15 / 25
第十五話 コロッケパンは今でも嫌いじゃない
しおりを挟む
急いでイライラしていることを隠そうともしていない蓮水が、信号待ちで携帯電話を取り出した。しばらく耳に当てたあと『くっそ! 定休日かよ!』と小さく呟く。
おそらく、バイクの修理を頼もうとしていたのだろう。修理が思いの外早く済んでしまう可能性や、代車を使う可能性が潰れてホッとする。明日からは街をあげての七夕祭りだ。出来れば続けて休んで欲しい。
自転車というのは徒歩と違い、何もないところで止まると不自然になってしまう。かといって、あまりゆっくり走るのも変だ。路地や電柱に身を隠すわけにもいかないし、ずっと後ろを走っていても気づかれてしまう。
ほとほと困り果てて、一旦路地を曲がって停車した。見失わない程度に距離を開ける。ジリジリと尾行に戻るタイミングを見計らっていたら、とあるコンビニの前で蓮水が進路変更をした。
コンビニの裏手に自転車を停め、慌てた様子で従業員入り口から店へと入って行く。蓮水はこのコンビニでバイトしてると見て間違いないだろう。
これは……偶然なんだろうか?
車道を挟んだコンビニの向かい側には、イートインも出来る焼きたてパンのチェーン店。制服の可愛さで選んだらしい、美咲のバイト先だ。
ふと感じた違和感とは別に、懐かしさが湧いてくる。美咲のバイトの日は、よくここに来た。ひとつだけパンを買って、それを齧りながら美咲のバイトが終わるのを待った。
感傷に任せて、あの頃のようにパンをひとつだけ買う。俺の定番メニューだったコロッケパンだ。コンビニに移動して缶コーヒーも買う。蓮水は弁当類の品出しをしていた。
コンビニのイートインスペースで、コロッケパンを齧る。こっそり蓮水を観察してみるが、特に不審な様子はない。当たり前だ。今の蓮水は酔っ払っていない。
徹夜明けの鈍った口で懐かしい味を噛みしめながら、蓮水に明日酒を飲ませない方法を考える。睡眠薬でも一服盛って、拉致監禁するしかないだろうか?
「一服、盛る……」
確かアルコール依存症の薬で、酒が飲めなくなる薬があったはずだ。うちの爺さんの弟が深刻な依存症で入院していたのは、確か俺が高校に入った年だ。その時の薬を捨てていないと、ずいぶん後になって母親が話していたのを覚えている。
それを探して、なんとか蓮水に飲ませることが出来ないだろうか?
医師の処方以外の人が薬を服用してはいけない。うん、わかってる。消費期限が過ぎているかも知れない。うん、そうだな。一服盛るなんて犯罪行為だ。うん、その通りだ。
その通りなんだけど……『拉致監禁より平和的だよな!』なんて思ってる俺は、ちょっと反省した方がいいかも知れない。
しばらくして、克哉から部活が終わったと電話があった。部活が終わったらしい。早速、自宅へ戻って薬を探してもらう。
「そう。『ジスルフィラム・シアナミド』って薬だ。たぶん母さんのドレッサーの引き出しの中にある。ちゃんと調べたから大丈夫。ヤバイ薬じゃない。ほんの少量の酒を飲んだだけで、悪酔しちまうだけだ。えっ? 気の毒だって? まぁ、そうだけど、酔っ払い運転して、女子高生巻き添えに死ぬよりはマシだろ?」
薬の効果は約12~24時間。明日の夕方までには蓮水に飲んでもらいたい。俺は『酒が不味くて飲めなくなる薬』と認識していたが、調べてみたらアルコールを体内で分解出来なくなる薬だった。ほんの少量飲んだだけで、気持ち悪くなるらしい。副作用はほとんどない。
蓮水のことは引き続き警戒したいが、バイト中はその必要もないだろう。俺は蓮水のバイトが終わる時間まで、ビジネスホテルへ戻って夕方まで仮眠を取ることにした。
念のため、克哉には美咲から離れないように伝える。出来れば早川亜紀の安全も確保したいんだよな。部室のボヤ騒ぎがサッカー部からテニス部に変わったように、交通事故の被害者が変わる可能性がある。
姉貴との酒盛りからの、徹夜で蓮水の監視。おまけに考えることが山ほどあってくたくただ。ビジネスホテルの部屋に戻ると、俺はベッドに転がり込むようにして眠りに落ちた。
おそらく、バイクの修理を頼もうとしていたのだろう。修理が思いの外早く済んでしまう可能性や、代車を使う可能性が潰れてホッとする。明日からは街をあげての七夕祭りだ。出来れば続けて休んで欲しい。
自転車というのは徒歩と違い、何もないところで止まると不自然になってしまう。かといって、あまりゆっくり走るのも変だ。路地や電柱に身を隠すわけにもいかないし、ずっと後ろを走っていても気づかれてしまう。
ほとほと困り果てて、一旦路地を曲がって停車した。見失わない程度に距離を開ける。ジリジリと尾行に戻るタイミングを見計らっていたら、とあるコンビニの前で蓮水が進路変更をした。
コンビニの裏手に自転車を停め、慌てた様子で従業員入り口から店へと入って行く。蓮水はこのコンビニでバイトしてると見て間違いないだろう。
これは……偶然なんだろうか?
車道を挟んだコンビニの向かい側には、イートインも出来る焼きたてパンのチェーン店。制服の可愛さで選んだらしい、美咲のバイト先だ。
ふと感じた違和感とは別に、懐かしさが湧いてくる。美咲のバイトの日は、よくここに来た。ひとつだけパンを買って、それを齧りながら美咲のバイトが終わるのを待った。
感傷に任せて、あの頃のようにパンをひとつだけ買う。俺の定番メニューだったコロッケパンだ。コンビニに移動して缶コーヒーも買う。蓮水は弁当類の品出しをしていた。
コンビニのイートインスペースで、コロッケパンを齧る。こっそり蓮水を観察してみるが、特に不審な様子はない。当たり前だ。今の蓮水は酔っ払っていない。
徹夜明けの鈍った口で懐かしい味を噛みしめながら、蓮水に明日酒を飲ませない方法を考える。睡眠薬でも一服盛って、拉致監禁するしかないだろうか?
「一服、盛る……」
確かアルコール依存症の薬で、酒が飲めなくなる薬があったはずだ。うちの爺さんの弟が深刻な依存症で入院していたのは、確か俺が高校に入った年だ。その時の薬を捨てていないと、ずいぶん後になって母親が話していたのを覚えている。
それを探して、なんとか蓮水に飲ませることが出来ないだろうか?
医師の処方以外の人が薬を服用してはいけない。うん、わかってる。消費期限が過ぎているかも知れない。うん、そうだな。一服盛るなんて犯罪行為だ。うん、その通りだ。
その通りなんだけど……『拉致監禁より平和的だよな!』なんて思ってる俺は、ちょっと反省した方がいいかも知れない。
しばらくして、克哉から部活が終わったと電話があった。部活が終わったらしい。早速、自宅へ戻って薬を探してもらう。
「そう。『ジスルフィラム・シアナミド』って薬だ。たぶん母さんのドレッサーの引き出しの中にある。ちゃんと調べたから大丈夫。ヤバイ薬じゃない。ほんの少量の酒を飲んだだけで、悪酔しちまうだけだ。えっ? 気の毒だって? まぁ、そうだけど、酔っ払い運転して、女子高生巻き添えに死ぬよりはマシだろ?」
薬の効果は約12~24時間。明日の夕方までには蓮水に飲んでもらいたい。俺は『酒が不味くて飲めなくなる薬』と認識していたが、調べてみたらアルコールを体内で分解出来なくなる薬だった。ほんの少量飲んだだけで、気持ち悪くなるらしい。副作用はほとんどない。
蓮水のことは引き続き警戒したいが、バイト中はその必要もないだろう。俺は蓮水のバイトが終わる時間まで、ビジネスホテルへ戻って夕方まで仮眠を取ることにした。
念のため、克哉には美咲から離れないように伝える。出来れば早川亜紀の安全も確保したいんだよな。部室のボヤ騒ぎがサッカー部からテニス部に変わったように、交通事故の被害者が変わる可能性がある。
姉貴との酒盛りからの、徹夜で蓮水の監視。おまけに考えることが山ほどあってくたくただ。ビジネスホテルの部屋に戻ると、俺はベッドに転がり込むようにして眠りに落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる