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むーちょ

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ブラックバンによる大規模自然災害により、宇宙の星々の数は急減した。
地球も例外ではなく、形は保ったものの生命や自然に甚大な被害をもたらした。

それからX200年後

半数以上減った生命体も繁殖し、経済を築き、人類も生活できる環境を戻した。地球の保安性を知った異星人は移住計画を試みた。

ある日、環境省に異星からの通信があった。地球の復興にもなると考えた環境大臣は移住を認め計画に賛同した。
しかし、異星人の数が予想を大きく上回り、各所に設けた税関は常に満員だ。
人員不足で検査が甘くなってしまい、不法入星を許してしまう事も少なくなかった。

そこで政府は、不法に入国した異星人を取り締まるための特別捜査課「Watch」を設立。普通の捜査とは異なり未知の危険が予測されるが、給与3倍という報酬を耳に自ら移動を志願する捜査官が増えていた。  

右腕義手の女性捜査官アルもその1人だ。

異星人の出店が多く並ぶ繁華街「ブラッドタウン」

ピンクとブルーの電子看板の光が交差し、本来の色を忘れるくらいに照らされた繁華街に一軒のバーがあった。黄色の縁取りに赤いネオン文字で「hide」と書かれた文字が雨上がりの水たまりに反射し、まるでその中にももう1つの世界があるかのように煌めいていた。

店内のテレビでは、「環境省ハリソン議員賄賂疑惑」のテロップと表示され、マスコミに囲まれたハリソン議員が猛攻撃を受けていた。賄賂疑惑のタレコミがあったため、スキャンダルを食らうマスコミの猛攻があったのだろうか、目元は黒く頬は痩けていた。

ステンレス製の長方形のカウンターでグラスに注がれたウィスキーを飲み干し、ニュースを見ながら小さく笑う者がいた。
ブロンドショートで右側のこめかみに逆三角形の刺青が入っている奇抜な頭部。両側の袖が切られた黄色い軍服から見える義手。「Watch」所属捜査官のアルだ。
酒瓶が並ぶ向かい側にバーテンダーの姿は無く、客もいない。
アルの足元に黄色い軍服を着た大柄の男が額から血を流して倒れていた。
どうやら「Watch」所属捜査官のようだ。

一週間前…
街はずれに並ぶ高級住宅街「ホワイト51番通り」

ネオン煌めく繁華街から少し離れているため、賑やかな照明も大声で客引きをしている露店の店員もいない静かな通りだ。
その中でも広大な庭を持つ高級住宅があった。電光表札には筆記体で
「Great Harrison」と表示されていた。
そう、環境省ハリソン議員の自宅だ。
恋愛や結婚に興味はなく、カジノやゴルフなどの娯楽を生活の糧にしているようだ。

ハリソンの書斎へ行くため、噴水があるロビーを横切る執事。胸に付けられたネームプレートも電子製で常に発行している。マクレスという名前が表示されていた。
マクレスは、突き当りにある天使の彫刻に彩られた金色の扉をノックした。
「何かね?」
扉の向こうから野太い声が聞こえてくる。
踵をピッタリとくっ付け、背筋を伸ばして答えた。
「そろそろ会議のお時間でございます」
「分かった!車を回しておいてくれ」
「承知いたしました」

ハリソンは書斎で会議の資料をまとめていた。
一面ゴールドの書斎は、塗装の反射で照らされているため照明など一切置いていない。金ピカの机には、「異星人議員削減案」と書かれたバーチャル化された資料が広がっていた。ハリソンは異星人を頑なに嫌っているのか。
「この案は絶対に通すぞ。あんな不気味なやつらが同僚じゃ、営業にも支障が出てしまうからな…」
愚痴を漏らしながら、棒状の端末を机の上に置くと散らばっていたバーチャル資料が端末に吸収された。端末を胸ポケットにしまいながら、ネクタイを締めなおす指には光り輝く宝石が散りばめられたリングがはめられていた。
そして、ゴールドの書斎を後に庭先へ向かった。

玄関を出ると、リムジンが待っており運転席から降りてきたマクレスが、後部座席側のドアを開ける。車内もゴールドだった。
「今日も素敵ですよご主人様」
「あぁ分かっている」
ハリソンは無感情の返事をして顎で支持する。
マクレスはハリソンを乗せた後、一礼して運転席へ乗り込んだ。
ハザードランプを消しリムジンを発進させる。

異星人が多く住む住宅地「サボン通り」

繁華街ほど賑わってはいないが、異星人が経営する店舗が多い商店街の脇に立つ高層マンションに環境省役員を務めるパオラ・クックが住んでいた。ポレタ星から移住してきた異星人で赤い瞳に水色の肌が特徴の人種だ。
8才になる娘と妻の3人で暮らしている。

パオラはネクタイを締めながら横目に時計を見る。半開きのドアをノックして妻のマオが入ってきて優しい笑顔でポレタを元気付ける。
「頑張ってね」
「ありがとう。今日こそあの分からず屋の首を縦に振らしてやる!」
「口が悪いわよ。落ち着いて」
「あぁ…すまない」

パオラの机の上には、見出しに「異星人議員解雇案ついに決着か?」と書かれたバーチャルの新聞が広がっていた。

「異星人議員解雇案」とは、環境省幹部ハリソンの発言から始まった見直し案である。異星人は地球に長年住み続けている人類とは違うため、信用性や安全性を懸念されていた。
市民の声を優先する方針を取っていたハリソンは、人間側と異星人側で争っていたのだ。
今日は、議事堂で案が決定する大事な日である。

議事堂へ向かうリムジンで金色の車内でタバコを吸うハリソン。
「やつら結局最後まで引き下がらなかったな。議事堂決議まで行くとは思わなかった」

執事のマクレスがハンドルを操作しながら答える。
「異星人にも家族はいますからね」
「地球以外の星でも政治があったとはな…。異星に来てまで仕事を全うしたいって訳だろう?ウチじゃ奴らは地球以外生命体に過ぎん。何よりも市民の目が向けられる政治家には向いてないんだよ!そもそも移住計画も反対だったんだ!確かに産業は復興に向かうかもしれんがね」
ハリソンはイライラしながらマクレスに愚痴を吐いていた。

住宅街から市街地へ走ること40分。
長方形に二階部分が楕円型に膨らむ大きな建物が見えてきた。
「見えてきましたよ」
「リーカーはもう待機しているのか」
「全国放送ですからね」

議事堂は、無数のリーカー(AIが搭載されたマスコミロボット。人と同じスケールの長方形に車輪とカメラ、マイクが付いている。)に囲まれていた。

マクレスはリムジンを裏口に止めて、後部座席のドアを開ける。ハリソンがダルそうに腰を上げる。

会議の様子は、ありとあらゆる媒体を通して中継されていた。

異星人と人間で賑わう都市「フラッシュシティ」
ゲームセンターやアパレルなど様々な店があり、常に若者でごった返している。
スクランブル交差点の中心に設置されていた十字型のモニターに、議事堂の映像が映し出された。足を止めて見入る物もいれば、足早に携帯端末をいじりながら交互に見る者もいた。

フラッシュシティで10年間愛され続けている異星人経営のホットドッグ屋「papako`s dog」の黄色い肌にとんがり鼻の店主も店内のモニターで見ていた。ホットドッグとジンジャエールを両手に、交互に頬張りながら出てくる
女性がいる。行きかう人々が足を止めて、中継見ている中で彼女は隣のゲーム屋で流れている新発売のソフトのCMを見ていた。ブロンドショートに刺青が特徴的な「Watch」所属捜査官 アルだ。週3回はここのホットドッグを食べているらしい。

その時、通りから「泥棒だ!!」と大きな叫び声が聞こえてくる。
どうやら、窃盗犯を地元警察が追っているようだ。
窃盗犯はホットドッグを頬張るアルと目を合わす。内心、挟み撃ちだ。もう終わりだ。と思ったに違いない。しかし、アルは目を合わすだけで一歩も動かず、ホットドッグを口に運んでいた。

「なんで止めない!!お前も警察官だろ!!」
足を止めて呆れながらアルを怒鳴る。
アルは両手を広げ、「食事中だ」と答える。

「な…あぁもう!!」
警察官は言葉を詰まらせながら再び窃盗犯を追いかけた。

「あの犯人、人間じゃないか…アタシの管轄は異星人だバーカ」
アルは小声で悪口を言いながらホットドッグを頬張る。

各地の議員が集まり、案を決定する場所として知られるマウリ議事堂。
建物の中心の楕円型のドームは、天井をガラスに変化させることができ。自然光を浴びて競議している。
オレンジ色の日差しが無数に突き刺す競議部屋ではハリソン率いる「異星人議員削減派」とパオラ率いる「削減反対派」が、討論台を挟み対面していた。

反対派にも、地球人が何人か混ざっていた。
記録係が、バーチャルの資料を展開させる。各派は色を決められ、会場の中心に設置された二色のランプの光った方が先に議論できるのだ。
今回は、反対派の色が光った。パオラが討論台に登り、一呼吸してから口を開いた。
「異星人議員削減反対派のパオラです。この制度を見直すために何回も議論を重ね、全国中継される議事堂議会まで来ました。中継を見ている皆さんのお手元の端末からでも投票できるので、どうかよろしくお願いします!」
パオラは、熱い視線を反対派の議員と中継元のカメラに向ける。
ハリソンは冷たい視線で返す。

「それでは、本題に入ります。私の意見は変わらず削減反対です。確かに私たち異星人は、地球の方からしたら部外者です。容姿も異なる我々です、警戒されるのも宿命だと思います。しかし、それはただの偏見です。より良い生活環境を作るために、地球の議員になり人間に協力したいと心から思っている異星人方に失礼ではないでしょうか」

ブザー音と共に、反対派のランプが消えた。パオラは座り、ハリソンの意見を待つ。削減派のランプが光り、ハリソンはだるそうに討論台に上がる。

「環境省幹部のハリソンです。確かに私たち環境省は異星人方の移住を承諾しました。しかし、移住したからといっても異星の方々です。地球に長年住み続ける人間とは信頼性や安全性が違います。移住する前の星でも政治家を務めていらした方もいるかと思いますが、自分の星の政治はその人種が管理すればいいと考えております。失礼極まりないことを言いますが、異形の容姿をした異星人に我々の生活や経済を管理されるのは少しばかり不安ではないでしょうか」

アルはフラッシュタウンでゲーム屋の新ソフトのプロモーションを見ながら、片耳で中継を聞いていた。
「あいつ…言いすぎだろ…。ま、職業上アタシも異星人の味方ではないけど。
あ!このゲーム明日発売じゃん!予約予約~」
上機嫌になったアルはゲーム屋に入っていった。

削減派のランプが消え、ハリソンが席に戻る。

司会進行役のロボットが各派が対面している真ん中の通りに来て、両手を挙げて言った。「終了です。これより最終投票に入ります。この中継やニュースをご覧の方は2時間以内に投票をお願いいたします」
進行役の案内は、全国民に知らされた。

「集計まで時間が掛かりますので、議員の方々は一旦待機部屋へ移動をお願いします」
議員たちは立ち上がり、それぞれの側にある大きな扉へ入っていった。

待機室へ向かう廊下で反対派のパオラとサミーが話していた。サミーは地球人だが反対派に付いている。
「サミー議員、いつも堅苦しい思いをさせてすまない」
パオラが謝罪していた。

「いいえ、私たちの意見はあなたと同じです。異星人にも平等に働く権利はあるはずです」
「ありがとう。僕は地球人も異星人も愛している。だからこそ寄り添って、良い環境を作っていきたいんだ。勝っても負けても今回の件は大きく報道されている。忘れられる事はないだろう」
「そうですね」

削減派の待機室のソファーに豪快に腰掛け、タバコに火を付けるハリソン。
「恐らく反対派を支持するやつも少なくはないだろうな…。しかし、この戦いに勝てば俺の案は確実に称賛される」

やがて、人々による投票が締め切られ、結果発表の時が来た。
各待機部屋に競議場集合アナウンスが流れ、議員たちが続々と集まってきた。
進行役ロボットが再び中心に立ち、結果報告をする。
「結果を発表します。削減派9344万票 反対派6722万票。異星人議員削減案は可決されました」

削減派議員たちは喜びを分かち合う。
ハリソンは、大笑いしながらパオラを見つめていた。
パオラはやりきったという表情で賛成派に背を向けて出口へ向かう。
サミーや他の議員たちが拍手をしながら静かに見送った。
廊下に出たパオラは、家族との出来事を思い出し泣き崩れてしまった。人の為に働く父親を見て喜ぶ娘の顔が浮かんだのだ。
「ごめんな…パパは勝てなかったよ…」

フラッシュタウンのとある酒場

中継を見ていた中年の地球人と異星人が同じテーブルで酒を呑んでいた。同僚と言ったところか。

異星人の男が言う。
「あのハリソンっていうやつはただの差別主義者だ!自分の管轄に異星人がいることを汚点だと思ってやがるんだ!」
同僚の地球人がナッツを頬張りながら答える。
「同感だね。俺は同じ職場に異星人がいても気にしないぜ。むしろ俺たちを気遣ってるように見える」
もう1人の異星人の女が言う。
「このままでいいのかしら…議員に憧れている異星人も多いはずよ!」

最初に口を開いた男が立ち上がった。
「俺の息子も議員を目指して勉強しているんだ!削減案なんて間違っている!!このままでは済まさないぞ…」
その時、店内に拍手が響き渡る。聞いていた他の客がこの男の意見に賛成のようだ。

大柄の異星人の男が酒瓶を持って近寄って来る。
「おうおうおう!あんた分かってる!!あの差別野郎の愚かさを人類に知らしめてやろうぜ!!」

「ありがとうみんな…俺は同志を見つけデモを起こす!!こんな馬鹿げた案は潰してやる!!」

「「おおおお!!!」」
店内にいた客の殆どがこの男と同じ意見を持っていたのか、拍手する者、拳を高く挙げる者も出てきて店内は大盛況になっていた。

ハリソン邸では…
ステーキを食べながらワインを飲んでいるハリソン。空のワイングラスを執事マクレスの前に置きワインの追加を支持する。

「今日の酒はうまい!完全勝利とまでは行かなかったが圧勝だったな!!」
「はい。これで、頭を悩ませる心配はないでしょうね」
「マクレス!お前も呑め!勝者には酒だ!!」
「いえ、勤務中ですのでまた後ほど」
「まじめだねぇ。まぁいいさ」

会議中継から一夜が明けた。
ハリソンはベットの上で大口を開けて寝ていた。次の日が国民の休日だったため、夜遅くまで酒を飲んでいたようだ。
その時、ノックの音が部屋中に響き廊下からマクレスの声が聞こえてきた。「旦那様!旦那様!」
騒音に起こされるハリソン。時計を確認すると14時を回っていた。
「寝すぎたな…しかし今日ぐらいはゆっくりやすもう」
「旦那様!起きていらっしゃいますか!」
「何だ騒がしい!今日は休みだ」
「旦那様!テレビを付けてください!!」
ハリソンは目をこすりながらテレビを付けた。
「な…何だこれは…!」
フラッシュタウン中央通りで、「ハリソンは差別主義」「削減派案を取り消せ!!」などハリソンを罵倒するプラカードを掲げた人々がデモを起こしているところが中継されていたのだ。
ハリソンは口を開け、その場で立ち尽くしてしまった。
廊下にいるマクレスが冷静な意見を言う。
「この中継は全国放送です!直ちに策を練らないと!!」

ハリソンは我に帰り、マクレスに答える。
「マクレス!!会見の準備をしろ!!」

マクレスは、会見を開くために各テレビ局へ連絡を取った。
程なくして、マスコミロボット「リーカー」がハリソン低に集結した。

ハリソンは、寝間着からスーツに着替えてネクタイを締める。
「マクレス!準備はいいか?」
「はい。いつでもどうぞ」
ハリソンが寝室のドアを開け玄関へ向かった。
無数のフラッシュがハリソンに突き刺す。

ニュースの中継が中断され、一旦スタジオに戻る。キャスターは慌てながらも冷静に対応した。
「速報です。今回のデモを受け、ハリソン議員ご本人が会見を開きますので、中継を一旦移します」
中継がハリソン低前に切り替わった。リーカーに囲まれて重い口を開く。
「えぇ~皆様、このような無駄な行動は控えて下さい。何を言われようと削減案は変えません。人民の多数決で決まったことです。どうかこれを認めて下さい。差別などはしておりません!議員は信頼性が重要な職業なんですよ!」
最初は落着いた口調だったが、徐々に感情的になる。

離れた所から見ていたマクレスは不安を抱く。
「ハリソン様の悪い癖が出てしまっている…」

「働くなとは言っていません!!職業なんて他にもたくさんあるでしょう!!
デモなんかしている暇があったら他の仕事を探してください!!」
ハリソンはついに自分の感情を抑えられず、大声をあげてしまった。

この中継を見ていた人々がざわつきだす。
「ハリソンってあんな性格だったのかよ…」「傲慢な人ね…」「そんな言い方ないだろう…」

感情的になるハリソンをマクソンが抑え、会見を止める。
「ここまでです!正式な会見を再度開きますのでお帰りください!」
あまりにも見苦しい会見中継だったため、各局が中継を終わらし次の企画へ進んだ。
ハリソン低に集結したリーカーもカメラを切り、それぞれの職場へ帰ってゆく。

ひざまずくハリソンに付きそうマクレス。
「ハリソン様、大丈夫ですか?ここは仕切り直しましょう。まだ削減案が無くなった訳ではありませんよ」
「何故だ…どうして分かってくれない…」
立ち上がれず熊の人形のように脱力してしまった。心身ともに致命傷のようだ。

フラッシュタウンのゲームショップ

開店と同時に予約していたゲームを取りに行くアル。足取りは軽くウキウキしていた。ゲームショップの自動ドアが開き、一目散にレジへ向かう

「マッドネス3(宇宙人と戦う格闘ゲーム)ですか?」
黄色いエプロンを着た薄紫色の肌をした異星人の店員が笑顔で言う。予約を担当していた店員だったため、アルの顔を覚えていたようだ。
「昨日の店員か。預言者かと思ったよ」
アルは恥ずかしそうに答える。

棒状の端末(マネー)を出すと店員が専用装置の電源を入れる。この時代は現金は無く、データとして管理されているため、全ての国民が財布としてマネーを所持しているのだ。

店員が袋詰めをしながら聞く。
「あの…あ客さんもしかして警察関係の方?」
「あぁそうだけど」
「い、忙しそうですね。是非マッドネス3を楽しんでください」

言葉が詰まる店員に不安を感じたアル。
「…何かあった?」
「いえ…た、大した事じゃないので…忘れてください」
「いいよ。相談してみな」
「…は…はい。実は最近、ゲームを盗まれる事が多くて監視カメラを増やしたんですが、録画された映像には信じられないような出来事が記録されていて…」
「超常現象?」
「はい…。冗談で言ってる訳じゃないですよ!証拠映像も有りますから!」
「疑ってないよ。見せてもらえる?」
「見てくれるんですか…?」
店員は目を丸くする。普通の警察官には信じてもらえなかったようだ。

「見なきゃ分からないだろ」
アルが苦笑いして答える。

「他の警察官にも相談していたのですが、私はこの通り異星人なので信用してもらえず。映像を見ずに捜査は打ち切られたんです」
「そいつら、アタシとは違う制服を着てた?」
「そうですね。一般的な青い制服です」
「そうか…。心配するな、アタシはあんたを信じるよ」
「ありがとうございます!!」
バイトにレジを任せ、店員はアルを連れてバックヤードに入る。様々なゲームソフトの在庫が所狭しと詰められたラックが並んでいて、アルには天国のような場所だった。
「そうだ、僕はマルクと申します」
「アルだ。よろしく」
お互い軽く自己紹介をして本題の映像をみる。
「これです。犯行時間は夜中が多いですね」

その映像は、棚に置かれたゲームが宙に浮いてそのまま入り口の方に向かう信じがたい光景だった。しかし、アルはやけに冷静だ。
「普通の警官にこの映像を見せても、解決しないだろうね」
「と言うとあなたは…?」
「異星人の関係してる事件を専門に捜査してる。つまり、普通の警官が出来ないことができるんだ。これを見せたところであいつらは単なる超常現象と判断して捜査しないよ」
「そうだったんですね。どうりで違う色の制服を着ている訳だ」
「超常現象にしては犯行的すぎる。透化出来る異星人の仕業かもね。この映像をダウンロードしても?」
「もちろんです」
アルは専用端末をモニターに繋ぎ、映像をダウンロードする。
「今日は取り敢えず、床に掃除用のワックスを掛けてから店を閉めて」
「わ、分かりました!お忙しいのにありがとうございます!」
「また来るよ。あんたマッドネス3はやる?」
「前作までプレイしているのでやりますよ」
「話が合いそうだ」
アルは、振り向きながら軽く手を振りバックヤードを出た。



店先に止めたバイクに向かうアル。
ガソリンタンク付近のボタンを押すと、後部座席が開き、ヘルメットが出てくる。
「万引捜査の報酬は少ないけど、マッドネス3はこの店でしか買えないからな…。恩は返すよ」
異星人事件の種類は多種多様で、万引や盗難などの解決報酬は極めて低い。
しかし、アルはマッドネス3の恩もあったので動くことにした。
ヘルメットをかぶりバイクにまたがる。電源スイッチを入れ、ニュートラルからローギアに切り替え発進させた。

一方、ハリソン低では…
各局や市民団体からの問い合わせに、環境省上層部からの厳重注意メールなどで追い込まれていたハリソン。自分の部屋の窓から外を見つめ、抜け殻のように動かない。
「くそ…異星人どもめ。人間が上であることを分かっていないな…今に見ていろ…」
ハリソンはテーブルに備え付けの通信端末を開く。
ベレッタという人物に電話を掛けている。
『ベレッタだ』
「…頼みたい事があるんだが…23:00にモルテックコンビナートに来てくれ」
『報酬は?』
「もちろん有る。要件は直接会って伝える」
『了解』
電話を切ったハリソンは、額に噴き出た汗を拭う。ベレッタという人物とは裏の関係があるのか。

フラッシュ通りから4キロ進んだマンション街をバイクで進むアル。
地下へつながる坂を下りると駐車場のような場所に出た。バイクに乗りながら所定の場所に止めエンジンを切る。すると地面が開き、バイクとアルが乗っていた所が沈みさらに地下へ入っていく。見えなくなるまで沈むと、地面が閉まり変哲もない駐車スペースになった。

地下室へ到着し、ヘルメットを外しながらデスクへ向かう。
「ハローベース」アルの発声で、部屋の電気とともにモニターと端末に電源が入り、暗かった地下室が照らされる。シルバー一色の部屋には6台のモニターと液晶型テーブルが置いてあった。
アルは冷蔵庫からビールを取り出しながら、端末に指示を出す。
「アル・スパイク捜査官。ID2341ログイン」
液晶型のテーブルが反応し、データベースへログインした。
ビール缶をテーブルに置き、イスに腰掛ける。ゲームショップでダウンロードした映像が入った端末をテーブルのジャックに差すと。映像がバーチャルで表示される。
「フラッシュタウン、ブルーブロック通り(被害に遭ったゲーム屋の通り)の監視カメラをハッキング。今週の記録映像を見せて」
通りの監視カメラの記録映像が6つのモニターに表示される。
時刻は23時過ぎ。一台の青いバンがゲーム屋付近の通りに止まる。この時間になると人通りが少ない為、車など大きな物体が動くとかなり目立つ。
「こいつらか…?ナンバーをズーム」
モニターにズームされたナンバーが移るが、細工がされているのかノイズが走り確認できない。
「ジャミング…!偽造ナンバーか…?これはただの万引犯じゃなさそうだな」


車のドアに動きがあった。
透明の何かが動いているようにも見える。
「透過できる異星人を調べて」
端末はアルの指示通り、自動で異星人のデータを調べる。
数秒後、音声案内が流れた。
『モルナット星人。元々狩りをする種族で、獲物に近づくために透明化できるようです』
「なるほどね。拠点にしてる区域は?」
『デルセンシティでの目撃情報が多めです』
「スラム街だな…」
『はい。かなり危険な場所です。捜査には武装と応援が必要でしょう。制服はお勧めしません』
「警察官はどこでも嫌われているからね。戦闘は慣れてるけど極力避けるよ」
『調査結果は以上です』
音声案内は終了した。
「スラム街を拠点にしてるということは、訳ありか…」
ビールを開けて、気合を入れなした。

23時…モルテックコンビナート
夜の工場地帯は人影がなく、密会の場としてよく使われている。
サイドが逆立ったヘアースタイルに髭を喉あたりまで伸ばした男がタバコをふかしながら立っている。ベレッタだ。しかし、工場地帯は街頭が少なく僅かな光しか差さないため容姿は確認できない。
ハリソンがアタッシュケースを持ってベレッタに近づく。
「待たせた…こいつが報酬だ」
ケースを開き、ベレッタに見せる。マネーが10本入っていた。金に換算すると約70万だ。
「いいだろう。何をしてほしい?」
ベレッタはアタッシュケースを受け取りながら要望を聞く。

「こいつを殺してくれ」
ハリソンは専用端末に表示された女性の写真を見せる。異星人議員削減反対派
でパオラに協力していた地球人のサミーだ。

「どうやって殺す?」
「異星人の仕業にするんだ」
「…了解した。結果はニュースで」
ベレッタは口数少なくハリソンに背を向けて去ってゆく。
街頭の僅かな光で一瞬体が照らされた。なんとアルと同じ色の黄色い制服を着ていたのだ。

23時40分…フラッシュシティ
あのゲームショップが再び盗難被害に遭う。
店内のゲームが宙に浮き、出口へ向かう。これまでと同じ手口だ。
しかし、アルの指示通り掃除用のワックスを撒いていたため、足跡がくっきりと残った。

翌日、アルは再びゲームショップに赴く。
店内で足跡をスキャンし専用端末に記録した。
「なるほど、これで足跡を探る訳ですね」
異星人店員の表情が少し明るくなっていた。

「まぁね…。少し時間はかかるかもしれないけど必ず解決してみせるよ」
黒いブルゾンに赤インナー姿のアルが記録した端末をポケットにしまいながら立ち上がる。

「解決するなら多少の時間は大丈夫ですよ。そういえば今日は私服なんですね」
「あぁ、ちょっと私用でね。そうだ…次に来た時は、マッドネス3の感想を聞かせてよ。プレイするのはまだ先になりそうだからさ」
「はい!もちろん」
アルは、軽く微笑みゲームショップを後にしてバイクに向かう。
「ふぅ…マッドネスは一時お預けか…」
バイクを発進させ、デルセンシティへ…

アモナ住宅街…
異星人議員削減反対派のサミーの自宅…
いつも通り、規定の時間に清掃をするためにピンク色の肌をした異星人の派遣家政婦が訪ねてきた。
ベルを鳴らすが、サミーは出てこない。
「おかしいわね…この時間はいるのに…」
ドアが半開きになっている事に不信感を抱き、恐る恐るドアを開けてしまう。
そこには、胸を大きく切り裂かれたサミーの死体が倒れていた。

家政婦の悲鳴が白昼の住宅街に響き渡った。。。。。



NEXT…


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