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第4部 帝都地下神殿篇
29 再会
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現れた先は塔の一室だった。
「さて、私は食事の用意してくるから、シャワーでも浴びてさっぱりしてて。着るものはそこの戸棚の中。セスト導師の僧服から採寸してファミリアたちが作ったから、小さくて着られないってことはないと思うわ。じゃ」
一方的に言うと、風は部屋を出ていってしまった。
「あ……」
扉の方へ手を伸ばしたまましばらく固まっていたセストだったが、諦めて指示されたとおりシャワーを浴びる。平気なつもりでいたが、自分で思っていたよりも疲れていたことがわかる。温かなシャワーで砂埃と疲労を流すとようやく人心地がついた。用意されていた、ゆったりしたシャツとズボンを身につける。
窓を開けて夜風を入れる。晩秋の冷たい風が火照った身体に心地いい。そうだ、ナナカはこの塔のどこにいるのだろう。ナナカが心を閉ざしていた時に使っていた部屋をまだ使っているのだろうか。それとも別の部屋に移っているのか。いずれにせよ、この塔の中で彼女の姿を自力で見つけようとするのは無謀な挑戦だった。
扉の外に気配を感じて振り返る。小さなノックと共に扉が開かれ、その向こうにいたのはセストの胴回りほどもありそうな芋虫と、槍を持った、水棲の肉食昆虫を思わせる妙に脚の長い昆虫型の魔物だった。昆虫はセストが出てきたのを見ると、さっと芋虫に騎乗する。その雫型の昆虫の背は黒く艶々していて、セストの顔が映りそうだった。
彼らはどうやらセストを迎えにきたらしかった。
芋虫の騎馬は蠕動して少しずつ向きを変えると、階段を登る。セストはゆっくりその後についていった。のんびりした道案内だった。
最上階の食堂には、1人分の食卓が整えられていた。
セストは礼を言い、感謝の祈りを捧げてから食べはじめる。
神経が昂っていたせいで空腹を感じていなかっただけで、美味しそうな料理の匂いが忘れていたそれを自覚させた。シェフが大喜びしそうな速さで皿が空になっていく。
あっという間に食事を平らげてしまい、自分でも呆れながら水を飲んでいると何やら声が近づいてきた。
「ほら、大丈夫だから」
風の精霊の声だ。
「でも……」
その声が耳を打った瞬間、セストは弾かれたように立ちあがった。
「ナナカ!」
食堂の扉を開ける。
「セスト」
ナナカが一瞬の驚きの後、見る間に笑顔になる。
「セスト、セスト……!」
食堂前の扉の前で2人は抱きあう。
「おかえり、ナナカ」
セストはナナカを腕の中に閉じ込め、首筋に顔をうずめた。花のような、どこか懐かしい優しい柔らかい匂いがする。
「おかえりなさい、セスト」
ナナカも両腕をセストの広い背中に回す。
「ありがとう」
ナナカのその言葉に、セストは顔をあげた。
「あたしを、2度見つけてくれたのね」
笑ったその目尻から涙がひとすじ流れる。
「きみが希望を捨ててなかったからだ。だから、見つけられた」
ナナカが全てを諦めていたら、おそらくあの白い空間はその形を失っていただろうと思う。希望を捨てず、自分を待っていてくれた。だからこそ、崩れかけてはいたが、完全に崩れることはなく、形を保っていた。
セストの大きな手のひらが、ナナカの薄茶色で癖のない、柔らかな髪を撫でた。頬に熱が集まる。ナナカは自分の手をセストに手に重ねる。そのまま手が頬に下りてきて、引き寄せられる。セストの手から伝わる、現実の熱。ナナカはそれに身を任せた。
意外なほどに柔らかな、セストの熱い唇が躊躇いがちに触れる。ナナカは身をかがめたセストの首に腕を回した。それに応えるように、セストの腕が力強くナナカの腰を抱き寄せる。息を継ぐ間も惜しんで、角度を変えて唇を触れあわせる。
ずっと夢見ていた。誰かと温もりを分けあうことを。微笑みあうことを。言葉を交わし、心を通わせることを。夢見ながら、同時に諦めてもいた。それが、叶うなんて。
ナナカの唇が震えていることに気づいて、セストはそっと唇を離すと親指でナナカの涙を拭った。
「ナナカ、愛してるよ」
「あたしも。あたしも、セストを愛してるの。ずっと一緒にいたい」
ナナカは泣きながら笑った。セストは包み込むようにナナカを抱いた。
「きみが心を閉ざしてる間、ずっと、きみが笑った顔が見たくて仕方なかった。こうして触れたくて仕方なかった。やっと見つけた。これからは、ずっと一緒にいよう」
「うん……うん、ありがとう、セスト」
彼らは何度目かのキスをする。
身体が熱かった。セストは、夢と現実の狭間の白い部屋で触れたあの温もりをまた求めている自分に気づく。
「セスト……」
ナナカが上気した真っ赤な顔でセストを見上げる。
「あの、あのね……」
ナナカは何かを言おうとするが、なかなか言葉が出てこない。セストの肩を押して「かがんでほしい」という仕草をするので、そのとおりにする。ナナカがセストの耳に唇を寄せた。それだけで、首筋の産毛が逆立つ。
ナナカはまだ逡巡して、短く息をついた。耳に吐息がかかる。セストは思わず目を閉じた。
意を決して、ナナカはセストの耳元に囁く。
「抱いてほしい……。あたしを、あなたのものにして。もう誰にも、渡さないで」
ぞわっ、と足の先から頭のてっぺんに戦慄が駆け抜けていった。思わずセストはナナカを抱きしめてくちづけ、その口腔に自分の舌を押しこんでいる。ナナカの腰に腕を回して抱き寄せ、小さな舌を追い回し、吸いあげる。呼吸を絡めとるような激しいキスにナナカの息が上がる。爪先立ちになってセストに寄りかかりながら応える。セストの手が、ナナカの背を這う。指がもどかしげにナナカが着ている柔らかなワンピースの生地をまさぐる。
ようやく唇が解放されると、ツ、と透明な橋が一瞬架かった。
「……」
ナナカは真っ赤な顔のまま、黙ってセストの手を引いた。セストも黙ったまま手を引かれてついていく。
ナナカがセストを連れてきたのは、心を閉ざしたナナカの居室としてあてがわれていたのとは別の、広い部屋だった。この塔の中でもメインの客室なのだろうか。リビングとベッドルームに分かれているらしく、ナナカが奥のドアを開ける。そこがベッドルームだった。セストは後ろ手にドアを閉めると、ナナカを横抱きに抱きあげてベッドに運ぶ。互いに見つめあったまま、ナナカをそっと横たえてそのまま唇を重ねた。左手でナナカの髪を撫でながら、右手を指を絡ませて繋ぐ。セストの身体の下で、ナナカの胸が上下しているのを感じる。全てが愛しかった。心が、身体が、この愛しい存在ともっと強く、深く、結びつくことを求めていた。
「さて、私は食事の用意してくるから、シャワーでも浴びてさっぱりしてて。着るものはそこの戸棚の中。セスト導師の僧服から採寸してファミリアたちが作ったから、小さくて着られないってことはないと思うわ。じゃ」
一方的に言うと、風は部屋を出ていってしまった。
「あ……」
扉の方へ手を伸ばしたまましばらく固まっていたセストだったが、諦めて指示されたとおりシャワーを浴びる。平気なつもりでいたが、自分で思っていたよりも疲れていたことがわかる。温かなシャワーで砂埃と疲労を流すとようやく人心地がついた。用意されていた、ゆったりしたシャツとズボンを身につける。
窓を開けて夜風を入れる。晩秋の冷たい風が火照った身体に心地いい。そうだ、ナナカはこの塔のどこにいるのだろう。ナナカが心を閉ざしていた時に使っていた部屋をまだ使っているのだろうか。それとも別の部屋に移っているのか。いずれにせよ、この塔の中で彼女の姿を自力で見つけようとするのは無謀な挑戦だった。
扉の外に気配を感じて振り返る。小さなノックと共に扉が開かれ、その向こうにいたのはセストの胴回りほどもありそうな芋虫と、槍を持った、水棲の肉食昆虫を思わせる妙に脚の長い昆虫型の魔物だった。昆虫はセストが出てきたのを見ると、さっと芋虫に騎乗する。その雫型の昆虫の背は黒く艶々していて、セストの顔が映りそうだった。
彼らはどうやらセストを迎えにきたらしかった。
芋虫の騎馬は蠕動して少しずつ向きを変えると、階段を登る。セストはゆっくりその後についていった。のんびりした道案内だった。
最上階の食堂には、1人分の食卓が整えられていた。
セストは礼を言い、感謝の祈りを捧げてから食べはじめる。
神経が昂っていたせいで空腹を感じていなかっただけで、美味しそうな料理の匂いが忘れていたそれを自覚させた。シェフが大喜びしそうな速さで皿が空になっていく。
あっという間に食事を平らげてしまい、自分でも呆れながら水を飲んでいると何やら声が近づいてきた。
「ほら、大丈夫だから」
風の精霊の声だ。
「でも……」
その声が耳を打った瞬間、セストは弾かれたように立ちあがった。
「ナナカ!」
食堂の扉を開ける。
「セスト」
ナナカが一瞬の驚きの後、見る間に笑顔になる。
「セスト、セスト……!」
食堂前の扉の前で2人は抱きあう。
「おかえり、ナナカ」
セストはナナカを腕の中に閉じ込め、首筋に顔をうずめた。花のような、どこか懐かしい優しい柔らかい匂いがする。
「おかえりなさい、セスト」
ナナカも両腕をセストの広い背中に回す。
「ありがとう」
ナナカのその言葉に、セストは顔をあげた。
「あたしを、2度見つけてくれたのね」
笑ったその目尻から涙がひとすじ流れる。
「きみが希望を捨ててなかったからだ。だから、見つけられた」
ナナカが全てを諦めていたら、おそらくあの白い空間はその形を失っていただろうと思う。希望を捨てず、自分を待っていてくれた。だからこそ、崩れかけてはいたが、完全に崩れることはなく、形を保っていた。
セストの大きな手のひらが、ナナカの薄茶色で癖のない、柔らかな髪を撫でた。頬に熱が集まる。ナナカは自分の手をセストに手に重ねる。そのまま手が頬に下りてきて、引き寄せられる。セストの手から伝わる、現実の熱。ナナカはそれに身を任せた。
意外なほどに柔らかな、セストの熱い唇が躊躇いがちに触れる。ナナカは身をかがめたセストの首に腕を回した。それに応えるように、セストの腕が力強くナナカの腰を抱き寄せる。息を継ぐ間も惜しんで、角度を変えて唇を触れあわせる。
ずっと夢見ていた。誰かと温もりを分けあうことを。微笑みあうことを。言葉を交わし、心を通わせることを。夢見ながら、同時に諦めてもいた。それが、叶うなんて。
ナナカの唇が震えていることに気づいて、セストはそっと唇を離すと親指でナナカの涙を拭った。
「ナナカ、愛してるよ」
「あたしも。あたしも、セストを愛してるの。ずっと一緒にいたい」
ナナカは泣きながら笑った。セストは包み込むようにナナカを抱いた。
「きみが心を閉ざしてる間、ずっと、きみが笑った顔が見たくて仕方なかった。こうして触れたくて仕方なかった。やっと見つけた。これからは、ずっと一緒にいよう」
「うん……うん、ありがとう、セスト」
彼らは何度目かのキスをする。
身体が熱かった。セストは、夢と現実の狭間の白い部屋で触れたあの温もりをまた求めている自分に気づく。
「セスト……」
ナナカが上気した真っ赤な顔でセストを見上げる。
「あの、あのね……」
ナナカは何かを言おうとするが、なかなか言葉が出てこない。セストの肩を押して「かがんでほしい」という仕草をするので、そのとおりにする。ナナカがセストの耳に唇を寄せた。それだけで、首筋の産毛が逆立つ。
ナナカはまだ逡巡して、短く息をついた。耳に吐息がかかる。セストは思わず目を閉じた。
意を決して、ナナカはセストの耳元に囁く。
「抱いてほしい……。あたしを、あなたのものにして。もう誰にも、渡さないで」
ぞわっ、と足の先から頭のてっぺんに戦慄が駆け抜けていった。思わずセストはナナカを抱きしめてくちづけ、その口腔に自分の舌を押しこんでいる。ナナカの腰に腕を回して抱き寄せ、小さな舌を追い回し、吸いあげる。呼吸を絡めとるような激しいキスにナナカの息が上がる。爪先立ちになってセストに寄りかかりながら応える。セストの手が、ナナカの背を這う。指がもどかしげにナナカが着ている柔らかなワンピースの生地をまさぐる。
ようやく唇が解放されると、ツ、と透明な橋が一瞬架かった。
「……」
ナナカは真っ赤な顔のまま、黙ってセストの手を引いた。セストも黙ったまま手を引かれてついていく。
ナナカがセストを連れてきたのは、心を閉ざしたナナカの居室としてあてがわれていたのとは別の、広い部屋だった。この塔の中でもメインの客室なのだろうか。リビングとベッドルームに分かれているらしく、ナナカが奥のドアを開ける。そこがベッドルームだった。セストは後ろ手にドアを閉めると、ナナカを横抱きに抱きあげてベッドに運ぶ。互いに見つめあったまま、ナナカをそっと横たえてそのまま唇を重ねた。左手でナナカの髪を撫でながら、右手を指を絡ませて繋ぐ。セストの身体の下で、ナナカの胸が上下しているのを感じる。全てが愛しかった。心が、身体が、この愛しい存在ともっと強く、深く、結びつくことを求めていた。
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