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僕らの運命--6--
しおりを挟む「やっと終わった……」
生徒のための定期ヒアリングだか知らないが、授業終わりに長い時間あれこれ聞かれてたまったもんじゃない。
先に帰ってろ、と優次に連絡しておいてよかった。人通りの少ない廊下をだらだら歩く。
前にいた一人の生徒の歩き方が何となく変だとは思ってた。それが急に崩れ落ちるよう座り込んだから、俺は声すら出せずに立ち止まる。
「あ……だ、大丈夫ですか!?」
我に返って駆け寄ると、不思議な匂いがする。嗅いだことのない、甘い……果物のような……。自然と体が前に動く。
「駄目! 離れて! 先生! 誰かいませんか!」
突然後ろから強く引っ張られ、俺はそのまま尻もちを着く。呆然と見上げると上級生らしい女子生徒が鋭く叫んでいる。
あっという間に教師が数名集まってきて、座り込んだ生徒を取り囲む。騒然とした空気の中、ただ目を見開いて固まっていることしか、俺には出来なかった。
「うん、特に反応もないね。家には連絡しなくて平気?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
具合の悪そうだった生徒はヒートを起こしていたと知ったのは、全部終わったあとだ。念の為、保健室で休むように言われていたが、βの俺自身には何の影響もない。フェロモンを嗅いだのも一瞬だったし。
頭を下げてから部屋を出る。歩きながら鞄から香水を取り出した。
「全然違った……」
中学の時から欠かさずつけていたのが、何だか馬鹿らしくなってくる。優次が家で待っていることを思い出して、俺はため息をついた。
「おかえり。遅かったね」
「ただいま……母さんは?」
何故か居間にいる優次に驚いて、辺りを見回すが人の気配がない。
「お祖母さんに呼ばれたから会いに行くって」
「ああ……」
最近少し呆けてきたから時々あることだ。夕飯どうすんだろ。
「あーじゃあ何か用意するから先上がってて」
「僕も手伝う、というより僕がやってるから着替えてきたら?」
「ん。わり、任せた」
一瞬迷ったが、まあ優次だし。俺は頷いて部屋に向かった。
着替え終わって勉強道具を広げ終わると、急に疲れがのしかかって来る。やる気が湧かず、ベッドに座り込んだ。今日は色々あったし、やっぱり帰ってもらおうか。
「おまたせ」
迷っている内に、ジュースと菓子の乗ったトレーを持って優次が現れた。テーブルに置いた後、何故か俺の隣に座ってくる。
「なに……?」
「いつもと違う匂いがする」
途端、鼓動が跳ね上がった。
「そうか?」
優次から目を逸らし、手の甲をつねる。ちゃんと着替えてんのに。やっぱりΩのフェロモンは別物なんだ。どうしよう。なんて言えばいい。
「亮くん」
やけにゆっくりと優次が俺の名前を呼ぶ。頭の中がぐらぐらと揺れるような、気持ち悪い感覚が俺を襲う。
「な、に」
「僕に隠し事、あるでしょ」
一瞬、息が止まった。怖くて顔が上げられない。とうとう来てしまった。全部、全部駄目になる。
俺は目をつぶり、覚悟を決めた。
「ヒート、もう来てるよね?」
「……は?」
何を言ってるんだろう。その時ばかりは恐怖も忘れ、俺は優次の顔を見た。いつも通り……じゃない。爛々と輝く両目が俺を捉えている。
「な、なに言ってんの」
「言葉通り。ひどいよ亮くん。ヒートが来たら番になろうって約束したのに」
反射的に優次から距離を取ろうとして、出来なかった。それより前に両手首をがっちり掴まれてしまう。
「今からなろうよ」
そう囁かれて、全身に鳥肌が立った。番になる。ただうなじを噛むだけじゃないって事は、俺にだって分かってる。
「ふざけんな! やらねえ! 離せ!!」
全力で体をバタつかせるが、体重をかけながらベッドに押し倒されたら、体格差でどうしようもない。俺が暴れれば暴れるほど、優次の力が強くなる。俺は力いっぱい叫んだ。
「ベータ! 俺はβだ!」
「β?」
訝しげな顔をした優次が俺を見下ろす。もうなんだっていい。何もかも駄目になったっていい。
「そうだよ! この匂いは学校でΩの人がヒートを起こして……だから関係ない。ずっと嘘ついてたんだ俺」
「亮くん……」
優次の手が一瞬ゆるむ。早く放してくれ。
「あははは!」
こんな状況で笑い出す優次が信じられなかった。続く言葉に焦りと怒りが募る。
「違うよ。亮くんはΩだ」
「だからっ!」
「勘違いでも嘘でもない。亮くんは俺だけのΩだよ」
「なっ……」
俺だけ? だけってなんだよ。意味が……。
「お前……最初から……」
その先は恐ろしくて声に出せなかった。分かった上で言っているなら。目の前の男は狂ってる。
「優しくするね」
血の気の引いた俺の顔に触れながら、優次はうっとりと微笑んだ。
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