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第六章 茜岩谷に吹く風が
第十話 案内人
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大岩の家へと戻って爺さんを探す。麦わら帽子を被って畑の草取りをしていた。
「父さーん!」
リュートが呼ぶと手を挙げて、ヒラヒラと振る。
隣でちょろちょろと、お手伝いという名の悪戯をしていたハナが、こちらに気づいてユキヒョウの姿になってコロコロと駆けてくる。
ロレンとリュートが相好を崩し、二人揃っておいでおいでのポーズをする。
フフフ! 残念だったな! ハナは絶対に俺のところに来る!!
俺の腕にポスンと収まり、人の姿へと戻る。
「とーたん、おきゃーり!(おかえり)」
相変わらずの赤ちゃん言葉だ。ユキヒョウの姿でいる時間が多いからなのか、異世界語と日本語の入り乱れた大岩の家の弊害なのか。
「ハナ、はだか、ダメ」と異世界語で叱ると、
「ヤー!」と手を挙げて了解の返事をした。
おまえら、ハナが服着るまで、あっち向いてろ! ……そんな羨ましそうな顔すんなよ。リュートはもうすぐ子供、生まれるじゃん。ロレンはーー。恋を知る事から始めてくれ。
爺さんがハナの脱ぎ捨てた服を拾いながら、畑のあぜ道をゆっくり歩いてくる。
「父さん、俺たち忌み地へ行ってきたんだ。何か知っている事があるなら、教えてくれ」
リュートが待ちきれない様子で言った。
「ああ、何が聞きたい?」
爺さんはさらっと何でもない事のように言いながら、ハナの服を俺に渡した。
とりあえずジャブからいこう。
「爺さん、忌み地、行く、あるか?」
「若い頃、面白くてな。しょっちゅう行っていた。パラヤが生まれる前の話だ」
爺さんは、よっこらしょと日本語で言いながら、腰を下ろした。
「危険はないのですか? あの音は?」
「少なくとも、俺は危険な目には一度も遭ってねぇな。音って、あのキーンってやつか?」
俺たちは三人揃って頷く。
「あれは獣除けの音だろうさ。現にあのうちっ側には獣は入っちゃ来ねぇ」
「俺には聞こえない」
「ヒロトの耳は小せぇからな」
そういう問題だろうか。まぁ、年寄りだからと言われるよりはいいな。
「なにか建物とか、倉庫とかあるのか? ヒロトは隠し部屋みたいなものがあるはずだっていうんだ」
「ああ、あるぞ。空飛ぶ船が山ほど隠してある。全部壊れてるけどな」
「「黒猫の英雄!!」」
ロレンと俺が顔を見合わせて、一緒に叫ぶ。
「んまあ、俺もそう思ったけど、実際はわからねぇよな。大昔の話だ」
「爺さん、教えてくれないは、なぜ? そんなに知っているのに」
つい、感情的になってしまう。
「知りたかったのか? それは、すまんかった」
「ヒロト、ごめん。耳なしの話は、うちではあまりしないのが習慣になっているんだ」
爺さんが困ったように謝り、リュートが庇うように言った。
俺が常に感じている不安。
『転移は一度だけではないかも知れない』
『また、どこかに飛ばされてしまうのではないか』
『ハルやハナが、目の前から消えてしまうのではないか』
そんな不安は大岩の家族全員にあったはずだ。いや、今もあるに違いない。その不安に、耳なしは深く繋がり過ぎている。避けるのも無理のない話だ。
俺たち家族が目の前に突然現れた事は、そんな忘れかけていた不安を、思い出させてしまったかも知れない。謝るのは俺の方だ。
「忌み地の更地には、隠し扉があるんだ。行ってみるか?」
「父さーん!」
リュートが呼ぶと手を挙げて、ヒラヒラと振る。
隣でちょろちょろと、お手伝いという名の悪戯をしていたハナが、こちらに気づいてユキヒョウの姿になってコロコロと駆けてくる。
ロレンとリュートが相好を崩し、二人揃っておいでおいでのポーズをする。
フフフ! 残念だったな! ハナは絶対に俺のところに来る!!
俺の腕にポスンと収まり、人の姿へと戻る。
「とーたん、おきゃーり!(おかえり)」
相変わらずの赤ちゃん言葉だ。ユキヒョウの姿でいる時間が多いからなのか、異世界語と日本語の入り乱れた大岩の家の弊害なのか。
「ハナ、はだか、ダメ」と異世界語で叱ると、
「ヤー!」と手を挙げて了解の返事をした。
おまえら、ハナが服着るまで、あっち向いてろ! ……そんな羨ましそうな顔すんなよ。リュートはもうすぐ子供、生まれるじゃん。ロレンはーー。恋を知る事から始めてくれ。
爺さんがハナの脱ぎ捨てた服を拾いながら、畑のあぜ道をゆっくり歩いてくる。
「父さん、俺たち忌み地へ行ってきたんだ。何か知っている事があるなら、教えてくれ」
リュートが待ちきれない様子で言った。
「ああ、何が聞きたい?」
爺さんはさらっと何でもない事のように言いながら、ハナの服を俺に渡した。
とりあえずジャブからいこう。
「爺さん、忌み地、行く、あるか?」
「若い頃、面白くてな。しょっちゅう行っていた。パラヤが生まれる前の話だ」
爺さんは、よっこらしょと日本語で言いながら、腰を下ろした。
「危険はないのですか? あの音は?」
「少なくとも、俺は危険な目には一度も遭ってねぇな。音って、あのキーンってやつか?」
俺たちは三人揃って頷く。
「あれは獣除けの音だろうさ。現にあのうちっ側には獣は入っちゃ来ねぇ」
「俺には聞こえない」
「ヒロトの耳は小せぇからな」
そういう問題だろうか。まぁ、年寄りだからと言われるよりはいいな。
「なにか建物とか、倉庫とかあるのか? ヒロトは隠し部屋みたいなものがあるはずだっていうんだ」
「ああ、あるぞ。空飛ぶ船が山ほど隠してある。全部壊れてるけどな」
「「黒猫の英雄!!」」
ロレンと俺が顔を見合わせて、一緒に叫ぶ。
「んまあ、俺もそう思ったけど、実際はわからねぇよな。大昔の話だ」
「爺さん、教えてくれないは、なぜ? そんなに知っているのに」
つい、感情的になってしまう。
「知りたかったのか? それは、すまんかった」
「ヒロト、ごめん。耳なしの話は、うちではあまりしないのが習慣になっているんだ」
爺さんが困ったように謝り、リュートが庇うように言った。
俺が常に感じている不安。
『転移は一度だけではないかも知れない』
『また、どこかに飛ばされてしまうのではないか』
『ハルやハナが、目の前から消えてしまうのではないか』
そんな不安は大岩の家族全員にあったはずだ。いや、今もあるに違いない。その不安に、耳なしは深く繋がり過ぎている。避けるのも無理のない話だ。
俺たち家族が目の前に突然現れた事は、そんな忘れかけていた不安を、思い出させてしまったかも知れない。謝るのは俺の方だ。
「忌み地の更地には、隠し扉があるんだ。行ってみるか?」
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