28 / 166
第一章 スローライフと似顔絵屋さん
第十一話 はじめの一歩
しおりを挟む
「おとーさん。ドルンゾ山はどっちの方向?」
「シュメリルールまで行ってから、街道を西に向かう。あっちだな」
太陽が顔を出しはじめた方角と、反対側を指さす。地平線を見つめるハルの横顔は、思わず二度見してしまうほど、ナナミによく似ている。
近頃のハルは、俺の服の裾を掴まなくなった。まっすぐ前を向いて俺の隣に立つ。手を取って歩こうとすると、すっと離れていく。この世界に飛ばされて来たばかりの頃は、いつも俺の脇腹のあたりにしがみついていたのに。
日本に住んでいる頃、当たり前のようにハナを片手で抱き上げ、ハルの手を取り歩いた。隣にはナナミがいて、腕が疲れるとハナを渡したり、荷物を受け取ったりした。
様変わりした周囲の状況に負けることなく、ハルは一人で歩くようになった。ハナもそのうち自分で歩くようになるだろう。変わっていく、変わってしまった。でも、変わらないものも、きっとある。四人揃ったら、きっと見つかるはずだ。
その、変わらないものを探しに行こう。俺たち家族の、大切なものを。
俺とハルは、旅に出る。大岩の家に、ハナを置き去りにして旅に出る。ナナミを探す、旅に出る。
俺がいなくともハナが泣かずに、笑って暮らしてくれると良いなと思う。俺が帰って来ない事で、ハナが泣き叫んでしまえばいいと思う。
我ながら病んだ父親だ。
「そろそろ行くか?」とハルに聞くと、「おとーさんを待っていたんだよ」と返された。
寝顔でもいいから最後にハナの顔を見ようかと思い、やめておく。出掛けられなくなりそうだ。二本目の煙草を箱の中に戻し、岩壁の縄バシゴを降りる。
この世界に飛ばされて来た日に着ていたTシャツにジーンズ。爺さんお手製の編み上げブーツの紐をぎゅっと結びなおす。革製のベルトに、スリングショット入りの小物入れを通し、腰から下げる。ポンチョを羽織ってから、ハルの装備を確認する。コスプレのような格好だが、ここ茜岩谷サラサスーン地方では一般的な旅装だ。
荷物を馬に乗せ、大岩の入り口へと歩く。
壁の、未だに謎のままのギミックが、ゴゴゴゴーっと、びっくりする程大きな音を立てて開く。たぶん、全員が同じことを考えている。
『ハナが起きちゃったらどうしよう』
四人で同じ方向を見て咄嗟に顔を見合わせて、なんだか全員でうなずき合う。
同じ心配をして、まるで、家族みたいに。
さゆりさんが膝を折りハルを抱きしめる。
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
「元気で帰って来い」爺さんがいつも通りの口調で言う。
「行ってきます。ハナを、よろしくお願いします」
特別なことは誰も、何も口にしない。当たり前の朝の、出かける前の挨拶のみ交わして。
「じーちゃん! ばーちゃん! 行ってきまーす」
ハルは手を振り、俺は軽く頭を下げる。
俺たちは今日、ナナミを探す旅に出る。『海辺の街の教会』という、ほんのわずかな情報を頼りに。
昇り始めた朝日を背に、俺とハルは、ようやくはじめの一歩を踏み出した。
「シュメリルールまで行ってから、街道を西に向かう。あっちだな」
太陽が顔を出しはじめた方角と、反対側を指さす。地平線を見つめるハルの横顔は、思わず二度見してしまうほど、ナナミによく似ている。
近頃のハルは、俺の服の裾を掴まなくなった。まっすぐ前を向いて俺の隣に立つ。手を取って歩こうとすると、すっと離れていく。この世界に飛ばされて来たばかりの頃は、いつも俺の脇腹のあたりにしがみついていたのに。
日本に住んでいる頃、当たり前のようにハナを片手で抱き上げ、ハルの手を取り歩いた。隣にはナナミがいて、腕が疲れるとハナを渡したり、荷物を受け取ったりした。
様変わりした周囲の状況に負けることなく、ハルは一人で歩くようになった。ハナもそのうち自分で歩くようになるだろう。変わっていく、変わってしまった。でも、変わらないものも、きっとある。四人揃ったら、きっと見つかるはずだ。
その、変わらないものを探しに行こう。俺たち家族の、大切なものを。
俺とハルは、旅に出る。大岩の家に、ハナを置き去りにして旅に出る。ナナミを探す、旅に出る。
俺がいなくともハナが泣かずに、笑って暮らしてくれると良いなと思う。俺が帰って来ない事で、ハナが泣き叫んでしまえばいいと思う。
我ながら病んだ父親だ。
「そろそろ行くか?」とハルに聞くと、「おとーさんを待っていたんだよ」と返された。
寝顔でもいいから最後にハナの顔を見ようかと思い、やめておく。出掛けられなくなりそうだ。二本目の煙草を箱の中に戻し、岩壁の縄バシゴを降りる。
この世界に飛ばされて来た日に着ていたTシャツにジーンズ。爺さんお手製の編み上げブーツの紐をぎゅっと結びなおす。革製のベルトに、スリングショット入りの小物入れを通し、腰から下げる。ポンチョを羽織ってから、ハルの装備を確認する。コスプレのような格好だが、ここ茜岩谷サラサスーン地方では一般的な旅装だ。
荷物を馬に乗せ、大岩の入り口へと歩く。
壁の、未だに謎のままのギミックが、ゴゴゴゴーっと、びっくりする程大きな音を立てて開く。たぶん、全員が同じことを考えている。
『ハナが起きちゃったらどうしよう』
四人で同じ方向を見て咄嗟に顔を見合わせて、なんだか全員でうなずき合う。
同じ心配をして、まるで、家族みたいに。
さゆりさんが膝を折りハルを抱きしめる。
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
「元気で帰って来い」爺さんがいつも通りの口調で言う。
「行ってきます。ハナを、よろしくお願いします」
特別なことは誰も、何も口にしない。当たり前の朝の、出かける前の挨拶のみ交わして。
「じーちゃん! ばーちゃん! 行ってきまーす」
ハルは手を振り、俺は軽く頭を下げる。
俺たちは今日、ナナミを探す旅に出る。『海辺の街の教会』という、ほんのわずかな情報を頼りに。
昇り始めた朝日を背に、俺とハルは、ようやくはじめの一歩を踏み出した。
0
あなたにおすすめの小説
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる