僕らの運命

ミキノ

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僕らの運命--1--

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 幼い時の記憶は忘れることが出来ない。
 胸の奥底にしまっても、ふとした瞬間、蘇ってくる。

「ゆうじくんいこう? りょうくんはこないで」

 子供の言葉は容赦がない。遊びに誘われるのはいつも、俺のそばにいた幼馴染みの優次だった。
 大人しくて小柄。乱暴な言葉は使わず、外遊びが苦手。だから、男子よりも女子に良く誘われていた。その度、大きな目を潤ませて、りょうくんたすけて、と表情で訴えてくる。

「いってくれば」

 俺は誘われていない当て付けに、優次を冷たくあしらった。そして、優次は泣きそうな顔で女子に連れていかれる。
 でも、俺は知っていた。優次は、五分もすれば俺の元に戻ってくる。そして、いつも同じ言葉を口にする。

「やっぱりつまんない。りょうくんといっしょがいい」

 その言葉で優越感が満たされていたのは、小学校までだった。
 


「大事なプリントだから、必ずお家の人に渡してね」

 前の席から回ってきた紙切れ片手にため息をつく。
 バース検査のお知らせ。教室のあちこちから話し声が聞こえてくるが、ここにいるほとんど、いや全員が関係ない話だろう。それくらいαもΩもいない。俺はプリントを雑に折りたたんで鞄に突っ込む。自分には関係ない。関係ないのに。

「なあ日向野ひがの

 隣で前田が珍しく真剣な顔で話しかけてくる。

「なに」
「あいつさ幼馴染みの。さかきはやっぱαだろ」
「ああ……かもね」

 俺の投げやりな返事を聞いてないのか、だよなあ!と大げさに首を揺らしている。
 本人がいるクラスでは今頃どれだけ騒ぎになっているのか。くだらない。俺は小さくぼやく。

「こんなとこ、来なきゃ良かったのに」
 

 俺のあとを付いて回ってた幼馴染みの優次は、小学四年生の終わりにいなくなってしまった。今でもはっきり覚えてる。
 半袖でいるのがつらくなるほど、肌寒くなってきた放課後。人がいないのをいいことに、校庭の隅にあったバスケットゴールで俺達は遊んでいた。子供用に調整されてない本来の高さで置かれていたそれに、誰もボールを入れることが出来ない。最初は笑ってやってたのが、段々ムキになってくる。俺は苛立って後ろを向いた。

『優次もやってみろよ!』

 優次はいつも俺達を見てるだけで、ボール遊びは得意じゃない。ドッジボールだって逃げ回ってばかり。そんな彼の手を無理やり引っ張ってきてボールを渡す。

『こうやって構えて』
『……こう?』
『そうそう』

 当時流行っていたバスケアニメを思い出しながらそれっぽくアドバイスをして、内心笑っていた。入るわけ無いって。周りの友達も思っていただろう。それが。

『え!?すげえ!? 入った!!』

 何が起きたのかわからなかった。周りの歓声。友達が優次を取り囲んで大喜びしてる。

『やったよ! 亮くん!』

 俺を見て目を輝かせて笑う優次に、やっと気付いた。伸び始めた背。覗き込んだ時に見えた満点のテスト。
 優次は俺がいないと何も出来ない、なんて。
 そんなの初めから、俺の願望の中だけだったんだ。


「亮くん」

 聞き慣れた声が背後から追いかけてくる。ひどく億劫で、でも廊下は周囲の目があった。俺はわざとゆっくり振り返る。いつ見ても頭ひとつ抜けた背と目鼻立ちのはっきりした顔が癇にさわる。

「なに……」
「今日部活無いんだ。亮くんもでしょ? 一緒に帰ろう」

 反射的に出てきそうになった、嫌という二音をどうにか飲み込んだ。俺のあからさまな表情を読み取ることもせず、優次はにこにこ笑っていた。

「……いいよ」

 仕方なく頷けば、優次はすぐさま俺の隣に並んで学校での出来事を話し始めた。俺は機械的に相槌を打つ。それは、家に辿り着くまで続く拷問じみた時間だ。 
 

 あのバスケットゴールでの出来事をきっかけに、俺から優次に話しかけるのをぱったりやめた。学年が上がり、クラスが変われば二人の時間はぐんと減る。それでも。

『優次くん、この間の体育のテストで……』
『かっこいい! 榊くんだけ出来たんだよ!』

 毎日聞こえてくる優次の武勇伝じみた噂話に俺は強く嫉妬していて、どうにか距離を置きたかった。
 でも優次は違う。俺の態度があからさまに冷たくなっても気にせず声をかけてくる。断ってもめげずに食い下がる。あげくに優次の相手をしない俺が悪いと周りから言われる始末だ。最悪な毎日。けれど、中学までの辛抱だと思った。
 優次の家は金持ちで、優次に対しても教育熱心だった。当然、中学受験をする。本人だってそう言って寂しいとぼやいていた。だから、進学を心待ちにしていたのに。

「今度の合同授業、楽しみだね」

 どうして俺は、同じ制服を着た優次と一緒に帰らなければならないんだろう。

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