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第一章 スローライフと似顔絵屋さん
第十話 忙しなく
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キャラバンのネコ耳店長に返事をする前に、ちゃんとハルと話し合うことにした。
往復で一ヶ月以上(この世界では半季節という)の道のりを、馬車で移動すること、ハナは茜岩谷で留守番をすること。ほとんど毎日野営となり、寝袋で寝ること。俺は毎日の食事の支度や馬の世話を引き受けているので、その手伝いをして欲しいこと。山越えがあること、護衛が同行するらしいが、獣や盗賊に襲われる危険があること。
「それでもハルは、お父さんと一緒に行くか?」
「うん、ぼく、おとーさんといっしょに行くよ。いっしょにおかーさんをむかえに行くって、何度もやくそくしたじゃん」
「大岩の家に居れば、毎日ベッドで寝れるし、美味しい物もお腹いっぱい食べられる。危険もないし、ここの生活は楽しいだろう?」
「うん。毎日とってもたのしい。でも、ぼくはおとーさんといっしょがいい」
「怖い目に遭うかもしれないぞ」
「こわくても、ぼくは泣かない。おとーさんと行く」
「わかった。一緒に行こう」
言いながらハル引き寄せ、頭を胸に抱えて抱き締める。
ハル、いつの間にそんな目をするようになったんだよ。
ハルの目は、少年の持つそれに、変わっていた。生意気で、怖いもの知らずな少年の目だ。危うくも眩しいその目には、決意の色を滲ませている。
どうやら俺はハルのそんな瞬間を、拝ませてもらっているらしい。これは、ナナミに言ったら、きっと悔しがるに違いない。
断腸の思いで、ハナは大岩の家に置いて行くこと決めた。
「旅の間、ハナを預かってもらっても良いでしょうか」
「当たり前じゃない! 責任持ってお預かりするわ。こちらこそ、ハル君を頼むわね」
二人とも、絶対に無事で帰ってくること! 約束よ!
さゆりさんが、人差し指を立てて言った。
「ハルも、ハナも、ヒロトもうちの子だ」と爺さんが言い、
「あら、いい事言うのね」と、さゆりさんが笑った。
用意していた、紐に通した金貨を渡すと、
「ここの生活に、お金なんてほとんど必要ないじゃない。こんなにたくさん、受け取れないわ」と困った顔をした。
「もし万が一俺とハルが戻らなかった時は、ハナのこれからのことも、お願いしたいんです」
頭を下げて、半ば無理やり受け取ってもらった。もっとも金貨の数は、ハナが嫁に行くまで面倒を見てもらうには、到底及ばない、ささやかなものだったのだが。
ずっと決めかねて、思い悩んでいた子供たちのことが決まり、少しすっきりとした気分になった。思う通りにはならなかったが、決まってしまえばこれが最善のようにも思えた。ハナのことは、俺が自分で守れるようになるまで、仕方のないことだ。そう思うことにした。
旅先で見たら、きっと泣いてしまうなと思いながら、ハナの写真をスマホのカメラでたくさん撮ったり、一ヶ月後に、帰ってきたら俺の事を忘れているんじゃないかと、呑気で切実な心配をしたりした。
旅支度をするのは、どこか切なかった。忙しなく、やらなければならない事に追われなければ、立ち竦んでしまいそうだった。
シュメリルールでの用事も全て済ませた。ハルを連れてネコ耳店長のところへ行き、正式にキャラバンへの参加を頼み、料金の支払いを済ませる。キャラバンのメンバーへの紹介もしてもらった。護衛担当の二人の大男が特に印象深かった。ハザンとトプルという兄弟だという。筋肉の塊のような二人だった。
本屋のトリノさんのところへ行き、依頼の絵を渡す。なるべく大岩の家でハナと過ごしたかったので、依頼は全て持ち帰って描いた。似顔絵はこっそりスマホのカメラを使ったのだが、トリノさんに『よく見ないで描けるな!』と褒められて、非常に心苦しかった。
一ヶ月ほど旅に出る事を話すと、「無事に帰って来いよ」と言って、餞別にデッサン用の木炭を十本ほど袋に入れて渡してくれた。そして、「旅先でも、良い絵を描いて、帰って来たら見せてくれ」と背中を強く叩かれた。
この世界の人が良い人ばかりなのだろうか。それとも俺が特別運が良くて、良い人ばかりに会うのだろうか。もしかしてコレがこの世界の神さまにもらった、俺のチートなのかも知れないと、半ば本気で考えたりもした。
慌ただしく、忙しなく、あっという間に日々は過ぎてしまった。
明日の朝は、ハナが目を覚ます前に出かける予定だ。
往復で一ヶ月以上(この世界では半季節という)の道のりを、馬車で移動すること、ハナは茜岩谷で留守番をすること。ほとんど毎日野営となり、寝袋で寝ること。俺は毎日の食事の支度や馬の世話を引き受けているので、その手伝いをして欲しいこと。山越えがあること、護衛が同行するらしいが、獣や盗賊に襲われる危険があること。
「それでもハルは、お父さんと一緒に行くか?」
「うん、ぼく、おとーさんといっしょに行くよ。いっしょにおかーさんをむかえに行くって、何度もやくそくしたじゃん」
「大岩の家に居れば、毎日ベッドで寝れるし、美味しい物もお腹いっぱい食べられる。危険もないし、ここの生活は楽しいだろう?」
「うん。毎日とってもたのしい。でも、ぼくはおとーさんといっしょがいい」
「怖い目に遭うかもしれないぞ」
「こわくても、ぼくは泣かない。おとーさんと行く」
「わかった。一緒に行こう」
言いながらハル引き寄せ、頭を胸に抱えて抱き締める。
ハル、いつの間にそんな目をするようになったんだよ。
ハルの目は、少年の持つそれに、変わっていた。生意気で、怖いもの知らずな少年の目だ。危うくも眩しいその目には、決意の色を滲ませている。
どうやら俺はハルのそんな瞬間を、拝ませてもらっているらしい。これは、ナナミに言ったら、きっと悔しがるに違いない。
断腸の思いで、ハナは大岩の家に置いて行くこと決めた。
「旅の間、ハナを預かってもらっても良いでしょうか」
「当たり前じゃない! 責任持ってお預かりするわ。こちらこそ、ハル君を頼むわね」
二人とも、絶対に無事で帰ってくること! 約束よ!
さゆりさんが、人差し指を立てて言った。
「ハルも、ハナも、ヒロトもうちの子だ」と爺さんが言い、
「あら、いい事言うのね」と、さゆりさんが笑った。
用意していた、紐に通した金貨を渡すと、
「ここの生活に、お金なんてほとんど必要ないじゃない。こんなにたくさん、受け取れないわ」と困った顔をした。
「もし万が一俺とハルが戻らなかった時は、ハナのこれからのことも、お願いしたいんです」
頭を下げて、半ば無理やり受け取ってもらった。もっとも金貨の数は、ハナが嫁に行くまで面倒を見てもらうには、到底及ばない、ささやかなものだったのだが。
ずっと決めかねて、思い悩んでいた子供たちのことが決まり、少しすっきりとした気分になった。思う通りにはならなかったが、決まってしまえばこれが最善のようにも思えた。ハナのことは、俺が自分で守れるようになるまで、仕方のないことだ。そう思うことにした。
旅先で見たら、きっと泣いてしまうなと思いながら、ハナの写真をスマホのカメラでたくさん撮ったり、一ヶ月後に、帰ってきたら俺の事を忘れているんじゃないかと、呑気で切実な心配をしたりした。
旅支度をするのは、どこか切なかった。忙しなく、やらなければならない事に追われなければ、立ち竦んでしまいそうだった。
シュメリルールでの用事も全て済ませた。ハルを連れてネコ耳店長のところへ行き、正式にキャラバンへの参加を頼み、料金の支払いを済ませる。キャラバンのメンバーへの紹介もしてもらった。護衛担当の二人の大男が特に印象深かった。ハザンとトプルという兄弟だという。筋肉の塊のような二人だった。
本屋のトリノさんのところへ行き、依頼の絵を渡す。なるべく大岩の家でハナと過ごしたかったので、依頼は全て持ち帰って描いた。似顔絵はこっそりスマホのカメラを使ったのだが、トリノさんに『よく見ないで描けるな!』と褒められて、非常に心苦しかった。
一ヶ月ほど旅に出る事を話すと、「無事に帰って来いよ」と言って、餞別にデッサン用の木炭を十本ほど袋に入れて渡してくれた。そして、「旅先でも、良い絵を描いて、帰って来たら見せてくれ」と背中を強く叩かれた。
この世界の人が良い人ばかりなのだろうか。それとも俺が特別運が良くて、良い人ばかりに会うのだろうか。もしかしてコレがこの世界の神さまにもらった、俺のチートなのかも知れないと、半ば本気で考えたりもした。
慌ただしく、忙しなく、あっという間に日々は過ぎてしまった。
明日の朝は、ハナが目を覚ます前に出かける予定だ。
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