名だけだよ、マジでその内不敬罰で『ミカエル』に消されちゃうぞ」
そう言いながら同僚は一人頼んだメロンソーダのストローを吸う。
向かいに座っている移動職人の名は『エメラルド』
その名冠する宝石の通り、髪の色は強い緑で染め上げ、癖っ毛強い髪の毛一房が大いに主張している。
歳は19で椎名よりはちょっと上だが対等な関係で付き合っている。椎名としては移動職人で一番の友人が彼女だ。
「それにどっちにしたって椎名は出なきゃいけないでしょ」
「なんでー?」
「貴女今『西』の移動職人No20じゃない。そこまで位が高いと出ない事は許されないハズよ」
まーたそれかぁ…と椎名はおでこに手をやる。
「私何もしてないよ、なーんもしてないのに順位だけ勝手に上がっていく。何でだと思う?」
言われずともエメラルドも理解っている。彼女もまた西のNo17だ。
理由は、移動職人としてずっと生きているから。それだけに過ぎない。
「上がったら等級Cの仕事が来ずらくなるからねぇ、まあそのお陰で私も椎名も末端の頃は何とか生きてこれた訳だけど」
くるくるとストローでクリームソーダを掻き回す。
「結局上がってきたら等級Bとか結構やらされる。それ所かAなんて化物退治の仕事が回されて来たらたまったもんじゃない。
そんな事だから移動職人は上からも消えてゆくのだよ~」
椎名が漏らすは移動職人の嘆き。
仕事を終わらせる事でどんどん成績は積み重なっていく。それで立場が上がる事もあるだろう。
だが大体は上が消えての繰り上がりだ。Aは言わずもがな、等級Bでさえ中には桁外れに強いスキル持ちがいる。
そいつに運悪く当たり、抱え滅師を全滅されてペナルティで消える移動職人も少なくない。
「あー夢酒さん生きてたらまだギリ圏外だったんだけどな」
椎名はポケットからいつもの棒付きキャンディを取り出して、外装を破くと、それを口に銜えながら、そうぼやく。
「あ、懐かしー夢酒さん。気を付けろって言った側から貴女がその夢酒さんが死んだ所に飛んだのは笑わせて貰ったわ」
「笑い事じゃねーつの。等級A同士の一騎討ちになってマジで全損の危機だったんだから」
言いながら椎名は一年前を思い出す。初めてやった等級Aの仕事だ。
転生初日で等級A滅師の御船創技に命運託す事になった。
どうして転送先がそこになってしまったかは一年経った今でも不明のままだが。
上手い事に事態は転がって滅師何一つ失う事無く終える事は出来た。正に紙一重だった。
「色仕掛けしたんだっけ?」
「私も捨てたもんじゃないねー、まあファーストキスが犠牲になった訳だけど」
注意を引く為にそういう事もした。尤も効かなかったらそれまで。
相手が自分に興味を持ってくれて助かった。
逆を言うなら御船創技が死亡した場合、散々敵等級Aの慰み者として扱われた挙句、結局最後は殺されていただろう。
「椎名の色仕掛けだったらぁー私も喜んで嵌っちゃうけどなー」
悪戯っぽい笑みを携えながらエメラルドは両の掌で何かを揉むような動作をする。もみもみ
「やだこわい。純愛じゃなかったら私と最後までイケるなんて思わない事よ。そりゃもうボキィーっと、ね!」
「椎名があまりモテないのそういう所にあると思うわ私…」
椎名の趣味はソシャゲと筋トレ。
戦わない移動職人が強くなった所でどうしようもないが、彼女は好んで『ミカエル』内でトレーニングに勤しむ。
そして関節をキメて折る。異世界人の何十人かはその犠牲になった筈だ。
「そう言えばソシャゲちゃんと辞めた?」
「お…おう…やめた」
あ、これ辞めてないな。
流石に度を過ぎる程の課金額にエメラルド他の移動職人が注意して、一時は辞めさせる事は出来たが、この生返事だとまた始めてるかも分からない。
「いやホントもうやってないよ! 今は無課金で楽しめそうなゲーム探してるの」
結局はゲームに帰ってくるのか。
移動職人は待つ事も仕事だ、退屈を紛らわせたい気持ちは同じ職であるエメラルドも分からなくはないが。
「まあ。程々にしときなよー」
それぐらいに留めておく。椎名もやり過ぎの自覚があったから潔くみんなの前で辞めた。
ゲームから完全に離れられずとも、反省を活かせる彼女ならどこかで上手く折り合いを付けるだろう。
「もーぅ変な方向に話ヨレちゃったじゃん! 東西南北対抗戦の話でしょ」
あむあむと飴を舐めて、棒が口の先で動く。
「その話ならもう終わったじゃん。椎名は今年は出場決定。位には逆らえない」
「何を申すかエメちゃんよ。そもそも私が出る事を『ミカエル』が許さない」
エメラルドは頭の中でハテナマークを作る。はて、どう言う意味やら。
第20位の椎名はもう末端の立場ではないので不参加とはいかない筈。
「去年がそうだったじゃん、私が警告札6枚でも不参加だった理由よ。抱え滅師3人フルメンバーが参加の条件なんだから」
彼女は目を瞑りながら、腕を頭にやる。椅子は相変わらず斜めを器用に維持していた。
「滅師2人しか居ない私は対抗戦の条件には入らな───」
そこまで言って、自分がハッと気付いた。
今は居るじゃん。3人目。
「出場決定おめでとーぱちぱち」
エメラルドの感情の籠もらないその拍手に、苦笑いで返す他無かった。
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