ぼくはちょこれいと

はなまる

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第三話 バレンタイン・デー

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 明けてバレンタインデーの朝。今日は決戦の日だ。

 ラッピングやSNSでの里香ちゃんのやり取りを見ると、どうやら里香ちゃんにとっては、それなりに意味のあるバレンタインらしい。クラスメイトとしては一番仲がいい。お互いに意識している。あと一押し、そんな微妙な関係だ。

「責任重大ですね、バターさん」
「うん。おいしければイイわけじゃないの、難しいね」

 ぼくらを持つ里香ちゃんの気持ちが、ほんの少し伝わって来る。

 嫌われてはいない。どうせ友チョコ作るし、それならあげない選択肢はない。でも好きとかつき合ってとか、そんなこと言うのは恥ずかしい。ガチ告白なんて、とてもじゃないけど勇気が出ない。

 でも、初めて好きになった人に、あと少しだけ近づきたい。私が作ったマフィンを、あの人に食べて欲しい。『おいしい!』って言ってもらいたい。

 ぼくもバターさんも黙り込んだ。教室のロッカーの中で、里香ちゃんの気持ちを噛みしめる。

 ぼくらは、こんなにも可愛らしい気持ちと一緒に渡してもらえる。初めての挑戦の、とっておきの切り札として使ってもらえる。なんて光栄で、なんて誇らしいんだろう。

 ぼくとバターさんは、里香ちゃんのために最大限のパフォーマンスを発揮することを誓い合った。

 チョコレートはほんの少しだけ、本能や気持ちに正直になる効果を持っている。バターに多く含まれるビタミンDは気持ちを前向きして、勇気を出す手助けをしてくれる。

(里香ちゃん。自分の気持ちを、ほんの少しでいいから言葉にして。ぼくらにキミの手助けをさせて!)

 里香ちゃんが昼休みに、スマホを取るためにロッカーを覗いた。バターさんが香ばしく匂って、里香ちゃんを誘う。ぼくらが君のパワーになる。だから、ひとつでいいから手に取って。

(わっ、けっこう匂いする。ちゃんとラッピングしたのに。ひとつだけ食べようかな! 良い匂い!)

 ぼくも甘く香る。

 里香ちゃんが友だちにあげる分から、ひとつマフィンぼくらを取り出した。ぱくん。

(あ……すごくおいしい! 甘さ控えめにして良かった。これなら胸を張って渡せるかも!)

「よし!」

 里香ちゃんが、昨夜と同じセリフで気合を入れる。うん、頑張れ里香ちゃん!



      * * * *



「浅井!」

 放課後、部活に行こうと思って教室から出ると、クラスの女子から声をかけられた。この日のこの時間は、余った友チョコの処分に困った女子が、投げやりにギリチョコを投げて来たりする。そしてそんなチョコでも、もらうとけっこう嬉しい。

 少しの期待と、なんてことないさという強がりと、照れ隠しで顔が強張る。一緒に歩いていた友だちから、からかうように声をかけられる。

 振り向くと、後ろの席の女子だった。元気だし、大きな口で笑うので話しやすい。

「あげる!」

 案の定、ポーンと投げて渡された。

「さんきゅ……って、コレ手作りじゃね?」
「フハハ! 私の女子力にひれ伏すが良いわ!」
「何のキャラだよ!」

 照れ隠しに突っ込んだけど。あれ、もしかして俺、手作りは母さん以外だと初かも。う、うん! 落ち着こう! 女子にとってバレンタインデーはお歳暮みたいなもんだって姉貴が言ってた。重く考えたらバカみたいだ。

 軽く流してクールに立ち去るべきだ。あとで確認して、ホワイトデーにそれなりのお礼の品を返せばいい。でもさ……。あいつ、顔、赤くね? え、あれ、夕陽の照り返し? いやまだ夕焼けには早い。

「ギ……ギリじゃない! から……」

 さらに赤くなってニャハハと笑った天野里香は、いつもの八倍かわいく見えた。

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