失われた歌

有馬 礼

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第4部 帝都地下神殿篇

15 琴線に触れる※

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 泊まっていけとうるさいジーとルーに根負けしたヒューゴは、シャワーを浴びに1度戻ると言ってセストとアパルトマンを出た。ヒューゴの住んでいる部屋も目と鼻の先にある。

「セス、ありがとな。お前とバルクが行ってくれたお陰で、病院送りになる奴が出なかったって」

「間に合って良かったよ。危険な状態の人もいたから」

 晩秋の冷たい風が吹き抜けて、セストは首をすくめる。

「それにしても、ヒューゴは職場で一体どういう立ち位置なんだ」

「ん? 何が?」

「同僚の人たちがバルクに、今日は彼女さんいないのかってきいててさ。バルクが『連れてこなかった』って言ったら、みんな口を揃えて『それがいい、ヒューゴには気をつけろよ』って言ってた」

 それを聞いて、ヒューゴは声を上げて笑った。

「あっはは、アイツら。忙しくなけりゃマジで病院送りにしてやりたいぜ。どうせバルクの奴、しれっと『わかってるんで大丈夫』って言ってたんだろ?」

「そうだけど……なんでわかるんだ?」

「バルクはそういう男なんだよ」

「あのさ、友だちでも踏み込んじゃいけない領域はあるってわかってるつもりだし、こんなこと言うのもなんだけど……、そういうの、やめた方がいい」

「だいじょぶ、リコに手ぇ出すつもりはもうないから。まだ協力してもらいたいし、それに、バルクに食いちぎられたくないからな」

 ヒューゴはあっけらかんと笑う。

「『もう』って……」
 
 前はあったのかよ、と言いたくなるが、残念ながらあったのだろう。まあ、バルクの「食いちぎられたくなければ」の言葉が比喩でないことがわかった今、ヒューゴの言うことはとりあえず本心なのだろうと思うことにする。


***


 あまりに一度にいろんなことを聞いたせいで、横になってもなかなか眠りは訪れなかった。寝つきの良さには定評があるリコには珍しいことだった。眠れなくて不安になりながら寝返りを繰り返していると、シャワーを浴びたバルクが寝室に入ってきた。

〈ね、バルク……〉

 リコはベッドの上で身体を起こす。

「どうしたの?」

 下着1枚のバルクはベッドに腰掛けてリコを抱き寄せる。

〈あのね、今日色々あって疲れてると思うんだけど、明日にでもドラゴンに会いに、塔に戻れないかな〉

「いいよ、そのくらいなんでもない」

 そう言いながら、バルクは当然のようにリコのこめかみに、額に、目蓋に、触れるだけのキスを落としていく。

〈あの、バルク……?〉

「ん、なに?」

 頬に触れたバルクの唇が、そのままリコの唇にスライドして、ついばむ。

〈2人が、戻ってきちゃう……〉

「うん、そうだね」

 そのままバルクはリコを横たえて深くくちづける。

〈2人が帰ってきたら、気づかれちゃう……から……〉

 リコはバルクの甘い軛から逃れようと身体を捩るが、うまくポイントを押さえられていて、全く動けない。

「うん、そうだね。あんまり暴れてると、気づかれちゃうかもね」

 バルクは楽しそうにくすくす笑いながらリコの首筋を舌でなぞる。
 リコは息を殺すように口に手を当てる。

〈暴れてると、って……〉

「きみにとって僕が」バルクはリコのシャツをするりと脱がせると、甘く香る柔らかい肌に唇を押しつける。「特別だってことを実感したくてどうしようもない」

〈わたしはいつでも、あなたのことを特別に愛してるのに?〉

 リコは乱れる呼吸を押し殺すために手で口元を押さえながら、もう片方の手で甘えてくるバルクの髪をかき混ぜた。

「うん、わかってはいるつもりなんだ……」

 バルクは胸の先端にキスしてから、ぺろりと舐めあげる。ビリビリするような快感。いつヒューゴとセストが戻ってくるかわからない状況でハラハラして落ち着かないのに、バルクはそんなこと一向に気にしていない様子なのが理不尽だ。ちょっと腹立たしいような気持ちもあり、しかしながら、何が琴線に触れたのかはわからないがこうして甘えてくるのが愛しくもあり、心境は複雑だった。

〈もう……〉

 バルクはリコの抗議もどこ吹く風で、片方の胸にくちづけながら硬さをもってたちあがってきたもう片方の先端を指で摘んで、転がす。

「あの2人なら、このアパルトマンの前あたりにくればきみならわかるんじゃない? あれだけ『派手』なんだから。まだ大丈夫ってことだよね」

 バルクはそう言いながらリコの胸の曲面を確かめるように唇を滑らせ、そのままなだらかに続く平らで薄い腹部に移っていく。滑らかで冷たい、甘い肌が欲望をかき立てる。
 皮膚が薄くて敏感な場所にくちづけられ舌を這わされて、リコの身体が制御を失ったように跳ねる。思わず身体を捻って不埒なくちづけから逃れると、背筋をすぅっと撫であげられて腰を跳ねあげてしまう。首筋にかかっていた髪がかきあげられて、首の後ろの肌を強く吸われる。痕が残ることを気にする余裕もなく、前に回った、やわやわと胸の形を変えることを楽しんでいるような指の動きに翻弄される。
 その指先が、つっと肌を滑ったと思うと、繊細で敏感な場所にするりと忍びこむ。リコは息を詰めて顎を上げた。

「もうこんなにとろとろだ……こういうシチュエーションが好きだったんだね。興奮する?」

〈やだ……ちが、う……から〉

「じゃあ、どうしてこんなにとろとろなの?」

〈だって……バルクが……〉

「僕が?」

 バルクが楽しげにリコの秘めた場所に潜り込ませた指を躍らせると、そこはくちゅくちゅと音を立てて応える。

「ねえ、僕が、なに?」

 耳元で低く囁きながら耳朶を甘噛みされると同時に、硬さをもった花芽を潰すように圧迫されると、一気に快感の波が押し寄せて攫われる。
 身体を強張らせ震わせながら、リコは無意識にバルクの手に自分の手を重ねている。リコの身体を知り抜いたこの愛しくて憎らしい手は、いつもいつもリコを翻弄して高みに押しあげてしまう。

〈や、もう……バルクの、せい……〉

 リコはバルクの指に自ら押しつけるようにして達する。身体の表面をさっと熱が走り、はくはくと空気を求めて喘ぐ。その余韻に浸っていると、バルクのペニスがぐっと隘路を押し広げて入ってきた。待ち望んでいた圧迫感に、リコの中が歓喜にうねって絡みつく。

「ああ……リコ、すごい……吸いついてくる……」

 バルクはため息まじりにうっとりと言う。
 繋がったままリコを仰向けにさせると、バルクは身体を起こして座り、膝の上にリコを座らせる。バルクを見上げるリコの唇が少し開いていて、キスをねだっているのだとわかる。しっかりとリコの背中に腕を回して身体を密着ささせると、唇を重ねた。バルクの唇を割って入ってくるリコの舌を、求められるとおりに吸いあげて擦りあわせると、リコが密着させたまま腰を動かす。

〈バルク、気持ちいい……バルクも?〉

「うん、僕も気持ちいいよ」

 バルクはキスの合間に答える。

「好きだ。リコ、愛してる」

〈わたしも。大好き。こうやってわたしに触っていいのは、バルクだけなの。信じて〉

「うん、ありがとう、リコ……」

 2人は五感の全てを使って、お互いの存在をお互いに確かめあう。
 しかし唐突に、それまで柔らかくバルクに預けられていたリコの身体が、ぴくりと強ばる。その目線は、明らかに入り口の方を気にしていた。

「帰ってきた?」

〈うん……〉

 バルクの膝の上から逃れようとするリコを逃さず、仰向けに横たえる。

〈バルク……!?〉

 狼狽えるリコを閉じこめて深くくちづける。

「大丈夫、静かにするから」

〈そういう……〉

 バタン、と玄関のドアが閉まった振動が伝わってきて、壁を隔てていてすら眩しさを感じるような、火と光の魂が入ってきた。
 壁が厚いので会話の内容までは聞き取れないが、人が動いている気配がする。リコはバルクにくちづけられながら目を開いて、2人の気配を気にしている。

「ダメ、僕の方見て」

 バルクは少し顔を離して、リコを覗きこむ。

〈だって……〉

「わかったでしょ? 向こうの声が聞こえないってことは、こっちの音も案外聞こえてないよ。安心して」

 バルクは、ぐり、とリコの奥を擦る。

「あ、でも、気をつけないときみの『声』は物理じゃないから聞こえちゃうかもね」

 リコはハッとしたように口を両手で押さえる。

「まあ僕としては、その方が都合がいいんだけど。あの2人にわからせるって意味で」

〈2人はもう、わかってるよ。そんな必要……〉

「……きみのそういう、素直で素朴なところ、とても好きだけど、いつも僕をはらはらさせるよね」

 押しつけるように動きながら、リコの髪を撫でる。

〈なん、で……〉

「きみは本当に、自分自身のことがわかってない」

 バルクは不思議そうに見上げてくるリコにキスを落とした。唇をぴったりと重ね合わせ、舌同士を擦り合わせる。リコが背中を反らせてバルクをより深く強く感じようとしているのがわかる。快感を追って、バルクの動きに合わせてゆらゆらと腰を揺らしている。

〈バルク……好き……好きなの……〉

 バルクは応える代わりに、リコを強く抱きしめると精を放った。
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