失われた歌

有馬 礼

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第4部 帝都地下神殿篇

14 黄金の騎士

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 バルクとヒューゴ、セストと食卓を囲んだリコは、食事の後になって昼間の出来事を聞き、ふてくされていた。

〈どうして呼んでくれなかったの!? 私だって役に立ちたかった……!〉

 唇を引き結んだリコに、ヒューゴが取りなすように言う。

「仕方なかったんだよ、緊急事態で。ホントにヤバかったんだ。怒らないでくれよ」

〈でも……! 言ってくれれば良かったのに。私だってコールリング持ってるんだから、1人でだって来られたのに〉

「確かに、戦いながら、きみがいればなあと思ったよ」

 バルクは手を伸ばして、隣に座るリコの髪を撫でた。

〈帝都から戻ってから一生懸命トレーニングしてたのは、バルクとヒューゴだけじゃないよ。わたしも、役に立てると思う〉

 リコは唇を尖らせたままだったが、ご機嫌は直ったようだった。

「そういえば」セストは恋人たちの自然で甘いやりとりにややあてられながら切り出す。「フリートにいた人たちが言ってた、金色の騎士っていうのは、何だったんだろう。ヒューゴ、知ってるか?」

「え、見たのか!?」

 ヒューゴが食いつく。

「有名なの?」

 バルクもヒューゴを見た。

「有名っていうか、噂っていうか伝説っていうか。特殊治安部の言い伝えで、メトロのトンネルの中で魔物に囲まれて動けなくなった時は、出口じゃなくて奥に逃げろってのがあってさ。奥に逃げれば、金色の鎧の騎士が助けてくれるっていう」

「そうか、彼らが『本当にいた』って言ってたのはそういうことだったのか」

 バルクは人差し指で顎をするりと撫でた。

「その騎士が出てくると同時に、魔物が引いていったらしいんだ。僕とセストは見られなかったんだけどね」

 そのお陰で、負傷者を大勢出していたものの死者は出さずに済んだ。

「金色の鎧っつうと、リコの土の精霊だよな?」

 ヒューゴはリコを見る。

〈そうだけど……わたしの精霊は水しか来てないよ?〉

 リコは困惑する。

「だよなあ。それに、その金ピカ騎士の話は俺が入った時にはもう伝説になってたから、リコとは関係ないよな」

 ヒューゴは頭の後ろで手を組む。そこにジュイユが割って入った。

「黄金皇帝だな」

 全員の視線がテーブルから少し離れたソファに座っているジュイユに集まる。

〈アールト・クラウス1世?〉

 ジュイユはリコに向かって頷く。それまで黙っていたヴィラントが口を開いた。

「確かにあのお方は類い稀な土の精霊の使い手でございましたが……。しかしそんな」

 それに対してジュイユが答える。

「私はまだ人間だった頃、実際に会ったことがある。強い相手を求めて、帝都の地下神殿に潜入した時に」

 ジュイユは昔を思い出して小さく笑った。

「私が会った時は、光る馬に乗っていたな」

「馬、でございますか? 戦車でなく?」

「いや、馬だった。それがどうかしたか」

 ジュイユの言葉にヴィラントは天井を仰ぐと、骨だけの手で頭蓋骨の額を覆い、笑い始めた。一同は訳がわからない。

「その金色の騎士は、アールト・クラウス陛下その人に間違いございません。正確には、彼の精霊でございますが。そしてその光の馬は、レイフ様の光の精霊でございましょう。わたくしが知っている光の精霊は、2頭の光の馬が牽く戦車でございましたがね。それはともかく、光の精霊が土の精霊を守っているからこそ、これだけの時を越えることができたのでございましょうね」

〈黄金皇帝は、自分の精霊を遺していったの? 初めて帝都に来た時に土の精霊の気配がすると思ったのは、もしかして黄金皇帝の……?〉

「はー、もう。あの方々はほんとにもう。勘弁していただきとうございますよ」

「黄金皇帝は、死後も帝都を守っているということ?」

 バルクがヴィラントに尋ねる。

「そうなのでしょう。ドラゴンに尋ねればその辺の事情を知っているかもしれませんがね。死してなおいちゃつこうとは、まったくけしからんことでございますよ。ほっほっほ」

〈ドラゴン? ここでどうしてドラゴンが出てくるの?〉

「おや、お聞きになっていらっしゃらないので? ドラゴンは、レイフ様を主と定めた者なのでございますよ。そのようなわけで、あの者はあの、思い出の地に留まっているのです」

〈知らなかった……〉

 リコは、ドラゴンにそのような過去があったことに少なからぬ衝撃を受けた。

「前、帝都に来た時……」バルクが顎に手を添えたまま言う。「闇の精霊が言ってたんだ。『腐った魂たちに餌をやってる奴がいる』って……。闇の来訪者のことかとその時は思ったんだけど……」

「光と闇が接するところに混沌が生まれる、か?」

 ジュイユが言う。バルクは頷いた。

〈そんな……。そんなのって〉

 リコは悲しげに目を伏せる。長い睫毛が頬に影を作った。

「帝都を守ってたはずが、いつの間にかこの混沌の原因になっちまってるってことか。辛い話だな」

「どうすれば救えるんだろうか」

 セストがぽつりと言う。

「お前のそういうとこ、ほんと坊主だよな」

 ヒューゴの言葉に、セストは意味がわからないという表情をする。

「だってよ、こうなったらもう、黄金皇帝の精霊と戦うしかないって話になりそうなとこで、『救う』って」

「いや、俺は……」セストはうまく言葉が出てこず、しどろもどろになりながら言う。「僧侶として、何かできることがあればと思っただけで」

 リコは筋骨隆々という言葉がぴったりのセストがうろたえているのがなんだかおかしくて、声を出さずに笑った。

〈セストは、優しいんだね〉

 セストはその笑顔を直視できず、視線を彷徨わせる。

「俺はただ、僧侶として……」

 それ以上何を言えばいいのかわからず、セストは口をつぐんだ。この心優しい僧侶が愛しているナナカは、どんな少女なのだろう、早く話がしてみたいとリコは思う。

「ねえ、ヒューゴ、僕らが単独行動でメトロのトンネルに入るには、別の許可がいるのかな。きみと離れて、単独行動するための許可がほしい」

 バルクがヒューゴに言う。

「ええっと、明日、上に相談してみるよ。でも、なんで?」

「黄金皇帝を探そうと思う」

 バルクの言葉にリコも頷く。

〈うん、わたしも、それしかないっていう気がする。単に会ってみたいっていうのもあるけど。ヴィラントもそうでしょ?〉

 リコは隣に立っているヴィラントを見上げた。

「ええまあ……。お目にかかりたいような、恐ろしいような、複雑な心持ちではございますがね」

〈どうして?〉

「いえね、女子力ゼロのレイフ様が後宮でちゃんとやれていたのかとか、他のお妃に女のバトルを吹っかけられてフルボッコにされていなかったかとか、聞きたいような、恐ろしいような、という複雑な骨ゴコロでございまして」

〈そう……〉

 リコは真面目に尋ねたことを心から後悔しながら、なんとか場を取り繕った。

〈あ、でも、黄金皇帝のお妃は2人でしょ? 後宮の宰相イミニ・ハーパと、学問と芸術の庇護者サーシャ・コーヴァーン〉

「公式には、左様でございましたね。しかし実際にはいたはずでございますよ。黄金皇帝が真に愛する寵姫、第3妃レイフ・セレスタ・オルトマールーンがね」
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