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僕らの運命--3--
しおりを挟む「はあ~。最高」
優次が帰った後、ひとしきり笑ってベッドに寝転ぶ。予想以上に面白すぎた。傑作だ。
「あいつの顔!」
思い出すだけでニヤけてしまう。真っ赤になって手を握ってきたあげく、あの言葉。
『亮くん。ヒートになったら番になろう』
「ヒートなんか来るかばーか」
すぐバラすつもりだった。でも、しばらく黙っていた方がもっと面白いことになる。そう思ってしまった。
βの幼馴染みに間違って番の約束なんて。
「黒歴史確定だな」
目をつぶって、想像する。優次が俺の言葉に傷つき、顔を歪める姿。良い気分だった。この時までは。
今日の嘘が人生の分岐点だったなんて、馬鹿な俺は考えもしなかったから。
ここ数週間、俺は楽しい毎日を送っている。約束をしてから、優次は俺に対して笑えるほど甲斐甲斐しく世話を焼くようになった。朝練のない日は必ず俺を家まで迎えに来る。
「おはよう亮くん」
リビングの椅子に座って、母さんと笑い合ってる優次の姿も日常になりつつあった。以前ならうっとおしくて仕方なかっただろうけど、今は違う。なんたって、俺は優次の番だから。
「これ、美味しそうだったから」
優次は俺に対して何かしらプレゼントを渡してくる。美味い菓子。面白そうな漫画。見た目がおしゃれな文房具。
「ありがと。俺これ好き」
悪いな、と思ってたのは最初だけ。だって、俺が優次に強請ったわけじゃない。優次が勝手に渡してくるんだ。俺に甘ったるい視線を向けながら。
「これかな………」
その日、俺は一人ドラッグストアで安い香水を手に取っていた。
ネットで紹介されてたΩの匂いに似た香水。もちろん本気にしてない。けど、そろそろバレるんじゃないか。なんせ、優次に検査結果を見せろと言われてしまえば一発だ。言われるまでの間を、もう少しだけ楽しみたい。
小さなボトルを握りしめて、俺はこそこそとレジに向かった。
「ほんとに良い匂い」
「そうか?」
優次がそう言って身を寄せてくるのを惚けながら、さりげなく避ける。香水の効果が予想以上なのは嬉しいが、距離感が近くなったのはうっとうしい。まあ、抱きしめられたりされないだけマシか。
「ヒートが近いからかな……チョーカー用意しないとね」
そんな発言を嬉しそうに言う優次に内心ドン引きだ。引きつる顔をどうにか堪えて、俺は素っ気なく返す。
「全然まだだから大丈夫……そんでさ、話って?」
せっかくの休日、優次に大事な話があると呼び出されてしまった。家に呼ばれたけど、行きたくなくて断ったら、このじめじめ蒸し暑い公園のベンチだ。優次が買って来たソーダアイスがなかったら耐えられない。さっさと終わらせて、クーラーの効いた部屋で寝よう。
「ごめんね、こんな所で。人に聞かれたくない話だから」
「別に。んで」
「あのね、僕たち来年二年生でしょ」
「そりゃな」
「僕、中学は無理言って公立にしてもらったから、高校は頑張らないといけないんだ」
「ああ………まあそうだな」
なんだ?自虐風の自慢? 俺はイライラしながらアイスを噛み砕いた。甘ったるい人工的な味。
「それでね、亮くんも同じとこに行けないかな?」
「は?」
俺は何を言ってるのかわからなくて、アイスから顔を上げて優次を凝視する。いつも通りの笑顔。
「同じ?」
「うん」
そう言って優次がスマホを見せてくる。なんとなく知ってるような学校名。そうだ確かCMで……。
「バース性にすごく理解がある学校なんだ。ここなら亮くんも安心出来るよ」
突然、後ろから突き飛ばされたような心地だった。胸がぎゅっと締まって、妙に息苦しい。シャツの首元を引っ張る。
「ここ、頭良いとこだろ……」
「今から勉強すれば大丈夫」
僕も教えるから、なんて微笑んでいる。当たり前のように言ってくるのが怖い。
「でも! ……お、親次第だからさ」
「応援してくれると思うけど」
どっと吹き出す汗は暑いだけが理由じゃない。
もうバラしてもいいじゃん。頭ではそう思っているのに、口を開いても言葉が出てこない。全身が震える。何でだ……。
「亮くん」
「え……な、に」
「溶けてるよ」
手首までアイスが垂れていることに気付かなかった。そっと優次の指が溶けたアイスを拭う。濡れた指先を優次が舐める。俺は呆然とその光景を眺めていた。
「僕がついてるから。一緒に頑張ろうね」
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