僕らの運命

ミキノ

文字の大きさ
3 / 8

僕らの運命--3--

しおりを挟む

「はあ~。最高」

 優次が帰った後、ひとしきり笑ってベッドに寝転ぶ。予想以上に面白すぎた。傑作だ。

「あいつの顔!」

 思い出すだけでニヤけてしまう。真っ赤になって手を握ってきたあげく、あの言葉。

『亮くん。ヒートになったら番になろう』

「ヒートなんか来るかばーか」

 すぐバラすつもりだった。でも、しばらく黙っていた方がもっと面白いことになる。そう思ってしまった。
 βの幼馴染みに間違って番の約束なんて。

「黒歴史確定だな」

 目をつぶって、想像する。優次が俺の言葉に傷つき、顔を歪める姿。良い気分だった。この時までは。
 今日の嘘が人生の分岐点だったなんて、馬鹿な俺は考えもしなかったから。



 ここ数週間、俺は楽しい毎日を送っている。約束をしてから、優次は俺に対して笑えるほど甲斐甲斐しく世話を焼くようになった。朝練のない日は必ず俺を家まで迎えに来る。

「おはよう亮くん」

 リビングの椅子に座って、母さんと笑い合ってる優次の姿も日常になりつつあった。以前ならうっとおしくて仕方なかっただろうけど、今は違う。なんたって、俺は優次の番だから。

「これ、美味しそうだったから」

 優次は俺に対して何かしらプレゼントを渡してくる。美味い菓子。面白そうな漫画。見た目がおしゃれな文房具。

「ありがと。俺これ好き」

 悪いな、と思ってたのは最初だけ。だって、俺が優次に強請ったわけじゃない。優次が勝手に渡してくるんだ。俺に甘ったるい視線を向けながら。


「これかな………」

 その日、俺は一人ドラッグストアで安い香水を手に取っていた。
 ネットで紹介されてたΩの匂いに似た香水。もちろん本気にしてない。けど、そろそろバレるんじゃないか。なんせ、優次に検査結果を見せろと言われてしまえば一発だ。言われるまでの間を、もう少しだけ楽しみたい。
 小さなボトルを握りしめて、俺はこそこそとレジに向かった。



「ほんとに良い匂い」
「そうか?」

 優次がそう言って身を寄せてくるのを惚けながら、さりげなく避ける。香水の効果が予想以上なのは嬉しいが、距離感が近くなったのはうっとうしい。まあ、抱きしめられたりされないだけマシか。

「ヒートが近いからかな……チョーカー用意しないとね」

 そんな発言を嬉しそうに言う優次に内心ドン引きだ。引きつる顔をどうにか堪えて、俺は素っ気なく返す。

「全然まだだから大丈夫……そんでさ、話って?」

 せっかくの休日、優次に大事な話があると呼び出されてしまった。家に呼ばれたけど、行きたくなくて断ったら、このじめじめ蒸し暑い公園のベンチだ。優次が買って来たソーダアイスがなかったら耐えられない。さっさと終わらせて、クーラーの効いた部屋で寝よう。

「ごめんね、こんな所で。人に聞かれたくない話だから」
「別に。んで」
「あのね、僕たち来年二年生でしょ」
「そりゃな」
「僕、中学は無理言って公立にしてもらったから、高校は頑張らないといけないんだ」
「ああ………まあそうだな」

 なんだ?自虐風の自慢? 俺はイライラしながらアイスを噛み砕いた。甘ったるい人工的な味。

「それでね、亮くんも同じとこに行けないかな?」
「は?」

 俺は何を言ってるのかわからなくて、アイスから顔を上げて優次を凝視する。いつも通りの笑顔。

「同じ?」
「うん」

 そう言って優次がスマホを見せてくる。なんとなく知ってるような学校名。そうだ確かCMで……。

「バース性にすごく理解がある学校なんだ。ここなら亮くんも安心出来るよ」

 突然、後ろから突き飛ばされたような心地だった。胸がぎゅっと締まって、妙に息苦しい。シャツの首元を引っ張る。

「ここ、頭良いとこだろ……」
「今から勉強すれば大丈夫」

 僕も教えるから、なんて微笑んでいる。当たり前のように言ってくるのが怖い。

「でも! ……お、親次第だからさ」
「応援してくれると思うけど」

 どっと吹き出す汗は暑いだけが理由じゃない。
 もうバラしてもいいじゃん。頭ではそう思っているのに、口を開いても言葉が出てこない。全身が震える。何でだ……。

「亮くん」
「え……な、に」
「溶けてるよ」

 手首までアイスが垂れていることに気付かなかった。そっと優次の指が溶けたアイスを拭う。濡れた指先を優次が舐める。俺は呆然とその光景を眺めていた。

「僕がついてるから。一緒に頑張ろうね」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

隣の番は、俺だけを見ている

雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。 ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。 執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。 【キャラクター設定】 ■主人公(受け) 名前:湊(みなと) 属性:Ω(オメガ) 年齢:17歳 性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。 特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。 ■相手(攻め) 名前:律(りつ) 属性:α(アルファ) 年齢:18歳 性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。 特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。

政略結婚したかった

わさび
BL
御曹司 朝峰楓× 練習生 村元緋夏 有名な事務所でアイドルを目指して練習生をしている緋夏だが、実は婚約者がいた。 二十歳までにデビューしたら婚約破棄 デビューできなかったらそのまま結婚 楓と緋夏は隣同士に住む幼馴染で親はどちらも経営者。 会社のために勝手に親達が決めた政略結婚と自分の気持ちで板挟みになっている緋夏だったが____

double personality

なつめ
BL
奇病に悩む【那月冬李】。その秘密は誰にも言えない。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

処理中です...