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第一章 スローライフと似顔絵屋さん
閑話 遠い異国から来た旅の絵描き
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仕事に戻るというリュートに礼を言い、考え事をしながらシュメリルールの街をブラつく。ふと画用紙の残りが心許ないことを思い出し、いつも行く本屋兼画材屋へ立ち寄る。
ドアを開けると、紙の匂いが鼻をくすぐり、続いてツンと絵の具が匂う。
本屋のご主人は、いつもの席で片眼鏡をかけて本を読んでいた。俺が軽く頭を下げると、壁を指差し、
「おまえさんの絵、評判いいぞ」と言って本を閉じる。壁には俺の描いた、風景画と似顔絵が飾ってあった。
「何人かに、レムナム用の似顔絵や風景画が欲しいと言われた。受けるか?」
願ってもない話だが、『レムナム』がわからない。さゆりさんの単語帳にない言葉だった。ご主人に聞くと、どうやら見合いのような感じらしい。結婚のための顔合わせ、と説明してくれた。他にも結婚の挨拶状の絵や、遠く離れた両親に初孫の絵を送りたい等の依頼もあるらしい。
単語帳を持っていても、わからないことばかりだ。いちいち説明が必要な俺に対して、ご主人は辛抱強く付き合ってくれた。なぜここまでしてくれるのか、そんな疑問が顔に出ていたのだろう。
「俺は、おまえさんの絵は、ちょっと凄いと思っている。俺がいいと思う絵が、売れないはずがない」
ご主人がフンッと鼻息を荒くして言う。その得意そうな様子に、有難くて胸が詰まる。依頼は全て受けると答えると、段取りも引き受けてくれた。金貨は必要だ。それは日本で暮らしていた時と変わらない。だが、絵を描くことで、俺はそれ以上のものを受け取っている。
本屋のご主人の名前は、トリノさんというらしい。今日初めて聞いた。
俺の名前はヒロト、二ノ宮ヒロト。誰も知らない遠い異国から来た。行方不明の嫁を探して子連れで旅をしている、しがない絵描きだ。
ドアを開けると、紙の匂いが鼻をくすぐり、続いてツンと絵の具が匂う。
本屋のご主人は、いつもの席で片眼鏡をかけて本を読んでいた。俺が軽く頭を下げると、壁を指差し、
「おまえさんの絵、評判いいぞ」と言って本を閉じる。壁には俺の描いた、風景画と似顔絵が飾ってあった。
「何人かに、レムナム用の似顔絵や風景画が欲しいと言われた。受けるか?」
願ってもない話だが、『レムナム』がわからない。さゆりさんの単語帳にない言葉だった。ご主人に聞くと、どうやら見合いのような感じらしい。結婚のための顔合わせ、と説明してくれた。他にも結婚の挨拶状の絵や、遠く離れた両親に初孫の絵を送りたい等の依頼もあるらしい。
単語帳を持っていても、わからないことばかりだ。いちいち説明が必要な俺に対して、ご主人は辛抱強く付き合ってくれた。なぜここまでしてくれるのか、そんな疑問が顔に出ていたのだろう。
「俺は、おまえさんの絵は、ちょっと凄いと思っている。俺がいいと思う絵が、売れないはずがない」
ご主人がフンッと鼻息を荒くして言う。その得意そうな様子に、有難くて胸が詰まる。依頼は全て受けると答えると、段取りも引き受けてくれた。金貨は必要だ。それは日本で暮らしていた時と変わらない。だが、絵を描くことで、俺はそれ以上のものを受け取っている。
本屋のご主人の名前は、トリノさんというらしい。今日初めて聞いた。
俺の名前はヒロト、二ノ宮ヒロト。誰も知らない遠い異国から来た。行方不明の嫁を探して子連れで旅をしている、しがない絵描きだ。
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