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第二章 キャラバンのお仕事
閑話 ハザンとサシ呑み
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宿屋へ着くと、ロレンは商会の店舗に仮眠室があるからと言って帰って行った。送ってくれたのだろう。完璧なエスコートだ。
カウンターで預けていた荷物を受け取り、自分たちに割り振られた部屋へと向かう。この世界で、宿屋に泊まるのは初めてだ。なんとはなしにテンションが上がる。約二週間ぶりにベッドで寝られるのも、やっぱり嬉しかった。
部屋に入ると壁に作り付けのベッドが取り付けてある、二人用の簡素な部屋だった。窓も小さく飾り気もないが、ハルは嬉しそうに狭いベッドの上をゴロゴロと転がった。
おなかがいっぱいで寝れないよー、と言っていたが、ゴロゴロしながら寝てしまった。仕方ないので海でしょっぱくなってしまった足だけでもと、温かい濡れタオルで拭いてやった。
ナナミへのメールを打つ。つい長文になってしまい、削除する。ラーザへ到着し教会へ行ったことだけ書いて、あとはいつも通り近況を簡単に綴った。ラーザの海と街の写メを添付して、送信の操作をする。
この瞬間だけは何度繰り返してもやるせないな。
そう思ってスマホをしまおうとすると、画面に『メールを送信しました』と、メッセージが表示された。
俺は思わず立ち上がって、そのメッセージをたっぷり五秒見つめる。
我に返って電話機能を操作する。謎電波さんが仕事をしている! 電話がつながるかも知れない!
呼び出し音は鳴らなかった。
腕から力が抜けてスマホを落としそうになるのを必死で受け止める。俺にはスマホがナナミと繋がる、頼りなく細い糸電話のように思えた。そして今、その糸が微かに震えた。
糸は切れてはいない。
送信トレイを確認する。確かにさっき送ったメールが入っていた。ナナミのスマホも生きている。ソーラーパネル付きの充電アダプターを持って来ている証拠だ!
ふと気付くと部屋のドアをノックする音が鳴っていた。
「ヒロト、ハル寝たか?」ハザンがドアを細く開けた。
俺が頷いて部屋を出ると、顔を見るなり、
「ったく! なんて顔してやがる。オラァ! 呑みに行くぞ!」
そう言い放ちズンズンと歩いて行ってしまった。トプルが『ハルは俺が見る』と言ってくれた。俺は『悪い、頼む』と言って、混乱したままハザンの後を追った。
ハザンが連れて行ってくれたのは、ザ・冒険者の酒場、と言った雰囲気の騒がしい店だった。
「ここの煮込みがうめぇんだよ!」と、メニューも見ずにポンポンと注文していく。俺が『メシ、食った』と言うと、
「ん? まあ、つまめよ。俺が食うし」
そういえばハザンはその大きな身体に似合う、大層な大食漢だった。
「ヒロトは酒、呑めるんだろ?」
そう聞きながら、答えも待たずに酒の説明をはじめる。
コレが麦の酒、コレが米の酒、このへんが果実酒だな、コレがーー。
「コメ」と俺が答えると、
「米の酒はけっこうキツイぞ。平気か?」と、挑発するような目をした。
「勝ち負け、するか?」
「面白えな! 賭けるか?」
「おう!」
「俺が勝ったら、ヒロトが抱え込んでること、白状させてやる」
少し驚いた。てっきり鈍感なタイプだと思っていたのだ。バレるとしたらロレンだと思っていた。
もう勝ったような顔をして、酒の注文をしているハザンに、少し意地悪してやりたくなった。
「俺が勝ったら?」
「そんなん、何でも言うこと聞いてやらぁ」
▽△▽
二時間後、テーブルの上に突っ伏したハザンが、あご髭に赤いリボンをつけてクダを巻いていた。
俺はアルコールには滅法強い。ここ十年酔っ払ったことすらない。酒は好きなんだけどな。
「おら! 聞いてんのかヒロト!」
はいはい、聞いてますよ!
「嫁さん見つかったのか?」
いや、全然。
「そうか!」
おい! 一言で終わりかよ! 慰めねぇのかよ!
「俺はなぁ、ヒロトもハルもかわいいんだよ! お前らが何かしら重いもん抱えて、必死になってるのなんてお見通しだっつーの!」
お、おう。いや、俺の方が年上だし。
「嫁さん探してるだけじゃないだろ! 白状しろ!」
いや。嫁探してるだけだよ。隠し事はあるけどな。
「自分たちだけでなんとかしよーとか、ヒロトのくせに生意気だ!」
ジャイアンかよ!
「俺が助けてあげたいです! 人の道に反しないならば!」
急に謙虚になったな! しかもモラリストだよ!
「今日だってなぁ! この後ターナリットでも連れてってやろーと思ってたのに」
ターナリットってアレですよね? 大人の社交場的な!
「でも、俺、こんなじゃ、たぶん、むりーー!」
うん、確実に悲しい事になるな! だけど俺だってそんな所に行きたいかと言うとそうでもない。ーー気がする。ーーどうだろう。
俺はもう一杯、酒を注文した。このお人好しのアホっぽい寝顔をツマミに呑むのは、今日の気分に合っているような気がした。
罰ゲームのネタでも考えるとするか。
あ、コイツどーやって連れて帰ろう。こんな筋肉の塊、ぜってー持ち上がらないぞ!
注)トプルが迎えにきてくれました。
カウンターで預けていた荷物を受け取り、自分たちに割り振られた部屋へと向かう。この世界で、宿屋に泊まるのは初めてだ。なんとはなしにテンションが上がる。約二週間ぶりにベッドで寝られるのも、やっぱり嬉しかった。
部屋に入ると壁に作り付けのベッドが取り付けてある、二人用の簡素な部屋だった。窓も小さく飾り気もないが、ハルは嬉しそうに狭いベッドの上をゴロゴロと転がった。
おなかがいっぱいで寝れないよー、と言っていたが、ゴロゴロしながら寝てしまった。仕方ないので海でしょっぱくなってしまった足だけでもと、温かい濡れタオルで拭いてやった。
ナナミへのメールを打つ。つい長文になってしまい、削除する。ラーザへ到着し教会へ行ったことだけ書いて、あとはいつも通り近況を簡単に綴った。ラーザの海と街の写メを添付して、送信の操作をする。
この瞬間だけは何度繰り返してもやるせないな。
そう思ってスマホをしまおうとすると、画面に『メールを送信しました』と、メッセージが表示された。
俺は思わず立ち上がって、そのメッセージをたっぷり五秒見つめる。
我に返って電話機能を操作する。謎電波さんが仕事をしている! 電話がつながるかも知れない!
呼び出し音は鳴らなかった。
腕から力が抜けてスマホを落としそうになるのを必死で受け止める。俺にはスマホがナナミと繋がる、頼りなく細い糸電話のように思えた。そして今、その糸が微かに震えた。
糸は切れてはいない。
送信トレイを確認する。確かにさっき送ったメールが入っていた。ナナミのスマホも生きている。ソーラーパネル付きの充電アダプターを持って来ている証拠だ!
ふと気付くと部屋のドアをノックする音が鳴っていた。
「ヒロト、ハル寝たか?」ハザンがドアを細く開けた。
俺が頷いて部屋を出ると、顔を見るなり、
「ったく! なんて顔してやがる。オラァ! 呑みに行くぞ!」
そう言い放ちズンズンと歩いて行ってしまった。トプルが『ハルは俺が見る』と言ってくれた。俺は『悪い、頼む』と言って、混乱したままハザンの後を追った。
ハザンが連れて行ってくれたのは、ザ・冒険者の酒場、と言った雰囲気の騒がしい店だった。
「ここの煮込みがうめぇんだよ!」と、メニューも見ずにポンポンと注文していく。俺が『メシ、食った』と言うと、
「ん? まあ、つまめよ。俺が食うし」
そういえばハザンはその大きな身体に似合う、大層な大食漢だった。
「ヒロトは酒、呑めるんだろ?」
そう聞きながら、答えも待たずに酒の説明をはじめる。
コレが麦の酒、コレが米の酒、このへんが果実酒だな、コレがーー。
「コメ」と俺が答えると、
「米の酒はけっこうキツイぞ。平気か?」と、挑発するような目をした。
「勝ち負け、するか?」
「面白えな! 賭けるか?」
「おう!」
「俺が勝ったら、ヒロトが抱え込んでること、白状させてやる」
少し驚いた。てっきり鈍感なタイプだと思っていたのだ。バレるとしたらロレンだと思っていた。
もう勝ったような顔をして、酒の注文をしているハザンに、少し意地悪してやりたくなった。
「俺が勝ったら?」
「そんなん、何でも言うこと聞いてやらぁ」
▽△▽
二時間後、テーブルの上に突っ伏したハザンが、あご髭に赤いリボンをつけてクダを巻いていた。
俺はアルコールには滅法強い。ここ十年酔っ払ったことすらない。酒は好きなんだけどな。
「おら! 聞いてんのかヒロト!」
はいはい、聞いてますよ!
「嫁さん見つかったのか?」
いや、全然。
「そうか!」
おい! 一言で終わりかよ! 慰めねぇのかよ!
「俺はなぁ、ヒロトもハルもかわいいんだよ! お前らが何かしら重いもん抱えて、必死になってるのなんてお見通しだっつーの!」
お、おう。いや、俺の方が年上だし。
「嫁さん探してるだけじゃないだろ! 白状しろ!」
いや。嫁探してるだけだよ。隠し事はあるけどな。
「自分たちだけでなんとかしよーとか、ヒロトのくせに生意気だ!」
ジャイアンかよ!
「俺が助けてあげたいです! 人の道に反しないならば!」
急に謙虚になったな! しかもモラリストだよ!
「今日だってなぁ! この後ターナリットでも連れてってやろーと思ってたのに」
ターナリットってアレですよね? 大人の社交場的な!
「でも、俺、こんなじゃ、たぶん、むりーー!」
うん、確実に悲しい事になるな! だけど俺だってそんな所に行きたいかと言うとそうでもない。ーー気がする。ーーどうだろう。
俺はもう一杯、酒を注文した。このお人好しのアホっぽい寝顔をツマミに呑むのは、今日の気分に合っているような気がした。
罰ゲームのネタでも考えるとするか。
あ、コイツどーやって連れて帰ろう。こんな筋肉の塊、ぜってー持ち上がらないぞ!
注)トプルが迎えにきてくれました。
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