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むーちょ

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ピンク、黄緑、水色に変色する曇り空を、巨大な黒い龍が優雅に泳いでいる。
周りに見える建物は全てスポンジケーキで出来ていて、クリームが滴っていた。巨大化したテレビのようなモニターがこの世界のシンボルだ。10秒置きに変わる子供向けのアニメが写っていた。
行き交う人々は、渦巻きキャンディや棒チュロスなどの細長いお菓子の容姿をしている。雲に突き刺さるように空に伸びた、円柱型の茶色い塔の側を、人の上半身くらいのポップコーンを抱えたアルが歩いていた。
「これも食べれるのか?」
指でつねるように取るとふわふわのスポンジ生地が何層にも重なっていた。バームクーヘンだ。
一口食べてみる。
「うま!!」
その時、地響きと共にバームクーヘンの塔のど真ん中を貫通して、黒い龍が猛スピードでアルめがけて突進してくる。アルは目をまん丸くして逃げる。
「なんだよあいつーーー!!!」


フラッシュタウン へロイック通り…
地球人と異星人が行き交う商業施設が立ち並ぶ大きな都市で事件は起きた。空のベビーカーを押す母親と小さな子供を抱える父親の異星人家族が、エレベーターを待っていた。数分してフロアのランプが灯り、ゆっくりとドアが開く。
クリーム色のエレベーター内に飛び散る緑と赤の肉片と血がえり。右肩から左脇腹にかけての肉体が無く、斜め切りされた死体と頭部がちぎられたような死体が転がっていた。
異星人一家の母親は叫び、父親は抱えていた子供の目を塞ぎ、死体に背を向ける。
程なくして通報に駆け付けた鑑識チームが非常線を貼り、現場検証が始まる。心理カウンセリングの女性が母親をなだめていた。
傷口や犯行手口から異星人の仕業と判断した鑑識チームは、アルに連絡する。
円形にくり抜かれたテーブルにエナジードリンクの空き缶が転がり、お菓子のゴミが辺り一面に散らばる地下室。エナジードリンクを飲み、コントローラーを握りながら、6つのモニターを器用に見分ける人物がいた。乱雑に置かれた書類の上の専用端末が光る。片手で取り、耳と肩で挟みながら応答する。両手はコントローラーをしっかりと握っていた。マッドネス3をプレイしているようだ。
「アルだ」
『鑑識のイルマです。異星人が関与しているとみられる事件が発生しました』
「分かった。場所は?」
『へロイック通りのアルファビル3Fです』
「1時間後に行くよ」
アルは通話を切り、再びコントローラーを握る。

事件現場…
「1時間後って…遅くないか…?」
「アル捜査官ですからね…」
「取り敢えず、お前は現場検証を続けてくれ。俺は監視カメラを確認するよ」
「はい」
イルマは部下に指示を出し、監視室へ向かう。

フラッシュタウン付近の廃工場…
若い異星人の3人グループが密会をしていた。
黄色い肌に頭部のツノが特徴的な異星人マリオが、腕に銃型の注射器で虹色の液体を注入していた。それを、単眼の異星人シューが羨ましそうに見ていた。
「マリオ、俺にも!俺にも!!」
「待てよシュー、まだ打ち切って…あ、あぁぁ」
マリオは虹色の液体を打つと、頭を小刻みに揺らし白目を向いて漫勉の笑みを浮かべながら、シューに注射器を渡す。
「あぁぁぁぁあ…。気持ちい。お前の番だ」
「へ…へへ、やっとだぜ」
シューもマリオ同様、腕に打ち、小刻みに揺れて単眼が白目を向く。
「うぅぅぅ!これだよ!これェ!!」
無造作に置かれたアルミ缶の上にはシルバーのアタッシュケースが開いた状態で置いてある。中には虹色の液体が入った細長いカプセルが5本入っていた。

フラッシュタウン アルファビル…
駐車場にアルが到着し、ギアをニュートラルに入れエンジンを切る。
駐車場口から入り、現場の3Fへ向かう。
鑑識チームが死体をタンカーに乗せていた所に、アルが歩いてきた。
イルマが気付き、アルを見るや呆れた表情をする。
「遅れてすまない!」
「アル捜査官!遅いですよ!」
「ボスに苦戦しててね。死体見せてもらえる?」
「ボスって…ゲームですか…」
呆れながらも、死体に被せてあった布を剥がす。
「豪快に行ってるね。食われたのか」
「噛みちぎられたように見えますよね…」
死体は服の上から、何かになめられたようにテカテカしていた。
「身元は割れてるの?」
「鞄の中から学生証が出てきまして…。異星人のほうは、ウルラ・メア。こっちの地球人はクオ・テリーヌ。おそらく同級生ですね」
「監視カメラはの映像は?」
「エレベーター前は万引き防止の為に2台のカメラが設置されていたので、ばっちり映っていましたよ」
アルとイルマは、死体の移送を部下に任せ、監視室に向かう。

異星人の管理人が、2人に監視カメラの録画映像を見せた。
被害者は15Fからエレベーターに乗っていたようだ。10Fに到着した時、三人組のマスクを付けた異星人グループが入ってくる。モニターはエレベーター内の映像に切り替わり、被害者2人を囲むように3人グループが立っていた。
次の瞬間、後ろにいた一人の異星人が噛み付く。続けて回りの2人も同じように噛み付いた。エレベーター内は地獄絵図と化す。
「無差別に襲っているのでしょうか…」
その時、アルの専用端末に電話が掛かってきた。
『アル捜査官ですか…?』
「そうだけど」
『マフェットビルの管理人から通報があって、エレベーター内で死体が見つかったそうです。』
「エレベーター?死体の状態は分かる?」
スピーカーにして通話先がイルマに聞こえるように設定した。
『体の一部が食いちぎられているような状態です』
アルとイルマは顔を見合わせる。
「こっちでも同じような事件が起きていてね。もしかしたら同一犯かも」
『可能性はありますね。引き続き調査を続けます』
アルは通話を切りイルマと話す。
「犯人はエレベーターを狙ってる?」
「その様ですね。理由は分かりませんが、偶然とは思えない」
「うん…。こっちの異星人の、特徴的な単眼がヒントになるかも。とりあえずアタシはデータベースで検索を掛けてみる。君、名前は?」
「あ、あのさっき言いましたけど…。イルマです」
「じゃあイルマは被害者の学校を調べて」
「了解です。死体はこのまま署の検視室に運びますね」
「頼んだ」
アルは、専用端末からデータベースに検索依頼を出した。検索依頼機能は、専用端末から依頼メッセージを送ると、離れた場所からでもデータベースに依頼が届き、自動で検索して知らせてくれるのだ。
「単眼の異星人を調べてほしい」
『かしこまりました』
数秒して、データベースの検索結果がアルの専用端末に送られてきた。
『アウト星人がヒットしました。添付した画像を参照ください』
アルは添付された画像を開く。肌は人間と同じ色をしているが単眼になっていた。廃工場で注射を打っていた異星人と一致する。
「登録証は所持してる?」
『入星記録がありません。おそらく不法入星者かと』
「今回の事件と無関係でも、逮捕状は出せるね」
『違法薬物を売買して生計を立てているようです。これ以上の記録はありません』
「分かった。助かったよ」
アルは、専用端末を切り、違法薬物に詳しい人物を思い出す。
「薬物に詳しい奴なら…あいつだ…」

モルフェビル…
フラッシュタウンの隣町にある大きなショッピングモール。
家族連れや、カップルで賑わうフードコートに異星人の3人組がいた。
「マリオ…次はどいつが美味しそう?」
「シュー、連続で食い過ぎた…。おそらく警察は既に動いている」
「うう…」
単眼異星人のシューは俯く。もう一人の赤い肌をした大柄の異星人オーは、周りの人をジロジロと見まわしていた。
「オーよせよ!怪しまれるぞ」
「足りない…足りないよぉ」
マリオが必死になだめる。
「基地に行けば食料がある。今日のメインディッシュはここまでだ」
「わ、分かったよぉ…」

フラッシュタウンからバイクを走らせること15分…。
シルバー一色の正方形の建物がある。フラッシュタウン警察署が所有する刑務所だ。アルは、服役中の人物に心当たりがあった。大きな門の前には二人の門番と、バッジ認証システムが設置してある。近づくと門番に止められる。
「お疲れ様です。御用件はなんでしょう」
「ベグス・ランページに会いたい」
「かしこまりました。こちらにバッジを置いてください」
アルは、門番の指示通りバッジを置く。認証システムが作動し、大きな門が真横に開く。大きなロビーには6つの門があり、犯罪者をレベルで分けていた。
ロビーの中心に置かれた装置を確認すると、1~6と番付された図が出てくる。5番の門を押すと、小分けされた正方形の図がいくつか出てきた。ベグス・ランページと書かれた正方形を押す。ベグスの監獄のランプが光り、面会の合図が来た。
アルはベグスの監獄へ向かう。

「久しぶりだね、ランページ」
「その声は、スパイク捜査官?」
紺色のオールバックドレッドヘアー、ピンクの顎鬚を三つ編みにした色白の地球人が、柵の近くに胡坐をかいて座っていた。アルが逮捕した薬物所持犯だ。
「あんたに捻られた腕がまだ痛ぇよ」
「単眼の異星人に薬物を紹介したことはある?」
「無視かよ…。その前に、例の物を先に渡しな」
アルは、監視カメラに背を向けてべグスの監獄の柵に寄りかかると、キャンディを幾つか渡す。
「これこれ…。ここで出るキャンディは不味すぎる」
べグスはキャンディの包み紙を剥がして口に放り込みながら続きを話す。
「アウト星人という不法入星者だ。薬物を売った覚えがある」
「どんな薬物?」
「リフレアと呼ばれる注射型の薬物だ。虹色の液体で、注入後、自身の欲望が叶ったかのような世界に見える薬物さ。面白いのは、個人差はあるものの効果が1週間程度続く」
「1週間打たなくてもいいのか?」
「密閉された空間があれば、想像力が掻き立てられるんだ」
「エレベーターのような?」
「あぁ…理想的だな」
「アウト星人が住み着いている場所は?」
「おっと、ここから先はキャンディ2つだ」
「ち!このキャンディ高いんだよ!?」
「知ってるさ。だからあんたみたいな金持ちに頼むんだろ?」
「金持ちって…」
渋々残りのキャンディを全てベグスに渡した。
「分かっているじゃないか!」
「さっさと続きを言え」
「俺が最後に薬物取引をしたのは、フラッシュ川の近くにある廃工場だ。だかが今でも拠点にしているかは分からない」
ベグスはキャンディを口に放り込みながら言う。
「な!分からないだと!?てんめぇ!!」
アルは、柵の間から手を伸ばし、三つ編みの顎鬚を引っ張り、柵に叩きつける。ガシャンと大きな音が監獄内に響く。警備のロボットが音に反応してベグスの牢屋に向かった。
「相変わらずおっかない女だ!顔は可愛いのによぉ!」
「…殺してやる!」
腕をアームガンに変形させ、銃口をベグスの顎に押し当てた。
警備ロボットがアル目掛けて走ってきた。
「ほら、お迎えだぜぇ!ひゃっはははは!」
「ふざけた野郎だ…」
「俺が知っている情報は全部話した。とりあえず廃工場に行ってみるんだな!」
「いなかったらお前を殺す」
アルはアームガンを腕型に戻し、近づいていた警備ロボットを押しのけて去って行った。

廃工場…
「マリオ…。お腹減った」
オーは大きな体を揺らしながらだだをこねる。
「そうだな…食料調達がてら、捕食しにいこう」
「やった!やった!」
「シュー!準備できたか?」
「あぁ!行けるぜ。今日はモラニタウンでも行ってみよう」
「賛成だ…あそこはエレベーターも多い」
マリオたち異星人グループは身支度をする。

アルは川沿いをバイクで走りながら思う。
「違法薬物、密閉空間…。地球人の捕食を好む種族なら全てが一致する」

バイクを走らせること10分。川沿いの小さな廃工場に辿り着く。
近くの駐車スペースに止め、廃工場へ向かう。
車のパーツを作っていた子会社が倒産し、5年前に廃工場となった。
ほこりまみれのギアやオイルタンクなどがそこら中に散らばっている。作業スペースを進んでいくと、プレハブ制の壁に仕切られた4つの部屋があった。手前の部屋にはボロボロに錆びたベットが置いてあり、天井には小さな傘付きの電気が付いていた。奥の部屋は野菜の皮やカップ麺の容器など、ゴミが散乱していて異臭がする。アルは咄嗟に口を塞ぐ。
「ベットとゴミ…。本当にここで生活してるようだな…。!」
辺りを見回しながら考えていると、手前の部屋に地図らしき物が広がっていた。ペンや、定規などがある。作戦部屋のようだ。
「これは…モラニタウンの地図…」
モラニタウンは小さな街で、大きなショッピングモールが一つだけある田舎街だ。マリオたちはフレッシュという名前のショッピングモールに印を付けていた。
「ショッピングモール…?まさか…!」
アルは、事件現場を思い出す。ショッピングモールには今回の事件のキーとなるエレベーターがたくさんある。
「エレベーターを狙っているのか…?だとしたら…」
胸騒ぎを感じたアルは、方向転換してバイクの駐車スペースへ戻りながら、専用端末でモラニタウンまでの移動時間を計算していた。
「10分か…」

モラニタウン。ショッピングモール…。
異星人と地球人で賑わっていた。大きなフードコートを囲むようにエスカレーターが複数設置されている。マリオたち3人組はフードコートの角の席に座り、エレベーターを見ていた。異星人の家族連れが待っていた。
「シュー、オー、あの家族を狙おう」
「うん…あの子供おいしそう」
オーの目つきが変わる。3人は同時に立ち上がり、エレベーターへ向かう。

アルは、猛スピードでモラニタウンに向かう。
「データベース。モラニタウン・フレッシュの監視カメラにアクセス。リアルタイムが見たい」
音声データでデータベースに命じると自動でハッキングシステムが作動し、ヘルメットの窓にフレッシュの各フロアの映像が映し出される。
黒づくめの3人組が家族連れが集まるエレベーターホールに向かっていた。
「こいつらか…。どこまでハッキングできる?」
『電気系統なら侵入できます』
「あとで怒られるかもしれないけど、これしかない…。フレッシュ内の全電力を落とすんだ!」
『かしこまりました。当プログラムを作動するのは違法行為になりますがよろしいでしょうか』
「責任はアタシが取る!」
『プログラム作動。フレッシュ内の電力、ショート』

様々な照明で、照らされていた店内の灯りが一斉に消え、悲鳴と不安の声がざわめく。マリオたちのいるフロアの電気も消えた。窓から差し込む外の光が不気味にショッピングモールを照らす。
「何…!このタイミングで停電…だと!?」
マリオがあたふたする。シューとオーも辺りを見渡す。
「マリオどうする?電気が落ちたらエレベーターが動かない…」
「シュー…タイミング良すぎないか…?俺たちがエレベーターに向かおうとした時に落ちるなんてよ」
「誰かが…落としたのかな…。まさか、警察?」
「まずいな…気付かれたかも…。シュー、オー!一時ここから離れるぞ!」
3人は出口へ向かう。
停電騒ぎで時間を稼いだアルがフラッシュに到着した。ヘルメットを取り、急いで入口に向かう。義手に搭載されたライトを付けて、真っ暗な店内に入る。目を凝らしながら見渡すと、走る3人組の姿が見えた。
「逃がすか」
アルも後を追う。

後から追ってくるアルに気付き、スピードを速める。
シューとオーを先に行かせ、立ち止まるマリオ。腰から銃を出して走ってくるアルに向けて発砲する。アルは、近くの花屋に飛び込み、銃弾を回避すると、腕をアームガンに変形させ、マリオに発砲。マリオは姿勢を低くしながら発砲して、アルの足止めをする。暗闇からの銃声で客たちはさらにざわめいた。
出口に辿り着いたシューとオーは。
「オー、車を回しといてくれ!!」
「分かったぁ!」
オーは駐車場へ走る。シューは腰のポシェットから手投げ弾を取り、出口付近で構える。マリオが後ろ向きに発砲しながら走ってきた。
「シュー!投げろ!!」
「あいよ!!」
手投げ弾のピンを抜き、後から来るアル目掛けて投げる。
マリオとシューは合流したと当時に伏せる。次の瞬間、手投げ弾が爆発し、出口付近は小規模な爆炎に包まれ、辺りのガラスが粉々に吹き飛んだ。
「これでもう追ってこないだろ…」
息を切らしながら一息つくマリオ。水色のバンが到着する。
「マリオ、シュー!早く乗って!」
オーが軽くクラクションを鳴らしながら、催促する。
2人はバンに乗り込み、フレッシュを後にした。

アルは、ドアのがれきと割れたガラスの下敷きになり気を失っていた。
数時間後、目を覚ますと真っ白な天井が見える。重い身体を起き上がらせ、額に手を当てると包帯が巻かれていた。
「病院…?」
「目が覚めました?」
白衣姿の黄緑色の肌をした異星人の女性が近づいてくる。
「担当医のコメア・マルクスです。体は大丈夫ですか?」
「あぁ…痛いけどね…」
「警察の方が数分後に来るみたいなので、私は外しますね」
「世話になった」
コメアは一礼して、病室を後にする。
モラニタウン署の普通課の捜査官が入れ違いで入ってきた。
褐色肌でオールバックヘアの男がアルのベットに近寄り、バッジを見せつつ自己紹介をする。
「モラニタウン警察署のヲルター捜査官だ」
「フラッシュタウン署「Wacth」所属のアルだ。迷惑掛けたね」
「迷惑?そんなレベルじゃないぞ!死人は出なかったものの市民を巻き添えにしたんだ!それに、民間の電力をいじるなんて一体どういう神経してるんだ!」
「ある家族を守りたくてね。これしか手段が無かったんだよ」
「話がつかめん!分かるように説明してくれ!!」
「…最近起きたエレベーター内の惨殺事件知ってるでしょ?」
「連続で起きた事件だな」
「うん、遺体は異星人による捕食で即死。犯人のアジトを調査したら地図が置いてあって、フレッシュに印が書いてあった。モラニタウンから少し離れた場所だったから、データベースに監視カメラをハッキングさせてリアルタイムで現場を確認した。エレベーターを待ってる家族にあに3人組が近づいているところが映ってたんだ」
「それで、エレベーターに乗らせないために電力を落としたのか?」
「そんなところだね。結局犯人に逃げられたけど…あの家族は守れた」
「まったく…「Wacth」という奴らはいつも非常識だ!…しかし、その心意気は気に入った」
「どうも…。そうだ、あんたらが運んでくれたの?」
アルは、包帯の上から制服を着る。
「そうだが、どこへ行くつもりだ?」
「感謝するよ。病院は嫌いだから帰る」
「何ぃ!?ガキかお前!まだ寝ていろ!」
アルは、軽く手振って、病室を出る。

自宅へバイクを走らすアルは考える。
「エレベーターの電力を落としてまで奴らの犯行を止めたんだ。しばらくは、動かないだろうね…。それにしても、あんな武器を持っていたとは…。マッドネスをやりながら考えるとするか…」





廃工場
アルから逃げ延びたマリオ、シュー、オーは…
オーがマリオとシューにコーヒーを出しながら言う。
「もう、あのショッピングモールは行けない…」
「この一件で、エレベーターの警備も厳重になるだろう」
マリオは思い悩んだ表情を浮かべながらコーヒーを飲む。
シューが立ち上がり、2人に言う。
「この街から出よう!他の都市に行けば、マークされていないショッピングモールがある」
「あぁ、それも手だな…。あの警官がくたばっていれば、まだ猶予はある。明朝街を出る。今日は休もう。」
シューとオーはマリオの作戦に頷いた。

マリオたちの行動が、アルのモニターに映し出される。廃工場を調査した時に小型カメラを仕掛けていたようだ。アルは、マッドネスを起動しつつマリオたちの行動を監視していた。机にはエナジードリンクの空き缶が散らばっている。
「残念ながらくたばってないよ。奴らはアタシが死んだと思ってる…。好都合だね。明日一気に叩いてやる!今日はマッドネスだ!!」
アルは、ショッピングモールでの一撃に腹が立っていた。

翌日AM5:00…
夕暮れのような朝日が街を照らす。
アルはコントローラーを握ったまま寝落ちしていた。ゲーム画面には「YOU DEAD」の文字が出ていた。机のエナジードリンクの空き缶が落ちる音で目が覚める。
「う…もう朝…?あ!死んでる!!」
画面の「YOU DEAD」に肩を落としつつ、マリオたちの監視画面を見る。
どうやら3人とも朝ご飯を食べているようだ。
「今度は逃がさないぞ…」
机の脇にあるスイッチを押すと壁が回転する。中は、壁に無数の武器腕が置かれている部屋だった。現場によって使い分けていたのだ。部屋に入り、武器腕を選ぶ。棒状のパイプが三本付いた電磁砲搭載の茶色い武器腕を選ぶ。
「奴らが使っていたのは、安価で手に入る電子式の手投げ弾だった…。このアームガンの電磁砲なら無効化できる…」
電磁砲の武器腕の充電プラグを抜き、肩に担いでバイクへ向かった。

廃工場…
オーがカップ麺のスープを飲み干しながら言った。
「はぁ…やっぱりこれ美味しくない…」
シューも頷きながら容器を片付ける。
「薬を打ってもカップ麺じゃ腹の足しにならないよな…」

「人肉が一番だよな。取り合えず、ポルクタウンという田舎町に行こう。ここにもショッピングモールが幾つかある。」
マリオは、マップを広げて作戦を練る。
「ここから車で1時間程だ」

シューは、ある場所を指さして言った。
「この商店街知ってる。2年前からゴーストタウンになっているから、拠点にしよう。まだ取り壊されていないはず。」
「シューに賛成だ。そうしよう。オー!車を頼んだ!」
「分かった」
オーはバンに向かった。

「シュー…少し話せるか?」
「あぁ、どうしたんだ?」
「リフレアのことだが…本当にすまなかった。あんなに危険な薬物だと思わなかったんだ…」
「いいさ…」
「あと4本使い切れば…この呪縛から解放される…」
「解放されたら、どこか遠い場所で静かに暮らそう」
シューは、マリオの肩を叩き、身支度を始める。

バンを取りに駐車スペースへ向かったオー。がれきの陰から見張っていたアルが、オーに向かって歩く。義手には電磁砲の武器腕が装備されていた。
アルの殺気に気付き、銃を向けて発砲する。アルも咄嗟に電磁砲付きアームガンを撃つ。オーの放った弾丸が電磁波で空中分解し、被弾することなく散る。数を撃ち込めばいつかは当たると考え、発砲を続けるが結果は同じだ。
電磁波にことごとく分解される。
銃声にマリオとシューも気付き、銃を構えて駐車スペースへ向かった。
オーに近付きながら、電磁アームガンのレバーを引き電磁力を貯める。オーは、身の危険を感じ、バンの後ろに隠れる。電磁力チャージが終わり、バンに向けて一気に放出した。水色の電流がバンを包み、隠れていたオーもろとも工場のプレハブに叩きつける。大きな衝突音が響き瓦礫の誇りが充満する。
バンは横に転倒し、オーに乗り上げる。
マリオとシューが到着し、こちらに歩いてくるアルを確認した。シューはバンの下敷きになったオーに気付き駆け寄る。
マリオはアルの足を止めるため、ハンドガンを発砲する。しかしアルは、飛んできた弾丸を電磁波で分解して被弾を避けながら歩いてくる。
マリオも発砲しつつ、隙を見てシューとオーに合流する。流石に全弾対処するのは身体への負担が大きくなると見たアルは、近くの大きな縁石に身を隠す。
「く…流石に効くなぁ…」
縁石にもたれかかるように腰を落とす。電磁砲の負担が身体に来ているようだ。
目が覚めたオーは1人では立ち上がれず、シューの肩を借りる。
「しっかりするんだ!」
「ショッピングモールにいた女だ…まだ生きてやがった!」
「マリオ、シューはかなり重症だよ…取り合えずベッドに寝かそう」
「そうだな…」
マリオとシューはオーを担ぎ、ベットのある部屋へ向かった。

「マリオ。武器庫に装備があるよな?」
「あぁ、一式揃ってる」
「あの女と戦えるのは、軍経験があるお前だけだ。俺が時間を稼ぐから、装備を整えてくれ。勝てるか分からないけど…」
「分かった…死ぬなよ…」
マリオは、シューの肩を叩いて武器庫へ向かう。

少し回復したアルが立ち上がり、再び廃工場へ向かう。
プレハブの窓からアルを確認したシューは、腰の手投げ弾を両手に構え、瓦礫に身を隠す。
「よくもオーをやったな…」

電磁砲アームガンを構えながらゆっくりと廃工場を進むアル。
背後を取ったシューが手投げ弾を一つ投げる。地面に散らばった割れた鏡で飛んでくる手投げ弾を確認したアルは、素早く振り向き手投げ弾に電磁砲を放つ。水色の電撃が薄暗い廃工場を照らし、手投げ弾は空中分解する。

「なんだあの武器…手投げ弾が分解されたぞ…くそ!こうなりゃやけくそだ!!」
シューはもう一つの手投げ弾を投げる。同じように水色の電撃が包み、分解する。しかし、この一投は攪乱作戦で、手投げ弾に気を取られている隙にシューはアルにタックルを食らわす。アルは吹っ飛ばされながらも後転して、受け身を取る。間髪入れずにナイフを出し、再びアルに襲い掛かる。
ナイフ尽きを左に避けるアル。避けられたシューは足を踏み込み、平行に振る。瞬時に上半身を反らし再度避ける。やけくそになったシューは同じようにナイフ尽きをするが、華麗に避けられる。アルは油断した腕を掴み、背負い投げをした。地面に勢いよく叩きつけられたシューは意識が朦朧とする。
アルは小型の収納装置をシューに付けて専用端末を操作した。シューの体は装置に吸収された。

武器庫…
プレハブの壁に、防弾チョッキ、手投げ弾、メカアックス(電子式でギアを入れることにより、威力が上がる斧)が掛けてあった。
マリオは防弾チョッキを着て、メカアックスを構えながら武器庫を後にする。

アルは、ベットに横たわるオーを小型装置に収納した。
「あと1人か…」
その時、プレハブの壁を破壊してマリオが入ってくる。
「まだ生きていたとはな!!タフな女だ!」
マリオは、メカアックスを構えてアルに襲いかかる。縦に振り下ろしたメカアックスを電磁砲アームガンの硬い部分を盾にして受け止める。
余りにも強い衝撃でアルの義手に電気が走る。
「アームに負担を掛け過ぎた…か…」
メカアックスのギアを弄り、威力を上げる。更に強い力が加わり、ついに電磁砲アームガンに刃が食い込む。マリオはメカアックスを食い込ませたまま近くの瓦礫の山にアルを叩きつける。
瓦礫の山を突き抜けて2m程飛ばされた。横たわるアルに近づくマリオ。
アルは、傷だらけの重い身体を両腕で支えて、ふらつきながらも立ち上がる。

「やるね…あんた軍経験者?」
アルの質問に、メカアックスの威力を最大値まで弄りながら答える。
「地球に来る前に少しだけ入隊していた。あんたも女の割りにやるな。だが、この一撃で終わりだ」
「ふん…どうかな…」
ニヤッと笑い、電磁力をフルチャージするため、レバーを勢いよく引く。水色の電流が義手を包み込む。2人は次の一撃に全てを賭けるようだ。

「死ねぇええええ!!!」
マリオが、メカアックスを上に構えながら猛スピードで突っ込んでくる。
アルはメカアックスの解体を狙うため、全電磁力をアックスに向けて放つ。
電流がアルの身体にまで流れ込み、体力は限界に近づいていた。
「はぁぁぁぁああああ!!!」
雄たけびを上げて、電流を耐える。
走ってくるマリオの身体にも電流が流れ、お互いに致命的なダメージを負う。

マリオが振り下ろしたと当時にメカアックスは解体され、パーツが散らばる。
アルのアームガンも負担が限界値を超えたため、バラバラに崩れ散った。
アックスを両手で構えていたため、がら空きになっていた腹部に左手で張り手を食らわすアル。手の内側に収納装置を隠し持っていた。装置を腹部に付けた後、距離を取るため、両足でマリオを蹴り飛ばす。しかし、着地する力も残されていなかったアルはそのまま、仰向けに倒れ込む。

「く…はははっは」
マリオは仰向けになりながら大笑いする。
「な…何笑ってやがる…」
「自分が勝ったと思ってるか?刑事さん?」
「…!…まさか…」
アルは肩に刺さっさった針を目にした。

「リフレアだぁ…残念だったな…。あんたも俺たちと同じ苦しみを味わうがいい!!」
「くそ…」
アルは、悔しそうに専用端末を操作する。マリオは笑いながら装置に収納された。
「やられた…データベース…リフレアの効能時間は?」
専用端末で音声検索した。
『約30分後に幻覚が見えます』
「分かった…。地下室へ戻る…。武器庫を空にしておいてくれ」
『了解しました』

アルは、ふらつきながらバイクへ向かった。
バイクのポーチに入れていた通常タイプの義手に付け替え、ヘルメットを被る。
マップで転送装置(街の各所に設置された「Watch 」専用の転送装置。特定の物を署へ転送+ショートメッセージが送れる装置)の場所を確認し、地下室へ行く前に向かう。
「30分後には、幻覚の世界か…武器庫なら電子ロックが掛かる。とりあえず1日篭ろう…」
数分走り、転送装置に到着した。マリオたちを吸収した収納装置を置いて、『エレベーター殺人の犯人格納済み』と、事件の担当捜査官イルマ宛にショートメッセージを送り、フラッシュタウン署へ転送した。
署で、別の事件の書類を整理していたイルマがメッセージに気付く。
「アル捜査官…。エレベーター殺人の犯人を捕まえた!?」
イルマは急いで署内の転送室へ向かう。
柱のような大きな装置が並ぶ転送室では、日夜「Watch 」達が捕まえた犯人や参考人などを収納した装置が送られてくるのだ。
「アル・スパイク」と書かれた柱で装置を受け取るイルマは、アルに電話を入れる。
運転中のアルがヘルメットに内蔵されたスピーカーフォンで応答する。
「アルだ」
『収納装置を確認しました!アル捜査官が署に戻られるまで待ちましょうか?』
「ちょっと込み入っててね…。このまま帰宅するよ…。犯人は取調室に閉じ込めておいて…」
明らかに辛そうに話すアルを気にかけるイルマ。
『了解しました…あの…具合悪いんですか?』
「気遣いありがとう…。明日には署に戻る」
アルは通話を切り、バイクのスピードを上げる。
「大丈夫かな…アル捜査官…」

自宅の駐車場にバイクを止め、地下室へ向かう。
アルの視界には少しずつ幻覚が見え始めていた。
「く…周りの物がお菓子に…見える…」
地下へ到着し、武器庫へ歩く。
人工知能搭載の小型ロボットが武器庫内の付け替え用の義手を全て外に出していた。ロボットの頭をポンっと叩き、空の武器庫に入りドアを閉める。
「何も無いこの空間なら、被害は出ないよね…?」
アルはそっと目を閉じて覚醒するのを待つ。

やがて、幻覚の世界がアルを覆った。。。






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